Fate Night Unnamed ~チート転生者はデスマーチに挑む(ほぼ強制) 作:空門 志弦
雑踏の中を、一人の少女を連れて俺は歩いていた。
「本当に、ここで間違いないんですか、おじ様」
微妙に感情に乏しい声で聴いてくる三つ編みの少女に俺は重々しく頷いた。
夜の街中を、帽子を目深にかぶって歩く今の俺の姿は、偽装もかねてシブいイケおじといった感じになっている。
体格はパワードスーツで一回り大きく見せているので、完全に大人のそれに見えるだろう。
顔も特殊な迷彩で完全に別物である。
この姿は、チートを使う必要が出てきそうな案件に関わる時に使っている変装姿。
メリュジーヌと出会ったことで、短期間であればライネスの守りを彼女に任せられるようになった俺は、折を見ては情報収集と人脈構築を兼ねた細々とした厄ネタ潰しの遠征をおこなっていた。
「間違いない。これの効果は実証済みだからな。だからエーテライトを使おうとするのはやめろ、シオン。人生を楽しみたいのであるならば、それは間違った選択だ」
シオン・エルトナム・ソカリス。
トリスメギストスの演算をもとに、俺の存在を予期して接触してきた彼女に、悪魔を探知する機能を持った一見すると懐中時計に見えるアイテムを見せながら忠告する。
「貴方は、養父と同じようなことを言うのですね」
そりゃ言うとも。
未熟で人格の形成が十分でない人間にとって、あれは毒以外の何物でもない。
人から情報を直接抜くことが可能なあの技術は、コミュニケーションを不要にするし、知らなくていいような情報も拾うだろう。
それが、人格形成においてどれほどの損失であり、悪影響である事か。
めんどうくさかろうが、効率が悪かろうが、己を形作るうえで他者とのコミュニケーションは欠くべからざるものなのである。
「大人が二人そろって同じ忠告をしている事実を、重く受け止めておくことを勧める」
「貴方のその姿は、偽りでしょう」
「君より年上であることに変わりはない」
なお、おじ様呼びはこんな怪しい中年が子供連れ歩いているとあれなので、叔父と姪という設定で通すためのロールプレイである。
今回の事の発端はトリスメギストスが計算不能なイレギュラーがあるとしてエラーを吐いた事。
そんなイレギュラーを計測不能な部分を逆説的に証明することで捕捉して、見事に俺を見つけたシオンは、やはり優秀だ。
なお、そんな正体不明の不確定要素である俺に対するシオンの態度は地味に懐疑的で、思春期の反抗を想わせて微妙に和んでいるのは秘密だ。
とにかくシオンは俺の力と人格を測るために現れた監視者のようなもの。
なのだが、シオンには悪いが今回の悪魔は、俺が手を下すまでもないかもしれない。
何故かと言えば、この街にはすでに聖堂教会でも切り札にあたる特務機関的立ち位置の埋葬機関に所属するある人物が到着しているからである。
「ところで、埋葬機関の人間に接触するという事でしたが、場所は分かっているんですか?」
「問題ない。もうすぐ到着だ。この町一番と名高い、カレー店にな」
看板が見えてきた。
シオンを連れて、店の扉をくぐる。
店に入ると同時に、香ばしい香辛料の匂いが鼻をくすぐった。
軽く店内を見渡して、その人物を見つける。
まっすぐに彼女のテーブルに向って、その前に立ち、言葉をかけた。
「相席をさせてもらって構わないかな、シエル嬢」
俺を見て軽く溜息をついた彼女は着席を促す。
「ありがとう。シオン、君も座ると良い」
俺が言うと、シオンも席に座った。
彼女たちは、お互いがお互いを見て意外そうな顔をする。
「アトラス院の六源の血筋の娘を連れ立っているとは」
六源というのは、アトラス院におけるロードにあたる存在と思って間違いない。
「そういう貴方は、埋葬機関の第七位ですか。貴方の専門は死徒だったと思いましたが」
しかし、妙に火花が散っているな。
まあ、シオンの養父は既に吸血種化している様なので、その辺で何かあるのかもしれない。
そんな風に考えていると、シエルの鋭い目は俺の方にも向けられてきた。
仲が悪いというわけではないのだが、何度か獲物を先に始末していたりして、商売敵的な面があるせいだろう。
「そう怖い目をするな。君が手を出すなと言うなら、今回の件は君に任せるとも。むしろ、今日は君たちに有益な取引を持ち掛けに来たんだぞ?」
店員さんにカレーを二人分注文してから、そんな台詞を言うが、シエルは胡散臭げである。
おかしい、何度か軽く遭遇はしたが、そんなに疑われるようなムーブは彼女に対してはしていないはずなんだが。
「あなたほどの実力者が、聖堂教会の情報網をもってしても素性が掴めない。それだけで十分警戒対象です。……まあ、貴方の行いから、悪い人間ではないという事は理解しているつもりです。勧誘はことごとくかわされますが」
まあ、人にあだなす様な厄ネタを狩ってまわっているからな。
埋葬機関からの俺を取り込もうとする動きは実際ある。
「俺は、神の類はあまり信じていなくてな。そのもとで、人々に手を差し伸べる者には相応の敬意を払うがね」
いつものやり取りはここまでとばかりに、懐から今回のもっとも重要な用件となるアイテムを取り出した。
「悪魔という現象に対抗するためのものと思しき、神代の遺物をレストアしたものだ」
先ほどシオンに見せた懐中時計と同型のもの。
まあ、神代の遺物と吹かしているが、俺がチートを使って制作したアイテムである。
悔しいがまだ、錬金術の方では同じレベルの物は作れなかった。
「悪魔を探知し、ある程度その属性をも指し示す作用を持っている。私にも必要だから譲ることができるのはその一つだけだが、一つでも十分に君たちの職務の助けにはなるだろう」
シエルの目が驚愕に見開かれた。
「お陰で、非常にスムーズに悪魔が狩れました」
数日後、俺はまた例のカレー店でシエルと会って礼をされていた。
前に会った時とは打って変わって上機嫌である。
実際悪魔というのは、真性悪魔を除けば余程の大物でない限りは見つけるところにこそ困難がある。
まあ、そう言ってしまえるのは、俺や埋葬機関のシエルだからこそではあるんだが。
「対価に何をお求めですか。最大限の便宜を図って構わないと許可が出ていますから、とりあえず何か言ってみるのもアリです」
おお、思った以上に高値がついたな。
しかし困ったぞ。
ぶっちゃけこれって、本来彼らが手にするはずだった悪魔の探知手段になり得るカレンをこっちで確保してしまったが故の補填で、厄ネタ解決の責務のおすそ分けというか。
「こう言っては何だが、それは君たちに苦難を招く物だぞ?」
思わずそんな言葉を漏らすと、シエルは驚いた顔をしてからとても優しい顔になって言う。
「なるほど。元から悪い人間だとは思っていませんでしたが、貴方はそういう人なのですね」
ここ数日、俺の力を見る機会を失ったことで微妙に不機嫌だったシオンもまた興味深そうに俺を見ていた。
そして、シオンは不思議そうに俺に問いを投げる。
「そう言いつつ、貴方はその苦難を招く物を自分のもとにも残しているではありませんか」
「俺にとっては苦難と言うほどのものではないからな」
実際、手に余るものであるなら、さっさと埋葬機関に丸投げしていただろう。
そんな風に言って肩を竦めた俺に、シエルが何か言おうとしたその時、店に一人の男が駆け込んできた。
シエルを見つけて足早に近寄り、耳元に何事か囁く。
その囁きを聞いてシエルの顔は愕然としたものに変わった。
パワードスーツの作用で強化された俺の耳には確かに聞こえた。
『アインナッシュの仔が近づいてきている』と。
「悪魔の存在にでも呼び寄せられたか?」
「聞こえてしまいましたか。そうですね、その可能性は否定できません」
切迫した空気の中、俺は努めて冷静に状況を整理する。
「勝算は?」
「今回はそこまで強力ではない悪魔祓いが任務。本来死徒が専門の私が派遣されたのもそのためです。そして、その前提があったために、装備はそれ用のものしかありません」
つまり、アインナッシュの仔を殺しきれるような装備が手元にないという事か。
「アインナッシュの仔と、装備の到着、どちらが早い?」
その問いには、沈黙が返された。
つまりはそういう事だ。
俺は席を立った。
「せっかくのカレーを残すのは心苦しいが。後始末くらいは任せられるな?」
当然、カレーの話じゃない。
「どうにかできるのですか?」
シエルが聞いてきたので、軽く頷く。
すると彼女も席を立った。
「一人の方がやりやすいのだが?」
いや、マジで。
チートが使いづらくなるから、ここにいて良いのよ?
「そういうわけにはいきません」
く、彼女の責任感の強さが仇になったか。
そして、シオンもまた席を立った。
まあ、そうだろうな。
シオンは、もとより俺を測るために来ているわけだし。
はぁ、しかたがないな。
シオンなら俺の情報を流布することの危険性が良く分かるだろうし、シエルも性格的に約束さえ取り付ければ口をつぐんでくれるだろう。
「ついてくるのは構わないが。これから起こることは他言無用に願う」
日間一位に返り咲いたり、びっくりなことに評価500人が見えてきたりと、これはお礼をせねば不作法と言うもの、と言った事態につき、日曜をフル活用してお礼を用意しました。
よって、本日は19時にも投稿いたします。
いやもう、ホントにありがとうございます。
お気に入りもまだモリモリ増えてくれていますし、評価も嬉しいし、モチベ爆上がりです。
誤字報告も、凄く助けられてますし。
誤字報告については本当は頼らずに済むのが一番いいんですけどね。
なんで自分で書いた文章って、見直しても誤字を見逃すんだろう。
ともあれ、いつも読んで楽しんでいただいていることに改めて感謝を。
これからもよろしくお願いします!