Fate Night Unnamed ~チート転生者はデスマーチに挑む(ほぼ強制)   作:空門 志弦

102 / 118
第102話   キャメロットでのモルガンとの邂逅

 

 白亜の城壁が視界に入ってから馬車が走る事しばし。

 城門から出発していく一団とすれ違う。

 規模はそこそこだが、しかしこれは、ここキャメロットから離れていく者たちのごく一部であり、最後の一団でもあった。

 

 外で何事か話している声が聞こえて、馬車が止まり、しばらくして馬車の扉が開く。

 降車する場所まではまだ距離があったはずだが、と疑問に思っていると、扉を開けた牙の氏族の妖精が軽く会釈をして、その後ろから一人の妖精が現れた。

 

「不躾ですまないが、挨拶をさせてくれ」

 

 現れた顔を見て、バーヴァン・シーは少し嫌な顔をした。

 

「ウッドワスの爺かよ。わざわざ顔出さなくても、こっちには私が付いてるんだ。あんたは大人しく疎開の指揮をしてりゃいいだろ」

 

 今にも舌打ちをしそうな言いぐさである。

 しかし、根の気性が荒いウッドワスには珍しく、バーヴァン・シーのその態度に噛みつく事もなく、ただ静かに俺を見て瞠目していた。

 

「……貴公と共にあるもう一人のランスロット、メリュジーヌと名乗った彼女が言っていたことは本当だったのだな。そして、モルガン陛下の判断もまた正しかった。確かにこれは敵にすべき相手ではない」

 

 ロンディニウム攻防戦で敗れたウッドワスは敗走したのちに、モルガンからキャメロットの住民たちの疎開の指揮を命じられたと聞いていたが、その途中でこの馬車を見つけて俺の顔を直接見たくなったらしい。

 しかし、腐っても牙の氏族長にして亜鈴返り。

 ただの一目でこちらの力を測ったか。

 

「会えて光栄だよ、排熱大公ウッドワス。どうやら君の目にかなったようで何よりだ」

 

 ニヤリと笑ってみせながら挨拶をすると、ククっと少し愉快そうにウッドワスが笑い、それをみたバーヴァン・シーが驚いた顔をした。

 

「まったく、かなわんな。なるほど、それが強者の振る舞いというものか」

 

 笑った後に、少し自嘲するように言ってから、ウッドワスが軽く頭を下げた。

 

「時間を取らせたな。私はこれで失礼させてもらう」

 

 それ以上は特に何を言うでもなく、本当にあっさりとウッドワスは離れていった。

 再び動き出した馬車の中で、バーヴァン・シーが怪訝な様子で言う。

 

「ほんとに顔見て挨拶しただけじゃねぇか。何しに来たんだよ」

 

 それは、多分。

 

「納得するために来たんだろう。色んな事にな。本質的には、君が俺に戦いを挑んだことと同じだ」

 

 ふん、と鼻を鳴らして答えるバーヴァン・シー。

 その態度にやれやれと言った表情のキャストリア。

 この二人、何気に相性がいいというか、妙に息があってるな。

 根が真面目で自己犠牲精神みたいなものが強めなのが似ているせいか?

 そんな事を考えているうちに城門をくぐり、恐らくは居住区であろうと思われる場所に入った。

 

「生き物の気配が全くと言って良いほど無いね?」

 

 馬車の窓から様子を窺いながら、キャストリアがそんな言葉をこぼした。

 

「お母様が、ここに残るなら命の保証は出来ないって言って疎開を指示したからな」

 

 なるほど、あの質の悪い宮廷妖精どもをどうやって追い出したのかと思ったが、それなら納得だな。

 あの連中であれば、そうやって脅せばそりゃせかせかと逃げ出すだろう。

 これからキャメロットは実質の最前線と化すわけだから、足を引っ張りかねない連中がいないのはありがたい。

 

 静まり返った居住区を抜けると、馬車が止まった。

 二人と共に馬車を降りて、その白亜の城の威容を見上げる。

 ずっと見上げていると首が痛くなりそうな巨城であり、その城壁に込められた守りの力も並のものではないのが義眼を用いるまでもなく分かった。

 

「凄いな。言葉が見つからない様な見事な城だ」

 

 イギリスに暮らして、しかも魔術なんてものに関わっていると色々と歴史のある建物等には出会う機会があったが、これは完全に規模も格も違う。

 

「当たり前だろ。お母様の居城だぞ」

 

 ちょっと誇らしげにバーヴァン・シーが胸を張って言った。

 

「うわぁ、確かにこれはちょっと気後れしそう」

 

 キャストリアもまた城を見上げて、思わずといった様子でそんな台詞をこぼす。

 気後れしそう程度で済んでいるあたり、出会ったころに比べると大分図太くなったな。

 ずっと城を見上げていてもしょうがないので、こちらを受け入れる意思のあらわれか、開かれたままの門をくぐって城の中に入った。

 

 城内に入れば、その中でも音一つない耳が痛くなるような静寂があった。

 ただ俺たち三人の足音だけが反響している中を歩いていく。

 バーヴァン・シーは俺達より数歩先を先導して歩き、俺はちょっとした観光気分で城内の内装などを見回し、キャストリアはその壮麗さに言葉もなく目を見張っていた。

 

 そして、ついにひと際大きく豪奢な扉が見えて来て、バーヴァン・シーがその扉の前で足を止めた。

 扉が重々しい音を立てながらひとりでに開き、その先にあった謁見の場が露わとなった。

 そこにも妖精たちの気配はない。

 ただ一人、玉座の前に立つ彼女を除いては。

 

 先にバーヴァン・シーが中へ入って俺達を招き入れて、玉座の脇に控えた。

 深呼吸をしているキャストリアの背を優しく叩いてから、彼女に先んじて玉座の方へまっすぐに歩き出す。

 まっすぐに彼女、モルガンの黒いベールに隠された顔と向き合って、一歩一歩を踏みしめるように。

 

 言葉はしっかりと届く、しかし無礼にならない程度まで歩を進めて、立ち止まった。

 黒いベールの先にあるモルガンの視線をはっきりと感じた。

 きっと、いや、間違いなく目が合っている。

 

「お初にお目にかかる。神薙統夜、陛下の招待に応じて参上した」

 

 へりくだり過ぎず、しかし礼儀を失しないように魔術師や時計塔に関わるようになってから覚える事になった優雅な所作を用いて挨拶をして見せた。

 一歩後ろに立っていたキャストリアも慌てたように頭を下げる。

 そんな俺達を見てモルガンは一つ、小さな息を吐いた。

 それは本当に小さなもので、きっと聞こえたのは身体機能がちょっと逸脱している俺だけだっただろう。

 

「今この時に私の招待に応じたという事は、そういう事だ、という理解で構わないのだな?」

 

 表面上は毅然とした声だが、どこか疲れの滲む声でもあった。

 俺はただ黙したまま、首を縦に振って答えた。

 俺の答えにベールの奥の目がしばし閉じられた。

 目を開けたモルガンは一度、俺からは視線をはずしてキャストリアの方に向けた。

 

「新たな楽園の妖精、アルトリア。本来であれば、私が対峙するべきはお前だったのだろう。だが――――」

 

「うん、分かってる。私はもう楽園の妖精としての使命は果たしたし、今となっては貴方に対峙する理由はないから。私には統夜がいてくれたし、統夜に託した。だから、もう、ここからは貴方と統夜のお話なんだと思う」

 

 キャストリアの言葉にモルガンは一度頷いて、仕草で俺を招いた。

 バーヴァン・シーにはここで待つように言いつけ、玉座の後ろにあるバルコニーの方へと歩いていく。

 俺もそれについて行き、バルコニーへ出た。

 眼下にはケルヌンノスの封じられた大穴が存在しているのだが、モルガンの視線はそちらにではなく、妖精國のその全てへと向けられているようだった。

 

「先に、バーヴァン・シーの事については礼を言っておきます」

 

 最初の言葉は、そんな感謝の言葉だった。

 女王としての口調ではない、モルガン個人としての口調。

 だから俺も変に硬い言葉は使わずに素で返した。

 

「やりたくてやった事だ、が、その礼は受け取っておく」

 

 彼女にとってバーヴァン・シーがどれだけ大切であるか、俺は知っているから。

 

「私は、使命を投げ出しました。ですが、それを後悔はしていません。私は何度やり直しても、きっと同じ間違いをして、同じ選択をするのでしょう」

 

 そこには諦観だけではない、愛着のような、執着のような感情も透けて見えた。

 モルガンが、俺の方に体ごと向きなおって俺にまっすぐに向き合った。

 俺もまた彼女へとまっすぐに相対する。

 

「それが間違いだとしても、たとえ終わりが避けられないものであるとしても、それでも譲ることが出来ないモノはあるのです」

 

 そう言って、モルガンは持っていた杖を、俺に対して向けるのだった。

 

 

 





いつも閲覧ありがとうございます。
お気に入り登録や評価、感想と誤字報告にも変わらぬ感謝を。


小話

ウッドワスはメリュジーヌに負けて頭が冷えていたところに、モルガンが罰を与えるのではなく疎開の指揮を任せたことで、モルガンの温情を正しく理解出来て精神的に安定しています。
オーロラに対する熱が完全に冷めたわけではないのですが、元々責任感などは強いタイプなので、オーロラからの接触があった際も今は役目を任されて忙しいという理由で退けています。

バーヴァン・シーのチョーカーについては、魔術的な造詣の深いモルガンにはその効果などは手に取るようにわかるので、チョーカーというチョイスには少し思う所はあったものの、諸々考慮して礼を述べるという選択をした感じです。
あとはバーヴァン・シーが統夜に戦いを挑むであることは予想の範囲であり、恐らくぶつかったとも思われるのに傷ついていなかったことに対する感謝もあります。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。