Fate Night Unnamed ~チート転生者はデスマーチに挑む(ほぼ強制)   作:空門 志弦

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第113話   俺と遠野家とシエル

 

 洋館の執務室の中で、書類の束を処理する。

 ふむ、こっちの事業は順調。

 資産運用も問題なく堅調だな。

 まあ、ここは俺のチートアイテムに、今となってはBBの協力もあるからミスしようがないと言ってもいい。

 

 カリカリと必要事項を記入し、判を押す。

 なんだかんだで、まだ紙の仕事ってのは無くならないもんだなー。

 などと頭の隅で考えながら、手を動かしていく。

 まっとうな、表側の書類は概ね片付き。

 

 さて、問題はここからだ。

 ここからなのだが……。

 

「そろそろ睨むのやめないか、秋葉ちゃん」

 

 ちょこんと執務室の来客用のソファーに座ってずっとこちらを睨んでいる少女に声をかける。

 長い黒髪にツンとした表情の、今はまだ幼い少女。

 型月世界のある物語における重要人物の遠野秋葉がそこにいた。

 

「仕事が済む前に『また』ふらりといなくなられてしまうと、兄が困りますので」

 

 声が実に刺々しい。

 実際問題、俺がいなくても仕事は回る様に手配しているので、ホントに彼女の兄が困るという事はないのだが。

 そう言う事じゃないんだろうなあ。

 翡翠と琥珀も昼の間はずっと俺にまとわりついていたし。

 

 ちなみに彼女の言う兄というのは、遠野四季の方で遠野志貴の方ではない。

 何なら、実はこの世界線では遠野志貴は存在せず、彼は七夜志貴のままである。

 え、何やらかしたんだって?

 

 考えてみて欲しい。

 この世界、色んな厄ネタ世界をごった煮にしたせいで通常の世界の中でも怪奇な事件が多い。

 どのくらい多いのかというと、通常の世界線比で言ったら世界丸ごとがどこぞのフィクションの犯罪都市かってくらい多いのだ。

 まあ、元々がそういう事件というのは珍しいから、増えたと言っても限度はある訳なんだが。

 そんな状況で怪奇事件に対応可能な七夜とか、滅ぼさずに済むなら残しておくに決まっているんだよなあ。

 

「秋葉ちゃんのいう事は流石に言いすぎにしても、貴方でなければ処理できない事が多いのも事実ですから、もう少し顔を出してあげてもいいのではないですかね?」

 

 少し悪戯っぽく言ったのは、秋葉ちゃんとテーブルを挟んだ向かいのソファーに座って俺の仕事が終わるのを待っていたシエルである。

 からかわれている、というのがわかった秋葉ちゃんがシエルを睨むが、どこ吹く風である。

 この二人、志貴君が間に挟まらなくても何故か相性悪いんだよな。

 性格的な相性は必ずしも悪くないと思うんだけど。

 

「まあ、流石に今回は間が空きすぎたのは認めるから、秋葉ちゃんもそろそろ機嫌を直してくれないか?」

 

 なぜこういう状況になっているかというと。

 月姫関連の厄ネタを事前に潰せるうちに端から潰していたら、なんか俺が遠野家の当主代行に収まっちゃったんだよね。

 この世界の親から受け継いだ遠野の分家筋の血がこんな形で作用するとは。

 しかも、いわゆる型月世界の日本で『魔』と総称される超常存在に関連する家系の総元締めである遠野家の実権と一緒に、本来真逆の立ち位置の退魔の家系も俺が取りまとめてるんだよなあ。

 

「……はぁ。統夜兄さまが非常にお忙しいという事は分かっていますから、今回はこれくらいで許してあげます。お仕事の話の邪魔をするのも良くないでしょうし、私はこれで。……今日は泊って行かれるんですよね?」

 

 秋葉ちゃんが刺々しい雰囲気を収めてそう言ってくる。

 俺は安心させるように微笑んで見せて答えた。

 

「ああ。色々と片付けなければいけない事も多いし、数日は逗留予定だ」

 

 俺の答えにようやく秋葉ちゃんは笑顔を見せて、その後シエルを軽く睨んでからぺこりと頭を下げた。

 

「少し夕食を奮発するように厨房に伝えておきます。それではまた後で」

 

 この部屋にやって来た時とは違う軽やかな足取りで部屋を後にする秋葉ちゃんを見送って、ほっと息を吐く。

 

「慕われていますね」

 

 先ほどの悪戯な笑みとは違う微笑まし気な笑みでそんな事を言われて、思わず肩を竦める。

 

「父親がアレだからな。あの子にとって最初のちゃんと頼れる大人が俺だったんだ」

 

 秋葉ちゃんがまだ幼いことから分かると思うが、この世界線の遠野家周りの時間軸はリメイク世界線よりだ。

 おかげで色々なことが間に合った。

 少なくともこの基底世界で月姫世界線関連の事件が起こることはないだろう。

 依り代を無事のままにというのが少し面倒だったが、ロアもすでに俺の協力によって完全討伐済みだからな。

 

 

 当然、四季君や秋葉ちゃんの血筋からくる問題も解決済み。

 七夜の壊滅も起こらない。

 というか、この怪奇事件満載な世界でそれの解決を手伝ってくれる集団を壊滅とか、絶対許さん。

 問題はそんな下心であちこちに色々便宜はかったり補助を行ってたら、いつの間にか俺が日本のそっち系の総元締めみたいになっている事だな!

 

「秋葉ちゃんが貴方を慕っているのは、そんな浅い理由だけではないと思いますけど」

 

 最近はどうにも忙しくさける時間も限られるのでカレンほどではないにせよ、彼女達もそれなりに大事には扱っている。

 分かってるよ、やり過ぎだって言うんだろ。

 

「おや、少しは自覚が出てきたんですね?」

 

「ちょっと、カレンと話し合う機会があってな」

 

 それだけで大体わかったのか、シエルはその笑みを苦笑に変えた。

 シエルには会った時にカレンの話をすることもあったから、何となく想像がついたんだろう。

 

「そこはとりあえずいい。それで今回はどうしたんだ。わざわざ君が来るというのはよっぽどの厄介事か?」

 

 立場上、聖堂教会と日本の間の大きなパイプになっている俺の所に連絡員が来ること自体は珍しくない。

 冬木の聖杯戦争の一件からあまりに慌ただしくてしばらくこちらに来られていなかったから、このタイミングで人が来るのも納得だ。

 だが、それが埋葬機関のシエルであるとなるとちょっと話が変わってくる。

 

「いえ、たまたまこちらで仕事があった時に、貴方が来ているという話を聞いたものですから。あとはほら、このあたりを本来担当しているノエルはあなたの事を怖がっていますし」

 

 なるほど、ノエルに押し付けられたのが半分、顔を見に来たのが半分といった感じなのか。

 予想とは違う答えが返ってきたな。

 てっきりまた何か厄介事かと思ったんだが。

 

「いえ、別にイヤイヤ押し付けられたというわけではなく、って……統夜くん。貴方、一番直近でゆっくり休んだの、いつですか?」

 

 何か言い訳を始めたシエルだったが、途中でおや? という顔に変わり、だんだん目つきが厳しく。

 おっとぉ、なんか、シエルパイセンの空気が重くなったぞお。

 俺の反応から何やら不穏なものを感じ取られてしまったらしい。

 

「直近というと、えぇと」

 

 こっちの世界で言えば、冬木の聖杯戦争前には少し余裕があったから一か月くらい?

 えぇ、あれからまだ一か月程度しかたってないの?

 特異点に入ると時間がずれるから、そこも加味するともっと時間はたっているけども。

 そっちも加味すると……いや、でも妖精國ではそれなりにのんびりできた時も……まあ、妖精埋めたりモースとかしばきながらだが。

 

「すぐには思い出せないくらい、前なんですね?」

 

 笑顔が怖いな。

 シエルパイセンは前世分も含めても明らかに年上なうえに、そう言う長命の存在としては例外的な真っ当な普通の善人だから、なんかこう、微妙に頭が上がらないんだよなあ。

 

「あー、まあほら、ここ数日はここで書類仕事するくらいですし、休みみたいなものと言いますか」

 

 これから処理するそっち関連の書類で、俺が処理しなきゃいけない様な厄ネタがなければね!

 ふふふ、しかし思わず敬語になってしまったぞう。

 笑顔の圧が強いですパイセン。

 

「そちら関係で何かあれば私が処理します。埋葬機関としても、貴方に協力するためと言えば簡単に許可が出るでしょう」

 

 埋葬機関とは度々協力して事に当たっているからな。

 今となってはもう勧誘はされていないが、勧誘されるまでもなくズブズブであるとも言う。

 いや厄ネタ潰す目的で動いていると、埋葬機関の活動内容的に必然として事件の現場でかちあうんだよ。

 聖堂教会では今じゃほぼほぼ埋葬機関の番外扱いだなんて話もたまに聞く。

 

「というか、そもそも貴方がいてこんな期間ここに足を運べない事情ってどういう事情ですか。貴方の能力で一か月以上かかるとか、どう考えても異常事態ですよね?」

 

 ソファーから立ち上がってツカツカと机の前にまで来て、ちょっと強めに執務机の両手を乗せて、机越しに前かがみにこちらへ顔を近づけてくるシエル。

 相変わらず笑顔は絶やしていないが、目が笑っていない。

 思わず目を逸らす俺。

 

「いや、事件が立て続けに起こりましてね?」

 

「聖杯戦争の話はいくらかこちらにも流れてきています。その件については、聖堂教会の者がご迷惑をおかけしましたと、謝罪しましょう。それで、そのあとは?」

 

 悩みどころだ。

 シエルなら人格的に信用できるし、戦力的にも申し分ない。

 ただ、彼女にはあくまで埋葬機関として動いてもらうのもアリなんだよな。

 事情を知ったうえで今まで通り埋葬機関として動いてもらうのはなしというか、シエルの性格では無理だろう。

 

「統夜君。私は、貴方に大きな借りがあります。いえ、貴方の事ですから借りなんて言い方では好きでやった事で貸したつもりはないと言いそうですね。だから、こう言い換えましょう。私はあなたに大きな恩を感じています」

 

 逡巡する俺を見て取ったシエルがそんな事を言ってきた。

 なるほど、上手い言い方だ。

 貸し借りならこっちから破棄してしまう事もできるが、恩を感じていると言われてしまえば俺からはどうしようもない。

 仕方ない、腹をくくって話すとするか。

 ただ、内容が内容だけに流石にここで話すには問題がある。

 

「そこまで言うなら、わかった。ちゃんと話す。でも、内容がちょっとアレだから、時と場所を選ばせてくれ。そっちも、埋葬機関には軽く話を通しておいてくれると助かる。そうだな、扱いとしては出向のような形をとるのが良いだろう」

 

 シエルが俺の言葉で、一時的とはいえ埋葬機関から代行者を引き抜く必要がある様な問題であることを知って目を見張って絶句した。

 

「それほどの話なのですね? 分かりました。埋葬機関の方に話を通しておきます。そちらが片付いたら……」

 

「エルメロイの方を経由して連絡をくれ。会談の場所は――――」

 

 シエルの立場的に時計塔やエルメロイ関係の場所はよろしくない。

 聖堂教会と魔術協会は微妙な関係だからな。

 となると、やはり。

 

「日本の冬木で。細かい住所なんかはそちらからの連絡があった時に伝える」

 

 そのころには、客を一人迎えるくらいのものは出来上がっているだろう。

 無理だったら、シャドウフォートを持ってきてそこで話してもいい。

 

「で、この話はこれで終わりとして」

 

 机の上の報告書の束に目をやる。

 さて、じゃあ、こっちに取り掛かるとしようか。

 厄ネタ、ないと良いなあ。

 

「私も手伝います。これでもそっち関係はプロですから書類の仕分けくらいは大丈夫です」

 

 俺の微妙な顔を何か勘違いしたのか、シエルが申し出てくれた。

 厚意を断るのも気が引けるし、ここは言葉に甘える事にした。

 なお、結果として俺やシエルの手が必要そうな厄ネタは存在しないようだった。

 

 ……ここで何か、嵐の前の静けさのような物を感じてしまうような状態だから、シエルに怖い笑顔で詰められるようなことになるんだろうなー。

 

 

 





いつも閲覧ありがとうございます。
お気に入り登録、評価にも変わらぬ感謝を。
感想も、いつも楽しく読ませていただいています。

誤字報告もいつも助かっています。
というか、前回はいつもよりちょっと誤字が多かったですね、申し訳ないです。
久々に誤字報告がずらっと並んでいて、(ノ∀`)アチャーとなりました。

見直しはしているんですが、不思議とすり抜けるんですよね。
そして、日によってそのすり抜け具合に波があるという。
集中力か何かの差なんでしょうか。



小話にはちょっと長めのこぼれ話

実は月姫関連で割と好き放題していた主人公。
そのあたりの話が大きくカットされているのは、リメイク版の月姫が完結してない関係で情報の齟齬が大きくなりすぎる可能性がありそうだからだったりします。
現状情報が出てないからあれなんですが、まだ出ていない月姫の裏側の方の事情も可能な範囲で処理しているものと理解しておいてくれてOKです。

ちなみに遠野の前当主は血筋特有の問題の解決を条件にするとともに、主人公の様々な伝手や力も使って隠居に追い込んでいます。
ロアもシエルに手を貸す形で完全討伐済み。

さらに悪さする類の死徒にとっては死神に等しい主人公の、対外的に見て拠点の一つともいえる遠野家周辺に彼らが近づくはずもなく。
かくして月姫関連の事件はこの世界では発生しない事となりました。


魔の家系も退魔の家系も資金と戦力の両面とその他の補助で掌握して、遠野家を頂点とした対怪異集団が形成されていて、時計塔ロードの最強のカードとしてのネームバリューとあわせて、日本国内の他勢力とも緩い協力関係を結んでいます。
このあたり、こんなにうまく行っているのは、切実に怪奇事件の類の解決の手が必要であるという、この世界特有の事情がある感じです。

遠野の血筋がそんなに簡単に退魔の家に受け入れられるのかというと、この世界特有の特殊な事情に加えて、

1、向いていない、あるいは血なまぐさい生活から抜け出したい層への一般人への回帰の道筋の提供(善意もあるが、この型月世界でそんな状態で働かせてもどうせ死ぬし、何なら巻き添え生んでデスマーチの道連れが無駄に減るという切実な理由が大きい)
2、退魔を行う上での物資などのバックアップ(貴重な道連れが以下略)
3、極めつけは退魔の家でも手に負えないような案件が出てくると、どこからともなく聞きつけてやってきてサクッと解決して、何なら危機に陥っていた人員を無事に助け出してくれる(ry

なんてことを何年にもわたって行っていたらどうなるのかという、簡単なお話ですね。
そう、奴はこんなところでもやらかしていたのです。
日本のこちら側の少なからぬ層から、どこぞの鬼殺しの組織の御屋形様みたく心酔され崇められてるとかなんとか。
なお本人的にはデスマの道連れ(手が回らない小事件の解決の人手)が欲しいし減らしたくないという下心でやっているので、『なんでぇ?』となっているというオチ。

一方、聖堂教会の特に埋葬機関からすると、VIPというか、最重要の協力者と言った位置づけ。
ちょこちょこ便利なアイテムや情報を投げてくれるし、そもそも行動が時計塔関係での権力闘争を離れると、人類の守護者としか言いようがないものになっているので、一部からは聖人に推挙すべきでは、なんてトンチキな話が出ている位だったり。
そして主人公的にはやっぱり、デスマーチ仲間を支援し必死で厄ネタを潰しているだけなので、日本の方に比べれば分かるけどそれでも気分的には『なんでぇ?』となるという天丼オチ。


そしてシエル的に主人公は、どう考えても頑張りすぎで『ちょっと休めやこらぁ!?』という想いを抱かずにいられない困ったちゃんです。
裏では彼の話を聞かない日はないくらいで、しかも事件の規模が埋葬機関所属の彼女から見ても毎回おかしいという。
これは世界の危機に繋がりそうな厄ネタを優先して潰しているため必然ではあるんですが、普通こんな頻度でこんな事件を解決し続けてたら人間は絶対壊れる、みたいな状態なので、人が良い彼女からすると心配でたまらないわけですね。

定期的に様子を見に来たりしているのも、ロアの件で恩を感じている以外にそれもあります。
主人公目線からは、彼女は志貴君を好きになるものという印象が強いため気づいていませんが、少なからず好意を持っているから、というのもある感じ。
補足として名前呼びは純粋に付き合いの長さからくるもので男女間的な意味での好感度とは無関係です。
出会った時期から考えると一年二年の付き合いではありませんからね。

ちなみに志貴君は多分このまま行くと、一般人になる道を残したい親の意向で主人公経由で有間家に預けられて、都古ちゃんとさつきちゃんとのトライアングルラブな学園伝奇ストーリーコースとなるので、この世界線のアルクェイドとシエルとは縁が生まれません。
性格も月姫とは少し違う感じに育つでしょうしね。

なおネタバレですがシエルの加入するデスマは次のデスマではありません。

そう、彼女が埋葬機関から許可をとってくる短い間にデスマが一つ挟まるわけです。
まったく、ひどい世界ですね!

そんな世界でこんな主人公なので、シエルは性格的にコイツ(主人公)なら大丈夫だろ、とはなかなかなれないタイプなのもあり今後、主人公を思って胃を痛め続ける事になる訳です。

合掌。

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