Fate Night Unnamed ~チート転生者はデスマーチに挑む(ほぼ強制)   作:空門 志弦

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第103話   モルガンの叫びと、俺の馬鹿な意地

 

 開幕はモルガンの杖から放たれた魔力弾であった。

 余裕を持って回避し、バルコニーから空中へ跳び出した。

 バルコニーの傍に在る玉座を万が一にも壊さないためである。

 あの玉座はある意味で妖精國を支える要石のような物。

 間違っても壊すわけにはいかない。

 

「侮り、とは言わないでおきましょう。貴方の力量であれば、私以外に意識を割く余裕があるのはむしろ必定。であれば、こちらはその余裕を最大限利用させてもらうまでです」

 

 モルガンもまたバルコニーから魔術で飛び立ち、しかし、あくまでキャメロットを背後に取る形で位置どった。

 

「まあ、そう来るよな。卑怯とは言わないさ。打てる手は全て打って、尽くせる全てを尽くしてかかってこい」

 

 そうした先にしか、きっと納得はないだろうから。

 

「その言葉、後悔しない事です!」

 

 杖が掲げられ、視界を埋め尽くすような魔力の槍が展開された。

 息をすって吐いて、戦意を整える。

 刀の柄に手を添えて、宙に生み出した足場を駆けだした。

 それを待っていたかのように、展開されていた槍が打ち出されてこちらに向かって次々に襲い掛かってくる。

 

 宙を駆けながら、鯉口を切った。

 進行方向の槍を斬り散らし、包囲を抜ける。

 上下左右から挟み込んでくる槍はそのまま速さで置き去りにして被弾地点を抜け、背後から追いすがってくる槍は振り向きざまに蹴って散らした。

 切り抜けたは良いのだが、気づけばモルガンからはさらに距離を空ける形になっていることに気が付く。

 

「なるほど、弾幕の密度で誘導されたか」

 

 呟き、モルガンの方を見れば、その口もとには笑みが浮かんでいる。

 

「そんな風に暢気に感心していていいのですか?」

 

 距離のわりにはっきりと声が聞こえたのは、恐らく何かの魔術なのだろう。

 先ほどのこちらの呟きも届いていた口ぶりであった。

 言葉に込められた揶揄するような色に警戒感を刺激されたその瞬間、俺を挟み込むように上下に水鏡が広がっていく。

 そして、更に全方位に展開される魔術の槍。

 

 これは、流石に生半可な手札では防げそうにない。

 刀を鞘に納めて、力を高めた。

 義眼の出力を高めて、全天周を把握する。

 水鏡が煌めき光が放たれ、それと同時に槍が殺到してくる。

 

 息を止め、抜刀。

 息を吐くと共に、その一息で間合いの内の攻撃全てを切り払い、一拍の空白を得る。

 その一拍で刀を返し、足元の方の水鏡を斬って捨てた。

 水鏡が崩れて空いた空間に勢いをつけて急降下しながら追ってくる槍を切り払い、水鏡から放たれる光を躱す。

 

「反撃をしてこないつもりですか? なんて、甘いっ――――」

 

 流石にここまでやり合えば、見透かされるか。

 実際、俺にはモルガンを傷つける意思はなかった。

 甘いと言えばそうなのだろうが、どうしても彼女に刃を向ける気にはなれなかったのだ。

 ギリ、と。

 モルガンの歯が噛み締められた音が聞こえた気がした。

 

「貴方は――――!」

 

 苛立ちだけではない、何か切実で複雑な感情のこもった叫びと共に、水鏡がひときわ強く輝いた。

 光の柱が水鏡から放たれる。

 

「たとえ君には気に食わなかろうと、これが俺なりの君との向き合い方だ!」

 

 弓を引くかのように刀を持った手を引き絞り、魔力もチート由来のオーラのような力も込めた突きで、光の柱を迎撃する。

 突き出された刃から放たれた閃光が、光の柱を貫き吹き散らし、その先にあった水鏡をも貫き砕き割った。

 

「向き合う? ――――っ! 何をいまさら!」

 

 何がその心の逆鱗に触れたのか、モルガンの感情が決定的に堰を切った事がその声でわかった。

 

「龍脈焼却兵装、装填! 円卓聖槍(ラウンドランス)、並列抜錨!」

 

 ちょっ!?

 流石にそれは、レギュレーション違反というか!

 しかもコレ、全門稼働してるじゃねえか!?

 

 驚きのあまり、声は出なかったが心中で盛大に叫んだ俺を誰も責められないと思う。

 流石にこれを真っ向から受けるのは馬鹿の所業。

 回避のための行動をとろうとして、だが、その時、俺は聞いてしまった。

 

「何故っ! 何故、今なのです! 貴方は、いまさら現れて――――! 私の時には、私の隣には、いてくれなかったくせに――――!」

 

 あたりに鳴り響く、ロンゴミニアドへの充填音の中、その血を吐く様な叫びが届いたのはきっと俺だけだっただろう。

 キャメロットのバルコニーから身を乗り出して戦いを観戦していたキャストリアにも、バーヴァン・シーにもきっと聞こえなかったはずだ。

 その目に僅かに浮かんだ涙を見てしまったのも、きっと俺だけ。

 

 その叫びは多くを失い続け、理想に敗れ続け、ついにはたった一人で立ち続けるしかなくなった彼女の、魂が発する悲鳴だった。

 

 ――――俺はきっと、馬鹿げたことをしようとしている。

 しかし、その叫びを受け止められるのが、今この世界で俺ただ一人だというのなら。

 

 手に持った刀を鞘に納めて、ストレージへと投げ込んだ。

 新たにストレージから、チート由来の刀を取り出す。

 

 ロンゴミニアドへの魔力充填が終わり、今まさに放たれんとする中、鞘を握り、柄に手を添える。

 

「『ミーミル・アイ』、超過駆動」

 

 義眼の超過駆動を解放する。

 目の奥に焼けるような痛みが走り、血が零れ出したのがわかったが、今はそんな事はどうでもよかった。

 世界の見え方が劇的に切り替わり、全てが手に取る様に近くに感じる。

 目の奥の痛みが頭の奥にまで届いているが、今は無視した。

 

 鞘のロックを解除する。

 この刀は、ランクとしてはエクスカリバーと同等の物。

 しかし、余分な機能がない分、純粋な武器としての性能は一回り上のものだ。

 

 ――――たとえ馬鹿な行いであろうとも、今この時に馬鹿になれずして、こんな力を持った甲斐がない。

 なあ、そうだろう――――!

 

「『壊天(かいてん)』、抜刀!」

 

 俺が刃を鞘走らせるのと、ロンゴミニアドの斉射はほぼ同時であった。

 放たれたロンゴミニアドの芸術的で緻密なその魔術式を、超過駆動状態の義眼で読み解く。

 そして、砲門の配置位置によって生じるほんのわずかな着弾タイミングのズレを利用して、一撃ずつその核を切り裂いていった。

 

 一つ目は、苦も無く。

 二つ目も、まだ余裕を持って。

 三つ目は順当に。

 四つ目はギリギリ。

 

 五つ目以降は、どうやって間に合わせたのか、正直自分でもわからない有様であったが、それでもやり通した。

 手は痺れ、最後の方は流石に奇麗には切れなかったために、服のあちこちは裂け、その下の肌は焼かれていた。

 流石にクラスをもう一つアクティブにしてパワードスーツを纏う余裕はなかったので、これは仕方がないだろう。

 

「はっ。やればできるものだな」

 

 思わず、笑いがもれた。

 やりおおせた安堵と、あとは多分、自分の馬鹿さ加減に。

 まあでも、悪い気分じゃない。

 モルガンが泣くのをやめてポカンとした顔から呆れ顔に、そしてその後に、しょうがないといった感じの苦笑であっても確かに笑顔を浮かべたからだ。

 

「……あなたの話を聞くたびに、ずっとそうじゃないかとは思っていましたが。本当に、貴方は、思ったとおりの馬鹿な人だったのですね」

 

 一瞬で俺の間近に転移してきたモルガンが、本当にほんの少しだけの間、泣き笑いのような顔でそんな事を言って、俺の頬を撫でた。

 気付けば俺の傷は癒え、モルガンは冬の女王としての仮面をかぶり直す。

 俺が何かを言う前に再び転移して、バルコニーで戦いを観戦していたバーヴァン・シーのもとに現れた。

 

「私も一時、疎開した者たちと共にニュー・ダーリントンへ居を移します。受け入れてもらえますね、バーヴァン・シー」

 

「と、当然です! 是非いらしてください!」

 

 そんな会話が聞こえてくるバルコニーへ俺もモルガンに続いてたどり着く。

 キャストリアががっしりとこちらを掴んで来て、体のあちこちをまじまじと見る。

 

「だ、大丈夫!?」

 

 見る限り傷はないというのを確認したうえで、まだ心配だったようで間近にいるのに大きな声で聴いてきたので、頭を軽くポンポンと叩き落ち着かせた。

 

「大丈夫だ。モルガンが治療してくれたからな」

 

 俺がそう言えば、バーヴァン・シーと話していたモルガンがこちらに向いた。

 

「元々たいした怪我ではありませんでしたから、たいしたことではありません。まったく、呆れた頑丈さですね」

 

 そこには明らかに呆れの色が混じっていて、キャストリアとバーヴァン・シーまで、えぇ、といった顔でこちらを見てくる。

 誠に遺憾である。

 

「……私にはもう、貴方を止める手段はありません。だから、もう邪魔はしないし出来ない。ですが、手助けもしません」

 

 あとは、貴方の好きにすれば良い、と。

 少し拗ねたようにモルガンは続けて、こちらに背を向けた。

 そして、バーヴァン・シーを伴い離れていく。

 バーヴァン・シーは何度かこちらを振り返りながらそれについて行った。

 

「結局、二人の間の決着はついたってことで良いの?」

 

 二人きりになってキャストリアが俺に、そう問う。

 

「そうなるんだろうな」

 

 あいまいな回答になったのは、きっと、俺の中で消化しきれないものが残っているからだろう。

 モルガンは俺に、何故、といった。

 なぜ今なのかと。

 いまさらだと。

 

 それはしかし、当然の事。

 なぜなら彼女の今に至るまでの道筋がなければ、この滅びを孕んだ特異点は成立しないのだから。

 彼女だって、それは誰よりも分かっていただろう。

 

 そしてだからこそ、だからこそだ。

 俺も彼女も、そこに心を残さずにいられない。

 決して変えられない、前提として横たわる悲劇に。

 

 だがしかし、それでも、だ。

 

 なあ、モルガン。

 君が、その悲劇の中にあっても、たった一人で今まで耐え続けたから、俺は間に合ったんだ。

 だからこの物語の終わりは、他でもない君にこそ見送って欲しいと、俺はそう思うのだ。

 

 

 

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