Fate Night Unnamed ~チート転生者はデスマーチに挑む(ほぼ強制)   作:空門 志弦

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第101話   バーヴァン・シーの意地

 

 賑やかな夜の次の朝のこと。

 モルガンのもとから迎えの使者がやってきた。

 ジロリと睨むようにこちらを見てその使者、バーヴァン・シーが口を開いた。

 

「モルガン陛下の命を受けて、お迎えに上がりました。統夜様」

 

 うーわ、思う所があるのが見え見えというか。

 なんて言うか、腹芸が心底へたくそな子だよな。

 鐘を鳴らし聖剣を鍛えたことで、完全に予言の子として名実ともに己を証明したキャストリアも一緒に招待されているし今俺の横にいるのだが、完全に俺にロックオンしていて眼中に入っていない様子であった。

 

「陛下の気遣いに感謝する。よろしくお願いするよ、妖精騎士トリスタン」

 

 バーヴァン・シーは俺の返答を、ふん、と鼻であしらってこちらに背を向け迎えの馬車へと歩いていく。

 苦笑するキャストリアに肩を竦めてその背を追った。

 馬車に乗ってすぐに窓から見える景色が動き出す。

 

 空気はまあ、控えめに言って最悪である。

 キャストリアが何度か口を開こうとして、そのたびに空気の圧に負けて諦めた。

 ただ、これはちょっと流石にぴりぴりし過ぎている気はするな。

もしかして、と思いながら馬車に揺られていると案の定というべきか、ロンディニウムから十分に離れた場所までたどり着くと、バーヴァン・シーが馬車を引いている妖精馬に指示を出した。

 

 やっぱりこうなったか。

 一つ大きなため息をついて、席を立つ。

 キャストリアが驚いた顔をして、バーヴァン・シーは体を小さく震わせた。

 その震えはさて、恐れか武者震いか。

馬車を降りて鞘に収まったままの刀をストレージから取り出す。

 

「ちっ。話は早いけど、見透かされていたみたいでムカつく」

 

 舌打ちをしたバーヴァン・シーが俺に続いて馬車を降りて、その後に心配そうな顔をしたキャストリアが馬車から降りてきた。

 

「その、言っても無駄だとは思うんだけど、それでも言うけどさ。やめた方が良いんじゃないかな?」

 

 キャストリアが、凄く気遣わし気な声でバーヴァン・シーに言う。

 本気で心配されているのがわかったからなのか、バーヴァン・シーの返す言葉に込められた感情の色は穏やかだった。

 

「無駄って分かってるなら、黙ってろ。出来るとか出来ないとか、そんな理由で退ける話じゃないんだよ」

 

 バーヴァン・シーがいくつもの弦のかけられた特殊な弓をどこからか取り出して馬車から距離を取った。

 俺もそれに合わせて馬車から離れていく。

 馬車の傍に残ったキャストリアが手で大きくバツ印を作っているのが見えた。

 

 俺を何だと思っているのか。

 バーヴァン・シーみたいなタイプの妖精を手ひどく扱ったことはないと思うんだが。

 確かにFGO世界線のバーヴァン・シーと同じような素行であれば事情はともかく行いの悪辣さを以て、多少きつめの灸をすえた可能性もあった。

 だが、この世界線のバーヴァン・シーはハベトロットが世話を見ていたりする所為か、FGO世界線に比べて行いは大分大人しい。

 

 結論。

 別に容赦なく頭から埋めたりするような事をする気は元から無いので、バーヴァン・シーには見えない角度で後ろ手にサムズアップをして返した。

 俺の答えにキャストリアは、ほっとした顔をしてバツ印をやめる。

 

「ずいぶん余裕そうじゃねーか。そのすまし顔、絶対崩してやる!」

 

 おっと、意識が他に行っているのはバレバレだったか。

 バーヴァン・シーが手に持った弓の弦をつま弾くと、不可視の刃が十重二十重に俺に襲い掛かってきた。

 刀を鞘から抜き打ち、全て叩き落していく。

 元から感覚で行けただろうが、義眼のおかげで今まで以上の精度で通常の視界では見えないものを捌くことが出来た。

 

「小手調べにしても、温すぎるんじゃないか?」

 

 なんというか、明らかにビビっているのが透けて見えるというか。

 ただ、それで色々と中途半端になっても戦う意味がなくなってしまうので、敢えて鼻で笑ってみせた。

 

「なめんな!」

 

 よし、火が入ってきたな。

 弓の弦をつま弾くとともに、釘の形をした魔力も同時に打ち出してくる。

 バーヴァン・シーの方へ数歩だけ動いて、それでも自分にあたる攻撃だけを切って落とす。

 

 攻撃は徐々に激しさを増していった。

 大分怯えは見えなくなってきたが、それでもあくまで距離を取っての攻撃しかしてこないあたりに、何か根深いものを感じる。

 また数歩。

 

「くそ! 本当になんなんだお前! お前が現れてから、急に何もかも変わり始めた! お母様は、お前が来てからずっと、顔には出さないけど辛そうだった!」

 

 言葉が少し胸に刺さった。

 あのモルガンがバーヴァン・シーにはっきりと気取られるほどに弱っているというのは、そうなるだろうと分かっていた事ではあっても、事実として付きつけられればやはり心は痛む。

 モルガンの黒いベールの奥の顔が物憂げに沈むのを幻視したが、それを振り払って、更に数歩。

 

「――――っ! お母様の前に立たせるものか! お前は、ここで消えろ!」

 

 わずかに後退りしそうになった足を、必死に留めたバーヴァン・シーが意を決した。

 弓を魔力へと解いて、全力で魔力を高めていく。

 宝具を使う気だ。

 こちらも刀を一度鞘に納めて腰を落とし、柄に手を添えた。

 

痛幻の哭奏(フェッチ・フェイルノート)!」

 

 バーヴァン・シーの宝具は、端的に言ってしまえば典型的な呪詛だ。

 正直、俺へ使う場合の相性は最悪と言って良い。

 何もしなくても、恐らく存在の概念規模的に俺には届かない。

 だが、それでは駄目だろう。

 

 意識を研ぎ澄ます。

 時間が止まったかのように視界の全てが動きを止めた。

 止まった時間の中で一歩踏み込んで、抜刀。

 義眼の出力を上げて、こちらへ伸びてくる呪いを視覚化し、その核といえる場所を絶つ。

 

「っく!?」

 

 呪いは完全に斬り祓ったから反動の類は無い筈なのだが、余程宝具に全霊を注いでいたんだろう。

 バーヴァン・シーはわずかな呻き声を漏らして、ふらつき、地に膝をついた。

 それを確認してから、俺は息を吐いて刀を鞘に納めた。

 戦意を解いて、バーヴァン・シーにほんの少しの時間を与えるためにあえてゆっくりと近づいていく。

 

「俺の勝ち、という事で良いな?」

 

 すぐ前までたどり着いた俺は、そう端的に告げた。

 バーヴァン・シーは項垂れていた顔を起こして俺と目を合わせる。

 

「……好きにすれば。かすり傷一つつけられなかった上に、こっちにも怪我一つさせなかったような相手に、まだ負けてないだなんて言えるほど恥知らずにはなれない。これでも私は、お母様に任じられた妖精騎士なんだから」

 

 なるほど。

 今、俺の目の前にいるバーヴァン・シーは、本当にFGO世界線の彼女とは違うんだな。

 本人はたまに様子を見に行くくらいだと言っていたが、実は大分世話を見ていたんじゃないかハベトロット。

 

「そういう事なら、勝者としての権利を行使させてもらおうか」

 

 ストレージからちょっと洒落たデザインのチョーカーを取り出した。

 それを見たバーヴァン・シーは凄く引いたような顔をする。

 

「マジかよ。妖精埋めるとか、気に入った妖精には首輪をかけるとか噂に聞いていたけど……」

 

 どこのどいつだ、その噂広めた奴。

 心当たりはないかと思ってキャストリアの方を見るが、手をパタパタと振って否定されてしまった。

 オーロラあたりならやれるし、最近噂の的な俺の評判を落としたくて、なんて動機も考えられるが。

 

 それともオベロンあたりか?

 あいつも、ちょっとした意趣返しと、単純に面白半分でやりかねないところがある。

 ――――まあ、今は良いか。

 どうあれそれ自体は大した話でもない。

 

「もう、そういう事で良いから、さっさと付けろ」

 

 実際にはモルガンから与えられた妖精騎士としてのギフトがなければ自我の所在も怪しいような彼女をきっちりと今の状態に留め置くための補強の意味が強いが、説明するような事でもない。

 モルガンもバーヴァン・シーが俺を襲う気であったことを見抜けなかったとも思えないし、あるいは俺ならこの子の今の状態をどうにかできるかもしれないと期待したのもあるんじゃないかと思う。

 だから、恐らく、バーヴァン・シーが俺から渡されたチョーカーをつけていたからといって、怒ったりはしないだろう。

 多分。

 

「……思ってたのとはまた別方向でもヤバい奴なのか? あ、でも、このチョーカーのデザインは悪くないな」

 

 ぶつぶつ言いながら、大人しくチョーカーを身に着けるバーヴァン・シー。

 戦いが終わってから、妙に大人しいし従順なのは、諦めがついたって事か?

 

「それを付けたら馬車に戻るぞ。今度こそ、キャメロットまで案内してもらう」

 

 チョーカーを付けたバーヴァン・シーが膝についた汚れをはらって立ち上がり口を開いた。

 

「お前を止めるのは私には無理だって思い知らされたから、お母様の言いつけ通り城まではちゃんと案内する。だけど、あんま偉そうに指図すんな」

 

 さっそく憎まれ口とは。

 なかなかいい度胸だ。

 

「そのチョーカーには俺を襲えない縛りの他に、行動を制したりするためのいくつか機能があってな」

 

「はあ!?」

 

 俺を襲えなくなる縛りは予想出来てたみたいだが、他にも機能があるのは寝耳に水だったのか目を見開いてから、慌ててチョーカーをはずそうとするが。

 

「おっと、下手なことはしない事だな。そもそも簡単に外れるモノではないし、無理に外そうとすると愉快なことになるぞ」

 

「なんだよ、電流でも走るのか? それとも爆発でもするって?」

 

 舌打ちをして問うてくるバーヴァン・シーに、にっこりと笑って答える。

 

「語尾がランダムで愉快になる」

 

「言葉通りの意味で、愉快なことになるペナルティ!?」

 

 中々、切れのある突っ込みで何よりだな。

 馬車の近くまで俺達がたどり着いてそんなやり取りをしていると、キャストリアがちょっと苦笑しながら俺たちのやり取りを聞いているが、そこには少し安堵も混じっているようだった。

 安心させる意味も込めて、すれ違いざまに軽く肩を叩いた。

 

「さて、それじゃあ、行くとしよう」

 

 二人を促して馬車へと乗り込む。

 その後の車内は和やかとは言い難いが、ちゃんと会話も行われ、それなりに悪くはない道程となった。

 少々トラブルはあったが、バーヴァン・シーの状態を考えればできればどこかのタイミングでチョーカーは身につけさせておきたかったので、結果オーライ、という事で良いだろう。

 

 

 






いつも閲覧ありがとうございます。
お気に入り登録や評価、感想と誤字報告にも変わらぬ感謝を。

ちょっと投稿に間が空いてしまって申し訳ありませんでした。
体調崩していた間にたまっていたタスクの処理などあった関係で、いまいち時間が取れなかったのと、そのタスクで脳が結構疲れていたのか、執筆の進みが遅かった。
スランプってこういう感じなんでしょうかね?
いやでも、これはちょっと違うか?

ともあれ大変お待たせしてしまってすみませんでした。
次は今回ほどお待たせせずに、ペースも戻して行けるように頑張っていきます。


小話

負けた後にバーヴァン・シーの態度が軟化したのは敗北で気負いが抜けた事と諦めがついた事、また、自身を一切傷つけなかった統夜であれば、モルガンの事もそこまで手ひどくは扱わないのではないか、と思ったからです。

そしてFGO世界線に比べて全体的に丸くなっているのはモルガンの義理の娘である彼女をハベトロットが結構甘やかしていたからです。
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