Fate Night Unnamed ~チート転生者はデスマーチに挑む(ほぼ強制)   作:空門 志弦

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第105話   マンチェスターの死戦

 

 「くそ、なんだってこんな事に」

 

 視界はほとんど、モースで埋まっている。

 背後は街を守る堅牢な壁。

 

 一応、一緒に街を守る仲間もいるし、妖精騎士ガウェイン様も戦闘で戦っている。

 しかし、それでも物量の差は圧倒的だった。

 まだこちらは脱落者を出さずに済んでいるが、それだって時間の問題だろう。

 

 倒しても倒してもモースどもは湧いて出て、切りがない。

 きっと、少し前までの俺だったらとっくに逃げていたはずだ。

 いくら牙の氏族がモースの毒に耐性があると言っても、限度がある。

 こんな明らかな死地で踏ん張るような理由がどこにある。

 

 そんな風に、少し前までの俺だったら思っていただろう。

 だが今の俺には、どうしてもそれが出来なかった。

 胸にはずっとわだかまっている気持ち悪さがある。

 それに世界に響く様な幾重にも重なる鐘の音が鳴りだしてから、何か追い立てられるような、力が沸いてくるような不思議な感覚もあった。

 

「ああ、もう、本当にきりがねえ!」

 

 だからだろうか、ぶつくさと文句をたれながらも、モースを倒す手は止まらなかった。

 周りの連中もそれは同じようで、こんな絶望的な状況にもかかわらず、逃げ出そうとするような奴は一人もいなかった。

 おかげで、なんとかモースの侵攻は押しとどめられている。

 

 しかし、どうしたって限界はある。

 俺の体はあちこちが傷ついて、体の芯にまで呪いがしみ込んできていた。

 もう無理だ、死んでしまう。

 逃げないといけない。

 

 でもどうしてか、俺の足は逃げ出すことを許してくれなかった。

 傷だらけの体で、まだ前へ。

 剣を振るって、またモースを一体倒す。

 これでも俺は牙の氏族でもそれなりに名の知れた男なのだ。

 

 その誇りの所為か?

 いや、違うな。

 それがないとは言わないが。

 

「ちくしょう、あのわけわからない人間め。恨むぞ」

 

 正直、自分が逃げ出せない本当の理由なんて分かり切っていた。

 罪悪感だ。

 

 そうだ、きっと、これが罪悪感ってやつなのだろう。

 あの人間がやってきて、俺達のやってきた事が明るみに出て。

 俺達はガウェイン様とその感情を共有して、知ってしまった。

 罪というものと、それを犯してしまった苦しみを。

 

 こんなもの、知りたくなんて無かった。

 だが、知ってしまえば目を逸らすことが出来ない。

 きっともっと時間があって、あの鐘の音が鳴っていなくて、この胸に何か熱いものが湧き上がっていなければ、もしかしたら目を逸らせていたかもしれないが。

 

 そんなもしもは、今はもう、関係のないこと。

 呪いが俺の中にどんどん侵食してくる。

 死にたくねえなあ。

 

 あのわけのわからない人間は、サーカスの団長なんてやって、妖精たちと楽しく仲良くやっているのだという。

 サーカス団の話は今の妖精國でも人気の話題だったから俺もそれは聞いたことがあった。

 

 きっと妖精は、俺達がやってしまったような、こうなってしまったような、それだけの存在じゃなかったんだろう。

 でも、いったい、俺達はどこでそれを、落っことしちまったんだ?

 くそ、もう、無理だ。

 

 このまま呪いに飲まれれば、きっと俺もモースに変わる。

 また、誰かを傷つける化け物になる。

 

 ああ、それは。

 そればっかりは二度とごめんだ。

 こんなに苦しいのも、辛いのも、これ以上は沢山だ。

 

 だったら、最期くらいは、意地ってやつを通してやる。

 仲間に襲い掛かっているモースたちを何匹も抱え込み引き離して、そのままモースが一番密集している場所に駆けていく。

 魔力を高め集中させ、一気に解放させる。

 

「ああ、ちくしょう、死にたくねえ! 死にたくねえけどよう! それでも――――! それでもだ!!」

 

 魔力が弾け、自分自身すらも弾け、俺の意識はただ真っ白な閃光に飲まれて行った。

 

 

 

 ――――その光景を見た。

 自分の領民であったもの。

 一度は見下げ果て、忌まわしいものとして忌避したもの。

 この戦いに駆り出したことだって、アレらは最早消えねばならないものだと思ったという理由もあったのだ。

 

 しかし、私はもしかすると間違っていたのかもしれない。

 あれらの行いが酷かったのは事実だが、それは私の行為に起因するもの。

 あれらは良くも悪くも、単純なだけだったのではないか。

 

 邪悪さがないとは言わない。

 だがきっと、それだけの生き物でもないのだ。

 そうだとするならば、真に罪深いのはいったい誰であったのか。

 

 今、私は本当の意味で、自分が犯してしまった本当の罪を知った気がした。

 そうであるからこそ、私は、声を張り上げる。

 

「怯むな! 戦士としての意地を見せたあの男に続け! 戦え! 戦って死ね!」

 

 残酷な命令を、自分の意思と責任で下す。

 

「今度こそ、本当の意味で、正しく弱きものを守れ!」

 

 私がかつて領民たちに命じたその命を、高らかに叫ぶ。

 鐘の音が響くたび、心から湧き上がる高揚感に背中を押されて、自らもさらに前に出た。

 あの男、統夜から受け取った回復薬で元に戻っていた角を、今再び手に取った。

 

 意識はあの男が私の首にかけた首輪と決闘の時に交わした誓約が保ってくれるだろう。

 だから、迷うことなく私はその力を用いた。

 

「その力を示せ! 捕食する日輪の角(ブラックドッグ・ガラティーン)!!」

 

 燃え盛る角を剣となし、無数のモースへ向かって振り降ろす。

 炎は一気に弾けて広がり、モースの軍勢の一角を大きく削り取った。

 炎の剣となった角を高く掲げ、そこからモースたちへ向かって振り降ろすことで号令とした。

 

 意気を上げた妖精たちが、雄たけびを上げて突貫していく。

 まるで狂戦士にでも変わってしまったかのように。

 だがそれは、恐れを振り払うための狂奔だ。

 戦士として命あるものとしての、魂の熱が生む叫びなのだ。

 

 後方からは直接の戦闘が得意ではない者たちからの魔力による支援が行われ、牙の氏族が中心となって敵へ突貫してその数を減らしていく。

 私も幾度も角を振るい、敵を薙ぎ払った。

 時折、先ほどの妖精と同じ自爆特攻をかける妖精の姿が目の端に映るが、そのたびに私は叫ぶ。

 

 戦え、奴らに続け。

 恐れずして、死しても弱きものを守れ、と。

 妖精たちは私の声にこたえて、叫び、戦い、死んでいった。

 

 すまない、と、心の中でだけ零す。

 正しく導いてやれなくてすまない、今この時、死を命じる事しかできなくてすまない。

 だが、ああ、そうなのだな。

 

 お前たちは、決して、醜く邪悪なだけのものたちではなかったのだな。

 ならば、共に戦おう。

 そして、お前たちの誇り高き死を、確かに意味のあるものとしよう。

 

 無我夢中で、戦った。

 いつの間にか、共に戦う妖精の数は数えるほどになっていて。

 モースの姿もまた消えていた。

 

「……生き残った。 いや、生き残ってしまったのか……」

 

 生き残った妖精の一人が、そんな言葉をこぼしてうずくまった。

 他の妖精たちも、安堵と脱力と、他にも様々な感情から同じようにうずくまるものばかりだ。

 そんな妖精たちに私は、手に持った炎の剣で、背後の街を守る防壁を指し示す。

 

 傷一つない、私たちが護り切った防壁を。

 妖精たちはそれを見て、涙を流す。

 あるものは戦友の名を呼び。

 またあるものは、自分の犯した罪を誰にでもなく謝りながら。

 

 そうして、私たちの戦いは勝利に終わった。

 誰もが多くを失いながら、それでも贖罪を求めてがむしゃらに戦った。

 多くの者がその中で死んだ。

 

 先ほどの、生き残ってしまった、とこぼした妖精のあの言葉は、私も含めたすべての生き残りにとって、共通した気持であったろう。

 生きている限り私たちはまだ、己の罪と向かい合い続けなければならない。

 だが、きっとそれが罪を犯した者が生きる唯一の道なのだろう。

 

 あの男は狂う事を、死ぬことを、贖罪のみに生きる事を、私から奪った。

 あれは本当に、優しくも厳しい、そして私にふさわしい沙汰だったのだな。

 そんな事を思いつつ、私はあの男がまだ戦っているであろう方角に視線を向けるのだった。

 

 

 

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