奴隷から始まる異世界転生譚   作:青い灰

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6話

 

 

 

 

 

赦される罪はない。

 

生まれたことが罪であり、生きることも、また罪だ。

 

 

それでも、俺たちはそれを知らない。

 

知ることもなく、死んでこそ罪を清算するのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まず、君の処遇についてだけど……自由にしていいよ」

 

「は?」

 

 

奴隷とはかけ離れた言葉に、思わず俺はそう返していた。

また働かされるつもりでいたのだが拍子抜けであり、そして何よりも困惑する。自由にしていい、と言われても困る。

 

人気のない空っぽの邸宅、その廊下を進む。

レイラが指を鳴らせば、壁にかけられたランプに光が灯る。薄暗い廊下は、窓から差し込む光もあり、一気に明るく。

 

 

「とは言っても困るかな?」

 

「………」

 

「まぁ、それもそうか。

 私としても衝動買いみたいなものだし、

 君のこと何も考えず買っちゃったんだよね」

 

 

やっぱり馬鹿なのではなかろうか、この女。

俺に意味をくれるんじゃなかったのか。

とはいえ、そうならば………

 

 

「仲間を探したい」

 

「探してどうするんだい?」

 

「………死に損なったことと、感謝を伝えたい。

 それから、困ってるようなら助けてやりたい」

 

「そうか。なら、どうやって探す?

 どうやって助ける?」

 

「自分で考えるつもりだ」

 

 

レイラはそれに驚いたような顔をする。

なんなのだ。言葉を詰まらせるとでも…………

見目が10歳だったなそういえば。

 

 

「君さぁ、ほんとに見た目通りの年齢?

 エルトリアの血でも混ざってるのかい?」

 

「………見目通りの歳ではない」

 

「やっぱりか。幾つだい?」

 

「肉体は10、精神は25だ」

 

「成熟してるね」

 

「そんなことはない」

 

 

言葉を返す。

 

俺は賢くなんてない。ガキのままだ。

自分勝手で、我儘で、どうしようもない人間だ。

 

 

 

「じゃあ、私の力は必要ないかな?」

 

 

 

ふと、聞こえてきた声。

顔を上げれば、首を傾げ、微笑むレイラの顔があった。

美しさ、可愛らしさ半々みたいな造形の貌。

 

全く腹が立つような、綺麗な顔だ。

女だからいいが、こいつが男だったら嫉妬していただろう。それこそ殺してやりたいくらいに。事実、前はそうだった。こいつらが安全圏から俺たちを嘲笑い、そうしてあの坑道に沈める計画の首謀者だと思っていたからだ。

 

けど、多分それは俺の思い過ごし、勘違いで。

だから俺は、彼女に、謝らないといけない。

 

 

「一つ、言ってもいいか」

 

「なにかな」

 

 

………否は、自分にある。

自分勝手な怒りに振り回され、自棄になっていたのだろう。それを理由に何人も焼き殺しておいて………俺は。

 

今の自分の身を、少しでも安全だと思ってしまったから。

それは自分に余裕が出てきたことで。

 

 

俺は、あれだけ殺したことを、悔いているから。

傷つけたはずの彼女に、助けてもらったから。

 

 

 

 

 

「……許してくれとは、言わない。

 あの時は、すまなかった………

 

 

 いや───────────ごめんなさい」

 

 

 

 

 

だから、俺は頭を下げて謝った。

 

人の命に価値があったとして。

たった一つの謝罪で、何が救われようものか。

 

 

だとしても、俺はこれを言うべきだった。

 

 

 

 

 

「いいですよ。許してあげます」

 

 

 

 

 

返ってきた言葉は、声音も、何も。

レイラのものではない。

 

けれど、確かに彼女のものだったように思う。

 

 

 

 

 

 

 

顔を上げる。

 

 

ほんの一瞬だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

腰まであろうか、長い黄金の髪を揺らす、少女がいた。

 

純白のドレスに身を包む姿は、まるで一国の姫だ。

 

血のような赫の瞳だけが、何も変わらない。

そこに映る感情は─────────

 

 

 

ただ、微笑みだけが、俺に向けられている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それはすぐに消え失せて、レイラの姿に切り替わる。

彼女は背を向けて、横顔だけで振り返って。

 

 

その桃色の唇に、人差し指を当てた。

 

 

 

 

 

 

「特別だよ?」

 

 

 

 

 

 

狐に化かされたような感覚、とはこういうのだろう。

 

俺は、廊下を進む彼女を慌てて追いかける。

 

 

 

 

今の少女は、なんだったのか。

『特別』その意味はなんなのか。

 

いや………いい。構わない。

 

 

 

 

特別というのなら、追及する必要はないだろう。

なんとなく、理解は出来た。

 

彼女の斜め後ろに立てば、彼女は薄い胸を張って笑う。

なんだか満足げだ。

 

 

 

 

 

「手を貸してあげよう。

 なにせ、私は今とても気分がいいからね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

赦されるべき罪などない。

 

けれど、彼女は俺自身を許してくれた。

 

 

罪は背負い、だが、少しは気を楽に出来た気がした。

 

 

 

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