Fate Night Unnamed ~チート転生者はデスマーチに挑む(ほぼ強制) 作:空門 志弦
空を切るように飛ぶ。
ほんの少し前まで、並んで飛ぶ存在なんて考えもしなかった速度域で。
しかし、今この空は、私だけの空ではない。
私と並んで飛びながら時に剣を交え、魔力砲を撃ちあい回避しあう、その相手。
それは、私と同じ姿をした、私とは違う可能性の中を生きる私自身。
この妖精國の外からやってきた、私ならぬもう一人のメリュジーヌである。
「表情が硬いね。余裕が足りないんじゃない?」
不思議とはっきりと聞き取れるその声に、思わず奥の歯を噛み締める。
余裕、私に対して余裕というのか。
そんなにも、自由で幸せそうな、おまえが。
「――――っ!」
言葉にならない思いを鋭い吐息に込めて、交差と共に剣を振るった。
十分な鋭さと威力を込めたそれは、まるでそうなるのが予定調和であったかのように弾き返された。
またこれだ。
一体、どういった理屈でコレをなしているのか。
相手の動きを見るに、稼働時間は恐らく私の方が圧倒的に長い筈。
そういう、こなれ切っていない動きなのだ。
「ふふっ、そんな分かりやすい手じゃ、こちらの私には届かないよ?」
にもかかわらず、返される。
魔力砲も同じだ。
どうしても直撃弾を得られない。
回避されるか、迎撃されてしまう。
「~~~~っ!」
苛立たずにいられない。
有効打を与えられないから、だけではない。
相手のあの表情だ。
なんて幸せそうに、楽しそうに飛ぶのだろうか。
まるで空の全て、世界の全てが自分のものであるかのような。
私が、誰かにこんな感情を持つことがあるだなんて。
ああ、なんて。
なんて、妬ましい。
許しがたい疎ましさだ。
仮面に隠れた顔が、そして、隠れ切っていない口もとが思わず歪んだのが自分でもわかった。
そして、それを相手に気取られたことも私にはわかってしまった。
相手の顔に、わずかにだが確かに憐憫が浮かんだからだ。
「私を! 他でもないおまえが! そんな目で見ないで!」
あまりにも無様な叫びを、私は我慢することが出来ずに発する。
相手の抱く憐憫が明らかに強まった。
そうだろうとも。
叫んだ自分自身でさえこんなにも惨めなのだから。
でも、だからこそ余計に許せず感情は激して、その感情のままに相手に斬りかかった。
雑な大振り、空に描く機動も大味で、そんな攻撃があちらの私に届くはずもなく。
するりと、魔法のように私の一撃はいなされて。
同時、腹部に強烈な衝撃を受けて、私は空中を錐もみして弾き飛ばされた。
私の攻撃をいなすと同時に、腹部にそえた手から剣を射出したのだ。
見事な手妻、芸術的な切り返しというしかない。
感情に溺れた雑な私の攻撃とはあまりにも対照的なソレはおそらく、あの彼から学んだものなのだろう。
私にはいなかった、あちらの私にだけ存在する心通わせられるたった一人。
私は結局、今に至るまでオーロラに愛される事はなかった。
そんな事は他でもない私自身が一番良く分かっている。
でも、それでも、あの日あの時、私をすくい上げてくれたのは彼女で。
あの時この目でみたあの光景の美しさ、感じた気持ちは決して偽物なんかじゃなくて。
「たとえ君が、僕の事なんか本当は見てもいないのだとしても――――、それでも愛しているんだ、オーロラ!」
縋る様に、自分に言い聞かせるように声を張り上げて、崩れた姿勢を持ち直した。
そして視線の中に、急接近してきていたもう一人の私を認める。
「正直、趣味は悪いと思うけど。……まあ、気持ちは分かるよ。私もきっと、統夜と出会ったあの時の事は一生、忘れる事はないから」
きっとそれは、あちらの私にとっての奇跡の一瞬で。
私と、私。
奇跡に出会えたことに何の違いはなくて。
ああ、でも、だけど。
「なんで!」
急接近する相手に魔力砲を放ち、予知でもしていたかのように躱され。
「ねえ、どうして!?」
生み出した剣の一撃は容易く受け流された。
まるで、子供の駄々だ。
ならば、子供とは私の事で、それを受け止めるもう一人の私は大人だというのだろうか。
稼働時間は絶対に私の方が長いのに。
あべこべじゃないか。
なるほど、確かにスペックは相手の方がいくらか優越している。
それはきっと、彼女を彼女足らしめる彼が、竜としての彼女も自然と受け入れているからだろう。
「あんまりでしょう!?」
激突するように体ごとぶつかり、もつれあうように飛ぶ。
私にとってはあまりに遠かった、愛しい相手に愛されるというただそれだけの事が、彼女にとっては当たり前のことで。
その違いが、今この時の差を生んでいて。
私の積み重ねた経験値は、彼女の為に罪にまみれた日々の蓄積に他ならず。
あちらの私の手にしている力や経験値は、きっと彼の与えた愛あればこそに違いないのだ。
あまりに残酷すぎるじゃないか。
なんで、同じ私同士なのに、こんなにも分かたれてしまっているのか。
分かっている、分かっているとも。
出会った相手が違った、ただそれだけであることは。
でも、それでも、自分が出会ったのが、彼であればよかったとは思いたくない。
だから私は、勝ちたい、勝たなくちゃ――――!
「貴方は、ただ間が悪かっただけ。きっと統夜ならそう言うんだろうね。逆に私は間が良く、運が良かった。でもそれは、ただそれだけの事だって、きっと統夜はそうも言うんだ」
静かな声だった。
自由で、どこまでも透明で、それでいて情を感じさせる声音。
ああ、と。
諦念が胸を走った。
私の決死の一撃は、気づけば空ぶっていて、もつれあう間に仮面が外れた目と目があって、互いの視線が極間近で交差する。
声と同じで、静かな瞳だった。
透き通った何物にも縛られていないモノの目。
多くのモノに拘泥していた自分が触れる事が出来るはずもなかった。
もう、悔しいと思う事すらできない。
これは、必然の敗北だった。
胸元に激烈な衝撃を受けて、鎧が大きく破損して、今度は体勢を立て直すことは出来なかった。
私は空を真っ逆さまに墜ちていく。
落ちていく途中、着地するあたりの景色が一瞬目に入る。
「――――なんて皮肉。それとも、これも必然なのかな――――」
鏡の氏族の壊滅という、私の最も大きな罪の記憶に近しく。
そして、私のはじまりのあの場所。
私が落ちていく先は、まさに、アルビオンの亡骸の眠る、あの場所であった。
私の視界の中を墜ちていくもう一人の私をじっと見ていた。
一つ、息を吐く。
彼女を愚かとは言えない。
ただ彼女の、もう一人の私のその間の悪さを、沈痛な想いと共に飲み込むしかなかった。
まあ世界は違えど、私の事だ。
とりあえず、あれくらいで死にはしないだろう。
しかし、はたしてどんな言葉をかければいいのだろう。
統夜を愛し、そして愛を返してもらっている私に、一体どんな言葉がかけられるだろうか。
何を言っても嫌味にしかならない気がする。
とりあえず、後は追うとして。
こちらに向かってきているらしいパーシヴァルに任せる?
それとも、統夜ならどうにかしてくれるだろうか。
まいった。
なまじ気持ちが痛いほど分かってしまうから、良い答えが出てこない。
とにかく勝敗はついたんだから、そこは慌てなくても良いか。
二人が着いてから、二人の知恵も借りて考えることにしよう。
例え自分自身ではなかったとしても。
まるで鏡写しのもう一人の私にだって、やっぱり何か救いはあって欲しいと。
私だって、それくらいの事は思うのだから。
少し間が開いてしまいまして申し訳ございませんでした。
ここの所、平日がちょっと忙しく、しかも休みの日は気候の変化にやられて喘息気味の喉がやられて集中力がダウンして執筆が遅れていました。
間隔が長くなってしまっているにもかかわらず、未だ多くの方が読んでくださり、評価や感想もいただけていて、非常に感謝しています。
ちょっとペースは遅くなってしまっていますが、これからも面白い物語を書いて行けるよう頑張っていきますので、あらためてどうかよろしくお願いいたします。