奴隷から始まる異世界転生譚   作:青い灰

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1話

 

 

 

 

魔石というものは、魔法の力を宿している。

さて、そも魔法とは、だが。

 

魔導士の奴隷……

カレル曰く、世界に力を借りる技術なのだと。

 

この世界は、エーテルと云われる人間の身体にはない魔力が大地から溢れ、大気に満ちている。人間がそれを取り込むとマナという、取り込んだ人間に合わせて魔力が変化する。

 

 

『取り込んだマナを使い、世界に干渉する。

 結果起きる〝事象の再現〟こそ、魔法なのさ』

 

『へぇ……』

 

 

カレルはそう言って、岩壁へ欠けたつるはしの刃で日本語を書き込んでいく。まるで授業を受けるようなそれは、しかし前世のそれよりはずっと面白い。彼も、かつては弟子を取りこうやって授業をしていたらしい。

 

 

『火、水、風、土。

 正確には〝暖〟〝寒〟〝流〟〝固〟だけど、

 魔法はこれらの特性に当て嵌めて使われている』

 

『だんかんりゅうこ……?』

 

『あぁ、火は暖かく、水は冷たく、

 風は流れ、そして土は固まる。

 これが自然の原理であり、魔法の起源だ』

 

 

地水火風。四大元素、というやつか。

なんだか難しいが魔法の属性には四つ、地水火風があると。しかし事象の再現とは、中々凄いことをやっている。だが、原理を考えると簡単そうにも聞こえる。

 

 

『じゃあ魔法を使うのは簡単だったりするんですか?』

 

『いや、そうでもない。

 基本的には魔法を安定させるために

 マナの干渉器が必要になるんだ。

 それが、魔石といったエーテル生成物だ』

 

『ほー……つまり魔石が触媒になるってことですか』

 

『そうだね。

 その他にも色々あったりするんだけど……

 それ無しだと魔法が安定しない』

 

『安定しない、というと』

 

『暴走したり、そもそも魔法が発生しなかったりする。

 手練れの魔法使いは触媒無しで使えたりするけどね』

 

 

凄いな。俺も目指そう、手練れの魔法使い。

そう考えていると、カレルはうん、と頷いて再び岩壁に字を書き出していく。

 

 

『そもそも、魔法とは神の業だとも言われる。

 エーテルと呼ばれる魔力も、元は死んだ神が

 地に落ち、そして大地と同化して溢れ出したもの、

 なんて言われていたりするんだ。

 再現とはいえ、引き起こした事象の制御は難しい』

 

『………神』

 

『うん。だからこそ、僕らには触媒が必要だ。

 そして、才能も。こればかりは仕方ない』

 

 

やっぱり才能か。

カレルは息を吐き、手を止めた。

 

 

『君にも、才能があるよ』

 

『え、本当ですか』

 

『うん。特に……炎。暖の特性が、かなり強い』

 

 

カレルは最後に、刃を置いた。

そして俺を見下ろして、笑いかける。

 

 

『使い方は教えるけど、決してそれを人の近くで

 暴走させることはないようにね。

 君のそれは、周りのものを焼き尽くす劇物だから』

 

 

 

 

────

 

───────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

 

この坑道に、墓はない。

崩落に巻き込まれてしまえば、死体すら出てこなくなる。

 

俺は手を合わせ、黙祷する。

 

カレルは坑道を崩壊させる魔法陣を見つけた最初の一人だ。俺たちの反乱のきっかけになるそれを見つけた彼は、しかし採掘中の崩落に巻き込まれて死んだ。

 

或いは、意図的に殺されたか。

どちらかは分からない。

 

 

ただ死者へ出来るのは、無念を晴らし、弔うこと。

 

 

何人も死んでいくのを見た。

瓦礫に潰され、鞭に首を絞められ、処刑され………

そして、自死を選んでいくのすらも見てきた。

 

だからこそ、俺たちに出来るのは足掻くことだけだ。

彼らの意思を受け継ぎ、そしてこのクソッタレな地の底から這い上がって、空を見上げて、彼らを思い出せるように。

 

 

「あたしたちは、生きないと」

 

 

聞こえてきたのは、隣から。女の声だった。

それはまだ幼くて、けれど凛としていて。

 

視線を向ければ、雪のように白い髪の女の子が、俺を真似て手を合わせ、黙祷していた。歳は、俺と同じ10くらいか。

彼女がそれを終えると琥珀色の鋭い切れ目が開かれ、それが松明の光を反射する。

 

彼女らしくない行動に、俺は少し驚いていた。

 

 

「らしくないな、ヨミ。

 お前、誰かを弔ったり出来たのか」

 

「雰囲気だけはね。

 まさかあんたがいるとは思ってなかったけど」

 

「だったら悪いな、付き合わせて」

 

 

ヨミこと、クローリクは大きな溜め息をつく。

その呼び方は、彼女の教えてくれた本当の名前だとか。まぁ信頼の証だろう。同世代は、俺と彼女だけだ。彼女もまた、俺と同い年とは思えないくらいには大人びているが。

 

ヨミは目を閉じると、小さく呟く。

 

 

「……汝、忘れることなかれ。

 涙は生者の特権であり、死者には許されざるもの」

 

「急になんだよ」

 

「昔聞いた詩の一節。

 あたし、これあんまり好きじゃないけど………

 生きてる間は、好きなだけ泣いてもいいんだって」

 

 

ふざけた詩だ。

涙なんて弱さの象徴みたいなものなのに。

 

でも、俺はそれを鼻で笑うことは出来なかった。それを言うヨミの眼が、どうしようもなく遠くを見ているようだった。だから、ただ視線を逸らして、言葉を返す。

 

 

「俺は、泣くつもりはないけどな」

 

「……同感。

 泣いたとしても、現実が変わるわけじゃないし」

 

「だけど、変わるまで、もう少しだ」

 

 

ヨミは、それに頷く。

彼女の存在は、坑道で死んだことになっている。だからこそ人知れず、坑道に穴を掘り続けて、遂に出口を見つけた。

俺たちはただ、崩れた坑道の一つを見つめる。

 

 

 

「涙は生者のために

 そしてそれ以上に死者のために」

 

 

 

詩が、静かに響き始める。

 

 

 

 

 

 

 

 汝 涙を流さぬことなかれ

 

 汝 死を悼まぬことなかれ

 

 それは苦痛となって苛む毒となる

 

 

 

 汝 知ることなかれ

 死の冷たさを 死の熱を

 

 

 

 汝 生きて伝えよ

 

 かの者は ただ使命を果たしたのだと

 

 

 

 

 

 

 

 

ただ、俺たちは、その坑道を見つめて。

 

墓ですらないそこに、けれど、この弔いが届くように。

 

 

 

 

 

 

 

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