奴隷から始まる異世界転生譚   作:青い灰

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3話

 

 

 

 

───────もし、人生に意味があるのなら。

 

人はそれを〝運命〟と呼ぶそれを、俺は嫌悪する。

 

 

 

俺の人生に、意味なんてないのだろうから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っづ……くそ、っ………!!」

 

 

切り落とされた右腕。

流れ出す血を、断面を焼いてどうにか止める。見上げる先にいるのは、黒い女。炎よりも赤い、血のような瞳が、静かにこちらを見下ろしてくる。

 

 

「はぁ、はぁっ……が、あ、ぁあぁあ……!!!」

 

 

向けられる冷たい視線。

全てが凍てつくような氷の世界。全身の魔力を解放する。

皮膚を突き破って顕現した紅蓮が、氷を破壊していく。

 

痛み、痛み、痛み。全て、力に変えろ。

残った左腕を振り払い、伴い放つ炎の衝撃波で薙ぎ払う。

 

 

「─────まるで獣だね」

 

 

けれど、届かない。

冷たい冷たい視線ばかりが、途切れることなく。

薙ぎ払う炎は、氷のバリアに阻まれて、届かない。ならば。落とされた右手から魔石の刃を拾い上げ、地を蹴る。

 

 

「が、アアッ!!!」

 

「────!」

 

 

暴走させた炎を、肉体から更に加速させる。

両断された腕から噴き出す炎で氷の盾を無理やり突破して、そのまま斬りつける──────と、見せかけ、背後へ。

 

炎の目眩ましを兼ねた奇襲。

背中を突き破る炎で全身を加速させる。

 

 

「──────!!」

 

「!」

 

 

魔石の刃は、包丁よりも小さい。

それを、受け止められた。全力の一撃は何度目か。この女は全て、受けたうえで避けることもしない。実力差は絶望的、だが、だが、それを俺は、認められない。

 

 

「今のは焦ったよ」

 

「ご────ッ!!?」

 

 

腹に、凄まじい衝撃。

次の瞬間、それが全身に広がった。

 

 

 

「が、っ」

 

 

 

背中から岩壁に叩きつけられる。

全身から力が抜ける、より早く、舌を噛み潰し意識を戻し、地面に降りる。周囲に、炎と冷気が衝突を繰り返す。

じゅうじゅうと蒸気を上げる坑道は、灼熱に包まれて。

 

 

「は、っ、は、っ………は、っ………!」

 

「苦しいのは当然だよ。これだけの魔力を

 放出しておきながら、まだ立っているんだからね」

 

「ぶべっ……ふ、ぅぅぅ…!!」

 

 

噛み千切れた舌を吐き出し、呼吸を整える。

魔法の炎は酸素を消費しない。とはいえ、そろそろ限界だ。どこまでイカれているんだ、この女は。

 

鞭男の大半は殺して、奴隷も全員でないが、多くを逃せた。だが、ここで足止めしなければ、みんな殺される。アニキもヨミも、みんな………

 

 

「………詰まらない選択をしたね。

 せめて私がいなければ、君たちは全員逃げ延びた」

 

「っふぅ、はぁ……本当だ………!

 お前さえ、お前さえいなければ………!!」

 

「だけど、それが現実だよ。

 君たちはただ、採掘を続けていれば良かった」

 

 

女の言葉に、苛立つ。

ふざけている。ただ座して死ぬのを待てとは。

 

 

「そのまま死ぬのを待てと……?

 この坑道ごと、俺たちは使い捨てて生き埋めか!!?

 ふざけるな……ふざけるなよゴミどもが………!!」

 

「………生き埋め?何の……」

 

「惚けてんじゃねぇぞクソアマが!!

 坑道中の爆破の魔法陣……!!

 気づいた連中はみんな死んでいった!!

 あの豚どもも言ってたさ、使うだけ使えば

 俺たちは一人残らず坑道とお仕舞いだってな!!?」

 

「………………」

 

 

まさか聞いていないのか?

女は眉を寄せ、こちらへの視線を更に鋭く尖らせる。成程、考えることを放棄したか?ならば都合がいい。俺もとうに、考えるのには飽きてしまったから。

 

女は、握る長剣をこちらに向けた。

襲いかかってくる強烈な冷気を、灼熱で押し返す。

 

もう、もういいはずだ。

 

 

「だが………君を放置するのは危険だ」

 

「黙れクソアマ。てめぇの死体になら教えてやる……

 どいつもこいつも、俺を馬鹿にしやがる………!!」

 

「!」

 

 

もう誰も、誰もいなくなるように。

 

 

 

 

 

 

全身のマナ、周囲のエーテルを、全て暴走させる。

 

魔法術式励起、設置型魔法陣強制起動。

 

 

 

 

 

どこかで、爆発が起こった。

坑道全体が揺れ始める。

 

 

 

 

「これは、まさか───────!!」

 

 

「は、ははははははははははっ!!!

 本当に残念なタイミングだったな!!!

 さぁどうか、俺と一緒に、死んでくれ!!!!」

 

 

 

 

笑う、嗤う、嘲笑う。

高らかに。

 

 

あぁ、気分がいい。

どうしようもなく気分がいい。

 

あの豚どもの言っていた通り、かなりの美人だ。

そんな女と一緒に死ねるとは幸運だ。

 

 

 

 

 

 

「ハ、ハハハ、ハハハハハハハハハ!!!」

 

 

 

からだがあつい。たましいがあつい。

もえる。もえていく。なにもかも、もえていく。

もえていけ。なにもかも。

にくがふくれて、ほねがかたちをかえていく。

 

 

 

「これ、は……人間が、魔物に…………!!」

 

 

 

あぁ、あぁ。

 

 

 

ぜんぶ、ぜんぶ、しんでしまえ。

 

 

 

 

 

もえて、やけて、こがし、つぶし。

 

 

 

 

 

 

 

生まれてきたことに絶望しながら、死んでいけ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────

 

───────

 

 

 

ただ、あたしたちは見ていることしか出来なかった。

走って、走って、走って、坑道近くの森を抜けて。

 

そこで感じたのは、強烈な地鳴りだ。

地震かと思うほどのそれに、奴隷の全員が同じようにして、振り向くことしか出来なくて。そして、同時に坑道のあった山が、炎に呑まれていく。

 

 

「……おかしい、魔法陣の魔法とはいえ、

 あんなに威力があるわけねぇ……!」

 

「カレルの話じゃ10以上の爆発でやっと崩せるって

 話だったはずだ、一体何が起きてるんだ!?」

 

 

岩山が、燃えるもののないはずの岩山が、赤に包まれる。強烈に嫌な予感がした。怖気と寒気が背筋を駆け上がって、あたしは慌ててアニキと呼ばれる男に視線を向けた。

 

 

「ねぇ、あいつは!!?」

 

「………クローリク嬢」

 

 

彼は沈黙し、こちらに一瞬だけ視線を向け、そして、それを泳がせる。凍てつくように思考が冷めていく。確かに、この現象を引き起こせるとするのなら、魔法陣にマナを流して、それからそのマナの特性をもって励起させなければ……

 

間違い、ない。

 

 

「なんで……置いてきたの?」

 

「…………足止めは、本人が言い出したことだ」

 

「でも、でも、こんな」

 

 

ありえない。

だってあいつは、泣くつもりはないと。

 

 

 

 

 

 

「だからって、こんな」

 

 

 

 

 

 

 

膝をついて、あたしは燃え上がる炎を見上げることしか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────俺の名前?あー……アルガリア。

    適当言うなって……あぁもう分かったよ。

    お前も教えてくれたわけだし、俺も教えるか。

 

     

      いいか、誰にも言うなよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………アカリ」

 

 

 

 

 

あたしは、その名前を呼ぶことしか。

 

それだけしか、出来なかった。

 

 

 

 

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