Fate Night Unnamed ~チート転生者はデスマーチに挑む(ほぼ強制) 作:空門 志弦
「ようこそおいでくださいました、神薙様」
アインツベルンの城を訪れた俺に仰々しく頭を下げるセラに軽く頷いて返す。
対照的にトテトテと近づいてきて手土産を受け取ってくれるリズの態度は親しげである。
「荷物、預かる」
まあ、セラがそんなリズの態度を鋭い目つきで睨んでいたりもするんだけど。
俺が軽く手を上げて制したらスッと落ち着いたけどな。
「リズ、貴方はそちらを厨房へ」
リズがヒラヒラと俺に手を振ってからこの場を離れると、セラが改めて俺に深く頭を下げた。
「リーゼリットが失礼をいたしました」
「いや、彼女の態度は俺が許可したものだし、気にしないでいいぞ」
何ならセラにももっと気楽に接して欲しいくらいなんだが。
「神薙様は現状アインツベルンのオーナーも同然です。 そこを抜きにしても、多くの恩がございますので」
本人とイリヤとリズの命の恩。
イリヤの体の修復。
アインツベルンの自壊の制止。
付け足せば実質の主幹であったアハト翁が退いた後の諸々のフォローと、時計塔に対するイリヤの後見も行っているからな。
「まあ、それが君の在り方であり矜持であるというなら、否定はしないさ」
アインツベルン由来のホムンクルスは色々個性的で一つの型に押し込めるのは難しい。
しかし、根っこの奉仕気質とか結構頑固というか意志が固い所なんかは共通した傾向が見て取れるし、そうしたいと言うならそうさせてあげるのが良いんだろう。
「ご配慮に感謝を。では、応接室まで案内いたします」
今、少し笑ったか?
すぐに背を向けて前を歩き始めてしまったから、はっきりとは見えなかったな。
俺に対する恩もあってか、人間にあんまり良い感情を持っていないセラにしては、元からかなり態度が柔らかい。
だが、性格的に役目に忠実で仕事に徹しがちな彼女であるからして、傅くべき相手にある意味隙ともいえる笑顔を見せるのは中々レアである。
もう少しちゃんと見たかった気もするが、野暮か。
そんな事を考えている内に応接間に案内され、セラの開けてくれた扉をくぐって部屋に入った。
「悪いな、待たせたか?」
部屋に集まっていた面々に軽く挨拶をして席に座った。
「大丈夫よ。別に予定の時間に遅れたわけでもないのだから」
場所を提供してくれているイリヤが最初にそう答えれば、他のメンバーもそれぞれに同意を返してくれた。
「それならよかった」
既に全員すっかり集まっていたのでもう少し時間に余裕を持ってくるべきだったかとも思ったが、誰一人として気にしたような様子はなかったので、少しほっとしてセラが注いでくれた紅茶に口をつけて一息ついた。
「特別遅れもしなかったという事は、顔合わせはすんなりいった感じですか。まあ二人の性格的にそこまで心配もしていませんでしたが」
俺が息を吐いたタイミングでそう言ったのは今回の話し合いの為に俺と一緒に日本に来ていたシオンである。
「お互い複雑な感情はありそうだったけどな」
今回わざわざ俺が衛宮家の方を優先して訪れたのはちょっと関係性が特殊な二人のアルトリアの顔合わせと、BBの保証があるにせよ並行世界の同一人物が顔を合わせた時に本当に現象面で何の問題も起こらないのかという確認もあってのことである。
結果としてどちらも問題はなくすんだのは何よりと言える。
お互いに複雑な感情はあるにせよ、ちゃんと呑み込んでくれたし最後の方はなんだかんだ息があってさえいたからな。
「それは何よりね。名にし負う騎士王と、あの域の魔力を持った高位の妖精の争いなんて洒落にならないもの」
口をつけていたティーカップをソーサーにおいてそんなことを言ったのはメディアだ。
その発言は俺としても全く同感だった。
なんだかんだ二人とも負けず嫌いなのも良くない。
絶対に周辺被害がえらいことになる。
「怖いこと言わないでくれる? ほんとに、深刻に、お願いだからこれ以上に私の仕事を増やさないで」
メディアの発言を聞いてひどく嫌そうな顔で、切実な響きを持った声音で絞り出すように言うのは遠坂嬢である。
気持ちは痛いほど分かる。
なるべくこっちで負担を引き受けてはいるが、ここ最近の遠坂嬢の仕事量は絶対に華の女子高生が受け持つような分量じゃないからな。
ちなみにその嫌そうな顔には揃っている面子からくる緊張も混ざっていそうではあった。
将来的にアトラス院のトップになり得るような立場を持っているシオンに、神代の魔術師のメディア、聖杯戦争で敵対していたこともある魔法の一つに手をかけたことがあるアインツベルンの現当主。
そこに俺。
彼女視点で、次期ロードの弟子でサーヴァントと互角以上にわたり合う時計塔の魔術師だからな。
将来はともかく、今のまだ年若い彼女には中々厳しかろう。
だが、冬木の魔術的地権を押さえている彼女にはいてもらわないと困るんだよなあ。
許せ、遠坂嬢。
「さて、それじゃあ始めるとしようか。とりあえず進行は俺が務めさせてもらうが構わないな?」
一応確認をとれば、全員がしっかりと頷きを返した。
それに対して俺も頷き返し、本題に入った。
「今回集まってもらったのは、大聖杯を中心とした拠点の構築計画を話し合うためだ」
前提を共有すれば再び全員から頷きが返ってきた。
「まず、大聖杯のある大空洞とその周辺の買い取りは完全に完了した」
少し手間取ったが、表では学術的に重要な史跡が発掘されたという建前で、裏ではあれこれ魔術世界系の伝手も動員して合法的にがっちりと裏も表も土地を押さえ切った形だ。
「諸々の権利はエルメロイの方で押さえる形になったが……」
現状、冬木の魔術的権利を掌握している遠坂嬢の方に確認の意味も込めて視線をやれば、答えはすぐに返ってきた。
「もとより私の手には余っていたし文句はないわよ。相応に見返りも用意してくれたしね」
金銭的にも、魔術師としても色々と見返りは提示したからな。
それに大聖杯とかいう超抜級の代物、いくら魔術関連の勢力が入りにくい日本の土地柄があっても、今となってはまともな魔術師が遠坂嬢一人だけのこの冬木で独占とかどうやっても無理という話もあった。
イリヤは今は冬木に滞在してはいるが、本来的には冬木の魔術師ではないし。
「それと大聖杯の所有権についてだがこれもエルメロイの管轄、というかコレはほぼ俺の管轄だな」
ここについては、時計塔でもかなり強く念押しした部分である。
他のロード達に対してもはっきりと、つまらない手出しをしたら俺がこの手で物理的に全力で潰す、とまで言ったくらいだ。
魔力やら殺気やらが漏れていたのか、あの魑魅魍魎達にしては珍しく全員がドン引きしていた。
「アインツベルンとしても私個人としても、大聖杯の所有権が統夜にあることに異論はないわ。制御についてももう完全に統夜のサーヴァントであるメディアが握っているしね」
イリヤが肩を竦めてそう言ってから、テーブルに並んでいたクッキーを口にひょいと放り込む。
少し行儀が悪くなってきているのは、さて誰の影響だろうな。
後ろに控えたセラの目つきが少しきつくなっているのに気が付いたほうがいいと思うぞ。
ちなみにロード・バルトメロイはその時も例のごとく代理を立てていてその場にはいなかったが、後ほど法政科を通して協力の打診があった。
建前は魔術の隠匿の大原則に則ってという事だったが、そのあたり上手いよな。
恩を売ったうえで、場合によっては恩恵が得られるかもしれないポジションを確保してきたわけだ。
このあたりの反応からも分かってもらえると思うが、念のために注意しておくとロード達がドン引きしていたのは別にビビったからとかではない。
そもそも俺がわざわざ力を誇示して攻撃的な宣言を行ったのも多分に政治的なポーズであり、ロード達を脅迫する意図はない。
それでも実際に手を出してくる馬鹿がいたら、有言実行するわけだが。
エルメロイを安定させるうえで俺はそこそこに魔術界隈でやんちゃしていたので、あのドン引きはつまり『ああ、また馬鹿な家がいくつか派手に消し飛ぶことになるんだな』という、そういうアレである。
失敬な話だ。
ちゃんと丁寧に心も魂もへし折って磨り潰して、搾り取るもの搾り取って、二度と逆らえないようにしたうえで次代をこっちで指定して、そのあとはそれなりに手厚く扱っているというのに。
仲直りした後は、どこの家も、とっても従順で素晴らしい忠誠心なんだぞう。
え、所業が鬼?
いやだって、この世界の魔術師って基本ほんとクソだから、その上で今のエルメロイに手を出してくる馬鹿とか、一体他にどうしろという話なんだよなあ。
名も血統も残している時点で、むしろ大分甘いと思う。
政治的な力学が働いているにせよ、他のロードが苦言を呈さない時点でお察しだ。
「遠坂家としても、異論はないわ。 ……というか、貴方こそ大丈夫なの? 一応改めてあなたの事も調べさせてもらったから力量や政治力も疑うわけじゃないけど、無理してない?」
遠坂嬢らしい根の人の良さが透けて見える発言だな。
あとは冬木の諸々については俺が主導して色々処理しているから、彼女からすると仕事仲間的な親しみもあるんだろう。
そして大聖杯はモノがモノだから、遠坂嬢から見えている範囲の俺の力だけだとその心配はもっともでもある。
「大丈夫よ。この人はあなたが思っているよりも、もっとずっと、とんでもない人だから。大聖杯の一つくらいは何でもないわ」
信頼がしっかりと含まれた発言なのは分かる。
分かるんだけど、もうちょっと言い方どうにかなりません、メディアさん?
遠坂嬢がとっても趣深い顔になってるじゃん。
「前からずっと思ってたんだけど、貴方本当に人間? 神代の魔術師にここまで言われるって、どういうことなのよ」
思わずといった調子で遠坂嬢が言えば、俺を横目にメディアがクスクス笑い、イリヤがしみじみと頷き、そして最後に我慢しきれなかったシオンが噴き出した。
「アハハ、そうなりますよね! うん、実に真っ当な反応です! 最近、私もすっかり毒されてしまっていましたが、そうですよね、それが正しい反応ですよね!」
おのれシオン。
すっごい楽しそうじゃないか。
まあ、君のことはすっごく振り回している自覚があるから、文句は言えないけどな!
「生物学上は間違いなく人間だ」
割と定番の返しも、ちょっと最近自信がなくなってきていたりするのは秘密である。
正直、今の俺が検査してもちゃんと生物学上の人間という検査結果が出るかという点についてはちょっと自信がないからだ。
その後、しばらくして場の空気が落ち着いてから改めて話し合い、拠点建設についての方針は概ね固まった。
特に重要な部分には俺のSF世界由来のチートアイテムも活用しつつ――――イリヤと遠坂嬢もいるのでこの部分は建前上は俺の錬金術の産物として濁した――――大枠としてはアトラス院からの技術と物資をベースに、魔術的な部分はメディアが設計と監修を行う。
更に拠点としての防衛面などの完成度部分においては司馬先生の知見も取り入れるのが良いだろうという事に。
なおトリムマウに憑依した司馬先生をライネスから引き離すのはパスなどの問題もあるので、司馬先生は通信越しスポット参加だった。
「ねえ、大聖杯の重要度は十分わかってはいるんだけど、それでも聞かせて。貴方達、ホントに冬木にこんなトンデモ要塞作る気?」
もっともな発言だ遠坂嬢。
だがしかし、君には健やかに日々を過ごして欲しいから言えないわけだが。
仮想敵が基本、世界滅亡規模の問題だからね!
是非もないよな!
いつも閲覧ありがとうございます。
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誤字報告もいつもホント助かっています。
ほんとは月曜には投稿したかったのですが、気温の激しい変化で体がだるくてひと眠りのつもりが、気づいたら次の日でしたという事が連日。
アレぇ?
この季節のおフトゥンは強敵ですね!
小話
主人公は魔術師界隈では割とガチ目に名前を言ってはいけないあの人的な畏怖を集めています。
武闘派的な戦闘向きな魔術家系ですら単騎で敵対した即日潰したりしているので、まともな判断のできる家はまず敵対しません。
でも悲しいかな、この作品世界は型月世界で、この作品世界にいるのは型月世界の魔術師なんですよねえ。
いや、現実でも後にして思えば結構理解に苦しむ判断をすることって、自分自身でさえあったりしますけども。
多分これは自分だけではない、はず。