Fate Night Unnamed ~チート転生者はデスマーチに挑む(ほぼ強制)   作:空門 志弦

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第116話   名前を得られなかった神

 

 敵の追っ手を片付けて移動した先は、郊外にぽつんと建っている古い屋敷であった。

 建物の感じを見れば、街がこの規模に成長する前から存在していたものであることが伺える、そんな屋敷だ。

 そんな屋敷の一室で俺はある人物とテーブル越しに向かい合っていた。

 

「郊外で、多少騒ぎになっても周りに迷惑が掛からない場所にある一軒家。要望通りだな」

 

 感謝と称賛を込めて物件を用意してくれたその相手に言うが、返ってきたのは渋面である。

 

「意地でも用意するしかあるまい。何しろ君が関わる案件なのだからな」

 

 眉の間に皺すら寄せて答えたのは、この街の警察署長でもあるオーランド・リーヴその人だ。

 所々で別世界線のスノーフィールドと人物が被るのは、やはり土地柄だろうか。

 この街はスノーフィールドの存在したはずの位置の近郊ではあるから、魔術に精通した人員をここに配置しようとすると必然的に彼になったのかもしれない。

 

「人の事をトラブルメーカーみたいに言わないでもらいたいんだが?」

 

 そんな事を考えながらも、つい気になった言いぐさに物を申した。

 誠に遺憾である。

 俺はあくまでヤバそうな案件を潰して回っているのであって、俺自身が問題を起こしたことはない筈だ。

 

「ああ、分かっているとも。君はむしろ善意の協力者なのだろう。だがな……」

 

 オーランドはつらつらと、オーランドの知る範囲での俺が関わってきた事件を列挙していく。

 事件の名前が挙げられるたびに、ティーネは驚愕の声を漏らし、別ルートから合流していた氏族の者たちがドン引きし、エミヤからの視線が同情に満ちたものに変わっていく。

 

「どうだ? これでも私の発言は不当か?」

 

 俺はそっと目を逸らすしかなかった。

 俺が原因でないにしても、俺が関わるような事件は確かに大きな騒動になりがちであるのは事実だからだ。

 俺のそんな態度にオーランドは一つ溜息をついてから、少し口調を和らげて言った。

 

「君が騒動を起こしているわけでも、引き寄せているわけでもないのは理解している。だから以前何度か共にした事件の時も今回も、こうしてしっかりと協力しているだろう?」

 

 だから、と続けるオーランドの声には口調が和らいだ分だけ彼の苦労がにじみ出るかのようだった。

 

「少しくらいは、愚痴のようなモノがこぼれても見逃してくれると助かる」

 

 まことにすまない。

 俺が悪いわけじゃないんだが、思わずそんな風に思った。

 全部、神霊なんて厄介なものに手を出そうとする例の魔術師が悪いんだ。

 

 しばし沈黙が降りたタイミングを見計らったのか、この時点ですでにオーランドの弟子で秘書であるらしいヴェラ・レヴィットがテーブルにティーカップを並べた。

 以前に何度かオーランドと会った時は顔を見なかったが、たまたまだったのか、それとも最近弟子入りしたのか。

 スノーフィールドの存在した世界線でクラン・カラティンと名付けられた特殊部隊に任命されていた他の面子も居たり居なかったりだからな。

 

「どうも。こちらは拠点を手配してもらった側なのに、お茶の用意までさせてすまないな」

 

 軽く礼を言ってから、紅茶に口をつけた。

 俺の礼に、ヴェラはかなりへりくだった様子で丁寧に頭を下げてから口を開いた。

 

「署長はあのような言い方をしましたが、貴方は間違いなくVIPにあたる方ですから」

 

 そんな風に答えてすべての紅茶を並べ終えたあとにオーランドの後ろに控える彼女を何となく見つつ、紅茶を飲みながら再び考えを巡らせる。

 

 目の前にいるオーランドの若さや彼女を含めた弟子の揃い方の状況を見るに、誕生が前倒しになったっぽいティーネが例外であって、それ以外のタイムラインは基本的に変わっていないんだろうな。

 まあ、仮にクランカラティンのメンバーがフルで揃っていたとしても、英霊手製の贋作宝具なしでは戦力としては数えられないが。

 いや、そもそも最悪の場合の仮想敵が神霊では、装備があっても厳しいか。

 

 ……ふむ、今回はともかくとして、先々の話にはなるが。

 エミヤの投影品があればある程度の事件なら彼らで対応できるか?

 いや、さすがにモノそれ自体もそれが作れるという情報も劇薬に過ぎるな。

 

 俺の不穏な考えを何となく勘で察したのか、オーランドとヴェラ嬢がわずかに身じろぎした。

 オーランドが飲んでいた紅茶のカップをソーサーに戻して咳ばらいをする。

 

「あまり弟子に圧をかけないでやってくれ。私でさえ色々と気をつかう君のような男にそれをされては委縮してしまう」

 

 考えの内容までは読めなかったみたいだが、変な圧という形で相手には伝わってしまっていたようだ。

 ヴェラも俺をVIPと表現していたが、今現在の時計塔で最も勢いがあると言っても過言ではないエルメロイの次期当主の懐刀という立ち位置の魔術師というのは、確かにそれくらいには重いのだろうな。

 

「すまない。視線が不躾だったか。ただ初めてみる顔だなと思っただけなんだ」

 

 内心で考えていたこの世界線におけるクラン・カラティンの結成計画はおくびにも出さずに肩を竦めてみせた。

 多少は不審には感じたようだったが、オーランドは見た事がない顔を警戒していたんだろうと納得したらしく、追及はしてこなかった。

 少し空気が微妙になったが、全員が紅茶を飲み終えたタイミングで話を切り出す。

 

「それで、例の結社の連中とその元締めの動きはそっちでどのくらい追えているんだ?」

 

「街での動きなら大体は。だが、連中も馬鹿ではない。こちらが網を張っている街への侵入は、襲撃時のみに限定しているようだ。件の禁足地の付近にひとまずの仮拠点を置いてそこから都度人員を出しているとみられる。結社の首魁はそこから動いていない」

 

 少し悠長にも感じるが……。

 神霊の関わるような土地で何らかの行いをしようと思えば、その中心となるであろう結社のトップの魔術師が動けなくなるのも不思議ではない、か?

 

 エミヤの方に目を向ければ、肩を竦めて首を振られた。

 結論としては俺と同じといったところか。

 総じて情報不足である。

 

「ティーネ、何か禁足地とそこに祀られている神についての情報はないか?」

 

 俺の問いにティーネは少し考える仕草をした。

 

「なんと言ったらいいのか。かの地に眠る神は、そもそも名前がない神なのです。いえ、正確には名前を得ることが出来なかった、という事らしいのですが……」

 

 名前を得る事が出来なかった?

 

「それはどういう?」

 

「彼らが元は外来の部族であることはすでに聞いていると思います。そこから推測できるかもしれませんが、彼らは元いた場所を追われた者たちなのです。そのこともあってか彼らは多くを語りませんでした」

 

 だから情報は少ないのだ、と前おきしてティーネは語りだす。

 

 かつての古い時代。

 宗教は、多くの場合において権力と切っても切れない関係にあった。

 

「彼らのルーツも遡ればそんな古き時代に存在していて、彼らはつまるところ、その権力闘争の敗北者なのです」

 

 一つの神が破れ、新たな神に取って代わられる。

 そんな時期に勃興した彼らの信仰はしかし、大勢としては少数派にとどまり新たな神となる事は叶わず、結局土地を追われることとなった。

 

 新たな神となり名を得るはずだった神は名を持たぬまま、それ故に力の形も定まらず。

 故に彼らは流浪した先々でも敗れ続け、さらに数を減らし、最後は件の禁足地近くにたどり着いて、ついには神を手放してティーネの部族と一つになった。

 

「だからそもそも、例の禁足地の神についての情報というものが最初から存在しないというのもあるようです」

 

 神そのものの情報については語らなかったのではなく、そもそも語りようがなかったわけか。

 名前がなく形がなく、かつての時代から部族が実質的に消えて無くなる近世に至るまで、ただ信仰だけを注がれ続けた神。

 そんな『神である』という定義だけを与えられた、力の固まりという事か。

 何とも厄介そうな話だな。

 

「ただ彼らが語った内容と、持っていた風習などの文化の断片から一つだけ予想出来ている事はあります。彼らの起源は恐らく、現在のメキシコのあたり。時代としてはちょうどテスカトリポカからケツァルコアトルに信仰の主体が変化するまさにその最中と思われます」

 

 あっれぇ~、なんかすごく聞いたことのある名前がエントリーしてきたぞう!

 

 




いつも閲覧ありがとうございます。
お気に入り登録、評価、誤字報告も、いつもありがとうございます。
先週は多忙と不調でちょっと執筆時間が捻出できませんでした。
申し訳ありません。

いやしかし、感想欄を読んでいて改めて思いましたが、やっぱりエミヤ人気ありますね~。
流石はある意味主人公で、作品によっては主人公のバディも務めていただけありますね。

そして、ハリウッド映画っぽいという感想はまさにそこを狙ったので、してやったりといった感じでした。
あのハリウッド映画特有の空気感を想起してもらえたなら嬉しいです。


小話

別に件の禁足地の神と直接的な関係にはないのに、あの二神の名前が出てくるだけで厄ネタ度が跳ね上がったような錯覚を覚えるのは何故でしょうね?

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