Fate Night Unnamed ~チート転生者はデスマーチに挑む(ほぼ強制) 作:空門 志弦
霊墓アルビオンの中を、アロイで駆ける。
採掘都市マギスフェアは非常に興味深くワクワクする場所であったが、涙を呑んで素通りした。
ぶっちゃけ俺があそこに長居をすると、事件が数珠つなぎになって襲ってくる予感がしたのだ。
そんなわけで俺は寄り道を我慢し破格の速度で霊墓内を突き進み、既に中層域に突入していた。
道中、結構な数の怪物の部類に遭遇したが全部アロイで轢いた。
見た目をクラシックなデザインのロイヤルアロイに偽装しているが、実はこのアロイ、イーリアスより強力な中盤も終わりに差し掛かったころの装備だったりするのだ。
そんなもので配送業するなって?
まあ、基本的にはただのバイクとしてしか使ってなかったから、勘弁してほしい。
ゲーム時代からの、特別なお気に入りなんだ。
しかし、霊墓は思った以上にダンジョン然としていて、ついつい隅から隅まで探索したくなる。
今回はそんな余裕もないのが実に残念だ。
轢いた奴らからも色々素材が獲れそうだったんだけどなあ。
俺がいない間を狙ってライネスにちょっかいかけようとする奴もいないとは言えないから、時間のロスは最大限に避けなければならない。
黙々と、ただ一人の帰還者がもたらした情報をもとに、中層と深層のちょうど狭間あたりになる目的地へと向かう。
目的地が近づいてくると、明らかに怪物の量が増え、質も上がった。
向かうたびに増えていく怪物の数。
「仕方がないな、使うか」
思ったより殺意が高かったというか、いや、時間の経過とともにこうなっただけでロード達もここまでの事態は想定していなかった可能性の方が高いか。
多分、アルビオンの細胞片の持つ神秘と魔力に引き寄せられたのだろう。
周囲に尾行などの影はない。
まあ、俺の攻略速度についてこれるやつがいたとも思えないので当然だが。
「イーリアス、アクティベイト。アロイ、偽装破棄」
パワードスーツのイーリアスを纏い、そしてアロイの偽装を解除する。
鏡が割れたようなエフェクトを全体からまき散らしながら現れたのは、イーリアスと同系統の意匠を持ったSF的なデザインの装甲バイクである。
正式名称を戦域走破車両『タイプ・ドレッドノート』という。
ただ、俺は偽装状態のこいつが気に入っているので、固有名はアロイとしていつもその名で呼んでいる。
俺が厳密に分類すればスクーターと呼ぶべきロイヤルアロイを模したコイツを、ずっとバイクとして扱っていたのはこの正体があったからだ。
「リアクターコネクト。ツインドライブ」
パワードスーツとアロイの動力炉をつなげて、出力を高める。
アロイがはっきりと目に見える光の力場を発生させた。
「さあ、行くぜ相棒! ここなら余計な目もないし、巻き込むものは敵だけだ!」
アクセルはフルスロットルだ。
テンション高く、一帯の敵を蹂躙し始めた。
我ながら、速度を出すと性格が変わるタイプかもしれない。
群がる怪物を容赦なく轢きつぶしていきながら、ちょっとだけ自分に引いた。
「……やりすぎたかもしれない」
そうしてしばらくの後、周囲の敵を一掃したら、完全に冷静になってしまった俺がいた。
少しだけ遠い目をしてから、証拠隠滅のために怪物の遺骸を焼却処分していく。
道中の少数の奴ならともかく、流石にこの数はまずいだろう。
証拠隠滅のための処理を全て終えた俺は、さらに奥に向かって、遂にそれを見つけた。
途方もない魔力を発する、神秘に満ちた不定形の黒い塊。
FGOでもはっきりとビジュアルが描かれていたわけではないが、まず、間違いないだろう。
アルビオンの細胞片だ。
アロイから降りて、イーリアスも脱いだ。
たとえ今は自己らしい自己すら持たない細胞片に過ぎないとしても。
この命の欠片がもつ可能性を知るものとして、いまだ生まれざる美しき竜の妖精の器に兵器を纏ったまま触れたくはなかった。
油断だったというべきか。
それとも、結果をもって、正解だったというべきか。
俺がアルビオンの細胞片に触れた瞬間、それは起こった。
一種の感応現象なのだろう。
細胞のみなりとも、竜は竜。
しかも、竜種の冠位たる境界の竜アルビオンの一部であるのだからもっと構えておくべきだったのかもしれない。
それでも悪意があったならば、チートによって弾かれただろう。
しかし、その接触は悪意からのものではなく、純粋な、恐らくは好奇心というべきものからの行為で。
心と魂を撫でられるような感覚の後、気が付けば、細胞片に触れていたはずの手が、白く美しい手に包まれていた。
その手の先へと視線を移して、銀の髪が目に入り、見覚えのある顔に呆然とし、目と目が合って、息を忘れた。
FGO世界線の通りの姿をしたメリュジーヌがそこにいた。
「————メリュジーヌ?」
この世界の彼女がその姿をする因果は存在しないはず……あ、いや、今まさに、俺の記憶から拾い上げて、その姿を選んだのか。
想定外の事態に思考が散らかった。
呆けたように名を呼べば、合わせていたメリュジーヌの目がひどく嬉しそうに細められる。
繋がれていない方の手で、頬に触れられた。
「そう、その名で呼んでくれるのね。ねえ、私はあなたを何と呼べばいい? マスター? 神薙? それとも、統夜? 教えて、私のオム・ファタル」
オム・ファタル。
ファム・ファタルの男性形で、直訳すれば運命の男。
声色と言葉に込められた感情の濃度に眩暈がする。
言葉選びは、FGO世界線で彼女が扮した騎士がフランスに由来するからだろう。
翼が白いし、肌も完全に人間のそれ。
FGOで謂う所の最終再臨の姿。
本来ならあり得ないと言われていた姿で自身を構築しえたのは、俺の記憶と、初めて触れた瞬間から未だに俺と繋がるパスのためか。
ふぅ。
少し落ち着こう。
って。
これが! 落ち着いていられるか!
完全にやらかしてるじゃん!?
「呼び名は、統夜で良い。外に連れて行った時に、マスター呼びは何かと面倒そうだ」
何とか外面を取り繕う。
パスでつながっているメリュジーヌに対してはあまり意味はない気がするが、これは意地で、同時に一種の自己暗示。
「それと、俺についてどこまで見たかは知らないが、本当にそれが必要になるような事態がない限りは、黙ったままでいてくれ」
「ええ、貴方の望むままに」
素直すぎる。
でも、FGOの主人公にしていたようなちょっとわがままな振る舞いがないのに、向けられている感情は遜色がないことを確信させられるんだが。
やっぱりコレ、結果的にとはいえFGO主人公とオーロラのポジションを兼任しちゃったせいで、ヤバイ事になってない?
まって、俺、FGOの主人公みたいな善人には程遠いぞ。
弱いものに優しいって言ったって、俺のはあくまで、明日食う飯を気兼ねなく美味しいと感じるための自己満足であってだな。
おかしい、何で、一目惚れまでされてんの?
竜種は、一種の未来視のような感覚でつがいを見初めるっていうけど、俺の未来って、見えないはずでは?
あ、いや、今は俺とパスが繋がっていて、その情報からある種の機械的な演算をもって未来を計測するなら異能の類と違って未来視に近くとも、あくまで情報からの予測として成立しうるのか?
しかし、俺と共にある未来が、この子にとって、望ましいものだって?
いったん思考を停止して、混乱している俺をニコニコと見守っているメリュジーヌに目を向けた。
ヨシ!
保留!
今考えても、予想に予想を重ねることにしかならない。
ここは、FGO世界線のメリュジーヌに倣って、おいおいで!
「とりあえず、これを着てくれ。普通の服よりは着心地が良い筈だ。あと窮屈かもしれないが、角と翼はしまって欲しい。俺と共にいたいなら、人間に紛れてもらう必要がある」
確か、あんまり服は好きじゃないという話だったので、少しでもストレスが減るように量子ストレージから精神感応ナノマシンなどというオーバーテクノロジーを導入されたバトルドレスの類をインナー含めて一式、渡す。
一応言っておくと、俺が使ってたわけじゃないぞ。
別キャラ用のだ。
「あと、その魔力やら神秘はばれるとまずいから、こっちの隠ぺいの護符も持っておいてくれ」
この護符はどちらかというとこちらの世界の技術で作った、最近の自作アイテムだ。
そう、実は数年の間に、錬金術について一定の答えは得られているのである。
その辺の話は、また後日として。
まあ、色々と悩みどころも多いんだが、これはちゃんと言わないといけないだろう。
「あらためて、初めまして、この世界のメリュジーヌ。君の誕生を祝福する。きっと、色々大変なことにも付き合わせることになると思うが、これからよろしく」
手を差し出せば、優しく、しかし、しっかりと握り返された。
メリュジーヌは、見惚れるような笑顔だ。
「こちらこそ、末永くよろしくね、統夜」
他でもない、境界の竜の写し身たるメリュジーヌが言うのであるならば、きっと本当にそうなるんだろうなと、その末の永い道筋を想った。
諸々のお礼を兼ねた本日二度目の更新、いかがでしたでしょうか。
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