Fate Night Unnamed ~チート転生者はデスマーチに挑む(ほぼ強制) 作:空門 志弦
ライネスを送り届けた俺は、さらなる厄介ごとに巻き込まれる前に、そそくさと彼女の屋敷を後にした。
そして、尾行などを避けるためにまたステルスを起動。
適当に遠回りをして、自分のアパートに戻ってきた。
アパートの扉を開けて中に入った俺は、しっかりと施錠をしたのを確認して、まっすぐにベッドに向かって歩く。
ほとんど倒れこむように横になり呻いた。
「マジかー。Fate世界かー」
俺のチートは正直かなり規格外で、Fate世界でも完全に浮くレベルだ。
だから恐れる気持ちはあまりなかったが、どうしたってげんなりする。
ライネスに会えたのは、正直型月ファンとして、Fateシリーズファンとして嬉しくもあったのだが。
「厄ネタ多すぎんよー。いくらチートがあるっつったって、こちとら元一般人ぞ? マジで勘弁してほしい」
人前ではあんまり出さない素の愚痴を漏らす。
だが愚痴ってばかりもいられないのだ。
服の中から手帳を取り出した。
これもまた見た目が手帳なだけのSFガジェットだ。
一種の情報端末。
この時代に似つかわしくないオーパーツそのものな、超技術も良い所のアイテムで情報を精査する。
————冬木の大災害は起こった後。
ライネスの年齢から予想は出来ていたが、第四次聖杯戦争は済んだ後か。
この時点で、FGO世界線の可能性はまず消える。
現実世界の聖杯が汚染されているってことだからな。
同時に地味に厄い、プリズマ世界線もなし、と。
まあ、これはこれで冬木の大聖杯とあわせて何らかの処置を考えなきゃならないが。
とりあえず、一番厄いFGO世界線の可能性が避けられただけましと思うべきだろう。
世界に衰退の兆候は見えない。
次点で厄いEXTRA世界線もとりあえず現時点では考えなくて良いだろう。
順当にロードエルメロイ二世の事件簿の世界線と見て良いのか?
それだと、非常に助かるんだが。
そんな楽観に思考が染まり始めた時、俺のチートの産物である情報端末から聞こえるはずのない声が響いた。
聞き覚えしかない、あの音楽と共にだ。
端末の画面に、そいつの姿が映った。
「BB~! チャンネル~! 出・張・版!」
――――いや、マテマテマテマテ!?
EXTRA世界線はない筈だろ!
いや、そもそもEXTRA世界線だとしたって、いまBBが存在しているのはおかしい!
「はい、恐らくただいま現在、まさに絶賛大混乱中であろうイレギュラーさんこんにちは! あ、事前に言っておきますけどコレは一方通行のメッセージですので受け答えとかできませんので、あしからず!」
一方通行、ってことは、メッセージだけ送ってきているってことか?
しかも、恐らくは、時間を超えて。
BBが、わざわざ?
厄ネタの匂いしかしないんだが?
「あ、しぶーい表情をしていますね? わかりますよー? でも、諦めてくださいね! あまり長いメッセージは送れないので端的に! その世界、貴方のチートがないと詰みますから」
最後の言葉だけは、ひどく真面目な。
本気の時のBBが出す声音だった。
一気に室温が下がった心地がした。
「とりあえず今日はそれだけ覚えて帰ってくださいね! それではさようなら! なおこのメッセージは自動的に消去されまーす!」
「おいコラ待てやBBぃぃぃぃ!? お前なんて言い逃げの仕方しやがる! つーか覚えて帰るも何も、ここ自宅だからな! いや、そうじゃなくて絶対余計な演出しなかったらもっと情報送れただろ!? BB!? もっとちゃんと説明しやがれください、BBぃぃぃ!?」
思わず端末に向かって叫ぶ。
返事がないのはわかっているんだが、そうせずにはいられなかったのだ。
くっそ、もし会う機会があったら絶対しばく。
だが、少しして冷静になってくると、ゾワゾワと背筋が冷たくなっていく気がした。
懸念点は多い。
あのBBが、わざわざこんな真似をした。
それも、俺がこの世界がFate世界だと気づいたタイミングを狙い撃ちで。
俺が魔術関連の情報を調べることをキーにでもしたのか?
とにかくだ、おちょくる目的だけなら良いが、BBは俺を何故か知っていて、たったこれだけのメッセージを、それでも送った。
後にはデータを残さない徹底ぶり。
メッセージが最小であることも、そうである必要があるから、ではないのか。
俺のチート由来の情報端末でさえ、発信元は追えなかった。
それも当然。
この端末はチート由来だが、要はスマホだ。
BB相手に逆探とか流石に無理ゲーである。
ただ、恐らくはBBからのヒントのようなものだろう。
着信時間だけは残っていた。
予想通りに、はるか未来の日付で。
どうも、この世界。
単純にロードエルメロイ二世の事件簿の世界線というわけではないらしい。
そして、恐らくだが、それを知らせる事もまたBBの目的だったのではないだろうか。
その数日後にこの家を訪れたライネスの依頼を聞いて、俺はさらにその疑念を深めることになる。
BBの一件の所為で寝不足気味だった俺は、迂闊にも頼んでいた荷物の宅配だと思って、確認もせずに扉を開いてしまった。
寝不足とはいえ何たる痛恨。
完全にやらかしである。
ライネスが俺を調べる事は予想出来ていたんだから、もっと警戒しなければならなかった。
扉を開いた先に立っていたのは、すぐに扉を閉じて回れ右したくなるくらいに実にイイ笑顔をしたライネスだ。
実際そうしようとしたのだが、付き人の黒服が足を挟んできたので叶わなかった。
「おやおや、ずいぶんつれない反応じゃないか。こんなに可愛らしい少女が健気にも居場所を探して、わざわざ訪ねてきたというのに」
「鏡を見てから言え。可愛いのは認めてやるけど、ヤバいくらい邪悪な笑顔だったからな?」
俺の言葉に大仰な仕草で悲し気な感情を表現してくるライネスだが。
「だからその邪悪な笑顔を隠せ。いや、お前、表情くらい作れそうだからわざとだな? 仕方がないから入れよ。話くらいは聞いてやる」
俺がそう言うと、今度こそライネスは純粋に嬉しいといった笑顔になった。
「うん、なんだかんだで話が早いのは良いことだ。正直もう少し拒否されるかと思っていたよ」
「無駄なことに労力を使うのは疲れるからな」
「大変結構」
鷹揚に頷きながら言うライネスは、実に満足げだ。
そして、部屋に通すと、興味深げに室内を観察し始めた。
「まるで、探偵映画の事務所か何かだな」
俺のアパートの部屋はレトロな内装であり、まさにそのあたりをイメージしてインテリアを整えたのでその感想は正にドンピシャと言って良い。
だがそのあとに続いたライネスのセリフには思わず首を傾げた。
「『午前零時の亡霊便』あるいは『ロイヤルアロイの悪魔』そんな都市伝説の正体が住む家としては、ふさわしいのかズレているのか」
「なんだそれ?」
「知らないのかい? いや、案外本人は知らないものなのかもしれないな。君が題材になった都市伝説だよ。なぜか一度も赤信号に捕まらないだとか、追ってもいつの間にか見失うだとか」
あー赤信号は、アロイの演算機能で避けてたからな。
見失うってのは、要はこの前も追っ手に使った手の事であろう。
しかし妙に追いかけられる機会が多いと思ったら、そんな都市伝説になってたのかよ。
「まあ、座れよ。今は豆を切らしているからインスタントになるが、コーヒーはいるか?」
俺が一応は客だしと思って聞くとライネスは、首を横に振って依頼内容をすぐに切り出してきた。
「いや、結構だ。あとの予定が詰まっていてね。単刀直入に言おう。私を、ある屋敷まで配送して欲しい。もちろん、配送品である私には、傷一つなくだ」
BBのメッセージを聞く前であれば、余程深刻そうな様子でもなければ断っていただろう依頼だった。
そして、BBのメッセージを聞いてしまった今では無視することが難しい依頼だ。
色々と情報を得るために魔術関係の伝手も得なければと思っていたこのタイミングで、この依頼。
内心だけで溜息をついて、俺はライネスに話の先を促した。