Fate Night Unnamed ~チート転生者はデスマーチに挑む(ほぼ強制) 作:空門 志弦
あー、こりゃ、いるな。
やれやれ。
召喚前に片付けられたら一番面倒がなかったんだが。
「それじゃ、キャスター。手筈通りに頼む」
夜道を歩く桜を尾行しながら、メディアと話す。
なおメディアは当世風の衣装で普通に俺の横に立っている。
魔術で隠蔽していなかったら、男女で連れだって女子高生を尾行するの図である。
まあ、見た目は完全に事案だ。
「言う通りにはするけど。貴方、結構無茶苦茶するわね」
狐面を装備して、隠蔽魔術を解除する。
物陰から姿を現すころには、メディアが周辺を包む二重の結界を張り終えていた。
流石メディア。
仕事が早い。
「やあ、お嬢さん。こんな時間に出歩くのは感心しないな。特にこんな時期には」
軽い口調で、やあと手を上げながら声をかける。
すぐにメドゥーサが姿を現して桜の守りに入った。
「何者です」
メドゥーサは警戒心マックスである。
気持ちは分かるし、妥当な反応だと思う。
今の俺は見るからに怪しいからな。
「時計塔の魔術師だ。ちょっとこの聖杯戦争に気になる部分があってな。そのあたりの解決のために協力者を探している所なんだ」
桜はおびえた様子のまま口をつぐんでいる。
まあ、ぶっちゃけ彼女は魔術師と言うにはちょっと事情があれだからなあ。
なので、交渉するなら彼女ではない。
「どうだろう、メドゥーサ。その少女を助ける事を対価に、俺達に協力するつもりはないか?」
「何故私の真名を――――!」
「そこはたいして問題でもないだろう? どうする。俺とキャスターなら、その子を自由にすることは容易いぞ」
これは事実だ。
はっきり言って、メディアがいれば桜を支配している間桐臓硯を完封するくらいは簡単である。
いくら妖怪じみた魔術師とはいえ所詮は現代の魔術師。
なまじ魔術と言う土俵に立っているがゆえに、メディアに対しては勝算がない。
まして俺から魔術の種が明かされていては、なおのことである。
「それを信用しろと?」
「信用したほうが幸せになれると思うけどな?」
襲い掛かってこないという事は、信用は出来ないまでも、交渉の余地はあると言った感じか。
よしよし、良いぞ。
このまま会話を続けようじゃないか。
「とはいえ、君の協力以外にも当然、条件はある。聖杯戦争に生き残った暁には、彼女の家の聖杯戦争関連の資料はこちらで接収する。また、派閥としても、うちに所属してもらう事になるだろう。まあ、悪いようにはしないよ。むしろ後ろ盾はあった方が何かと安心だぞ?」
メドゥーサは黙り込んだ。
まあ、そこは仕方がない。
サーヴァントは現代の情報を聖杯から与えられはするが当然限度はある。
時計塔の政治状況なんて、当然判断が付かないだろう。
「そちらからも何か条件はないのか? これは話し合いだ。お互いに条件を出し合って折り合いをつけていこうじゃないか」
鷹揚な印象を持たせる身振り手振りで語りかけ続ける。
メドゥーサはあごに手を当てて、思考を始めた。
優先順位を考えているんだろう。
「まず、聖杯戦争中の桜の身の安全は絶対です」
俺はゆっくりと深く頷く。
「状況が状況だから確約とはいかないが、最大限配慮しよう。英霊の協力さえ得られるなら彼女自身は本人が望むなら、安全な場所に逃れていてくれても構わない」
むしろそっちの方がありがたいまであるからな。
だが、衛宮士郎がいる以上は、彼女がこの街を離れる事はないだろう。
「条件が良すぎます。いったいどういう……待ってください、貴方のサーヴァントはどこに?」
おっと気づかれたか。
だが、まだ大丈夫。
「会談の邪魔をされたくなかったんでな。周辺の警戒に当たってもらっている」
「相手のサーヴァントを前にして?」
「君は、その子の前で、敵対的な姿勢を見せていない無防備な相手を襲うのかな?」
そう言われてしまえばメドゥーサは返す言葉を持たなかった。
根がまじめで桜には甘いから、行動が縛りやすくて助かる。
そのあとも、条件を詰めつつ時間を稼ぐ。
そして、キャスターが張った二つの結界のうち一つが解除されて、桜が倒れた。
「桜っ!? 何をした魔術師!」
桜を抱き起しながら武器を構えるメドゥーサに、俺は肩を竦めながら答えた。
「臓硯が死んだんだ。さっき解かれた結界は、臓硯がその子の中に逃げ込むのを防ぐためのもの。あれが解かれるのは、キャスターからの成功の合図だ。まあ、あの妖怪のごとき男の事だから自分が死んだ後になにがしかの仕掛けは施しているだろうとは思っていたが、案の定か」
俺の答えにメドゥーサが息をのむ。
「臓硯を、仕留めたのですか……!?」
「俺ではなくキャスターがだがな。その子を死なせたくなければ、コレを使ってやれ。寄生生物の類を除去する作用がある薬と、まあ、一種のエリクシルだ」
量子ストレージから取り出した寄生デバフ用の回復薬と、完全回復薬を投げ渡す。
メドゥーサは少しためらいを見せたが、桜の状態が悪い事と、この状況で俺が毒を盛る理由が薄いこともあってだろう、結局は桜に薬を使った。
薬の効果はすぐに表れて、桜の表情が安らいだものになる。
「————なんて効果。エリクシルと言うのもあながち冗談ではなさそうですね」
桜の回復にほっとしながらも、驚きの言葉をこぼすメドゥーサ。
そのメドゥーサに向かって俺は名刺を投げ渡す。
名前は書かれていない、連絡先だけの簡素な名刺だ。
「用は済んだ。その子を想うなら、君はともかく、その子はもう聖杯戦争には関わらせない事だ。もし何か助けが必要になったならそこに連絡しろ」
戸惑うメドゥーサに背を向けた。
「さっきまで話していた条件は、受けるなら大体そのまま通してやる。これでも派閥内ではそれなりに影響力がある」
ちょうどいいタイミングでメディアが別の道の先から歩いてきて合流した。
疲れた様子すらなかったが、それでも感謝と称賛を言葉として伝える。
「良い手際だ。流石だな」
メディアは悪い気はしていない顔で、それでも口では謙遜を返してきた。
「あの程度の魔術師を始末して褒められるのもね。現代の魔術師としてはやる方なんでしょうけど」
神代でも指折りの魔術師に、やる方、と評されたならあの妖怪も十分大したもんだったということだろうな。
「協力を求めに来たのではなかったのですか?」
去ろうとする俺に、混乱しながらメドゥーサが聞いてくる。
「もうわかっているんだろう? それは、ただの時間稼ぎのための方便だ」
俺の簡潔な答えに、彼女は首を振るとさらに問いを重ねてきた。
「そこがわかりません。行動を見る限り、貴方は最初から臓硯を始末して桜を助けるつもりだったとしか思えない。何故なのです?」
そりゃまあ、なんというか。
「苦しみを知っていて放置していたが、本意ではなかったし、ちょうど今回は機会が出来たから心懸かりを晴らしに来た。それだけだ」
そう、これは本当にそれだけの話なのだ。
厄ネタたりえる桜の黒い聖杯としての因果を遠ざける意図も無論あるが、俺にとっての本題はそこだ。
ギルガメッシュという不確定要素も、マスターの一人、それも脅威度の低いキャスターのマスターとしてなら、しばらくは小物の小競り合いとして見逃すだろうという目算があったしな。
俺の答えを聞いていたメディアが呆れたようにため息を吐いた。
一方でメディアのその反応から、メドゥーサはそれが嘘ではないと察したようだった。
そして唖然とした雰囲気を発しながら呻くように言葉をこぼす。
「そんな、まさか、本当にそれだけの理由で……?」
「諦めなさいな、メドゥーサ。まだ付き合いは短いけれど、マスターは本当に、そう言う人なのよ」
おやあ、なんか言い方に棘がないかなあ?
いや、まあ、聖杯戦争で自分以外のマスターに対してやるにしては、敵に塩をトラック単位で送るような真似ではあるんだけど。
「それより、さっさとその子を家に連れ帰ってベッドにでも寝かせてやれ。もうあの家に、その子をさいなむ妖怪はいないんだからな」
まあ、小物のワカメはいるけど。
臓硯がいなくなれば、ワカメの方はどうとでもなるだろ。
あれで、魔術に対する変な固執がなくなればそこまで悪いやつじゃないしな。
「聖杯戦争が終わった後は、姉を頼るなり、渡した連絡先に連絡するなり、好きに本人に選ばせろ。ただし、その子自身の未来における安全の事を考えるなら、無策はやめておけ」
さて、言うべきことは言った。
謎の狐面はクールに去るぜっ!
いつも閲覧ありがとうございます。
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これからも執筆頑張っていきます。
ちょっとした小ネタ
ライネス→主人公 「こいつ最近、義兄にやり口が似てきたな」
二世→主人公 「やはりなんだかんだで、ライネスの弟子だな。やり口が似ている」
主人公→二人 「二人ともベクトルは違うけど、やり口がえげつないなあ」
カレン→三人 「鏡を三人分、用意するべきかしら」
追記
何かがオカシイ、違和感がある、でも何がオカシイのかわからない、と思っていたらメドゥーサさんの名前でした。
脳内ではいつも、ライダーさん呼びだったばっかりにorz
ご指摘、誤字報告、本当にありがとうございました。
そして、ほんと、まじでごめん、ライダーさん。