Fate Night Unnamed ~チート転生者はデスマーチに挑む(ほぼ強制) 作:空門 志弦
深夜のイギリスのロンドンの路地。
俺は自慢の相棒たるバイクのロイヤルアロイで、壁面をかっ飛ばしていた。
アロイの座席の後ろには金髪の目つきが鋭い少女、いや、まだ幼女って言った方が近いか?
まあ、とにかく女の子が横座りになって俺にがっしりとしがみついている。
「お、落ちるっ! ていうか、何でアロイで壁が走れるんだ!? 速度も普通じゃないし!」
女の子が叫んでいるが、俺としてはそれどころじゃない。
なんか色とりどりの光が、俺たちに向かって飛んできているからである。
くっそう、ついさっきまでは、ごく普通の世界だって思ってたのに、ご覧の有様だよ。
「とりあえず、落ちたりすることはないから、そこは安心していい! でも喋ってると舌は噛むかもしれないから、口は閉じとけ! 通りすがりのお兄さんからのアドバイスだ! あと、アロイについては企業秘密な!」
俺はこれでも、配送業の個人事業主である。
深夜の時間を中心に、ちょっと急ぎの荷物や合法範囲だけど訳アリの荷物を特急で届けるサービスを行っている。
開業から数年の実績をもって最近ではそれなりにお得意さんもいる。
あ、やっべ、あの光、直撃コースじゃん!?
とっさにアクセルを吹かし、ハンドルを切れば、壁から空中に踊り出るアロイ。
「飛んでる!? ていうか空を走ってる!? なんだこのアロイ! 絶対、アロイの皮をかぶった何かだろ!? って、あいたぁ! 舌噛んだじゃないか! レディを乗せてるんだから少しは安全運転を心がけたらどうなんだ!?」
「だから喋るなって忠告しただろうが! そもそもこんな状況で安全運転なんぞ出来るか! 文句はお前を狙ってる連中に言え!」
そう、この事態は全てこの女の子の所為である
いや、襲っている奴らが一番悪いのはそうなんだけどね。
この女の子、いや、もう現実から目を逸らすのはよそう。
ライネス・エルメロイ・アーチゾルテ。
それがこの子の名前だ。
彼女の名前を聞いたその時に俺は心中で叫んだ。
よりにもよって、Fate世界かよぉ!? と。
だが、俺を誰も責められまい。
この世界程、厄ネタがゴロゴロ存在している世界は中々ないからだ。
まあ、今までの生活で俺が気付かなかったくらいには、普通に生活していればそれら厄ネタとはそんなに関わらず生きられる世界でもあるんだが。
そう言う意味では、マシと言えばマシな方だな、うん。
「連中に対しては心中でたっぷり呪詛を吐いているし、後できっちり落とし前もつけるとも。それはそれとして、こんな奇怪なものに乗せられて、黙っていられるわけないだろう!?」
うーわ、流石ライネス。
その呪詛、ちゃんと対策してないと実際に影響が出る類の呪詛なんだろうなあ。
しかもこの年で落とし前とかさらっと言うし。
殺伐としてんなあ。
年齢見るに、ケイネスは死んだ後で、お家騒動真っ只中って感じか?
そろそろ、エルメロイ二世に会う頃だろうな。
アニメ一話のロリライネスにドンピシャの容姿だし。
「俺、命の恩人。君、命救われた。お互い余計な詮索はしない。OK?」
「なんで片言風なんだ。だがまあ、仕方ないか。状況が状況だし」
うんうん、そのあたりの切り替え、まだ幼いのに俺の知っているライネスらしくて感慨深いとともにありがたいね。
じゃ、そっちは良しとして、追っ手との距離も空いてきたし、そろそろ本気で振り切ろうかね。
バイクのアクセル脇に備え付けられた本物のアロイにはないボタンを押す。
途端に相手はこちらを見失った。
「認識阻害か何かか? あの一瞬で? ほんとになんなんだ、このアロイ。アトラス製か?」
ぶつぶつ聞こえるが、詰問などはしてこないようなので聞き流しておく。
気になるのは当然だろうし、こちらを探ろうとしなければ別に考察くらいは、いくらでもすればいい。
まあでも、目はつけられちゃっただろうなあ。
折角築き上げた地盤を放り出すのは残念だが、河岸を変えるのも考慮に入れないといけないかもしれない。
ライネスは、将来のロード候補。
要するに魔術組織たる時計塔の権力者の卵で、厄ネタの宝庫なあの組織とズブズブだから、あんまり関わりたくない。
「で、どこに送り届ければ良いんだ?」
「なんだ、送り届けてくれるつもりはあるのか。扱いが割とぞんざいだったから適当な所で放り出されるかと思ったぞ。どうやって送ってもらおうか考えたのが無駄になったな」
「流石に命を狙われた子供を追っ手をまいたからって放り出したりしないぞ」
本音としては、ちょっとだけそれも考えたけど。
「護衛の連中もいまいち信用できないからな。とりあえず屋敷まで頼む」
そうしてライネスは住所を指示する。
「じゃあ、一名様、ご配送という事で。今回は初回サービスってことでタダにしといてやるよ、お嬢さん」
「そういう君も、お坊ちゃんじゃないか。とても免許が取れる年には見えないぞ? 何歳か年上ではあるんだろうが私とそんなに変わらないだろう?」
まあ、肉体の実年齢は12くらいだからな。
「ちゃんと免許は持ってるぞ。役所にもそういう風に記録されている」
これは本当の話。
ただし、法に則った正式な手続きであったかは話が別である。
ライネスは俺の言葉の含みを正しく読み解いてニヤリと笑った。
「中々悪いやつだな?」
「事情ってもんがあるのさ」
割と切実な。
戦場カメラマンの両親が、イギリスの知り合いに俺を預けて戦場にて天に召されてしまったのである。
人間的には悪い人たちじゃなかったが、親としてはちょっと失格だよね。
こんなに冷静なのは、両親の死を聞いたときにそのショックを受けてか別の人生を生きていた前世の自分の記憶を思い出したからだ。
ぶっちゃけ、今の俺は前世の記憶の方が圧倒的に時間が長く、量も多いためにほとんど前世の俺と変わらない人格に再構成されてしまっている。
だから親についても、正直な所を言うと感情的には大分距離がある。
死に方が死に方っていうのもあるが。
まあ、そんなわけで、急遽収入を得る必要に迫られたのだ。
知り合いに頼らなかったのかって?
親の友人てだけであんまり迷惑かけるわけにいかなかったし、このまま世話になってるとあくまで旅行者でしかない俺は本来の出身国である日本に強制送還され、良くて親戚の家で居候か悪ければ施設行きである。
それはちょっと面倒くさかった。
そんな事情はライネスに話す必要もないので適当にはぐらかしつつ、屋敷まで送った。
「礼をしたいから、連絡先なり教えてくれないか?」
それ絶対罠だろ。
表情が悪い顔過ぎるんだよ。
いやでーす。
個人情報は教えられませーん。
「礼なんて不要だ。勝手にやった事だしな」
手をひらひら振って、アロイを加速させて屋敷から離れる。
後ろからライネスの声が聞こえた気がしたが、聞こえなかったことにした。
すでにお気づきだと思うが、このアロイ、当然ただのアロイじゃない。
というかロイヤルアロイなのは見た目だけである。
中身はオリュンポス12機神もびっくりのSF技術の産物だ。
何しろ、このアロイ。
宇宙どころか並行世界も含めた世界全てに破滅をもたらすような怪異と戦っていた世界の最前線の技術の産物であるのだから。
俺の名前は、神薙統夜(かみなぎ とうや)。
神を薙ぐだの、夜を統べるだの大層すぎる名前でどうかと思っていたんだが、ここがFate世界というなら話がちょっと変わってくる。
この世界、割と名前に意味があったりするからな。
特に神を薙ぐとか、心当たりがありすぎる。
そう。
俺は、まさに神にも等しい世界崩壊級の怪異を単騎で一蹴するようなSFMMOゲームの主人公にあたる自キャラの力をもって転生してしまった、チート持ち転生者なのである。