Fate Night Unnamed ~チート転生者はデスマーチに挑む(ほぼ強制)   作:空門 志弦

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第13話   錬金術と胃薬と法政科

「もう一度、言ってくれないか?」

 

 二世の顔は、聞き間違いだよな? 聞き間違いだと言ってくれ! と全力で主張していた。

 だが、現実は非情である。

 

「いや、だから、彼女は言うなればアルビオンのクローンみたいなものなんですよ」

 

 あ、テーブルに突っ伏して、胃のあたりを手で掴んでるな。

 

「聞き間違いでは……なかった、のか」

 

「あー、胃薬いります?」

 

「大丈夫だ。君からもらった胃薬は、まだ十分在庫がある」

 

 最近の二世は、俺の錬金術による謹製の胃薬が手放せなくなっている。

 自慢じゃないが、めっちゃ効くらしい。

 懐から出した瓶から数錠取り出して、目の前にあったコーヒーで一気に流し込む二世に、つい同情してしまう。

 

「君自身に、責任のあることではないというのは分かっているんだ。君はいつも、巻き込まれる側だ」

 

 うん、それは確かにそう。

 たまに自分から首を突っ込むこともあるが、そういうケースって大体人命救助というか。

 

「錬金術でたまに洒落にならないものを生み出す以外は、私にとっては数少ない心のオアシスと言ってもいい」

 

 そんなん思ってたのかよ。

 いや、当初はむしろライネスと一緒にいじったりしていたんだよ?

 でも、前世は一般社会人やってた身として、関わるほどにお労しくて、たまの悪ふざけ以外は仕事手伝ったりと、なるべく気を使うようになってしまったんだ。

 

「だが、その異常な引きの強さだけはどうにかならないのかと、思わずにはいられない!」

 

 コーヒーカップは丁寧においてから、あらためてテーブルを叩くあたりに損で几帳面な性格がにじみ出ているよなあ。

 

「そこについては、俺も割と運命とかに物を言いたいところではありますね」

 

 マジで。

 そこについては、俺も大いに物申したい。

 

「……はぁ……とにかく、拾ってきてしまったものは仕方がない。それに、考えようによっては彼女を手にしたのが君のような人間であったことは、幸運だったとも言えるからな」

 

 まあ、俺もそう思ったから速攻で確保に走ったんだよね。

 

「君が作ったあの護符で偽装している分には、まず正体がばれる事はないだろう。あれは、宝具に迫る出来だからな」

 

 あの護符こそ、二世の言う所の洒落にならない俺の錬金術の産物の一つである。

 

「おかげで、『アルビオンに潜っていた、生きていた時代の定かでない一種のチェンジリング』というカバーストーリーで今回の依頼における戦利品の一つとして認めさせることに成功した」

 

 なお、メリュジーヌが引き離されるようなら時計塔を消滅させると大真面目に宣言していたので、その交渉において実はロード全員の命がかかっていた。

 いや、二世については俺の仲間だって認識だから、二世以外のロードになるか。

 二世に対する詳細なネタバラシを交渉の後に持ってきたのは、正体を知ったうえでまともに交渉できるとは思えなかったからである。

 

「今回の件で、君の影響力はさらに強まったぞ。元から法政科は君に妙に協力的だったが、今回の成果で油断ならざる魔術師として、君の名はロード達の記憶に刻まれただろう。単身、短期間での霊墓アルビオンでの任務完遂はそれほどの偉業だ」

 

「まあ、そのあたりは貴方とライネスで上手く活用してください」

 

 しかし、法政科かあ。

 あそこはトップのロード・バルトメロイから、手出し無用の厳命が下りているらしいから。

 

『利害が衝突をしたら迷わず譲れ。それでもどうしても欲しい利権があるなら事前に彼に話を通して許可を取れ。決して敵に回すな。アレを敵に回した時点で、私はその者を法政科およびバルトメロイの敵として処断する』

 

 そんな宣言が出されたらしい。

 おかげで法政科の化野菱理さんが、めっちゃビビりながら俺に話を通しに来たことがあった。

 この言葉もその時に化野さんの口から聞いたものだ。

 

 そして、その厳命を本人以外に決して漏らすなという命令もあったという。

 流石というかなんというか。

 ロード・バルトメロイとは、彼女の家と珍しく家同士の付き合いのあった前ロード・エルメロイの生家のアーチボルト家の件で一度会っただけなんだけどな。

 

 流石は現代最高峰の魔術師にして現魔道元帥。

 一度会っただけで俺のヤバさと、好き好んで隠れ潜んでいる性質を見抜いたらしい。

 でも、初めて俺を見て目が合った時に出た台詞は、絶対に忘れてやらないぞ。

 

「————これは無い」

 

 ってなんだ、こら。

 ドン引きの中に確かな畏敬が混じってなかったら、思わず決闘を吹っかけていたかもしれない。

 俺が不快に感じたことに気が付いたのか、すぐに謝罪してきて、バルトメロイらしくないその態度にライネスが凄く驚いていたっけ。

 

「法政科については、何か心当たりがあるようだが。言うなよ? 私は聞きたくない」

 

 二世が俺の様子で察したのか、先手を打って意思表明をした。

 気持ちは分かるし、これは大っぴらにするような話ではないから口をつぐんでおくとしよう。

 

「で、肝心の本人……本竜というべきなのか? とにかく彼女は、大丈夫なのか?」

 

 今、話題のど真ん中たるメリュジーヌはライネスとお茶をしている。

 あれで女性には紳士的というか、特に子供相手は甘いところがあるからな。

 ライネスとカレンに対しては、少なくとも今の時点ではかなり友好的に王子様モードで対応してくれていた。

 俺の意を汲んでくれているところも間違いなくあるんだろうなあ。

 

「少なくとも、俺の大事にしているものを傷つけるようなことはないでしょう。むしろ守ってくれるかと」

 

 俺の答えに、二世は目の間に指をやって揉みほぐすようにした。

 

「君は、世界征服でもしたいのかな?」

 

 俺にどこぞの征服王のような趣味はないぞ。

 まあ、メリュジーヌの手綱を完全に握れているというのは、それくらいに重いってのは確かだけど。

 

「そんな面倒くさい真似はごめんですよ。好きな事して、ほどほどに稼いで自由に生きるのが性に合っています」

 

「彼女を手にしたのが君であった事は、本当に天の配剤だったな……まあ、君の願うその生き方は、ちょっと君には縁遠そうだが」

 

 言ってはならないことを。

 自分でも、魔術世界に足を踏み入れた時点で半ば以上諦めていたけど。

 

「それは言わないお約束ってやつですよ、二世……」

 

 思わず、哀愁を漂わせながら言葉がこぼれる。

 多分だがBBのあのメッセージを聞いた時点で、俺の運命は致命的に切り替わったのだ。

 今にして思えば、あのタイミングであのメッセージを送ったのは、それを狙ってのことだったに違いない。

 

「すまん、心無い言葉だった」

 

 お互いベクトルは違えど、思っていたのとは違う人生になってしまっている者同士として妙なシンパシーがあった。

 俺と二世の仲が良いのは、多分こういう部分もあるんだろうなあ。

 二人して、深いため息を吐く。

 

「いや、なんだかんだで楽しんでいますし、ライネスもカレンも大事な家族みたいなもので、今の人生そのものに不満はないんですけどね」

 

「ああ。私も、なんだかんだ生徒の成長を見る事は嫌いではない」

 

 だが、時々はありえたかもしれない別の可能性ってやつに思いを馳せてしまうだけである。

 

「……君が飲酒を出来る歳になったら、良い店に連れて行こう。家で一緒に飲むのでも良い」

 

「それは、なかなか楽しみになる未来ですね」

 

 二人で笑い合って、とりあえず難しい話はそこでひとまず終わりとなった。

 

「ああ、そう言えば錬金術の方で聞きたいことがあったんですよ」

 

 ちょうど良いので、そんな話を振った。

 本来ならこの時間は、俺への講義の時間だったのである。

 事情が事情なので、話はどうしても今回の依頼の件に寄ってしまったが。

 

「ふむ、そういえば本来ならこの時間は君の講義にあてる時間だったな。いいだろう話したまえ」

 

 さて、ちょっと前も話したが、ここ数年で錬金術については進展があった。

 まず、失敗の要因がわかった。

 ぶっちゃけて雑に言うと、ゲーム時代のクラフト能力が魔術に干渉していたのである。

 魔術で物を作ろうとしているのに、無意識にチートが発動してコンフリクトを起こしていたのだ。

 

 これに気が付いたのは実はカレンに出会った時だ。

 カレンに渡した状態異常避けのアイテムだが、あれがお手製のいわゆるクラフトアイテムだったのである。

 

「内燃機関の仕組みをもとに汎用性のある魔力炉を形成してみようとしているんですが……」

 

 まあそれによって、クラフト能力と錬金術が変に干渉している可能性に気が付いた俺は、しばしの試行錯誤の上でその二つを切り離すことに成功した。

 そして、そこからは基礎的な錬金術はスムーズに習得して、さて、では俺にとっての錬金術における研究テーマは何だろうかとなった。

 

 俺がもとから魔術師であったなら、そもそも家の方針みたいなのがあったんだろうが、俺は出自に謎がちょっとあるが、ポッと出の魔術師の部類。

 自分でそういった方向性を探る必要があった。

 

「相変わらず君の発想は、科学寄りというか。そうだな、しいて言えばアトラス院的なのか?」

 

 型月作品などの描写から見るアトラス院の研究成果の方向性を考えると、確かに近いと言えるかもしれない。

 結局、俺が定めた方向性とは、チート由来のSF的な産物の錬金術による再現であり、そして将来的なSF的産物と錬金術との融合であった。

 

「まあ、科学的見地を足掛かりに科学を超えたものを作り出そうとするアプローチですからね。実際似ているんじゃないでしょうか。現代魔術科の生徒としては、実にらしいでしょう?」

 

 俺が笑って言うと、二世も口もとをニヤリと歪めた。

 

「なるほど、確かにそうかもしれないな」

 

 その日の講義は実に為になる、流石二世とうなってしまうようなものであった。

 途中、日本製のゲームの物語上の技術の再現の可能性などに脱線したのは、俺と二世の趣味を考えれば当然と言えば当然である。

 何気にそのあたりの講義も凄くためになった。

 でもこれ、実現したら二世が頭抱えるんだろうなあ。

 

 

 

 





週刊一位を達成出来ました!
そして昨日お礼をしたばかりなのに、気が付けば評価が300人超え。
お気に入りも、7000越えです。

本当に圧倒的感謝……!

これからも楽しんでいただけるように、まずは毎日の一回の投稿を確実にできるよう頑張っていきたいと思います。



5月19日 追記

文中の「天の配剤」という言葉につきまして誤字報告を一定数いただいています。
これについては、ちゃんと慣用句として存在している言葉でして、エルメロイ二世はこういう難しい言葉使うよね、と言うイメージで喋らせています。

誤字ではないですよ、と誤字が中々ゼロにならない私が保証いたします☆
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