Fate Night Unnamed ~チート転生者はデスマーチに挑む(ほぼ強制)   作:空門 志弦

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第106話   祝祭に踊る妖精たち

 その光景を見て私は一つ、息を吐いた。

 

「そうですか」

 

 小さく、言葉がもれた。

 私が見ていたのは、マンチェスターの戦闘の様子が映った映像である。

 そして私の街を守って戦っている妖精たちの戦いも同時に目に入っていた。

 

『君はこの戦いを見届けるべきだ』

 

 統夜と名乗ったあの男のゲームに乗ったあの日、彼は遠方を観測するための魔道具のような物へのアクセス権と、そのための道具を一つ、私に渡した。

 

『ムリアン、君は牙の氏族の、とりわけ君の同族を殺した者たちに対する復讐の権利を間違いなく持っている』

 

 あの時の彼の、私の妖精眼から見える色はどこか悲しい色をしていた。

 そこには憐憫もあったろうし、他にも私を慮るような色もあった。

 

『だが罪を罪と知らぬ、罪悪に自覚のない者に対する復讐は空しいものだ。それでも憂さ晴らしでも踏ん切りをつけるためでも、そこに価値を認められるなら無意味にはならないが……』

 

 言われずとも、その先の言葉が私にはわかった。

 私は知識を蓄える事に余念のない翅の氏族の長にして唯一の生き残りなのだから。

 そして、そう言う性質を持って生まれた妖精であるからこそ。

 

『君は、その理由で納得を得ることは出来ないだろう』

 

 そうだろう。

 彼から様々な話を聞いて、自分の復讐について盲目になるのでなく考えられるようになった私にとって、それは認めるしかない事実であった。

 

『だから見届け、見極めろ。これから起こる戦いの中で、妖精たちがどう変わっていくのか。そして、その先で君が何を選択するべきなのかを。ただ、願わくば――――』

 

 この世界が一度幕を引いた後に帰ってくるかもしれない、君の同族たちを導くことにこそ、君の未来を費やして欲しい。

 彼は、私にそう言ったのだ。

 

「そうですか」

 

 私は再び、先ほどと同じ言葉をこぼす。

 自身の命を費やして、何かを守るために散った牙の氏族を私は確かに見た。

 アレらは、罪を知ったのだ。

 私たち妖精は、そうして変わることが出来るのだ。

 

 目を閉じて、深く息をする。

 様々な感情が胸の中を行きては帰り、多くの記憶が思い起こされる。

 息を吐いて、目を開いた。

 

「いいでしょう」

 

 一言、諾と口にする。

 アレらが罪を知るというのなら、私はこれからのアレらを見届け続けよう。

 翅の氏族らしく、深く知り見極めよう。

 復讐の形を決めるのはそれからでいい。

 あるいは、復讐の必要がなくなるのであるならば、もっといい。

 

「私は何よりもまず、帰ってくるかもしれない同族たちを待って、彼らが今度こそ生きて、そして間違えてしまわないように見守り導きましょう」

 

 神薙統夜。

 これは私に、私自身にとって正しい復讐の形の探し方を示し、私たち妖精の可能性を見せてくれた貴方に対する約束です。

 彼と競ったボードゲームの駒を手に取って私はその約束を、自身の誓約とした。

 

 

 

「アン、わりいけど新しい武器を頼まぁ!」

 

 前線から戻ってきたタンが、自分の怪我も気にせずに武器庫にずかずかと入ってきたのを見て、ついつい呆れた。

 ほんとに、牙の氏族ってやつはそこらへん頑丈というか、鈍いというか。

 

「てめえ、武器の前に自分の傷は大丈夫なのか!?」

 

 補充用の武器を用意しながら怒鳴る。

 

「へっ、これ位はなんてことねえよ! 座長に埋められた時の方が万倍痛かったし、怖かったからな!」

 

 ああ、うん、それは間違いないな。

 

「勘弁しろよ。思い出しただけで首のあたりが痛くなってくるだろうが」

 

 首のあたりをさすりながら、武器を投げ渡した。

 タンは危なげなく受け取って、ニカリと笑う。

 

「見たかよお前! あのでっかいのが宙に浮いてよう! あれやったの絶対に座長だろ!」

 

 ゲラゲラと笑って言う。

 まあ、気持ちは分かる。

 ここの城壁からだって見えるあの威容を見て凍り付いていたら、あの巨体が光に押され宙に浮き、大地に叩きつけられたのだ。

 アレを見て、すっかり縮んだ心が解けた。

 

「おや、戻っていましたか、タン」

 

 そこにポンがやってきて、タンを見てから懐の薬をぶっかけた。

 

「ぷへっ!? いや、座長のその薬使われるほどの怪我じゃないって!」

 

 座長の薬は、怖いほど効くからな。

 本人的に大したことないとおもっている傷で使うのは気が引けるんだろうが。

 

「おだまりなさい。座長に言われた事を忘れたんですか。薬を惜しむな。いくらでも使って良いからきっちり生き残れと」

 

 まあ、そういう事である。

 タンはバツが悪そうに頭を掻いていた。

 

「いや、分かっちゃいるんだけどよう」

 

 そんなタンに、ポンはニヤリと笑った。

 

「座長にまた埋められますよ?」

 

「そいつは勘弁!」

 

 間髪入れずに返したタンに思わず噴き出した。

 

「いやあ、俺ら、あの人に喧嘩売って良く生きてたよなあ!」

 

 あのでかいのぶっ飛ばすのを見てそんな事を改めて思ったのだ。

 

「あの人は、敵には厳しいですが身内には優しい人ですからね」

 

 こいつもすっかり座長に心酔したよなあ。

 まあ、俺も人の事言えないんだが。

 本当に、あの人に森から引っ張り出されてから、夢みたいに目まぐるしく楽しい日々だった。

 その日々も、もうすぐ終わる。

 

「そうだな。あの人は優しい人だ。すんげえ、おっかないけどな! そんじゃ、怪我も治ったしもう一仕事いってくらあ!」

 

 そう言って意気揚々と出ていくタンを見送った。

 入れ違いにコーラルの姉御がやってきて、ポンに声をかける。

 

「物資の確認は終わりましたか? まだ他にも仕事が詰まっていますよ?」

 

 ポンは軽く頷いてから、手に持っていた紙に何事か書きつけて頷いた。

 

「今、終わりました。次に行きましょう。アン、それではまた後で」

 

「おう! そっちも頑張れよ!」

 

 言って見送り、俺もまた仕事に戻った。

 楽しい日々に終わりが来るのは寂しくもあるが、きっとこれは正しい終わり方だ。

 それなら、頑張って働く甲斐もあるってもんだろ。

 

 

 

 ロンディニウムの外壁を背に守って、武器を振るう。

 心に去来するのは、座長さんの事。

 座長さんは何も言わなかったけど、私はきっとあの人に助けられたのだ。

 

 鏡の氏族の最後の長、エインセル。

 それが私の思い出した、ガレスを名乗っている私の本当の名前だ。

 本当なら私は、最後の巡礼の鐘として生まれ変わるため、死ななければならなかった。

 絶対に外れないとされていた鏡の氏族の予言でもそうなっていたし、状況的にもほかに道はない筈だったのだ。

 

 しかし、あの人は予言をひっくり返した。

 私の代わりに、暗殺騎士ポーチュンを材料に巡礼の鐘を生み出してしまった。

 ずっと予言に逆らえずに苦しんでいた自分が馬鹿らしいくらいに、あの人が来てから世界の流れは変わった。

 

「考え事とは余裕ですね!」

 

 私の脇にいたモースを槍で切り払いながら、パーシヴァルさんが笑って言った。

 別に余裕というわけでは。

 いや、余裕あるかも。

 全体として士気が高いし、支援も豊富だ。

 でも。

 

「すみません! 油断は良くないですよね!」

 

 謝りながら、私もまた武器を振るった。

 しかし、やはり心から座長さんの事が離れる事はなかった。

 本当に、信じられない人なのだ。

 予言の子であるアルトリアさんが必死で背を追いかけるに相応しい。

 

 巡礼の鐘の音が響いているからもあるかもしれないし、もうすぐ楽しかった日々が終わる予感があるからという理由もあるかも。

 今も戦いの音が遠雷のように響く方角へ油断にならない程度の一瞬だけ目をやった。

 きっとあの人は、また英雄みたいに戦っているんだろう。

 

 普段は、ホントにどこにでもいるお兄さん、みたいな顔をしているくせにいざとなると別人みたいになる人だから。

 でも、決して鏡の氏族の長として立派ではなかった私だからわかることもある。

 あの人の本質は、どこにでもいるお兄さんとしての顔の方。

 そんな人が、あんな風に英雄みたいに頑張ってみせているならば、どうして私がこの戦いに手を抜けるだろう。

 

「ええい!」

 

 こんなに心身に力がみなぎるのは、生まれて初めてかもしれない。

 そんな風に思いながら敵を薙ぎ払っていく。

 そんな時、空に一条の光を見た。

 

「あれは――――!」

 

 傍にいたパーシヴァルさんが息をのむ音が聞こえた気がした。

 光はこちらの方にまっすぐやってきて、しかし、ここに墜ちる前にロンディニウムの中から飛び立ったもう一つの光と激突して、方角を変えてぶつかり合いながら空を流れていった。

 そちらの方に視線が釘付けになっているパーシヴァルさんに私は言う。

 

「行ってください! こっちは私たちで何とかなりますし、します!」

 

「――――感謝します!」

 

 即座に応えて、どこかからやってきた馬にまたがり走っていくパーシヴァルさんを見送った。

 

「さあて、かっこつけちゃったからには、きっちり頑張らないと!」

 

 大丈夫、今の私たちなら絶対に出来る。

 疑うことなく自分と、そして共に戦う仲間たちを信じられた。

 

 

 

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