Fate Night Unnamed ~チート転生者はデスマーチに挑む(ほぼ強制) 作:空門 志弦
アインナッシュの仔とは、死徒二十七祖に属する腑海林アインナッシュという吸血植物から生まれた存在。
大本の存在に似た性質を持ちつつも独自の進化を辿る人喰いの移動する森のようなものである。
厄介な点は大きくは二つ。
まずは、その質量。
何しろ森一つ丸々である。
まともな火力では一気に倒しきるのは難しい。
だから、基本的には森に分け入って、その幹を一本一本倒していくしかない。
ここで問題になるのが、もう一点の性質だ。
アインナッシュの仔の形作る森は概念的には言うなれば、その体内に近い。
そんな場所が、正常な空間と呼べるはずもなく、大気中の魔力の支配権はアインナッシュ本体ほどではないにせよアインナッシュの仔に偏り、大規模な魔術の行使は困難となる。
実はシエルであれば、これを倒しきる魔術の行使も不可能ではないはずだが、彼女にとってそれは、過去のトラウマに直撃する精神的苦痛を伴う禁じ手の部類。
ここは俺が受け持つのが最善だろう。
「とはいえ、やはり火力が足りないか。しかも、このアインナッシュの仔、よりによって再生能力に振ったタイプとはな」
アインナッシュの仔はそれぞれが独自の性質を得て、その性質に合わせた特性を持つ。
たとえば事件簿世界線に現れたアインナッシュの仔は、雪原の森といった姿をしていた。
このアインナッシュの仔は言葉にするのであれば、『繁茂』の性質を持つ、といったところか。
切った端から生え直って、キリがない。
同行したシオンやシエルも手伝ってくれているが、焼け石に水だ。
こんな性質じゃなければ、今の装備でも勝算は十分あったんだが。
「思った以上に質が悪い性質ですね。アインナッシュの仔という存在との噛み合いが良すぎる」
黒鍵を投げながらシエルがこぼす。
実際その通りで、一度に始末できないような大質量と、際限のない再生能力という組み合わせは最悪と言ってよかった。
一方で、俺が今使っているパワードスーツは、変装に利用している偽装能力などからもわかると思うが、どちらかと言えば、悪魔や死徒といった癖の強い相手を狩るのに向いた、対単騎の特殊装備の部類。
まあ、相手が朽ち果てるまで延々刻んでいくくらいは訳ないのだが、今回は時間制限付き。
こいつが街に到達したら、あの街は消えて無くなることになるだろう。
それは流石に許容できない。
「シエル、貴方を見込んで、約束を結びたい」
ボイスチェンジャーを切って素の俺の声で呼びかける。
シエルが驚いて一瞬手を止めた。
「あの悪魔探知機の対価として、俺の正体をたとえ所属する埋葬機関が相手であっても、黙っていて欲しい」
現在の装備を破棄して、本来の姿を現した俺を見て、シエルは瞠目する。
「エルメロイの魔人……! まさか、エルメロイの魔人とUnnamedが同一人物!?」
えぇ、エルメロイの魔人ってのは聞いたことあったけど、Unnamedって何?
「俺、あっちの姿だとUnnamedとか呼ばれてたのかよ」
思わず言うと、シオンが呆れた調子で突っ込みを入れてきた。
「知らなかったんですか。あなた、あっちの姿だと『名乗る名などない』とか言っているからそんな名前が付くんですよ」
だって、偽名の管理とか面倒じゃないか。
でも、名乗る名はないって言っていたら、要は名無しって意味の異名になるとは。
「それもありますが、貴方の戦績から名前を暴くような真似をすることすら恐ろしいといった畏怖の意味もあっての二つ名です」
なんで、Fate世界で、名前を呼んじゃいけないあの人みたいな扱いを受けているのかな、俺は?
いや、わかるけどさあ!
小出しとはいえチート使って、死徒だの悪魔だの厄ネタになりそうなの端からシバいていればそりゃそういう扱いになるだろうけど!
ええい、こんなはずじゃなかった人生の鬱憤、貴様で晴らしてやるぞ、アインナッシュの仔め!
ひどい八つ当たりだが、悪く思うなよ、俺は悪くない。
街の方なんかに進路を取ったお前が悪い。
「イーリアス、アクティベイト」
イーリアスは、装備のランクとしてはさっきまでの変装に使っていたパワードスーツと大差ないが、初心者救済用の特別機だけあって汎用性が高く、様々な状況に対応が可能だ。
しかも、様々な装備で能力の拡張もできる優れもの。
この世界でイーリアスを愛用しているのには、それなりの理由があるのだ。
「『アエトス・インシネレート』アクティベイト」
領域焼却兵装『アエトス・インシネレート』はプロメテウスの肝臓を食らった逸話を持つ鷲の名を冠する、範囲炎攻撃用の装備である。
よりにもよって、また誤解を受けそうな名前であるが、これは俺の責任じゃない。
元からこういう名前なのだ。
多分、制作会社の悪ノリだと思う。
「道を開く。二人は退却してくれ。それを確認したら、一気に焼き払う」
SF的デザインの大型の火炎放射器といった装備から、凄まじい炎の弾丸が発射され、一方向への退路が形成された。
俺は偽装解除状態のアロイを呼び出して二人にそれに乗るように促し、同時に指で退路を指し示す。
シオンはそれらの装備に対する興味に意識を持っていかれているようだったが、シエルは俺の正体を見てからずっと気遣わし気な視線を向けて来ていた。
————お人好しめ。
その優しさは、俺には不要なものだ。
少年の姿をしている俺が、二つ名を表の顔でも裏の顔でも頂戴するような生き方をしていることに心を痛めたんだろうが。
そもそも、前世の事も考えれば実際の魂の年齢は偽装していた姿の時の方が近いし、こんな規格外の力に守られている俺に心配なんて、するだけ無駄というものである。
「君は俺の事なんて気にせずに、多くを背負っている自分の事と、いつか出会うかもしれない誰かさんの事を気にしていれば良い」
二人が搭乗したのを確認してアロイに指示を出し、自動で発進させた。
俺の大して聞かせる気のなかったその言葉が聞こえたのか聞こえなかったのかはわからないが、シエルは何か言葉をかけようとしていたようだった。
だが、俺はあえて無視をした。
しばらくの間、うっぷん晴らしもかねて火球をばら撒き破壊活動にいそしむ。
良い気分でアインナッシュの仔相手に放火魔を決め込んでいると、アロイから安全圏まで退避したという報告が上がってきた。
しぶとく俺を排除しようと襲ってくる木々を、火球モードではなく火炎放射モードで薙ぎ払い、周囲に一瞬の空白地帯を生み出した俺は、空へと飛び立った。
一息のうちに、アインナッシュの仔が届かない高空に舞い上がり、兵装を構えた。
「『アエトス・インシネレート』超過駆動。焼却結界形成」
兵装から複数の杭のようなものが打ち出されて、アインナッシュの仔が存在する領域を包む結界が形成される。
いわゆる装備固有のスキルってヤツなんだが。
これ、端から見たら宝具の発動に見えたりするんだろうなあ。
そんな風に思いつつも、やるしかないので引き金を引いた。
結界内に、兵装内で生成された超圧縮された炎が転送され、炸裂する。
結界によって大分減少しているがそれでもかなりの光量を発して、周囲がまるで昼のような明るさになった。
光が収まった後には、結界の中には何一つ残っていなかった。
根の部分まできっちり焼却するために、結界は地中まで広がっていたようで、結界の形に添うようにして、地面もきれいになくなっている。
「やっべ、ちょっとやりすぎた」
俺は悪くない。
とは、これについてはちょっと言えないかもしれない。
街を去る前に、もう一度あの店のカレーを食べようという話になって、また例の店で三人でテーブルを囲んでいた。
街一番のカレー屋というだけあって、妙に癖になる味なんだよなあ。
「後始末をそちらに任せてしまってすまなかったな」
「いえ、あの状況で地形が少々変わるだけですんだのはむしろ幸運ですから。町からまだだいぶ距離がありましたから、隠蔽も楽でしたしね」
そう言ってもらえるとちょっと罪悪感がマシになるなあ。
聖堂教会の隠ぺい担当している人たちには悪いことをしたと思っていたのだ。
などと思っていると、シオンが口を開いた。
「あまり甘やかすのは推奨できませんね。彼の持つ力は理外のもの。気軽に振り回されては世界がもちません」
耳がっ、耳が痛いぞう!
かなり自重はしているつもりなんだが、時々テンションのせいで加減をミスることは否定できない。
顔を隠す迷彩の下では多分、俺の顔は歪んでいるだろう。
態度にまで気分が出ないようにカレーを口に入れて、気を取り直した。
やっぱ旨いよな、この店のカレー。
誤魔化すような俺の態度に、シオンはじっとりとした眼を向け、シエルは苦笑した。
「悪魔の件で力を測れずどうなるかと思いましたが、そういう意味ではアレは良い機会でした。おかげで貴方という人の力と人格がある程度わかりました。とはいえまだ十分とは言えませんが」
そのシオンの言葉通り、これから後、彼女には何度も依頼を振られたりすることになった。
まあ、アトラス院と伝手が出来たと思えば悪い話ではない。
それが、あのシオン・エルトナム・ソカリスであるならば、この上ないと言って良いだろう。
「今回は、例のアイテムの事も、アインナッシュの仔の事も助かりました。約束は約束として守りますが、それとは別として、そのうち何かお返しはさせてもらいます」
シエル、というかシエルを通して埋葬機関ともつなぎが取れるようになったのも大きい。
それはそれとして、彼女とは仕事がバッティングしたときや、イギリスに来た時にカレー屋を一緒に巡るようになった。
まあライネスや二世からは、いったいどこでそういう人脈を拾ってくるんだと呆れられたが。
正体がばれたのはまずいかと思ったが、シエル相手であればそう悪い話でもなかったかもしれない。
おかげで、表向きの立場でも埋葬機関につながりが持てた。
どこで知り合ったかと聞かれたら、カレー屋でと答える事になっている。
それで普通に通ってしまうあたり、流石カレー先輩である。
せいぜいが小物の悪魔をシバいて、悪魔探知機を埋葬機関に渡すだけのつもりが、アインナッシュの仔なんていうものの相手をすることになったのは想定外だった。
しかし、成果を考えればまあ、それなりに釣り合っている案件だったのではないだろうか。
うん、感覚が麻痺している感が否めない点だけはちょっと問題かもしれないな。
本日二度目の投稿、お楽しみいただけたでしょうか。
多少なりとも読者の皆さんへのお礼になっていれば嬉しく思います。
これからも頑張ってまいりますので、どうぞお付き合いください!