Fate Night Unnamed ~チート転生者はデスマーチに挑む(ほぼ強制) 作:空門 志弦
うーん、実際に立ち会ってみると存外、感慨深いなあ。
あ、黒服さん、もう少し強めに。
それだといまいち揺れないから。
俺が目と小さな手ぶりで要求すると、見事に意をくみ取ってくれる黒服さんは優秀だなあ。
それ、ゆーらゆーら。
え、何をやっているのかって?
まあ、何となく予想はついているかもしれないけど。
俺は今、逆さ吊りにしたウェイバー・ベルベット君を揺らしている。
この時点だと、まだ青臭さが大分残っていて、君付けの方がしっくりくる感じだ。
「ちょ、勢いよく揺らし過ぎじゃないか!? 酔う、酔うって!」
うーん、流石の突っ込み気質。
リアクションが良くてついつい、いじってしまう。
いかんな、事件簿世界線のライネスが会うたびに彼を揶揄ったりしていた気持ちが理解できてしまいそうだ。
「おいおい、話が聞けなくなってしまうと困るから、ほどほどにしてあげたまえよ、我が弟子」
言葉では止めているが、目がもっとやれと言っていた。
よし、じゃあ、もう一揺らし。
俺は頷いてから、また黒服さんと息を合わせてウェイバー君を揺らす。
「ちょっとまて! 師匠に止められて、それに対して頷いたのに、君は何故また揺らすんだ!?」
だって、その師匠の目がもっとやれって言っていたんだ。
彼の反応を十分に楽しんだライネスは、軽く手を上げて今度こそ本気で俺の行動を制した。
そこから始まるのは、おおむね事件簿世界線と同じ会話だ。
ウェイバー・ベルベットが何故エルメロイ教室を買い取り、三年もの間、魑魅魍魎の跋扈する時計塔で教室を維持してきたのか。
そして、ケイネスが聖杯戦争で死んだ際に起こった損害の補填についての契約の話。
当然、ロード・エルメロイとしてライネスの成人までロードを務める事も契約には盛り込まれた。
契約は成って、吊るし上げから解放されて頭から落ちるウェイバー君。
ただ、当然と言うべきか、やり取りには相違点も少なからずあった。
まず、エルメロイの借金は既に俺のチートを応用的に活用したことで返済が完了している。
だから契約が負債の解消ではなく、損害の補填なのだ。
どうやって返したのかというと割と単純な話で、株取引を中心に投資で稼いだ。
俺の装備の能力があれば情報の収集と解析は非常に容易で、ほとんど未来予知に等しく、ライネスと出会って弟子になってから今に至るまでの期間があれば十分すぎた。
「弟子が優秀なおかげで、借金の返済は済んでいてね。損害の補填は必ずしも金銭である必要はないし、急いでもいない。先代の死によって生じた損害に釣り合う何らかの成果であがなってくれればいい」
エルメロイもなんだかんだで手元の動かせる資金は相応に残してあったから、元手も大きかったしね。
莫大な借金を負った事には、本当に手元の資金がゼロになって身動きが取れなくなることを避ける意図もあったようだ。
その辺なんだかんだでやっぱり歴史と実績のある家というか、抜かりがない。
そんなわけで借金の返済は既に完了し、むしろ今では結構な勢いで金銭的な面での資産は増えている。
「だから君にはまずロードの代行としての職務と、エルメロイの源流刻印の修復について力を入れてもらいたい」
魔術刻印の修復については、修復のための技術情報が蓄積できればどうにかならないこともない、というのが俺の見通しである。
ただこれについては確定情報とは言えないので、ライネスに対してだけ、あくまで可能性の話として伝えていた。
俺としてもエルメロイには早く力を取り戻してもらって、時計塔への影響力を強めてもらいたいという思惑もあったので、だいぶ自重を捨ててテコ入れした。
BBの示唆した厄ネタの正体が定かでない現状、手札を可能な限り強くしておくくらいしかできる事がないという事情もあった。
それに、俺のチートもいつまでも完全に隠しきれるとは思えないから、後ろ盾は強く大きいほうが良い。
結果的にエルメロイは、他の魔術家から見ても驚異的と言える速度で力を取り戻し始めていた。
「よろしく頼むよ? 新たなロード・エルメロイ?」
エルメロイの復興は順調すぎるほどに、万事順調と言って良い。
ただしその対価として。
エルメロイ内で、俺のライネスに対する婿入りが、ずんどこ既定路線として、超合金ばりに固まっている件。
そのせいもあってか、ライネスのロード・エルメロイ二世に対する態度も、気に入ってはいるようだけど事件簿世界に比べるとかなりビジネスライクよりっていうか。
「一つだけ条件がある。ロード・エルメロイには二世をつけて欲しい。僕には重い名だ」
そして俺がエルメロイ復興の経緯を思い返しながら聞いていた二人のやり取りは、完全な決着へと至った。
ウェイバーは決意と共についにその言葉を口にしたのだ。
この瞬間、この世界におけるロード・エルメロイ二世の誕生が確定した。
彼の差し出した手に、預かっていたジャケットをことさらに恭しい態度で返した。
おっとエルメロイ二世が、今一瞬、俺を胡散臭げな眼で見たね?
ちょっといじりすぎたか。
ライネスはそんな俺達の様子を見て、くすくすと笑う。
「仲良くやれそうで何よりじゃないか?」
「ええ、これからが実に楽しみです」
弟子としての外行きの態度で、ライネスの言葉に満面の笑みと共にそう返した。
二世は、そんな俺たちにとても嫌そうな顔をする。
まあ、気持ちは分かるが、安心して欲しい。
そんなに頻繁にいじるつもりはない。
これでも俺もライネスもそこまで暇じゃないし、二世と会う時は主に講義を受ける時だろうから、いじる機会自体がそう多くはならないはずだ。
そう、契約には俺とライネス、そしてついでにカレンへの講義も盛り込まれているのだ。
俺とライネスは当然として、カレンも魔術回路がないとしても魔術に関わる以上は知識はあった方が良い。
そのカレンだが、彼女は今のところ将来的な俺の専属のメイドとしての教育をエルメロイの屋敷で受けていた。
俺としては子供らしく遊んだり、安全を確保したうえで学校に通わせることも考えたんだよ?
でもカレンには働いていないと落ち着かない性質がすでに根付いているようで、本人からの強い要望もあって、教育を受けながらだが、すでに見習いとして俺の身の回りの世話を行っている。
ライネスとは妙に気が合う様子で、結構頻繁にお茶の時間を共にしているようだ。
最近ではカレンの口から毒舌がチラホラと聞こえるようになり、ライネスにじっとりとした眼を向けたら、目を逸らされたなんて事もあった。
ライネスの悪影響でカレンの内なるSっ気が早期に育ってしまっているのかもしれない。
なお、俺が護衛としてライネスの傍に控えている時などは、俺と共にライネスの傍に控えているのが定番となっていて、屋敷の外では半ば俺ではなくライネスの専属メイドのような感じである。
「お疲れさまでした、統夜様。ライネス様」
二世を見送って一息つくと、カレンがタイミングよく飲み物を持ってきてくれた。
俺にはブラックのコーヒーを。
ライネスには紅茶を。
まだ、仕事を始めてからそんなに時間はたっていないのだが、年齢には不釣り合いな気の利きようだ。
なお面白がったライネスが、わざわざ幼いカレンにあわせて衣装を用意したためにキッチリメイド服である。
「ありがとう」
コーヒーを受け取りながらしっかりと礼を言えば、カレンは嬉しそうに目を細めた。
ライネスも同じように礼を言って紅茶を受け取った。
「やれやれ、これでひとまずロードの枠の確保についても解決か。エルメロイ教室を買い取った最初のうちは正直あまり期待していなかったんだが、思ったより面白い男だったな」
紅茶を軽く楽しんでから、軽く溜息をついてライネスはそう言葉をこぼした。
まあ、俺と出会った時点でもまだ彼については半信半疑な感じだったもんね。
しかし、徐々に評価が定まっていき、遂に行動を起こした。
それを決めた時のライネスは完全に、そろそろ狩るか……って言う、あのノリであった。
憐れなり、ウェイバー君。
彼が彼である限り、やはりこの流れは避けられないようである。