Fate Night Unnamed ~チート転生者はデスマーチに挑む(ほぼ強制)   作:空門 志弦

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第114話   ある事件のはじまり

 

 遠野の屋敷での仕事を片付け、秋葉達と一緒に遊んだり勉強を教えたりと色々な面倒を見て幾日かをすごした後のこと。

 屋敷を発つ際には秋葉を筆頭にした子供たちに大分ぐずられたが、何とか説得して離してもらった。

 遠野家にはきっちりと選出した信用できる人間は配置しているんだが、あの子たち視点だと俺の代わりとまではいかないという事なんだろう。

 

 あの家もまた、なかなかの魑魅魍魎共の棲み処というか、親も親族も大概だし。

 大人という物自体にある種の不信感があるのかもしれない。

 最初のうちは遠野家の方に結構な時間を割かなければならなかったからな。

 

 それでも最初の頃に比べれば、それなりの信頼関係は出来ているっぽいのが救いだ。

 今回は流石に間が空きすぎたからちょっと過敏な反応になったが、いつもはあそこまでではないのだ。

 次はそこまで間を空けずに様子を見に行く必要があるだろう。

 

 ともあれ、それはまだ先の事。

 今は目の前のことだ。

 冬木の洒落たカフェの個室に足を踏み入れて、その顔を確認して声をかけた。

 

「待たせたか、エージェント?」

 

 俺の言葉に、個室で待っていた青年が何とも苦々し気な顔をした。

 

「勘弁してくださいよ神薙さん。以前、ふいに貴方にそう呼ばれて以来すっかりトラウマなんですから」

 

 個室に入った瞬間、空気が変わった感じが肌を撫でる。

 遮音と、人除けの結界と言ったところか。

 

「それは悪いことをしたな。しかし、流石にトラウマは言い過ぎじゃないか?」

 

 席に座り待ち人、ファルデウス君と向き合った。

 

「言い過ぎなわけがないでしょう。もっとちゃんと自分の事に自覚をもってくださいよ」

 

 胃をさすりながら言う彼の様子には、どこか哀愁が漂っている。

 そんな怖がらずとも、彼が知っている範囲の俺の情報では別にそんな大したもんでもないと思うんだがなあ。

 せいぜい推定で、埋葬機関序列上位程度?

 ――――なるほど、こりゃ怖がられるか。

 

 いかんな。

 感覚がおかしくなっている。

 判断基準が世界竜と化したアルビオンやら妖精國の諸々というのは、絶対間違っているよな。

 そうだよ、埋葬機関が基準って時点で本来ならとっくに色々とライン越えなはずなんだよ。

 

「……? 急に目元を押さえてどうしましたか?」

 

 急に黙り込んで、思わず目元を押さえた俺の様子を訝しんだファルデウス君が言ってきたのを聞きながら、目元を揉みほぐす。

 

「いや、何。ちょっと我が身を省みていただけだ。気にせず本題に入ってくれ」

 

 少し戸惑った後、居住まいを正した彼はこちらとしっかりと目を合わせてから口を開いた。

 

「わかりました。今回時間をとっていただいたのは、本国の方からある情報が下りてきたからです」

 

 わざわざ冬木まで来たくらいだから、よっぽどの情報なんだろうなあ。

 厄ネタの香ばしい匂いが漂ってきた。

 

「厳密には、協力者からの情報が組織経由で送られてきたんですけどね」

 

 前置きが長いというか、言いあぐねていると言った感じか。

 微妙に目が泳いでいるあたり、相当だな。

 目線で先を促せば、彼は覚悟を決めたように泳いでいた目を定めた。

 

「情報の出どころは、神薙さんもご存じのチェルクからです」

 

 あのティーネ・チェルクの部族からか。

 スノーフィールドの土地……いや、この世界じゃスノーフィールドは存在しないんだったな。

 怪奇事件の類があまりに多かったこともあって政府とそれに与した魔術師とチェルクの部族の接触は、この世界においては比較的穏当にいったらしい。

 

 割と最近、あちらさんの国内の事件発生率もいくらか落ち着いてきた関係でスノーフィールドの開発計画が再燃していたが、俺が間に入る形で計画を修正させたから、この世界でスノーフィールドが生まれる事は二度とない。

 だから何となくあのあたりで大きな事件が起こることはないと思っていたんだが、考えてみればあのあたりはそれだけ強力な霊地であるという事だ。

 

「彼らの管理区域に魔術師が侵入したそうです。それも、神霊に所縁のある禁足地にです」

 

 よりによって、神霊か。

 

「チェルクの一族が防げなかった、という事は相当な力量か規模がでかかったのか」

 

 疑問に思った部分を呟きながら、顎を撫でて考えをまとめていくが、答えを導き出す前にファルデウス君が回答を口にした。

 

「その両方です。侵入したのは国外から流れてきたそこそこの規模の魔術結社が丸ごとという話でした。部族では独力で解決しようという意見もあったようですが、事態を重く見た長がこちらに、というか恐らくは我々を通して貴方に助けを求めたという事なんでしょうね」

 

 念のためにと思って、何かあったら相談するように言っておいたからか?

 現部族長はプライドの高そうな感じだったから、少し意外だな。

 存外、開発計画を変更させたことを恩に感じていたのか。

 

「政府からも、約定に基づき要請が出ています。事態の解決を依頼できないでしょうか」

 

 貧乏くじだなあ。

 開発計画の時も、俺と組織の間に挟まれて顔色を悪くして胃をさすっていたのを思い出す。

 ちなみに約定というのは、諸々の便宜を引き出すことと引き換えの戦力提供と言った感じのものだ。

 あちらからの見返りの中でも情報は流石は国の情報量と情報深度と言った感じで、それだけでも悪くない取引だと思っている。

 

 しかし、そうか。

 神霊案件かー。

 うん、それはちょっと他の人間には任せられないな。

 

 普通の人間だったら報酬が釣り合わないと断っている所だろうが、俺としてはそんな厄ネタとてもじゃないが見逃せないし。

 ちょうどいい口実にはなるから、適当に絞り取れそうな報酬は絞り取るけどな。

 

「急ぎなんだろう? 報酬の交渉は後回しにしておこう」

 

 俺の返事に露骨に胸をなでおろしたファルデウス君が、指を鳴らしてからこちらにメニュー表を渡してきた。

 指を鳴らした瞬間に個室の空気が、普通のものに変わったのは、結界を解除したからだろう。

 

「報酬の件は出来ればお手柔らかに。まあ、急ぎと言ってもここで飲食をする程度の時間はあります。奢りますよ。好きなものを頼んでください」

 

 メニューを受け取り、ニヤリと笑う。

 

「そう言う事なら、遠慮なく。後悔するなよ?」

 

 結構腹が減っているし、ここはかなりの高級店。

 恐らくそこそこの値段になるはずだ。

 

「依頼をすんなり受けてもらえましたからね。ここのメニューを端から全部頼まれたっておつりが来ますよ」

 

 おおう、身につまされる反応だな。

 笑顔が、なんというか薄いというか透き通るようというか。

 

「……苦労してるな、君も」

 

 思わず同情の言葉が漏れると、それを聞いたファルデウス君の目が遠くを見るような感じに変わった。

 

「宮仕えの宿命ですよ。貴方と関わってからは少しばかり心労が増えましたけどね」

 

 最後だけ少し、からかうような調子で言う。

 胃はさすりながらだった。

 

 そうして、俺はこの神霊にまつわる事件に関わる事となった。

 

 

 





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小話

そんなわけで、小事件の開始です。
神霊が関わっている様な事件が小事件扱いになるあたりにこの世界の酷さが現れていますね。
次のデスマーチ前のちょっとした肩慣らしくらいに主人公は思っていますが、当然というべきか、彼の感覚は大分麻痺しています。
憐れ。
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