Fate Night Unnamed ~チート転生者はデスマーチに挑む(ほぼ強制)   作:空門 志弦

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また少し待たせてしまい申し訳ありません。
そして今回は二話同時更新です。
どうしてもこの二話は同時にお届けしたかったので。
少し長くなりますが、どうぞご覧ください。


第109話   その極光の果ての青空

 

『すまない、ちょっとしくじった』

 

 オベロンからそんな通信が入ってきたのは、儀式が安定して移動できるようになったキャストリアを連れて、キャメロット城から飛び立った時だった。

 

『君が来てから、ことごとく企みが完封されていたのが思ったよりストレスだったみたいでね……』

 

 ケルヌンノスが落ち着いて儀式が安定してくると、オーロラがそそくさと自ら送還されてしまったのだという。

 儀式が完成しきっていない状態でそれをやるのはたとえオーロラほどの上位妖精でも結構リスクがあるのだが、そこを強行するくらい追い詰められていたらしい。

 

 先を考えれば実際に可能であるかは置いておいて、強力な手札である妖精國のメリュジーヌを連れて行く手もあったと思うのだが、そこをあっさりと諦めたのは彼女のメリュジーヌへの複雑な感情ゆえだろうか。

 自分の人気を上回りかねない彼女への忌避であるとか、自分の手を離れて自由に飛ぶべきであるという想いもあったかもしれない。

 

 だがしかし。

 

「よりによって、このタイミングか」

 

 あの妖精、妖精國を滅亡の危機に陥れなければならない呪いにでもかかっているんじゃないのか。

 ここからでも見えるくらいに巨大な黒い竜と、それが従える雲霞のごとき無数の黒い飛竜を遠目に眺めながら思わず舌打ちを零した。

 

 敗北したそのタイミングである事、長年で積もりに積もった心の淀み、妖精國のメリュジーヌにとって犯した罪に縁の深いロケーションと、アルビオンの遺骸。

 あまりに悪条件が揃い過ぎていた。

 そこに彼女にとっての楔ともいえるオーロラの消失が重なったわけである。

 

 楔を失い形を失いつつあった彼女を核に、アルビオンの遺骸を依り代として妖精國の呪いが形を持ったのが、あの黒い竜で、それが生み出している呪いの発露が黒い飛竜。

 まさかまたワイバーンの相手をするような羽目にはならないだろうとか、思ったのがフラグになろうとは。

 

 キャストリアを竜に向かって抱えて飛ぶ途上、地上を馬で駆ける人影が目に入った。

 腕の中のキャストリアも同じくその人物に気が付いたようで、その名を叫んだ。

 

「パーシヴァル!?」

 

 戦いながら飛んでいった二人のメリュジーヌを追ってロンディニウムを離れたのは聞いていたが、もうここまで来ていたのか。

 俺はバーニアを吹かして、そちらの方に近づいていく。

 パーシヴァルがこちらに気が付いたのを確認してから、アロイを偽装解除状態で呼び出し、声をかけた。

 

「その馬はそろそろ限界だろう。こちらに乗り換えるといい」

 

 パーシヴァルは頷きを返し、馬の鬣を優しく撫でた。

 

「ここまでよく走ってくれた。お前は安全な場所に戻ってくれ」

 

 馬を労ってから、並走するアロイへと飛び移ったパーシヴァルを確認して高度を上げる。

 あとの会話はアロイの通信機能越しで十分だ。

 高度を上げる中、歩みを緩めてこちらを見送るパーシヴァルの愛馬が目に入った。

 呪いは竜の周辺に集中しているし、あの馬もここから引き返すならきっと無事で済むだろう。

 

『義姉は、やはり……』

 

 通信から最初に入ってきたパーシヴァルの言葉がそれだ。

 流石に状況判断が早いというか。

 

「ああ、あの黒い竜に取り込まれたらしい」

 

 歯を食いしばるような音。

 そしてその後に、息を吐いた音が聞こえた後に、パーシヴァルは決然と告げた。

 

『戦いぶりを見れば分かります。この戦いに参加してもきっと、私は貴方にとっては足手まといになるでしょう。ですがどうか、私を戦いに加えてもらえないでしょうか――――』

 

 それでこそだ。

 その台詞が聞きたかった。

 あの竜から彼女を救う事は俺たちにだって出来るだろうが、本当の意味で今の彼女を救うことが出来るのは、もうこの妖精國にはパーシヴァルしかいない。

 

「条件がある。聖槍を使うなとは言わない。だが、寿命を使い切ることは許可しない」

 

 通信機の先で息をのむパーシヴァルに、さらに続けた。

 

「生きて彼女を救って、笑顔でこれからも生きていく彼女を送り出せ。それを誓うなら、愛する者を救うための花道、俺達で必ず開いてやる」

 

『――――誓って、そのように。感謝します、神薙統夜』

 

 さあ、これで話は決まった。

 あとはやり切るだけだ。

 速度を上げて地上を走るパーシヴァルに先行する。

 

 そんなに掛からないうちに戦域にたどり着き、黒い飛竜たちを蹴散らしながら呪竜を押さえるメリュジーヌと合流した。

 

「統夜! あの子が、あの中に!」

 

 メリュジーヌが指し示した先は、妖しく輝く呪竜の心臓のあたりだった。

 なるほど、とりあえずあのあたりへの直撃は避けるとしよう。

 

「メリュジーヌは、アルトリアと共に飛竜の数を減らしてくれ。主役が来るまで呪竜は俺が押さえる」

 

 メリュジーヌが頷いて竜へと姿を変えて、キャストリアをその背に載せた。

 

「二人とも、あまり無理はするなよ」

 

 離れ際に声をかければ、メリュジーヌとキャストリアそれぞれから元気に声がかえってくる。

 

「飛竜もどきなんかに負けないから大丈夫!」

 

 メリュジーヌは翼を大きくはためかせて。

 

「そっちこそ、気を付けてね!」

 

 キャストリアは拳を握って、こちらへの激励としながら。

 どちらも厳しい連戦になる訳だが、気力は十分である。

 これなら任せて大丈夫だろう。

 かくして圧倒的な物量を前に、敵の中枢を叩くわけにいかないという厄介な耐久戦が幕を開けた。

 

 ブーストを吹かして空から急降下。

 地上でのたうつように暴れながら、呪いをまき散らし黒い飛竜を生み出し続けている呪竜の脳天へと蹴りを叩き込んだ。

 

 竜を象ってはいるが、結局呪いの塊であるためか。

 呪竜自身は飛行することは出来ないらしいのは、せめてもの慰めと言えた。

 これが飛行可能だったら、妖精國の被害は想像を絶するものになっていただろう。

 

 大きく体勢を崩して大地に横倒しになった竜に、並走していたエクスカリバーで追撃を行い、その身にまとう呪いを削っていく。

 ついでに何機かのエクスカリバーは、周辺に群れを成している飛竜を狙って数を減らした。

 

「しかし、キリがないな」

 

 思わず愚痴ともいえる言葉を零した。

 呪いが最も集中しているのがこの呪竜であることは間違いないが、何しろここ妖精國の北部は滅んだ氏族や、南北の妖精で戦った戦地も近い。

 

 それだけ蓄積された呪いも多かったのだろう。

 呪竜だけでなく、呪竜の影響を受けた大地からも黒い飛竜が続々と湧き出していた。

 

『ちょ、メリュジーヌ、速い、速すぎるってば! 私は統夜じゃないんだから、もうちょっと気遣って飛んでくれないかな!?』

 

 文句を言う割にはバリバリ魔術を放って、しかもキャメロットからのロンゴミニアドまで交えて援護してるっぽいんだが。

 逞しくなったな、キャストリア。

 ほとんど俺の所為な気もするが。

 

『大丈夫、イケてるイケてる! 何なら、もうちょっと本気でもいいかな?』

 

『ほんとに! やめてね!?』

 

 まあ、空はとりあえずあちらに任せよう。

 身を起こしてきた呪竜とにらみ合いながら、周囲から襲い掛かってくる飛竜をエクスカリバーで次々に切り裂く。

 一歩前に踏み出すと、呪竜が一歩、後ずさった。

 

 んん?

 あれ、なんか怖がられてる?

 もう一歩踏み出すと、また後ずさる呪竜。

 そして、悲鳴を上げるように咆哮を発して、周囲に黒い球体がいくつも発生し、同時に口内にはブレスの兆候。

 

「おいおい、ちょっと過剰反応すぎるんじゃないか!?」

 

 エクスカリバーを超過駆動状態へ。

 黒い球体の全てを撃ち抜いて無効化し、ブレスは手に持った壊天で切り散らした。

 

『あーこれはアレかな。多分、妖精國の方の私の複雑な感情が呪竜に反映されてる感じ』

 

 なるほど。

 結局今に至るまで、妖精國のメリュジーヌには避けられ続けていたからな。

 だが、これは彼女の意識がまだしっかり残っているという事で、ある意味朗報かもしれない。

 パーシヴァルが彼女を救える可能性は、これでより高まったと言って良い。

 

 しばらくは一進一退の攻防が続いた。

 こちらは決め手を放つわけにいかず、相手はこちらを倒しきれない。

 しかし、物量は徐々にこちらの処理能力を超えはじめていた。

 

 そして、想定外の位置に大量の黒い飛竜が発生し、俺達を無視して南の方へ進路をとろうとして。

 大穴から現れた、無数の虫によって構成された巨大な奈落の虫にまとめて呑み込まれた。

 俺のパワードスーツで強化された視覚だけが、遠方のオベロンではなくヴォーティガーンの姿で一人空にたたずむその姿を捉えた。

 

 俺に見られている事に気が付いたのか、オベロン・ヴォーティガーンは、軽く肩を竦めてみせた。

 オーロラを最悪なタイミングで逃したことに対する返礼とでもいう所か。

 あれで根は真面目で、律儀な奴だから。

 思わずパワードスーツの中で笑い、同時に周囲にいた飛竜がはじけ飛んだ。

 

『はーい、騎兵隊の登場でーす! まあ、数は少ないですけどね!』

 

『馬鹿言ってないで、キリキリ弾道計算をしてください。統夜さん、南部の方は完全に安定しました! あとはそこに集まる呪いさえ祓えば、儀式は成就します!』

 

 通信越しに聞こえてきたのは、BBのお道化た声と、シオンの報告。

 その背後では、オペレートに徹しているカレンの声や、何かを手伝っているらしいホープの声も聞こえる。

 そして。

 

『お待ちかねの主役もつれてきたぞ。さあ、決着をつけてきたまえ。君なら軽いものだろう、我が弟子?』

 

 信頼に、彼女らしい揶揄を混ぜてライネスが告げるとともに、頭上を無数の黒く染まっていない飛竜たちが飛んで、黒い飛竜を蹴散らしていく。

 シャドウフォートの上で旗を掲げるジャンヌ・オルタの姿が見えた。

 飛竜たちは前回の特異点で配下に降した者たちだろう。

 そして、シャドウフォートに並走するパーシヴァルを乗せたアロイに、その露払いとして先を走るメルトリリス。

 

『まあ、予想外の同行者もいたりするんだが。君は何かと予想を超えてくるな』

 

 呆れたような声で言うのは、声はライネスと同じだが、喋り方的に司馬先生だろう。

 その巨体故に移動しているのは気付いていたが、まさか、こちらに助力をしてくれるというのか。

 

 呪竜に組みかかったのは、なんと、ケルヌンノスであった。

 ――――、巫女の返還への礼、か。

 不思議と、その意図は誤解なくこちらに伝わってきた。

 驚きの増援もあったが、これで役者はそろった。

 

 「彼女は、あの心臓だ! ついてこい、パーシヴァル! 操縦はアロイ自身に任せて、彼女の事だけ目指せ!」

 

 メルトリリスに並び、パーシヴァルの道を切り開く。

 津波のように群れてこちらを妨害しようとしてくる飛竜は、俺を避けようとする妖精國のメリュジーヌの感情の発露か、それとも今の自分を義弟に見られたくないという想いゆえか。

 あるいはその両方だろうか。

 

 目配せをすれば俺の意を汲んだメルトリリスが数歩分、俺より位置を下げた。

 

「クアッドカリバー、超過駆動!」

 

 エクスカリバー全てを超過駆動状態へ。

 火力をもって一気に道を切り開いた。

 それでも周囲に殺到してくる個体は、シャドウフォートの火力支援が撃ち落とし、それすら抜けてくる個体はメルトリリスが、その足の刃で切り裂いた。

 

 空ではキャストリアとそれを乗せたメリュジーヌが飛竜の数を減らし、南へ進路をとってかく乱を狙う個体は、奈落の虫が飲み込んでいく。

 ケルヌンノスに抑え込まれた呪竜がそれでも何とか両手を伸ばしてこちらを払いのけようとしてくるが。

 

「壊天、抜刀!」

 

 壊天を用いた斬撃によって、その腕を切って落とした。

 目標は、もう間近だ。

 速度を落とし、パーシヴァルを乗せたアロイを見送る。

 

「行け、パーシヴァル! 行って愛する者を、その手で救え!」

 

 激励を込めて、壊天の切っ先を彼女のいる心臓へ向けて示し、すれ違いざまに声をかけた。

 

「はい! 必ず! この愛にかけて!」

 

 彼の手にある聖槍が、輝きを増す。

 

「聖槍よ! 今こそ、わが愛がため、その力を貸し与えたまえ!」

 

 まるで閃光がそのまま槍と化したかのように、聖槍の輝きが呪竜の心臓を突き抜けた。

 突き抜けた先で、アロイに乗ったパーシヴァルの腕の中には、確かにパーシヴァルの胸に縋って涙を流す、妖精國のメリュジーヌの姿が。

 

 流石、現実の原典においても、俺の知る物語においても愛を貫いて生きた騎士様だ。

 きっちりやり切ったな。

 

『馬鹿……っ、なんでこんな無茶を! 貴方がやらなくったって、きっと――――』

 

『それでも、義姉さんを助けるのは自分でありたかった。貴方の望む相手、望む形ではないかもしれないけれど、それでも、貴方を愛する者はいるのだと。貴方は一人ではないのだと、知ってほしかった』

 

 妖精國のメリュジーヌの嗚咽が聞こえたところで、俺は通信を切った。

 これ以上は無粋だ。

 それに、後始末もあるしな。

 

 失った核を取り戻そうと二人へと残った方の腕を伸ばそうとしている、もはやその形を失いつつある呪竜を睨みつける。

 彼女も、その誇り高き竜の躯も、たかが呪いには過ぎたるものだと知れ。

 

「使うぞ、アルトリア」

 

 静かな声で一つ、確認をとった。

 

『馬鹿、わざわざ聞かないで。それは、貴方の為の剣なんだから』

 

 際限なくパワードスーツの出力を上げていく。

 壊天は、それ自体は特殊な能力を持たない基礎性能特化の装備だが、クラスのスキルと連携することで一つの役割を果たすことが出来る。

 

「壊天、クアッドカリバー、連携超過駆動!」

 

 壊天を核にして全てのエクスカリバーが変形、合体し、一つの大きな剣の柄を形作った。

 この状態をそのまま使っても非常に強力な攻撃ではあるが。

 

「概念励起! 聖剣抜刀!」

 

 キャストリアから託された、聖剣の概念。

 その力を解放し、手に持つ巨大な柄へと流し込んだ。

 出力が更に激増し、剣の柄から天をも貫く様な巨大な光の剣が生み出される。

 

「星の輝きよ! 昏き呪いを討ち祓いたまえ!」

 

 剣を強く握って、発動鍵の発声と共に崩れ行く呪竜へと振り下ろした。

 

「エクス! カリバァァ!!」

 

 極光が空を切り裂き、呪いを祓う。

 そして、呪いが完全に消え去ると、地平線から空の色が変わっていく。

 永かった夜が明けたのだ。

 

 空は、いつもの妖精國の黄昏の色ではない、どこまでも透き通るような青空だった。

 それは今の一撃の影響か、それとも終わりゆく妖精國が外との境界を失いつつあるためだろうか。

 こうして、妖精國に降り積もり続けた呪いは祓われた。

 

 ただ一つ。

 ある意味で形を持った呪いそのものであるともいえる、この大地を除いて。

 

 

 

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