Fate Night Unnamed ~チート転生者はデスマーチに挑む(ほぼ強制)   作:空門 志弦

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第115話   俺とエミヤとカーチェイス

 

「それで私を連れてきたのか。最悪のケースにおける仮想敵が神霊であることを考えれば、連れてくるのは他のメンバーの方がよかったんじゃないのか」

 

 ある世界線ではスノーフィールドが存在しているはずの地点からある程度離れた場所。

 魔術的にはともかく、経済的な観点からはその代替となり得る地点に存在している都市に入って、すぐの事。

 状況を説明した俺に対して英霊エミヤがそんな事を聞いてきた。

 

 現在の現地の状況が不透明だったこともあって、早期の現地入りの為に使ったのはメディアの転移である。

 そのために説明を行っている余裕がなかったので、都市近くに転移してから案内人との合流地点に移動するまでの間に説明を行うことになったからだ。

 

「そこが難しくてな。連中どういうつもりか、神霊に所縁のある禁足地を確保した後にどうもこの都市を拠点に、例の部族にちょっかいをかけているらしいんだ」

 

 俺の説明に、エミヤはあごに手をやって何か考えている顔になった。

 

「禁足地での何らかの目的を遂げるために、彼の部族の持つなにがしかが必要、という事か?」

 

 まあ、そういう事だろう。

 

「そうとしか考えられないわけだが、長に話を聞いたところによるとそれらしい物品には心当たりがないらしい」

 

 となると口伝の類の情報が必要なケースかとも思ったんだが、それにも心当たりはないという。

 

「物品でも情報でもない、となると……人間そのものか?」

 

「そう考えるのが自然だろうな。聞けば件の禁足地は、元はといえば外来の部族が作り上げた祭壇のような物なんだ。比較的友好的な関係にあったらしいが、その部族は元々零細だったのがそこからさらに衰退して、最終的にはチェルクの部族が吸収するような形で血が混じったらしい」

 

 争いにならなかったのは、そもそも争いになるほどの力が残っていなかったのもあるんだろうな。

 黙認から徐々に交流が始まり、外からの血を求めたチェルクの部族と吸収される形でも血筋を残したかった流浪の部族の利害が一致した、といったところじゃないだろうか。

 

「つまり連中の目的は、その血を引いている人物か。あたりはついているのか?」

 

 エミヤの問いに頷きをもって答えて、足を止めた。

 場所は街でも有数の豪華ホテルの前。

 入口から黒服の一団と、その一団に守られた一人の少女が現れて俺の前に立ち、深々と頭を下げた。

 

「お待ちしておりました、神薙様」

 

 長い黒髪に、他の世界線の物語で見た記憶のある、純白のドレス。

 この世界線では部族に余裕があったために子供を作る余裕が早い時期に出来たのか。

 他の世界線の物語の通りに成長しているティーネ・チェルクがそこにいた。

 

「連中に狙われている君がわざわざ迎えに出てくるのは迂闊じゃないか、ティーネ?」

 

 俺がたしなめれば、ティーネは少し困った顔になってから申し訳なさそうに口を開く。

 

「それなのですが、ここ数日あの者たちの攻勢は激しさを増していまして……」

 

 あー、なるほど。

 どこぞの魔術殺しがやったみたいにホテルごと爆破とかされる懸念が出てきたから、俺が合流したこのタイミングで早々に場所を変えたいわけだな?

 

 前例を作った御仁の義理の息子だった者としては、どう思うよ?

 という意図を込めてエミヤの方を見れば、そっと目を逸らされる。

 もう少し突いてやろうか、と悪戯心が湧いてくるがエミヤが不意に何かに気づいたように顔を素早く別方向に向けた。

 俺もまた同時に同じ方向へ目を向け、それを確認してちょうどよく回されてきた車にティーネを押し込んだ。

 

「車を出せ!」

 

 エミヤもまた運転手に指示を出しながら同じ車に乗り込み、それと同時に車が急発進した。

 加速していく車の後方から、数台の黒塗りの車が急接近してくる。

 

「こんな昼間から、こんな往来で仕掛けてくるなんて!?」

 

 ティーネが悲鳴を上げると同時、後方の車からの銃撃が開始された。

 この車も一応防弾仕様っぽいが、念のために防護の手はいくつか打っておく。

 

「なるほど、こういう案件か。ならば私が呼ばれたのも納得だな」

 

 肩を竦めるエミヤに、俺もまた肩を竦めて返す。

 

「そういう事だ。街中でこういう手で仕掛けられるとな」

 

 他のメンツだと過剰戦力になりがちというか、同じレベルで付き合ってもらいづらいというか。

 量子ストレージからアサルトライフルを二挺取り出して、そのうちの一挺をエミヤに渡す。

 ティーネがぎょっとした顔をしたが、さて、その反応は銃を持ち出したことに対する驚きか、量子ストレージに対する驚きか。

 

「まあ、そういうわけだから付き合ってくれ」

 

 マガジンを確認し、初弾を装填する。

 エミヤも同じようにしてから、一つ頷き答えた。

 

「了解した。期待に応えよう」

 

 ニヤリと笑い少し楽しげに答えたエミヤが、開けた窓から身を乗り出して銃撃を開始した。

 

「適当に相手を捌いてから次の拠点に移動する。しばらくは適当に流してくれ」

 

 運転手に指示を出してから俺も窓から身を乗り出そうとして、ティーネに袖を掴まれた。

 

「あのっ、私も何か……!」

 

 袖をつかんだティーネの手を優しく抑え、努めて気楽に笑って答えた。

 

「相手が曲がりなりにも魔術の隠匿を守っているなら、こちらも付き合わないとだからな。君はお姫様になった気分で大人しく守られていてくれ」

 

 目を丸くしてピシリと固まったティーネを尻目に、今度こそ窓から身を乗り出した。

 とりあえず、相手は4台か。

 相手もバリバリ撃ってきているが、狙いが甘いな。

 車体にはいくらか当たっているが、その程度じゃ意味があるまい。

 

「へたくそ共。狙いってのはこうつけるんだよ」

 

 こちらは素早く狙いを定めて、きっちり三発ずつ。

 撃ってくるために車から身を晒している相手に風穴を空けてやった。

 

「君は基準がおかしくなっていることに気が付くべきだな。走行しながらの狙いなんて言うのはあの程度の精度が普通だ」

 

 そんな事を言うくせに、エミヤもエミヤで当然のように敵に弾をきっちりと当てていく。

 

「言っておくが、私はこれでも英霊だからな?」

 

 ……確かに!?

 街での案件だからエミヤもきっちり現代服なせいで、ちょっと意識から抜けてたぞ!

 そもそもの時点で、周囲に英霊がいるのが普通になり過ぎていて、英霊とか人間とかあんまり意識しなくなってきていたのもあるかもしれない。

 

「ああ、うん。君の状況では致し方ないことだったな。すまない」

 

 気まずそうに謝られたんだが!?

 くっそ、ほんの何年か前まではもっと普通の感覚で生きてられてたはずなんだけどなあ!

 

「謝らないでくれ。余計にキツイ」

 

 そんなやり取りをしながらも、お互いに着実に相手の射手を仕留めていく。

 流石に分が悪いと悟ったのか、残った射手が車の中に身を隠した。

 相手からの射撃がなくなったので、落ち着いて狙いをつけ車のタイヤを狙って射撃するが。

 

「普通のアサルトライフルでは守りを抜けないか」

 

 かなりの数を打ち込んだが、タイヤには傷一つつかなかった。

 エミヤも車両に対して射撃をしてその効果がないことを確認して言う。

 

「恐らく、魔術的な守りだな。見て分かるような魔術でなければ使うことに躊躇いはないわけだ」

 

 魔術の隠匿に引っかからない分には魔術も使ってくるわけだな。

 こちらも使っているわけだし、当然と言えば当然か。

 さて、どうするかな。

 

「まあ、バレなければいいという話であれば、だ」

 

 ニヤリと笑ったエミヤが、アサルトライフルに魔力を通したのがわかった。

 先ほどとは違う、一回り大きなマズルフラッシュと共に弾丸が発射されて、相手のタイヤをホイールごと貫いた。

 脱輪して横転しカーチェイスから脱落する車両。

 なるほど、そういう手か。

 

「そうだな。普通の車は、タイヤを撃たれれば走れなくなるものだよな」

 

 自分もまた、口の端が上がっている自覚があった。

 強化の魔術をアサルトライフルに通し、引き金を引いた。

 三点バーストで発射された弾が、狙った車のタイヤをホイールごとずたずたにした。

 

「おっと、加減を間違えたか」

 

 いままで普通の銃を強化するような機会はなかったからな。

 加減がいまいちつかめない。

 まあ、あのくらいならそこまで問題にはならないだろ。

 

 慌てた相手側の射手が、決死の覚悟で再び身を晒して銃撃を始めたが、恐れるほどの事もない。

 耳元を銃弾が抜けていくなか、冷静さを保ったまま今度はボンネットに射撃。

 車が火を噴いてまたしても脱落する。

 

「なかなか容赦がないな」

 

 くつくつと笑って言ってくるエミヤだが、馬鹿を言え。

 

「ティーネは魔術師とはいえ、まだまだ未熟でいたいけな少女だぞ? それを自分たちの都合でつけ狙うゲスどもに容赦をしてやる理由がない」

 

 そもそも、あの程度の弾が当たったところで俺にせよエミヤにせよダメージらしいダメージにもならないわけで、連中の射撃は牽制にもならない。

 その証拠に銃撃のなか、俺のセリフに楽しげに笑いながらエミヤは引き金を引いた。

 

「ふっ、そこについては全く同感だな!」

 

 弾丸は見事に車輪を破壊し、最後の車両が脱落した。

 さてと、それじゃあ次の拠点に移動するとしようか。

 

 

 




いつも閲覧ありがとうございます。
そして、お気に入り登録、評価、誤字報告いつもありがとうございます。
感想もいつも楽しく読ませてもらっています。

神霊案件が小事件扱いという事実に対する反応が思ったより大きくて、ちょっと笑いました。
これはもしや作者の感覚もちょっとズレてきているのでしょうか?


小話

ティーネがFAKE世界線と変わらない年齢なのは作中で主人公が予想している通り、部族と政府の間が友好的だったために色々と余裕があったためという設定です。

また、なりふり構わず土地を取り戻すという動機もないために、ティーネの兄弟たちは欠けることなく生きています。
結果ティーネは土地との契約を行っておらず、兄弟の中から次期長に選ばれる程度には優秀な普通の魔術師、といった感じに育っています。

一応この世界線でも次の長として最有力なのですが、実は最近ちょっと事情が変わってきています。
主人公の側室として差し出すべきでは?
みたいな話が、長やその側近たちで話し合われているためですね。

部族的には主人公とのつながりをより強固にして、うまく行けば主人公の血を取り入れる事もできる、というかなり大きな利点がある話だからです。
後々のライネスの頭痛の種がまた一つ。

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