奴隷から始まる異世界転生譚   作:青い灰

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4話

 

 

 

 

痛み。それは生きているという苦痛の証左である。

 

故に俺は、苦痛を、生を、どこまでも嫌悪するだろう。

 

 

 

 

 

 

 

「…………あぁ」

 

 

ふと、呟く。

 

そうだ、また。

 

また、死に損なってしまった。

 

 

 

「……………」

 

 

ガラガラと崩れ落ちる岩と砂。

空には、暗い雲がかかって、ぽつぽつと雨を降らせている。足元に広がっているのは、おびただしい量の血痕。それすら洗い流すことも出来ない雨は、だが、降り続く。

 

だが、その血は人間のものとは思えない。

砂に混じったせいもあるだろうが、おぞましいほどに黒い。人に流れる血の赤、というべき色ではないのだ。

 

そして、もう1つ。

大きな血痕。これは、人間のものだろうが…………

 

 

「何が、あったんだっけ………」

 

 

記憶に霧がかかっているようだ。思い出せない。

ズキズキと痛む頭を両手で押さえ、俺はもう一度、上、空を見上げた。降りしきる雨は、呪いのように身体を重くする。それでも寝ぼけた思考が、ようやく覚めてきた。

 

 

「そうだ……みんな。

 ヨミ、アニキたちは………?」

 

 

周囲に人の気配はない。

生きているのか?あの女は一人だと言っていたが、手下でもいれば、みんなの身が危ない。無事に逃げ切れたのか?

心配だ……

 

と、そこで。

 

 

「……裸じゃん、俺」

 

 

ようやく気が付く。

なんだか右腕がひりひりする気もする。着ていた、というか上から被っていたボロ布すらない。あってもなくてもあまり変わらない気もするが、これでは奴隷どころか変態だ。

 

 

「そういえば、あの女もいないな」

 

 

決着はどうなった?

俺は見逃してもらえたのか、それとも倒せたのか。あれだけ圧倒的な実力差があって、倒せるような気もしないが……

 

握っていたはずの魔石の短剣も、全身に無理やり埋め込んだ

魔石のストックもない。

 

 

 

………分からないことが多すぎる。

 

 

「………とにかく、行かないと」

 

 

まずはみんなを探そう。

ふらふらと、崩壊した岩山を下ろうと足を踏み出す。

 

 

 

「ぅあ」

 

 

 

足を滑らせた俺は、そのまま岩山の下まで転がり落ちた。

 

 

そしてそのまま、気を失った。

 

 

なんともまぁ、無様だ。

起き抜けだから仕方ないと思ってほしい。

 

 

 

 

 

 

「「はあ……?」」

 

 

そこに偶然訪れていた、二人の人影に気づくこともなく。

 

 

 

 

 

 

 

─────

 

────────

 

 

 

生き恥。

 

恥など生きるうえで幾らでもついてくるものだ。

それに耐えられるかは、さておき。

 

 

 

さて。

 

どうしてこうなった。

 

 

 

 

 

「銀貨6枚!」

 

「銀貨7枚だ!」

 

 

前世で競りを直接聞いたことがある。それよりは穏やかだ。とはいえ、熱狂といえる騒がしさ。眩しいランタンの下に、俺は裸で座り込んでいた。人身売買オークションとは、中々酔狂なものである。それを奴隷側から見ることになるとは、そしてまさか、なんとか坑道の奴隷から逃げ延びたのに。

 

俺はまた、奴隷になっていた。

俺が何をしたって……坑道を滅茶苦茶にしたか。残当。

あれで焼き殺したのも数人じゃない。それに鞭の豚どもならともかく、殺された仲間の死体も丸ごと炎で包んだ挙げ句、挙げ句…………確か、俺が魔法陣を起動したんだったか?

 

…………思い出せないが、恐らくそうだろう。

そういう悪果を断ち切るために死のうとしたのに、これではとんだ笑い者だ。結局、逃げ切ることなんて出来ないのか。

 

 

「銀貨9枚!!」

 

「金貨1枚だ!」

 

 

俺にそんな価値ないよ?

全く何を期待しているのか分からない。確か、坑道では銀貨一枚で椅子のような小さい家具一つくらい、だったか。まぁ代々千円くらいだろう。それが10枚分、つまり1万。

 

………人身売買で1万か、どれくらいなのだろう。

奴隷の相場なんぞ前世でも今世でも全く分からないことだ。はぁ、しかし飼い主が男に当たればまた……いや、よそう。

 

 

 

 

 

 

「金貨10枚」

 

 

 

 

 

「────────は?」

 

 

 

 

 

 

突然聞こえてきた言葉に、俺は声を漏らしていた。

全く同時に、会場が静まり返った。

 

聞き覚えのある言葉だった。

心の奥底から沸き上がるのは怒りよりも、ただ、恐怖。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

血よりも赫い、凍てつく視線。

長い黒髪を揺らし、女がこちらへ向かってくる。

 

見覚えのある、いや、忘れるはずもない。

思い出した。俺はこの女に、片腕を斬り飛ばされたのだ。

 

 

 

 

「久しい、と言うほどでもないね」

 

 

 

 

女が、壇上に上がってくる。怖い。

 

 

 

 

 

 

「君を買おう」

 

 

 

 

 

 

やだあ。

 

 

 

 

 

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