Fate Night Unnamed ~チート転生者はデスマーチに挑む(ほぼ強制) 作:空門 志弦
ロードエルメロイ二世の誕生からそろそろ数年になる。
この数年の間も、それなりにドタバタはあった。
上級ではないもののまた死徒と出くわしたり、質の悪い悪霊を祓う羽目になったり。
魔術師連中との暗闘もしばしば。
まあ、しかし言ってしまえば魔術世界に関わった以上はほとんど日常運転と言える。
いや、日常で良いのか?
……あまり深く考えると、自分の嫌な意味での引きの強さを嘆きそうになるから、日常という事にしておく。
大丈夫、カルデアならきっと廊下とかで起こるレベルの騒動だ。
今の所、BBの示唆した厄ネタの兆候はなく、BBからの追加の接触もない。
しかし、準備の手を緩める気にはなれなかった。
理由は色々あるんだが、特に大きいのはこの世界の特殊さだ。
なんと言うべきか迷うのだが、ひどく大雑把に言ってしまうとこの世界は『おかしい』のである。
第一に、死徒二十七祖と英霊が共存している点。
これはかなりの特殊事例で、この時点でこの世界線はかなり例外寄りの世界線と言える。
ある意味で、世界の方向性を決定づける基盤ともとれる選択肢を両取りしている前提がある以上、他にどんな要素が闇鍋的に混ざっていても不思議じゃないという凄味みたいなものがある。
第二に、いくら俺の引きが悪い意味で良いと言っても、魔術世界に関わってからの事件の頻度があまりに高い。
しかも、事件の規模や質が異常だ。
前言をさらっと翻して、現実逃避を諦め事実を直視すれば、比較対象がFGO世界線のカルデアという時点でお察しである。
第三に、以前の悪魔のセリフだ。
俺を見た奴は、過去が途中までしか見えない、現在がぶれる、未来はノイズしかない、と言った。
過去はまあ、俺が記憶を取り戻したあたりで途切れるのだろうと思う。
これは、俺があの時にある意味で生まれ直したからだろう。
ここはひとまず良い。
問題は現在と未来。
現在のブレは、恐らくだが実際に今見ているものと、悪魔としての異能で見ているものの内容のズレの所為ではないだろうか。
恐らく異能のみで見た場合、未来と同じくノイズしか見えない結果になるというのが俺の予想だ。
要するに俺の存在とは概念的に見た場合において、すでに世界に刻まれた過去の足跡を除き、世界にとっての未確定なノイズそのものなのではあるまいか。
結局この世界の異常性の究極とは、世界の理のもとにいない規格外の力を持った俺自身の存在に他ならない。
異常な俺がいるから、世界が異常なのか。
異常な世界だから、俺のような異常な存在がいるのか。
そんな異常な俺の存在が、星の意思たるガイアにも人類の無意識の集合体たるアラヤにも許されている。
BBの示唆した厄ネタと合わせて、実に意味深な話だと思えるのだ。
……まあ、うっかり手を出したら星ごと物理的に薙ぎ払われるから、触らぬ神に祟りなしって方針を取っている可能性もあるんだが。
「すまない、統夜。流石に断り切れなかった」
そんな風に言って頭を下げてきているのは、この数年でなんだかんだ仲良くなった二世である。
ガチ目の怒りをあらわにしたライネスとカレンにいびられたせいで、すでに精神的にボロボロ。
しかも彼自身かなり忸怩たるものがあるようで、その様子は実に悄然としたものだった。
「まあ、そろそろ仕掛けてくるロードも出てくるだろうと思っていたので、俺は責めるつもりはありませんよ」
俺がここ数年の事やら世界の謎やらに改めて思いを巡らせていたのは、他のロードから投げられた依頼の内容に触発されてである。
依頼内容は、霊墓アルビオンにおける異常の調査と、先発した調査隊の痕跡の回収である。
調査隊はすでに三度にわたって送り出されているが、一人の例外を除いて未帰還。
その一人も、状態がひどく、帰還からしばらくして命を落とした。
そんなところへエルメロイから調査の人員を出せという要請が、断れない形で他派閥のロードから出された。
まあ、人員とぼかしつつも実質は俺を狙い打っている形なんだが。
チートの力こそばれていないが、表向きの部分だけでも出来れば排除したい、それが無理でも実力の底を測りたいという程度には他のロードに目をつけられてしまっているわけだな。
当然と言うべきか、弟子で腹心ともいえる俺に手を出されたライネスの機嫌は氷点下である。
「主体になったのは降霊科のロードだそうだ。裏では他にも何人かのロードが後押ししたとか。ふん、覚悟しておけよ。機会があった時に十倍返しにしてやる」
問題はその唯一の帰還者が残した情報だ。
彼は、霊墓アルビオン内で今回の異常の原因と思われる、異常な神秘と魔力を内包した黒い不定形の塊を目撃したと証言したのである。
俺が最初に考えたのは、アンリマユだった。
前現代魔術科学長で霊墓アルビオンとは何かと因縁のあるハートレスあたりが、聖杯戦争の調査の過程で入手して何らかの目的で持ち込んだのではないかと思ったのだ。
しかし、証言情報を聞く限り、どうも別物のようであった。
アンリマユの持つ呪詛についての証言が一切ない。
そして、その可能性を横に除けて再度ありうる可能性を考えて、ふと気が付いた。
————これ、メリュジーヌの素では?
そう、その塊とはつまり竜種の冠位指定と言われるアルビオンの生きた細胞片ではないかと気が付いたのだ。
本来だとこれも別の世界線の産物なのだが、そもそも発見された場所が霊墓アルビオンであるならありうる話。
何故、今になって活動を始めたのか等の疑問はあるが、とりあえず棚上げした。
兎にも角にも可能ならば確保、最悪でも処分せねばならない。
本音を言えばできれば処分は避けたいが、モノがモノだけに悪性の変異を遂げていた場合は、世界の破滅にもつながり得る特級の厄ネタになりかねないのだ。
「俺が一人で行くのが条件だと、先方に伝えてください。信用できない足手まといを連れていく気はないとね」
どうせ、刺客か監視か知らんが人をつけるつもりだったんだろうが、断じてNOだ。
そして、この数年で、その程度のNOであれば問題なく言える程度にはエルメロイは復権している。
「尾行のような真似をさせたなら、こちらで処理すると言うのも追加で」
二世が息をのむ。
この数年で殺人童貞はとっくに切っている。
なんて言うか魔術師ってクソったれが多くて、あんまり負担にならなかったのは助かった。
「いくら君でも一人では厳しくはないか? 霊墓アルビオンだぞ?」
「私も義兄に同感だ。信用できる同行者を募るべきじゃないか?」
二世とライネスが次々に心配そうに言ってくるが、俺は首を横に振った。
「最悪、思い切りよく尻尾を巻くためにも、一人が一番都合が良い」
この場には二世もいるので言葉の上では逃げ易いように、と言った理由を口にする。
二世はそれでもまだ心配げだったが、イーリアスの事を知るライネスは最悪は俺がそれを使う心づもりであることを察して、深く頷いた。
「我が弟子がここまで言うならば、少なくとも生きて帰る勝算は十分にあると言うことだろう。言うとおりにしてやってくれ、義兄上」
ライネスもまた俺にあわせて表面上の理由を口にする。
なんだかんだで付き合いも長いし、以心伝心と言うやつである。
二世はやれやれと言った様子で肩を竦めた。
「なんだかんだで、やはり師弟だな君たちは」
今の通じ合っている様なやり取りの所為か、あるいは単独での霊墓アルビオンへの突入を良しとする在り方にか。
二世はしみじみとした様子で言葉をこぼす。
これで、話は決まった。
失われた命には申し訳なく思うが、変な相手にアルビオンの細胞片が渡らなかったことは僥倖というしかない。
ヤバイ事態になる前に俺にこの話を持ってきてくれたロード達には、心の中でだけ感謝しておくとしよう。
こうして俺は、時計塔深部に広がるアルビオンの遺骸たる大迷宮、霊墓アルビオンに単独で挑むこととなった。
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