Fate Night Unnamed ~チート転生者はデスマーチに挑む(ほぼ強制) 作:空門 志弦
第17話 俺とメディアとアトラム・ガリアスタ
当初は、手を出す気はなかった。
遠巻きに眺め、ヤバイ個所や見逃せない部分だけ、適宜に手を出す程度のつもりでいたのだ。
だっていうのに、あのバカアトラムめ。
妨害も忠告もしたってのに、結局生け贄調達しやがったな?
その手の無駄はメディアの嫌う所だ。
彼女からすれば、そんな効率の悪いことは必要なく、アトラムとは不和の種になる。
別にメディアにしても、効率の面で否定しているのであって道徳の面でそれを否定するわけではない。
ああ、確かに魔術師にはよくあることだよ。
俺だって見えていないところにまで手を出すほどには、お人好しじゃあない。
この世界、そこまで面倒見ていたらキリがないしな。
「だがな、アトラム・ガリアスタ。俺はお前に忠告したぞ、やめておけ、と」
結果として、俺はアトラムの工房を強襲した。
理由は二つ。
一つは、生け贄に買われた者たちを、目に入ってしまった以上は見捨てるのは後味が悪かったから。
もう一つは、どうせこのままなら工房もろともアトラムも生け贄も死ぬわけで。
二世に対ハートレスのヒントを送ってくれた分の対価としてアトラムの命は助けてやるから、工房の生け贄、全部俺がいただいてやろう、と……うん、こうして言葉にしてみると我ながら結構アレだな。
なんだかんだ魔術の師匠であるライネスの性格にちょっと毒されたか?
「なんのつもりだ、エルメロイの魔人! まさか、最初からこれを狙っていたのか!?」
んなわけあるか。
むしろ想定外だわ。
「見苦しいですね、マスター。いいえ、元マスターと言うべきかしら」
俺の後ろに控えているメディアが、忍び笑いをしながらアトラムを嘲る。
「やはり裏切ったのか、メディア! ふん、伝説は本当だったな。裏切りの魔————」
最後まで言わせずに、顔面ごとその口を掴んで黙らせた。
やめろよ、めんどうくさい。
お前を見逃してもらう対価にマスターになる羽目になったってのに、台無しになりかねんわ。
メディアはちょっとイラっとはしたようだったが、顔を掴まれたアトラムの間抜けな顔を見て鼻で笑い、見逃してくれた。
「裏切りっていうのは、信頼の形成されている者同士の間でしか発生しない。お前はそれ以前だろ。そもそも、こっちの忠告をことごとく無視しやがって」
手出しする部分を少なくするために色々忠告してやったというのに、ここまで活用できないとか思わなかったぞ、ちくしょう。
ホント魔術師ってやつはよう。
「きっちり人格を持った神代の魔術師相手に、お前の立ち回りはお粗末に過ぎるんだよ。俺が介入しなかったらお前、死んでたからな? とっくにメディアに出し抜かれてたのに気づいてもいないじゃないか。メディアとお前の契約が切れている事に、俺は関与していないぞ?」
アトラムの目が驚愕で見開かれる。
神代の魔術師相手に隙を見せ過ぎというか、魔術を破棄するルールブレイカーの説明自体は受けていた癖にちゃんとそこを封じられていない時点で役者が違い過ぎる。
結局、こいつは今の今までサーヴァントってやつを正しく理解できていなかったのだ。
別の世界線での末路も、順当な結果と言わざるを得ないだろう。
「メディアとは俺が話を付けた。恥を飲み込んで命だけ拾って帰れ。俺はこれでもお前の事を、それが出来る程度の器量は持っていると見込んでいるんだがな?」
顔を掴んでいた手を放して告げる。
こいつは魔術師然とした魔術師で、ぶっちゃけ悪党は悪党だ。
しかし、二世の件で借りがあるし、少なくとも魔術師としての道までは踏み外していない。
まあ、二世の件がなかったら見捨てていた程度には俺は嫌いだが。
アトラムは悔しそうに歯噛みをしたが、これ以上の反抗はしなかった。
まあ、工房は制圧済みで、相対しているのは俺とメディアだ。
この男も流石に、ここで逆らうほどの愚か者ではない。
結局、敗北を受け入れて去って行った。
「あの男に助けるほどの価値があったの?」
「あの男自身の価値は俺にとっては大したこともないが、あいつは俺の教師で友人の男に小さくない貸しを作っていてね」
メディアの問いに肩を竦めて答える。
「性分として、貸し借りはきっちりと清算しておかないと落ち着かないんだ」
「貸し借りに対して誠実なのは、魔術師として悪くない性分よ。大事にしなさいな、マスター」
おのれ、俺が聖杯戦争に乗り気じゃないのをわかっていて、あえて、マスター呼びを強調しやがりましたね?
「ところで前から疑問に思っていたんだが、なんでメディアの蔑称って裏切りの魔女なんだ? 伝説の経緯を見てると、言っても精々が復讐の魔女だと思うんだが? そのへん、本人的にはどういう見解を持っているんだ?」
俺の反撃が思わぬものだったのか、メディアはポカンとした顔をした後に、こめかみのあたりを押さえた。
「あっけらかんとまあ、よくもそんなことを本人に聞いたものね」
自分が先に揶揄った事実と、俺が悪意を持って問いを投げていないことを理解しているメディアは、呆れはしたが、怒りはしなかった。
「時代背景というか、当時の文化的なものでしょうね。女は男に従うもの。魔術師は英雄を助けるもの。そんな前提の上では、私の行為はそれが復讐という動機であっても、裏切りとして勘定された」
なるほど、やっぱり魔術師として成熟した後のメディアは冷静というか、この問いにこういう答えが返ってくるなら、ちゃんと信頼をおいても大丈夫そうだ。
こういうのは、物語として知っていたって、ちゃんと話してみないと分からないところがあるからなあ。
「なるほど、わかりやすい説明だった……来たみたいだな」
懐から錬金術で最近作った中でも傑作にあたる認識阻害効果を持った狐面を取り出して被る。
「そのようね。ところで、本当にあなたが前衛で良いの?」
「大丈夫だ。問題ない」
問題がある時の定番の返しをしたが、まあ、大丈夫だろう。
何しろ、神代の魔術師の魔術的バフが得られるのだ。
本気で来るならともかく、最初から様子見のつもりのクー・フーリンの相手なら十分できる。
そして、工房の扉が開き、クー・フーリンが姿を現した。
「ん? 妙だな。キャスターのマスターは、金の長髪の色黒な男だって聞いてたんだが」
「ちょっと事情があってな。マスターを代わることになった。まあ、大したことじゃない。どうせやることは変わらないだろう?」
いぶかしむクー・フーリンに、俺は気楽な調子で返した。
その答えが気に入ったのか、獰猛な笑みを浮かべて槍を構えるクー・フーリン。
何で来るのがわかっていて、さっさと逃げなかったかというと、答えは簡単である。
参加する以上は俺としても、この聖杯戦争のサーヴァントの戦闘力というものを測っておきたかったのだ。
仕掛けたのは俺からだった。
床を蹴って瞬時にクー・フーリンへと肉薄し、メディアによって強化された拳を叩きこむ。
自らも魔術で強化をしてメディアのバフまで受けた俺の動きは、クー・フーリンをして驚愕に値するものだったようで、一撃目の拳はそこそこ良いのが入った。
そこそこ、というのは、わずかに打点をずらされてクリーンヒットとはいかなかったからだ。
「っ、おもしれえ。テメエ、ただの魔術師じゃねえな? まさか魔術師の方が飛び掛かってくるとは思わなかったから、面食らったぞ」
クー・フーリンの表情が驚愕から楽しげなものへ切り替わる。
そして、お返しとばかりに振るわれた槍を蹴りで迎撃すれば、周囲に衝撃が走り、建物の壁に亀裂が走った。
お互いに弾かれた反動を利用して2撃目。
今度は拳と槍がぶつかり、火花のようなものが散った。
実際には火花ではなく、俺の拳を包むメディアのバフが発したスパークだ。
人間離れした速度で攻撃の応酬がしばらく続いたあと、不意にクー・フーリンが距離を取った。
「おいおい、お前ほんとに魔術師かよ。それ以前に、そもそも人間か?」
「ずいぶんな言い草だな。きっちり生物学上は人間だぞ。あと、昨今の魔術師に近接戦は必須科目だ」
目の端で、最近の魔術師について複雑な感情を抱いていそうなメディアが目に入った。
うん、ゴメン。
流石にちょっと盛ったかもしれない。
「せっかく楽しくなってきたのに口惜しいが、ここまでだな。これ以上は完全に命の取り合いになる」
クー・フーリンが槍を収めたのを見て、俺も構えを解いた。
「次は殺すぜ、ゲテモノ魔術師」
「失礼な奴め。だが次は殺すはこっちのセリフだ、槍使い」
あえて真名は呼ばない。
そもそもお互いに、ここで決着をつけるつもりはないのだ。
争いの種をわざわざ投げる必要もなかった。
クー・フーリンが霊体化して姿を消してこの場を去って行く。
こうして俺達だけしか知らない聖杯戦争の初戦は、引き分けに終わったのだった。
まずは、ここまでお付き合いいただいている皆さんに改めて心からの感謝を。
おかげさまで大きな反響をいただいておりまして、執筆意欲がモリモリです。
つきましては、応援してくれている皆様に軽く今後の展望などお話しようかと思います。
ネタバレと言うほどのものはありませんが、不要な方は読み飛ばしていただいて大丈夫です。
さて、では、お話しいたします。
ついにと言うか、本話より主人公のデスマーチの、その前章が始まりました。
ええ、実は今までの事件はウォームアップみたいなものだったのです。
この前章を超えた先に、本当のデスマーチがまっているのです。
既存キャラクター達も、実は出番はそこからが本番。
特にタグに記載のあるキャラクター達にはメインストーリーに絡んだ出番が用意されています。
タグにない既存キャラクターにも出番がもちろんありますし、ネタバレを避けるためにあえてタグに乗せていない名前もあったり。
デスマーチの合間には日常回や小事件などでのタグ外のキャラクター掘り下げ等も予定しています。
とはいえ、そこはまだ少し先の話。
まずは、最後の下ごしらえともいえる、デスマNo.0をお楽しみいただければと思います。
そんな感じで頑張ってまいりますので、よろしければこれからも、閲覧、お気に入り登録、評価投票、感想などで背中を押してやってください。