屋敷内全8名がそれぞれ独自に検証を行った結果、今回の雨はいつもとは違うようだという結論に達した。危険かもしれない液体に直接触れた
現当主はその後、
極めて分別のある理知的な紙の使用方法だったが、なぜか父親からは余計な事に紙を使うなと怒られた。反撃のため父親の書き損じを指摘すると、♯の部屋の暖炉から見つかった紙の燃えカスを示された。それからあの男は子供っぽい口論を展開してきたため、こちらは余裕ある大人びた人間性を示すような高度な反論をすることで勝利した。”字がヘタ”という単語が♯の口から8回以上出力された件については口論とは一切の関係がないことは重ねて主張しておく。
雨はその後20分ほどで止んだ。♯が
♯はこの雨を自分で呼んだとは強く主張しなかった。ほとんど確信に近い割合で水呼魔法の効果によって雨が降ったのだと思ってはいたが、それを自慢げに広めることはしたくなかった。
というのも…現代科学を知るものにとって
それに、一番の問題は、実際に♯が雨を降らせた場面をまさか
これでは奇跡の起こし損だ。♯は次に奇跡を起こすときは人前でやろうと誓った。
つまり、♯以外のこの家に住む人間は♯の魔法によって雨が降ったとは到底考えられないと思っているということだった。
♯は母と相談し、出来るだけ早いタイミングで実証の場を用意することで合意した。
という事で次の日。良い日差しの元で真っ白なつば広帽子を被った♯はウキウキで外を歩いていた。
外、つまり屋敷の敷地外という意味だ。風は緩く草原を駆けていき、草花は青々と輝いている。近くには幌をまとった荷車が止まり、水源ではなんかしらの動物が水を飲んでいる。
中世ヨーロッパ風異世界にいなければならないはずの奇想天外な乗り物動物には未だ出会えていない。荷車は母親が杖を持ちなにかを唱えると勝手に街道を進んでいった。使用人さんが恐縮そうに(かつありがたそうに)している所を見るとおそらく労働によく使われる魔法なのだろう。勝手に進んでいく乗り物がなぜ♯の良く知る
そんな好奇心を脇に寄せて状況を俯瞰してみると、♯達一同は今、屋敷から離れ平原を進んだ先の川まで来ていた。この辺りは家屋も放牧もほとんどされていないが、植物に飲み込まれずに平坦な土地が広がっている場所だ。標高が高い訳でもない平坦で水を引きやすいこの土地がなぜこんな形で残されているのか♯には分からなかった。
こういう場所は空が開けているため、雲の動きが良く見える。雨を降らせる実証の場としては最適だろうと母親が選択した場所だった。♯自身もそれに同意だ。これで、昨日突然降りだした謎の多い雨が本当に水呼魔法によるものなのか、それとも単に偶然によって引き起こされたものなのかの判断を付けることが出来る。
「もう始めて良いですか?」♯は隣の母親に向かって言った。
「とってもご機嫌ね、でもちょっと待って頂戴。もう少しでテントが建てられるから。」
「はい!」
実際、♯はご機嫌だった。今世では外出の機会はほとんどなく、ここまで遠出したことは初めての経験だった。屋敷のある街から離れると穀倉地帯が広がっていると聞いていたが、その規模は♯が想像していたよりもずっと小さいものだった。
人口がそこまで多くないことが理由なのか、魔法によって収穫量を増やす手段があるのかは謎だったが、外国の映像にあったような
他には、来た道の方を振り返り屋敷のある街の方を見ると、地平線が薄っすらと青緑の光を放っているように見える。
暇そうにしていた父親にさっき聞いたところ、あの光は領地守護のための
この結界は内から外へ出る場合ほとんどの作用を及ぼさない一方、外からの侵入は
確証のない表現をしているのは、全てこの暇そうな父親が喋っただけの事であり信憑性が薄いためだった。
まあ、領内を治めるウィッケンハイザー家当主という職種についているためこの手の話題にはある程度の信憑性はあるが、こいつは気を抜くとすぐに
他にも、
雨が危険物であり生き物の肉を溶かすのなら、川に流れる水もある程度その特性を引き継いでいなければならないはずだが、この世界の川はなぜかそうではなく水は飲むことができ水浴びが可能だという。
山に降った危険な雨が全て地表化で濾過され安全な水だけが川に流れ込んでいるのか?全ての雨粒は無毒化されるまで地表下を進まなければ川には合流出来ないとか?もっともらしいとはとても言えない仮説だ。
「♯ちゃん。そろそろ始めましょうか?」と母が遠くで言った。
♯は手をあげてそちらに向かった。母の言う
♯は杖を空に向けて構えた。その♯の体は使用人さんのマチルダに抱えられている。雨が地面に跳ねて♯の足元にかかる事を防ぐための措置だ。♯は自身だけ守られることに難色を示したが、マチルダが着用していた雨から守るための靴と長ズボンを示されて納得した。
母が建設の監督をしていたテントは5台の荷車をつなぎ合わせ大きな一つの床とし、その上に巨大な水を弾く布を被せられたものだった。テントという表現で勘違いしていたが、地表に設置するわけではないようだ。確かに雨から身を守るための装備なら地面に設置するような構造にするはずがない。♯は自身の常識を
マチルダはテントの端ギリギリに立っている。♯が魔法を唱え終わった瞬間にテントの内側にすぐさま入れる位置だ。その後♯は荷車の上に立っている使用人さんに抱えられテントの中央部分に運ばれるという。人間ではなく完全に
♯は抱えているマチルダを見た。「始めてもいいですか?」
マチルダはテントの中に目をやった。♯も同じ方向を見ると母が大きくうなずくのが見えた。
♯は空に構えた杖と、その杖の先に広がる雄大な空を見上げた。空にはいつも通り薄い雲がかかり、陽光を乱反射させながら地表へと届かせている。
♯は緊張することもなかった。ここ1週間いつもしている魔法練習を人に抱えられながら行うだけのことだった。
ということで、♯は気軽に水呼呪文を唱えた。
数十秒後。
ウィッケンハイザー現当主は荷車の上から転がり落ちる寸前の態勢で息をあえがせて、ようやく動いた口で叫んだ。
「
今話少し短くて申し訳ないです(切る場所がなかった)
次話は明日の18時です。