Fate Night Unnamed ~チート転生者はデスマーチに挑む(ほぼ強制)   作:空門 志弦

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第100話   俺と彼らで過ごす時間

 

 白のポーンを掴み、前へ一つ進めた。

 対面に座るオベロンが黒のクイーンを動かし、白のポーンの駒を取る。

 今度は俺が黒のクイーンを白のナイトで取り、しばしオベロンの手が止まった。

 しばしの逡巡のあと黒のナイトが動き、こちらはすかさず白のクイーンを盤面の一点へ指す。

 

「チェック」

 

 その宣言を受けてオベロンが息を吐いて肩の力を抜いた。

 やれやれと言った風に肩を竦めて、いつもの笑顔を浮かべて言う。

 

「僕の負けだ。これ以上足掻いても精々が十手ってところか。君が寄せ手を誤るとも思えないしね」

 

 まあ、そうだな。

 かつての俺はともかく、今の俺の脳みそは結構優秀だ。

 現実世界での様々な要因を含んだ策謀はともかくとして、盤上の遊戯ならちょっとしたものなのである。

 

「で、なんだってまた急に僕を誘ったんだい?」

 

 なんでかというと、まあ。

 

「いつもの調子でサーカスの事務をやろうとしたら、コーラルに少しは休めと言われた上に、カレンとジャンヌ・オルタに部屋から引っ張り出されてな」

 

 オベロンがくつくつと笑い、俺はテーブルに肘をついて目を逸らした。

 いや、あれだよ。

 こっちの移動速度を誤認させる狙いがあったり、そこまで急ぎじゃなかったりで移動が割と徒歩でのんびりな感じだったから、そんな忙しくしていた感じがしないんだよ。

 道中結構モースとか原生生物は相手にはしてたんだが、ちょっとうざったいくらいで敵じゃなかったし。

 

「典型的なワーカホリックだね」

 

 違う……とは言い難いか。

 まともに事務出来る妖精がほとんどいなかったのが悪い。

 まあ、ここにはライネス筆頭にそう言う作業ができるメンツがチラホラいるから、任せればよかったんだよな。

 何ならスーパーAIなBBとかもいるわけで。

 

「今頃は団員たちが珍しいものを見た、なんて噂してるんじゃないかな?」

 

 面白そうに目を細めてオベロンは言う。

 確かに団じゃほとんど叱る側で、叱られる側だった事はまずなかったからな。

 俺と一緒に書類に忙殺されていたコーラルやポン達はともかく、アンとタンあたりは面白おかしく吹聴していそうだ。

 あとで噂をしている所にでも忍び寄ってビビらしてやるか、なんて考えながら軽く鼻を鳴らした。

 

「……モルガンから招待が届いた」

 

 くだらない話の余韻が覚めたあたりで不意に告げる。

 オベロンはほんの少しだけ、妖精王としての仮面を薄くして、内心の読みにくい曖昧な笑みを浮かべた。

 

「ああ、知っているとも。君の描く物語もいよいよ大詰めというわけだ」

 

 俺は確かにオベロンの仕掛けを丁寧につぶしたし、付け入る隙も見せなかった。

 だがそれにしてもだ。

 

「オーロラの動きを牽制し続けてくれたことには礼を言っておく。おかげで他のやるべきことに集中できた」

 

 最初は何かの仕込みの為の動きかと思って少なからず警戒していたのだが、オベロンはとうとうオーロラに対して怪しい動きを見せなかった。

 それは俺が隙を見せなかったからなのか、それとも別の理由なのか。

 俺には到底、正答を導き出せそうにないので、ただ事実としてそうなったことにだけ礼を言う。

 

「それは何よりだね」

 

 オベロンもまた多くは語らなかった。

 代わりに黒のキングをひょいと摘まみ上げていつもの笑みに戻って言う。

 

「どうせ仕事場も追い出されて手持無沙汰なんだろう? どうだい、もう一局?」

 

 そうだな、それも良いだろう。

 きっとゆっくりとオベロンと過ごす時間はこれが最後だ。

 今日くらいこの油断ならない友人と遊び倒すのも悪くない。

 

 

 

 結局、あの後も何局かを競い、戦績は大体イーブンとなった。

 流石に腹が減ったからとお開きになり、夜のロンディニウムを食事を求めてフラフラと歩く。

 ふと、何人もの笑い声が耳に入って目を向ければ、ウチの団員が芸を披露してちょっとした宴会のようになっているのを見た。

 

 牙の氏族がゲラゲラと笑って盃を掲げ、土の氏族はがぶがぶ酒を飲んでいる。

 風の氏族の妖精が少し離れて、しかし満更でもない様子で果実をかじっていた。

 仕事上がりなのか、鎧を半端に纏った人間の兵士が牙の氏族と肩を組んで盃を打ち合わせる。

 

「悪くねぇ光景だ。団長もそう思うだろ?」

 

 近づいてきた足音に振り返った俺にそう言って、果実を絞ったジュースを渡してきたのはアンだ。

 受け取りながら、俺は笑って答える。

 

「そうだな」

 

 他にもポンとタン、コーラルにヒスト、レッドラ・ビットもいた。

 

「ホープはカレンさんと一緒に貴方の食事を用意しています」

 

 サーカス団としてのいつものメンバーとしては足りない一人についてコーラルが説明して、さらに続けた。

 

「ちょうどよかったと言えば、ちょうどよかったですね。彼女はきっと、この巡業が終わっても貴方について行くでしょうから」

 

 そろそろ旅も終わりであるという事をシャドウフォート組の誰かから聞いたのか、彼らの用件はつまり別れの挨拶であるらしかった。

 

「コーラル。君には本当に助けられた」

 

 俺が礼を言えば、コーラルは少し笑って言う。

 

「ええ、大変でした。貴方というか、この団は本当に手がかかりましたから。でも、オーロラ様のもとにいた時よりも大変ではありましたが、気持ちの良い大変さでした」

 

 出会ったころよりもだいぶ険が取れた彼女と握手をして、手を離す。

 

「サボりはほどほどにしろよ、オンファム。と言っても最近のお前はすっかりサボらなくなっていたけどな」

 

 アンの本当の名前を呼び手を差し出せば、がっしりと握り返された。

 

「そりゃあ、ほら、誰かに喜ばれる仕事ってやつはどうにもサボりづらいもんで。っていうか、今更勘弁してくださいよ水臭い。むず痒くってたまらねぇや。俺ぁ、アンで十分だ」

 

 バツが悪そうに笑ったアンに俺は、そうか、とニヤリと笑ってから手を離した。

 

「お互い書類仕事には苦労したなハロバロミア。今の肩の力が抜けたお前なら次の仕事はきっと、前よりずっとうまくやっていけるだろうさ」

 

 ポンとはお互い、つい苦笑交じりに握手を交わす。

 

「そっちの仕事ができるメンバーが増えるまではホントに大変でしたからね。ところで、そのハロバロミアとはいったいどこの誰ですかね。私はサーカス団のしがない事務方のポンという妖精なのですが」

 

 苦笑を悪戯っぽい笑みに変えてポンの言った台詞に思わず吹き出す。

 本当に肩の力が抜けたな。

 ポンもまた俺につられた様に笑って、握手は自然と解けていた。

 

「ドーガ。お前のその力は誰かを助け、護る事が出来るものだ。使い方を間違えるなよ。まあ、今のお前なら大丈夫だろうけどな」

 

 次は俺の番だよな、とソワソワした様子だったタンに言葉を掛けて、フライング気味に差し出されていた手を握り返した。

 

「あー、俺そんな名前だったっけ? もうすっかりタンって名前に慣れ切っちまったなあ。力の使い道は、気をつけるっすよ。また地面に埋められたらたまらねえや」

 

 あながち冗談でもなさそうな調子で自分の本来の名前を流すタン。

 ブンブンと握手した手が振り回されて、勢いよく離された。

 

「さて、それで、ヒストなんだが、まあそうだな。お前はずっと変わらないなー。まあ、お前はそれでいいんだろうけど、あんまりその趣味で周りに迷惑はかけるなよ?」

 

 本当の名前は呼ばないのかって?

 こいつは名前の由来を知ったら大真面目に、これからはこれが自分の名前だって言いだしたんだよね。

 あはは、と笑うヒストと握手を交わす。

 

「まあ、その、はい。あんまり迷惑はかけないように……できるかなあ?」

 

 そうだな。

 お前、ほんと欲望に忠実だもんな。

 ほんと、別に悪い奴じゃないんだけど。

 

 妖精って時々変なの生まれ出るよなあ。

 方向性はそれぞれ結構違うけども。

 周囲の面々も苦笑いと言った感じのなか、ヒストの手が離れた。

 

「レッドラ・ビット。君の足には助けられ通しだったな」

 

 最後にレッドラ・ビットと握手して感謝を告げる。

 

「いえいえ、私もこの妖精國を思うさま走ることが出来て楽しかったので、お互い様というものでしょう」

 

 本人が満足しているなら何よりなんだが、本気で助けられっぱなしで大分こちらが得している気がする。

 これは馬ならぬ人の感覚故なのだろうか。

 

 挨拶が一通り済んだところを見計らっていたのか、カレンとホープが他にも何人かの手伝いを連れて全員で楽しむことが出来るだけの量の食事と飲み物を持ってきてくれた。

 

「いつも助かっている。これからもよろしくな、ホープ」

 

 食事を並べているホープにしっかりと礼をすれば、満点の笑顔が返事として返ってくる。

 その後はホープも他の団員も、いつの間にやらやってきたシャドウフォート組も交え全員で大いに楽しむのだった。

 

 

 

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