魔法使い♯ちゃんの世界最適化計画   作:ざし

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遅くなってすいません!プロット練り直しが終わったため更新再開します!


重さ

♯は父親の座るソファの横に腰掛けた。玄関に一番近い待合室に置かれたソファだ。♯は事前の予定から、父親と2人で護衛の方が来るまでの待機をすることになっていた。

 

父親は手に持っていた文庫サイズの書籍から目を離し、ムスッとした表情でソファへ座った娘を見た。

 

娘は不機嫌さを表に出さないようとする表情で手に持った杖を眺めている。感情を隠そうという努力自体は認めるが、残念ながら努力の効果はあまり出ていないようだった。

こういう態度を取っている場合でも、少し経てば♯は大抵話を始めてくれるので、父親は気にせず書籍に目を落とした。

 

「……。」

 

チラと娘を見るが、当然何も起こることはない。

 

「……。」

 

♯ちゃんは黙ったまま杖を眺めている。

 

「……。」

 

「…♯ちゃん、なにかあった?」父親であるプレスコットは沈黙に耐えきれなくなった。

 

「なにもありません。」と返すのは娘。

 

何をどう解釈しても()()()()()()()ことに間違いはないのだが、どうやら娘の中では何も無かった事として処理されているらしい。プレスコットは質問を変えた。

 

「♯ちゃんは今何を考えてるの?」

 

娘は父親を見ることすらせず口を開いた。「魔法。」

 

プレスコットは咄嗟に唾を飲む事を我慢しなければならなかった。父親に対して()()()()()愛想のない対応だ。娘は父親に対してツンケンする態度になる時期が必ずあるとは聞いていたのだが、♯の場合は今この瞬間からなのだろうか…。プレスコットはそっと腹を抑えた。幻覚に違いないのだが、胃がシクシクと痛み始めてきたような気がしてきている。こんな態度を取られる事はまだ先の事だと思っていたので、こう突然だと受け止める覚悟が全然出来ていない。

 

「ああ、その、それは…」と辛うじてなんらかの音を返すことが出来たプレスコットは、この数秒足らずで額に汗が滲んできたことを自覚した。

 

ややあってから、プレスコットは意識して息を吐いた。自分は一体なにを怖がっていたのか、目の前にいるのは可愛らしい自分の娘じゃないか。もし仮に返答を誤ってしまったとしても、娘から嫌われる程度の事だ。そんな事よりも今は娘の抱えた不満を解消する手伝いをする方がずっと良いだろう。

 

プレスコットはジャケットからハンカチを取りだし額を拭い、腹の底に力をいれた。

戦いの時だ。己の恐怖との戦いの時だ。

 

「魔法のどんな事について考えてるの?」プレスコットは口火を切った。

 

♯は父親をチラリと見た。「お父様には関係ないです。」

 

プレスコットは早くも心が折れかけた。

 

「いや。」とプレスコットは首を振った。「それでも聞かせて欲しい。ダメか?」

 

手に持った杖を指先で撫でてから♯は口を開き、そして閉じた。「叱られそうなので言いたくないです。」

 

「叱らないさ、約束する。」プレスコットは安心させるように頷いた。

 

♯は大げさにため息をついた。

 

「その…大叔父様から金品を巻き上げる魔法が作れないか考えていました。」

 

そりゃ叱るだろそれは!

 

やっぱり叱った!約束したのに!嘘つき!!!

 

 

***

 

 

(喧々囂々)

 

 

***

 

 

「分かった、よく理解出来た。」と言うのは父親。「まずは頭ごなしに叱ろうとしてしまった事を謝りたい。それに約束を破ったことも合わせてか。本当に申し訳ない。ただ…どんな理由があろうと自分の実の大叔父からお金や品物を盗んだり奪い取ったりしてはならない。それが単なる仕返しのつもりでも、はたまた盗みを働いた老人の懲罰のつもりでも、このルールは変わらない。良いね?」

 

そう言いながら頭を撫でようとしてきた父親の手を♯はシッシと振り払った。そんな風に機嫌を取ろうとされるのは不快だ。そもそも悪いのはしつこく聞いてきた父親なのだし、♯自身は単に魔法はどうやって()()()()のかを考えていただけだし、実際に一番悪いのは大叔父様なのだし、♯が叱られる正当性など全くない。

 

とはいえ、父親は時間を見つけて大叔父様と話をすると言ってくれたので、♯は一旦父親を許しておくことにした。精神的に()()している♯でなければ許そうなどとは考えるはずもないので、父親には感謝してもらいたいくらいだ。

 

♯は杖の観察を続けるために椅子に戻った。隣からは謝罪や機嫌を取ったりなどのアプローチが送られ続けていたが、対応するのが面倒だったので♯は無視を決め込んでいた。父親は約束を破ったのだ。これぐらいの報復はあってしかるべきだろう。

 

数分後。

 

「♯ちゃん。そろそろ時間になるから身支度しようか。」という声で♯は顔をあげた。

 

父親は隣に座ってはおらず、すでに姿見の前に立って襟元を正している。思っていたよりも杖の観察に集中していたらしい。確かに見ると、もうほどなくすれば集合の時間になる。

 

♯は部屋の中を見渡した。「あれ、護衛の方は居ないんですか?」

 

「女性騎士が一人、付き人として来てくれるという話だったんだが…」

 

「女性?」♯は護衛の人間に大体の目星がついた。「それってエリン()という名前の方ですか?」

 

「次は苗字も覚えておきなさい。」父親は苦笑した。「エリン・ウリツカヤという若い女性騎士らしいが、♯は知っている方なのか?」

 

♯はバツの悪い指摘を忘れることにした。「はい、盗賊退治の時にお世話になりました。むしろお父様は直接の面識がないんですか?騎士団の管理も家の仕事だと思ってました。」

 

「いや、僕の代では特例的に騎士団長に騎士団の管理運営を任せているんだ。僕が下すのは基本的に最終決定のみ。騎士団運営はほとんど関わってないよ。」

 

♯は眉をひそめた。「領主が実権を持たない軍事組織が領内にあるんですか…?それはあまりにも危険じゃないですか…?」

 

「ふむ。」父親は腕を組んだ。「確かに、♯の指摘は正鵠を射ている。だから年齢的に少し早いとは思うけど、もう少し詳しく教えておこうか。まず、騎士団の資金は領主が握っているし、そのための監察役も僕の直轄として配置している。だからまあ、実権がないというより委任に近い。現騎士団長の彼とは学生の頃からの友人でね。父が早逝してドタバタの時期に一時的な形としてお願いしたんだけど、快く受け入れてくれたしその後大きな問題も起きてないから現状維持になっているんだ。」

 

「ああ。」♯は二、三度頷いた。「会計を領主が担当してるんですか。それなら納得できます。騎士団長やその下の役職の任命権は領主が持っているという認識で良いんですか?」

 

その質問に男はニヤと笑った。「その通り。娘が優秀で困るね。具体的に言うと団長と各大隊長は領主が直接任命して、その下の…」

 

そこで男は言葉を切った。扉がノックされたからだ。父親は♯の方を見て目配せをし、胸元の徽章を整えてから入るよう指示を出した。

 

入室を許可されて入ってきたのは予想に違わずエリンさんだった。彼女は挨拶の直後に父親に頭を下げた。

 

遅れてしまい、大変申し訳ございません!

 

「いや。」部屋にかかった壁掛け時計を見た父親は口を開いた。「時間に遅れた訳ではないからな。特に叱責とかはないが…なにかトラブルでもあったか?」

 

「いえ。私の不徳の致すところです。…具体的に言うと、自主訓練を終えるのが遅れてしまい…その…。」

 

「確かに、聞いていた通りだな。」その返事を聞いて父親は深々とため息を吐いた。「優秀だが抜けている所があると団長は君の事を評していた。責任を感じているのであれば行動で取り返すように。」

 

騎士エリンはさらに頭を下げた。「はっ。寛大なご処置、痛み入ります。以後、同様の不手際は致しません。」

 

「よろしい。」そして父親は空気を入れ替えるように♯に声を掛けた。「準備は出来てる?」

 

「はい。」出来るだけ身を潜ませようとしていた♯は言葉少なに答え、ソファから立ち上がった。♯は誰かが叱られている現場に居合わせるのは苦手だった。その間どうしていれば良いのか、いつも分かった試しがなかった。

 

 

***

 

 

荷車が♯と父親とエリンさんと運転手を乗せ、街道を進んでいく。

 

♯達一同は、これから杖作りの工房に向かう事になっている。昨日の午後、母親に行った要求が通った形だ。今日は母親は一日騎士団との会合があるらしく、代わりに父親がつけられる形となった。一人でも問題ないと♯は主張したのだが、もってのほかだと一蹴された。単独行動が許されない事も年齢が低いことによるデメリットの一つだ。

 

荷車は10人ほどが乗り込める幌付きのもので、高い位置にある採光窓の他に横に広く開けられた窓から外を眺める事が出来た。騎士エリンはその窓から、平原の先に広がる森の方をじっと見つめている。確かに、賊などへの警戒としては正しい対処に思える。

 

♯が今()()()()()()は、エリンさんへ話しかける事だ。

 

父親の話によれば、騎士エリンは今回も同行に一番に志願したという。騎士団の通常業務に追加で仕事をする形になるのだが、彼女としてはそれで良いのだろうか。♯としてはありがたいのだが、意図が分からないのは怖い…というより多少の()()がある。今はその真意を聞きだす絶好の機会のはずなのだが、どうにも話しかけにくかった。

 

というのも…。

 

先程の一件があってから、エリンさんは真剣そのものという態度を崩さず業務を続けているし、そんな騎士の前で父親は領主然とした態度を崩そうとはせず、手元の書籍に目を落としている。

 

率直に言えば、空気が重かった。

 

とはいえ、少し話しかけにくい程度で尻込みする♯ではない。♯は父親が本のページをめくったのを確認してから口を開いた。

 

「エリンさん。ちょっと聞きたいことがあるんですけど、良いですか?」

 

女性騎士は目を輝かせてこちらを見たが、すぐに窓へ向き直った。「良いですよ、なんでも聞いてください。」

 

「その…前回の盗賊退治の時から思っていたんですけど、エリンさんってなんで私の護衛をしたがるんですか?」

 

その質問を受けて騎士エリンは喉から「え゛」という謎の異音を出し、チラとウィッケンハイザー領現当主の方を見た。

 

現当主は本を脇に置いた。「確かに、その話は僕も興味があった。」

 

「いや…その。」女性は頬をかいた。「したがるという訳では…」

 

「なんの意図もないんですか?」と♯は続ける。「こういう遠征に参加しても騎士団の業務は日付をずらされることはあっても減ることはない、と聞いています。エリンさんが意図的でないなら、次回以降は別の人に変わってもらったほうが負担が減るのでは…」

 

「いえ、姫君。大変申し訳ございません、完全に私の意図的なものなのでご配慮は不要です。」騎士エリンは首を振った。

 

♯はニッコリと笑った。「じゃあ説明してください。」

 

「手際が良すぎて恐ろしいな…」という父親の声は黙殺した。

 

騎士エリンは観念したように口を開いた。「その…今回の短距離遠征に希望した理由は二つあります。一つ目は…」そこで女性は現当主の方を見て、懺悔するように胸に手をあてた。

 

「一つ目の理由は、重場訓練をサボりたかったからです。」

 

その瞬間、父親は突然咳の発作に見舞われたようだった。

 

「いや、失礼。」と父親。「ただ、ちょっと率直過ぎないか?一応私は君の雇用主にあたるんだが…」

 

「申し訳ございません。」と頭を下げるのは騎士エリン。

 

現当主は朗らかに笑った。「いや、割り込んですまなかった。こちらの事は気にせず雑談を続けてくれたまえ。」

 

そこで♯が口を開いた。「重場訓練ってなんですか?」

 

それを受けて現当主と女性騎士は少しの間視線を交わした。

 

ややあってから、「それについては僕から。」と話し始めたのは父親。「重場訓練というのは、2年に一度行っている大規模訓練の事でね。騎士団の半数ずつが領地の西側の重い地域まで行軍して、数カ月訓練するんだ。慣れない環境でずっと過ごすことになるし、訓練そのものも大変だから一番嫌われている訓練と言える。ただ、その分騎士は精強になって返ってくるんだ。

その重場訓練の一陣の出発が明日に控えているんだが、確かに今回の遠征に志願すれば第二陣に回されるだろうね。」

 

♯はその説明に曖昧な返事を返した。要するにつらい訓練という事だろう。という所まで考えて♯は違和感を持った。

 

♯は口を開いた。「()()()()ってどういうことですか?」

 

「それは文字通り、体が重くなる地域の事だよ。」父親は答えた。

 




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