Fate Night Unnamed ~チート転生者はデスマーチに挑む(ほぼ強制)   作:空門 志弦

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また少し待たせてしまい申し訳ありません。
そして今回は二話同時更新です。
こちらは同時投稿の二話目となりますので、お手数ですがこちらより先に第109話の方からお読みください。



第110話   誰が為のおとぎ話

 

 かくして呪いは祓われ、妖精國に静寂が訪れた。

 妖精たちは送還の光に包まれながら、誰もが空を見上げていた。

 初めて見るはずなのにどこか懐かしい、その青空を。

 

「さっすが座長、やりきったな」

 

 ある者は、鼻をこすってから誇らしげに言って光へと。

 

「まったく、本当に信じられない人でしたね」

 

「ええ、まったくです」

 

 ある者たちはお互いに顔を見合わせ、笑いながら。

 

「はー、これで終わりか。なんだかんだで、名残惜しいなあ」

 

 ある者はもう必要ないと分かっていながら、剣を磨いて。

 

「ありがとうございます、座長さん。今度はちゃんと守り切れました」

 

 そしてまたある者は、剣を手に護り切ったものを背に、空を見上げて。

 牙の氏族のある妖精は草原をただ走るために走りながら。

 ゲーム盤の駒を握って、その偉業に感心半分、呆れ半分の妖精もいた。

 戦場にへたり込む戦士たちに最後まで声をかけていた妖精も。

 

 そんな事は知る由もない私は今、お義母様の前で強く手を握りしめて俯いている。

 別れを告げられたからだ。

 それは永遠というわけではないのかもしれないけれど。

 

「バーヴァン・シー。貴方は、旅立たねばなりません。私の元にいても、貴方の霊基に刻まれた大きな傷は決して癒えない。アレは私の夢に幕を引いた憎らしい男ですが、悪い男ではありません。きっと、貴方にその傷を超えるための新たな道を示してくれるでしょう」

 

 お義母様のいう事は分かる。

 きっと、それは正しい助言なのだろう。

 でも寂しいものは寂しいのだ。

 今までにない、ひどく優しげな声音が余計にその気持ちを刺激した。

 

「しょうがない子ですね。大丈夫、これが今生の別れではありません。必ず、また会う機会はあります」

 

 優しく頬を撫でられて。

 ずっと厳しくあらねばならなかったお母様を思って、涙がこぼれた。

 だから、泣いてしまったけれど、しっかりと頷いて。

 

「きっと、お義母様の元に帰ってきますから」

 

 踵を返して。

 振り返りたい気持ちを必死に抑えて。

 お義母さまのもとを後にした。

 

 

 

 その背を見送って、深く溜息をついた。

 

「泣かせてしまいましたね」

 

「まったくだよ。せっかく厳しくしなくちゃいけない理由も無くなるんだから、もっと優しくしてあげればよかったのに」

 

 空気を読んで隠れていたのだろう。

 私にはバレバレであることも分かっていたハベトロットが物陰から姿を現してからかってきた。

 

「もう時間もありませんし。あの男なら、悪いようにはしないでしょう?」

 

「ま、私もそこは認めるけどね。これからどうするの?」

 

「とりあえず、ゆっくりと休みたいですね。新たな妖精郷はノクナレアに任せればいいでしょう」

 

 何度も頷くハベトロット。

 彼女はモルガンとしての私とは一定の距離を保っていたのでこの方針は大賛成らしい。

 

「いい加減、休んでしかるべきでしょ」

 

 とまで言われてしまって、つい苦笑が零れた。

 しかし、なかなか無茶をしてきたと思うのだが、未だにこうして対等に話してくれることに喜びもあった。

 

「外の世界の糸紡ぎの妖精の話を君が聞かせてくれたから、ボクは今こうしていられるんだ。トネリコとしての君との付き合いだってある。これで完全に見捨てるとか、ボクはそこまで薄情じゃない」

 

 ちょっと不服そうに言われてしまい、謝った。

 こうして素直に謝るなんて、何時ぶりだったか。

 

「まだ君はいかないのかい?」

 

 不意に聞かれて。

 私は本当に久しぶりに素直に、答えを返した。

 目に痛いくらいの青空を見上げながら。

 

「せめて最後まで、見届けたいのです」

 

 

 

「パーシヴァル!?」

 

 その叫びに目を向ければ、パーシヴァルの姿が光に包まれているのが目に入った。

 そうか、もう時間切れか。

 パーシヴァルは妖精ではないが、この妖精國の存在を前提としている事に違いはない。

 妖精國の因果が解けつつある今、彼もまたあるべき形へ還ろうとしているのだろう。

 

「義姉さん、彼らなら、きっと悪いようにはしないでしょう。一緒に行くことは出来ないけど、ずっと、貴方の幸せを願っています」

 

 その顔には優しい笑みが浮かべられていた。

 妖精國のメリュジーヌは、まだ涙をこぼしてはいたが、彼の気持ちを汲んだのか何とか笑顔を浮かべて返した。

 

「まだ色々と割り切れないものはあるけど、うん、幸せになることを諦めたりはしない。約束する」

 

 義姉としての意地であろうか。

 少し不器用だが、良い笑顔だった。

 パーシヴァルは返されたその笑顔に破顔して、最後にちらっとこちらを見て目礼のみを残して光の中に消えていった。

 

 少しの間の静寂の後、おずおずとだが妖精國のメリュジーヌがこちらを向いた。

 頷いて、その手をとって、契約を交わす。

 これで、彼女の妖精としての姿が失われることはない。

 

「ありがとう」

 

 小さな声で、うつむき気味にだが。

 確かにその声を聴いた。

 そして彼女は、もう一人の彼女に振り向く。

 

「流石に、少し疲れたの。だから、その……」

 

 言いにくそうにする彼女に、こちらのメリュジーヌは気楽に答えた。

 

「いいよ。落ち着くまでは間借りさせてあげる」

 

 そう言って両腕を広げ、二人が光に包まれて、こちら側のメリュジーヌだけが残った。

 

「大丈夫。今は色んな疲れをいやすために、ここで眠っているだけだから」

 

 メリュジーヌが自分の胸に両手を添えて、先んじてこちらの疑問に答えてくれる。

 理屈は、呪竜に取り込まれていた時に近いのだろうか。

 どうやら同化状態にあるらしかった。

 その後、バーヴァン・シーがやってきて少し騒ぎがあったりしたが。

 まあ、そこはとりあえず今は良いだろう。

 

『妖精國内の魔力反応はほぼ全て消失しました。残っているのは、反応的にモルガンと……』

 

 上空のオベロンだけというわけだ。

 なら、そろそろ仕上げ時だな。

 シャドウフォートの甲板の船首の方へ歩き出す。

 そして、空へと飛び立った。

 

 途中、オベロンの近くで上昇を一度やめると、ヴォーティガーンの姿のままの彼は、ニヤリと笑った後にただ大仰で慇懃な礼を贈ってきた。

 それが、最後まで矛を交える事がなかった俺とオベロンの、静かな決着の瞬間だった。

 

 再び加速し、上昇し、雲を抜けて妖精國をはるか眼下に見下ろす。

 物語の中に妖精國についてのモルガンのある独白がある。

 美しい国でしょうか、と。

 

 ああ、醜くも、美しい国だったとも。

 物語においても、そして、本当にその地を旅した今だって、心をとらえて離さないくらいに。

 

 だから、この幕引きは、この國を形作り、護り続けてきた君に贈ろう。

 

「ワールドブレイカー、超過駆動」

 

 そして俺は、光を纏う。

 高度を一気に下げて、その地点のただ一点へとエネルギーの全てを叩き込んだ。

 

 

 

 終わりの星が地へと駆けていくその姿を、私は妖精國の全景をこの目に収めることが出来る空から眺めていた。

 そして、星は地に墜ちて。

 私は息をのんだ。

 

 大地は、無残に砕かれるのではなく、星の落ちた場所から薄紅色の花びらへと姿を変えていったのだ。

 確か、この花びらを持つ木の名は、桜と言ったか。

 彼の生まれた地ではことさらに愛されている特別な花だったと、私の手に入れた知識が言っていた。

 

 いま、私はどんな顔をしているだろうか。

 本当に、どうしようもない人だ。

 きっと、大変だったはずなのだ。

 

 だって、この國は私自身にだってもうどうしようもないほどに歪んでしまっていて。

 彼が描いたような終わりなんて、本当なら望むべくもなかった。

 そんな世界の中を必死で駆けずり回って。

 ありえなかったはずの終わりを描いて見せて。

 そんななかで、こんな仕掛けまで用意していたなんて。

 

「本当に、仕方のない人ですね……」

 

 そんな人だから、もしも、と思ってしまった。

 私の時に、彼が隣にいてくれたならと。

 それが叶わない願いであっても夢見てしまうのだ。

 

 ああ、でも、そうか。

 私と彼の出会いは、きっとこれが正しかったのだ。

 そんな風に、心にストンと何かが落ちてきた。

 そうして私は、その美しい花びらが世界に舞うのを、最後まで眺めていた。

 

 

 

「ははっ」

 

 おっと、俺らしくもない。

 ついつい、笑いが口を突くだなんて。

 それもこれも、あいつが悪い。

 

 結局、最後の最後まで、きっちりとやり切って。

 ほんとに呆れた奴だ。

 最後にこんな仕掛けまで用意していたのか。

 

 俺の共犯者で、そして競合者。

 途中でほとんど勝負が決まってしまっていて、俺は傍観者同然だったのに、ついつい最後に手を出してしまったが。

 そうだな、こんな気分になれたなら手を貸した甲斐もあったと言って良いだろう。

 

 あいつは気に入らないから自分勝手に陳腐なハッピーエンドを押し付けてやるだけだ、なんて嘯いていたが。

 ハッピーエンドなんて、陳腐なくらいがちょうどいい。

 どこかの作家みたいなバッドエンドよりはきっとずっと。

 そんな風に思ってしまう時点で、俺の負けはある意味必然だったのかもしれないな。

 

 

 

 空からゆっくりと降りてくる彼は、妖精眼で見るとどこか寂し気な色をしていた。

 ずっと、その背を追うように一緒に旅をしてきたからその気持ちは痛いほど分かる。

 でも、だからこそ私は、彼に心配の言葉をかける事はしなかった。

 甲板に降り立ち、装備を解いて素顔を晒した彼に走って近づき、出来る限りの笑顔を浮かべる。

 

「おかえり。ねえ、統夜。貴方の生きてきた世界の事、色々教えてよ」

 

 手をとって、彼を引っ張った。

 今くらいは、私が手を引いたって良いだろう。

 ちょっと不思議そうな顔をした彼に、あえて厚かましくねだってみせる。

 

「だって、知りたいでしょう? これから私が生きる世界の事なんだから!」

 

 彼の手を引いて。

 今からしてもらうのは、未来の話だ。

 それでいい。

 

 彼が与えてくれた、私の未来。

 その話を彼と一緒に、そして、彼の仲間たちとも一緒に語り合おう。

 終わらせた物語は、胸の奥にそっとしまって。

 

 さあ、聞かせて統夜。

 貴方がこれから描く、私が貴方達と一緒に見る事になる物語の事を。

 

 

 

 

 これは俺達が、元の世界に帰った少し後の話である。

 ある日、上機嫌な顔でライネスが何冊かの本をもって俺の元にやってきた。

 

「この前、妖精に関する世界を旅しただろう? それで少しばかり興味が出てね」

 

 そう言って渡された本の表紙を見て、俺は思わず笑ってしまった。

 一つは『知識を囁く妖精たち』、一つは『罪を裁く黒妖犬の騎士団』、そして、最後の一つは『妖精のサーカス』という題名だったからだ。

 その内容については、まあ、それぞれの想像に委ねる事としよう。

 

 

 






というわけで、デスマ/No.2 終末妖精圏 アヴァロン・ル・フェ。
これにて終幕です!

途中更新頻度が下がってしまい、長らくお待たせしてしまいました。
何とか、FGOの終章が来る前に章を閉じられてほんとによかった……!

日々の忙しさや体の不調に挫けずに執筆を続けられたのは、間違いなく読んでくれる方々、登録や評価をくれる方々、感想をくれる方々や誤字報告をしてくれる方々、全ての方々がいてこそでした。

改めて感謝させてください。
本当に、いつもありがとうございます!

次は現代に戻り、ちょっとコメディっちくな小事件の話を挟む予定です。
ただちょっと体調を整えるためにも、年内は少しお休みをいただくかもしれません。


そして、面白かった先が読みたいと思っていただけて、まだの方がいたならお気に入りと評価、感想などいただけたら嬉しいです。
読者さんの反応は、皆さんが思っているよりずっと凄く本気で、モチベーションを助けてくれるのです。
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