Fate Night Unnamed ~チート転生者はデスマーチに挑む(ほぼ強制)   作:空門 志弦

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インタールード3
第111話   アルトリアとキャストリア


 

 室内には何とも言えない空気が漂っていた。

 空気の出どころは、二人のアルトリア。

 アルトリア・キャスターとアルトリア・ペンドラゴン、その二人である。

 別の世界線であれば同位の存在である二人はお互いに対面することは出来ないのだが、この世界では違う。

 

 『この世界は言うなれば複数の世界の複合体です。前周の時から私たちの世界が基底となってはいますが、そもそも他の世界は私たちの世界から枝分かれしたものではありません』

 

 BBが言うには、分岐ではなく並列した可能性であるがゆえに本質的にその存在強度は等価であるという。

 それが、他の世界の可能性が今の世界を塗り替え得る理由でもあるのだが、規模が世界でなく個人程度であれば処理が変わる。

 存在の基盤となっている世界が違えば十分に違う存在としてのラベル付けが可能なのだという。

 

 『まして、貴方という存在と縁を結んだのであればなおのことです』

 

 ほとんど観測者ポジションだって話だったしなぁ。

 そんな俺と縁を結んでこちらに連れてこられたキャストリアは、独立した一つの命としてこの世界に紐づけられているそうだ。

 それについては、むしろ喜ばしいことだと言える。

 

 だが、ホープやバーヴァン・シーの存在もあって二世がちょっと胃を痛め、そこはいつもの事と横においても時計塔の近くに彼女たちを置いておくのは問題が多すぎるのも事実。

 彼女たちを第二拠点となりつつある冬木に連れてくることになったのは必然であった。

 で、あいさつ回りとして、ペンドラゴンの方のアルトリアと顔を合わせないというのは無理な話なわけで。

 

「なるほど、貴方が妖精國の……」

 

 事前にある程度は情報が行っていたので大騒ぎにはならなかったのだが、対面した二人が何とも言えない空気になる事は避けられなかったわけである。

 ちなみに今のセリフを思わずこぼしたペンドラゴンの方のアルトリアの表情は、表現の難しい複雑なものだった。

 ……とりあえず面倒だし混乱するから、脳内ではペンドラゴンの方をアルトリア、キャスターの方をキャストリアと呼ぶこととしよう。

 

 ちなみにキャストリアの方もやはり複雑そうな表情を浮かべて口をもごもごと動かしている。

 声には出していないが、これは『この人が、あのアーサー王かぁ』といった感じの事を何とか呑み込んだ感じだろう。

 キャストリアはあんな使命をなんだかんだ投げ出さずにやり遂げようとするくせに、アルトリアのアーサー王としての生き方については『ないわー』とか思っている、おまいうの困ったちゃんなのである。

 

「えっと、その、お茶をどうぞ……?」

 

 おっと、微妙に空気に引きながらだが士郎君がお茶を持ってきてくれたな。

 これはありがたい。

 

「ああ、ありがとう士郎君。ちょうど喉が渇いていたところなんだ」

 

 これ幸いと、笑顔で茶を受け取り、一口。

 士郎君も俺の対応にほっとしたようで、少し引きつっていた顔が元に戻った。

 ちなみに喉が渇いていたのは本音だ。

 妖精國から戻ってからもあまりゆっくりはできなかったし、キャストリアたちをさっさと時計塔から離したかったのもあって結構な強行軍だったからな。

 

 どのくらいかというと、キャストリアたちの存在の秘匿が必要だったにせよ日本への移動にためらうことなくシャドウフォートを使うくらいには強行軍であった。

 高位の妖精にアーサー王の別世界の同位体とか、よりにもよって妖精やアーサー王と何かと縁深いイギリスに長居はさせられない。

 ちょっとくらい大丈夫だろうという楽観は、ない。

 

 今までの経験で学んだのである。

 それにこの体になってから妙に冴えている勘も言っていた。

 ここで油断したら絶対何か厄介事が起こると。

 

 口に含んだお茶の香りを十分に楽しんでから、飲み下して息を吐く。

 幸い、厄介事が起こる前に避難は完了した。

 二人の微妙な空気くらいは、甘受すべきだろう。

 そんな俺の心中を察してか、二人も息を吐いてから妙な空気を霧散させた。

 

「ごめんね。ちょっと失礼な態度だったかも」

 

 キャストリアがそう謝罪すればアルトリアも少し口に苦笑を浮かべて首を横に振った。

 

「いえ、それはこちらもです。お互いさまという事で、ここは手打ちとしましょう。……彼に心労を与えるのは本意ではありませんし」

 

 アルトリアの答えに、キャストリアの方も苦笑しながら頷いて返す。

 

「そこについては、同意かな。ごめんね統夜。それと、そちらの家主さんにもごめんなさい」

 

 俺に謝って、更に士郎君にも謝罪するキャストリア。

 ほんとに、よくあの劣悪な環境でこんないい子に育ったなあ。

 

「いやいや、なんか事情があるみたいだし。俺の事は気にしないでくれ」

 

 士郎君がキャストリアの謝罪に少し慌てながら答えて、キャストリアの前にもお茶を置いた。

 その後は比較的和やかな時間となった。

 こちらはキャストリアと他に二人ほど冬木の地に滞在することを話し、アルトリアと士郎君からは冬木の様子を聞く。

 

 聞く限り冬木は平和な時間が流れているようで何よりである。

 まあ、士郎君周りの恋愛事情は水面下で色々ありそうな感じだったが。

 ふむ、聞いた感じ遠坂嬢と桜の微妙な関係からくる牽制と遠慮の応酬でほとんど膠着状態なのか。

 なんか、どっかの山育ちと魔法使いと魔女の三角関係を思わせるものがあるな。

 

「お茶が旨いな……」

 

 なんか、ほっておくとあっちと同じような顛末になりそうな予感を感じるが、口は出すまい。

 この場合の勝者は、藤ねえになるのか友人の慎二君になるのか、さてどうだろう。

 キャストリアがその妖精眼で何かを察したのか胡乱なものを見る目を向けてくる。

 アルトリアは彼らの日常を傍で見ているが故に俺の考えていることが何となくわかったのか、また苦笑を浮かべていた。

 

「三人して、どうしたんだ?」

 

 先ほどとは違う微妙な空気に首を傾げる士郎君であるが。

 そう言うとこだぞ。

 いざ心が定まると色々くさいセリフも平気で言えるくせに、普段は割と難聴系の素養があるというか。

 まあ、あの冬木の災害で歪んでしまった、これは彼の心の問題もあるのだろう。

 

「なに、大した話じゃない」

 

 そう、大した話ではない。

 今の彼らにはまだ時間があり、彼の心の問題だって時間をかけて少しずつ解きほぐしていけばいいことだ。

 遠坂嬢と桜の二人なら、なんだかんだどうにかするに違いない。

 俺の介入の影響もあってか他世界線に比べると少し距離がある感じだが、イリヤだっているしな。

 

「いやあ、無責任にニヤニヤと経過を楽しめる程度の問題って言うのは良いものだな」

 

 ちょっとした冗談のつもりで言ったそんな台詞に返ってきた反応は微妙に想定外であった。

 よしまて、キャストリア。

 その可哀そうなものを見る目をやめるんだ。

 

「普通なら趣味が悪いって注意すべきなんだろうけど、それが統夜だとどうしてもね……」

 

 アルトリアも目頭を押さえないでくれないか?

 

「今のあなたの状況でそこに喜ばれて、同情心以外の感情を持ってこいと言われても難しいと言いますか……」

 

 ちなみに士郎君は今は台所である。

 流石に冗談でも本人をこのあたりの事で揶揄うのはどうかと思ったからニヤニヤするタイミングは見計らった。

 

「大丈夫? その、こっちにいる間くらいは、少しゆっくりしようね?」

 

 キャストリアがそんな風に気遣わし気に言ってくるんだが、さて、そう願いたいけど、どうなるかなあ。

 少なくとも他にもあいさつ回りはしておく必要があるし、買い取った大聖杯のある洞窟の整備の話とかも進めないとだし。

 

「世界の危機なんてものを解決してまだ間もないのに、こんな些細な休息の話にすらすんなり同意できない有様だから、こういう反応になるのです」

 

 俺の様子を見たアルトリアに溜息をつきながらそんな事を言われてしまった。

 うん、それは……返す言葉もないな。

 しかし君たち、妙な所で息ぴったりだなぁ。

 

 




いつも閲覧ありがとうございます。
お気に入り登録や評価、感想と誤字報告にも変わらぬ感謝を。

ちょっと長い間が開いて心配をおかけしてしまったかもしれません。
去年の秋ごろから勉強していることの一つの詰めの時期と、インフル疑いのある体調不良、体調不良で滞ったタスクの消化、などなどほんとにいろいろ折り重なって、執筆のための時間と気力がどうしても捻出できませんでした。

ちょっと忙しくなってきている関係で以前に比べるとペースが落ち気味になるかもしれませんが、書きたい話は全くさっぱり尽きていないので、エタる予定はないという事だけはこの場を借りて伝えておきたいと思います。


小話

二人のアルトリアは、お互いにどうしても複雑な感情が湧き出てしまうのですが、統夜の力になりたいという一点ではがっちりと内心で同意が取れているので基本揉め事には発展しない感じです。
なので、普段は似すぎてかえって仲が微妙な姉妹的な関係というかそんな感じになります。

なお『大事な時に統夜みたいな相手が傍にいたとか、ずるくない?』とか、『自分の時にそうだったなら、どうだっただろう』とか、ペンドラゴンの方のアルトリアの方がより複雑なのは言うまでもありません。
『まさか別の世界の話とは言え、自分がモルガンに共感することになるとは』と、妖精國のモルガンの内心がちょっと想像できてしまったアルトリアは思ったとかなんとか。

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