Fate Night Unnamed ~チート転生者はデスマーチに挑む(ほぼ強制)   作:空門 志弦

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第20話   俺と岸波白野と岸波白野

 ————或る少女の話をしよう。

 

 その少女は、月の檻の中で目覚めた。

 目覚めた時、少女は本当に何一つ、持っていなかった。

 それこそ自分自身すら。

 それでも何一つ持たないままに戦い、形にならないものを、しかし確かに積み上げていった。

 

 最初に求めていた失った自分自身なんて、彼女にはなかったけれど。

 それでも彼女は、それまでに積み上げたものと、自身にかすかに残る自分ではない誰かの名残を胸に進む。

 月の表側を裏側を、あるいはその先の未来の可能性の中を。

 ただ、その心の強さを武器に、決して諦めることなく駆け抜けた。

 

「岸波白野、穂群原学園1年。なんでか、アサシンのマスターに選ばれました」

 

 どこぞの作家先生のサーヴァントを思い出して、ノリで語ってみたが。

 つまり岸波白野とはFateシリーズの中の、ある一連の物語における主人公である。

 作品形態的に主人公選択時に性別を選択できるため、岸波白野は男女の両方存在していた。

 辿る運命は、ほぼ等しく、その性格も表面的な部分を除けばだいたい同じと言われている。

 

「神薙統夜だ。一応、魔術師をやっている」

 

 ここで問題になるのが彼女達の作品内におけるそのポジションと世界への影響力である。

 今回の第五次聖杯戦争を描いた作品の主人公にあたる衛宮士郎と比べた時、その重要度はやばいほど違う。

 もし仮に衛宮士郎が存在しなかったとしても、多少の差異はあれど世界はそれはそれで回り続けるだろう。

 桜と黒聖杯周りが少し怪しくなるが、あれらの解決に衛宮士郎は必ずしも必須ではない。

 だが、世界線にもよるものの、彼女達が存在しない場合、それだけで人類が滅び得る。

 

「そして彼女はキャスター。俺のサーヴァントをやってくれている」

 

 俺の生きるこの世界線がどういう世界線なのかは、いまだに正確にはわからない。

 しかし、彼女達の存在の前提となりうる、この目の前の岸波白野は絶対に死なせるわけにはいかない。

 未来において彼女の不在が、どんな形での詰み要素になるか知れたものではないからだ。

 

「アサシン、姿を現して。……大丈夫だから」

 

 今現在の場所は、本日の俺たちの宿になっているホテルの一室。

 俺と、メディアに岸波白野。

 そして今、アサシン……呪腕のハサンが現れた。

 そうか、普通に召喚を受けたなら、やはり第五次聖杯戦争では呪腕先生が召喚されるのか。

 

「マスター。ご命令ゆえ、姿を現しはしましたが、相手は魔術師。あまり油断なさいますな」

 

「それについては、俺としても同感だな。正直、助かりはしたが、もう少し警戒心は持ったほうが良いぞ?」

 

 マジで。

 いや、でも、ついてきてくれて助かったけど。

 本当に助かったけど。

 うっかり戦闘になって没交渉になったりしてたらと思うと、俺まで胃薬をがぶ飲みしたくなってくるわ。

 

「いや、何で神薙さんがそっち側なんですか!?」

 

「心配になるからに決まっているだろ。俺が言うのもなんだが、魔術師ってやつは基本ろくでなしだからな?」

 

 社会の一般的な規範よりも、自身の探求を優先する連中が集っているのが魔術界隈ってヤツであるからして。

 善意とか道徳とか、基本的には期待してはいけない。

 

「そんな。私、騙された?」

 

 よよよ、と大げさに嘆いてみるあたり、本気で騙されたとは思っていないな?

 危機感がない、と言うよりは俺を信用してるってことか。

 見る目があると言うべきか、引きが強いと言うべきか。

 流石は岸波白野、と、思っておこう。

 

「一応、私からも言っておくけれど。マスターが稀有な例外なだけで、基本として魔術師についてはマスターやアサシンが言う通り、ろくなものじゃないと思って対応するように忠告しておくわ」

 

「キャスターとして呼び出されるような英霊が言うと、説得力があるな」

 

 ちょっと面白く感じて、つい笑ってそんなことを言うと、メディアに鋭い眼で睨まれた。

 ごめんて。

 

「仲が良いんですね?」

 

 俺たちの様子を見ていたはくのんが、クスリとしながら言って、呪腕先生が何か感心したような様子でおのれの顎を撫でた。

 あけすけに言われてしまって気恥ずかしくなったのか、メディアは少し目を逸らした。

 一方で俺は、堂々と頷く。

 

「なんだかんだ上手くやっているとは思うぞ。まあ、キャスターが合わせてくれている部分が大きいかもだけどな」

 

 実はサーヴァントと上手くやれているという事実は、俺にとって結構な自慢と言うか。

 聖杯戦争ってサーヴァントとの関係が凄く大事だし。

 そこを抜きにしても、Fateシリーズのファンでもあった身として、自分と契約してくれているサーヴァントと上手くやれているというのは、それだけで嬉しかったりするのだ。

 

「まあ、こちらの事を少しは知ってもらえたと考えるとして、今度は君の話を聞かせてもらってもいいかな?」

 

 そう促すと、はくのんは自分の事を話し始めた。

 身の上としては、天涯孤独の孤児であるらしい。

 奨学金を貰って穂群原学園に通っていて、バイトをしながら大学の為の資金をためているとか。

 まあ、そのあたりはとりあえず良しとしよう。

 

 呪腕先生を召喚したのは、友人に誘われて断れずに昔に殺人事件があったという家に肝試しに行った時のことらしい。

 その家は、肝試しを主催した友人の親がもっている不動産の一つらしく、買い手が付かずにずっと空き家のままだったとか。

 

 肝試し中に、どこからか入り込んでいた猫に驚いて彼女以外の全員が逃げ散り、猫の存在に気が付いていた彼女だけが残った。

 家のリビングの方に逃げていった猫を家の外に出してやろうと追いかけて、足元が光ったそうだ。

 

「なるほど、過去に使われた召喚陣が表面上は見えずとも、魔術的に焼き付いていたのね」

 

 メディアの見立てに対して、恐らくそうだろうと呪腕先生も同意する。

 ちなみにそれが、召喚陣の光であったと彼女が気が付いたのは大分後のことらしい。

 恐らくは、第四次の時にキャスター、ジル・ド・レェが召喚された家だろう。

 殺人事件の現場で、現在は空き家。

 そして、サーヴァント召喚の為の召喚陣の痕跡がある家と言ったらそこが最有力だ。

 

 今まで見つからずに済んでいたのは、アサシンが隠密に長けたクラスであることと、はくのんが現時点では魔術師としては未熟も良い所で、たまたま魔術回路を持っていただけの一般人の域を出なかったおかげだろう。

 

「一応聞くが、君はどうしたい? キャスターなら穏当な形で君から俺にアサシンのマスター権を移譲できるだろう。これ以上は何も聞かずに、日常に戻る道もあるぞ」

 

 呪腕先生は口を挟まなかった。

 あるいは彼もまた、それが彼女にとって最善であると思っていたのかもしれない。

 しかし、いや、彼女の場合は、やはりというべきだろう。

 彼女はその道を選ばなかった。

 

「教えてください。聖杯戦争の事を。そして、貴方のような人が、聖杯戦争に参加している理由を」

 

 貴方のような人、と彼女は言った。

 会ったばかりの俺に、彼女はいったい何を見たのだろう。

 まあ、良いか。

 そういう事なら話そうじゃないか。

 まあ、俺についての事はともかくとして、彼女ならそう言うだろうとは思っていたのだ。

 さてしかし、どうしようかな。

 

「難易度が、イージーからルナティックまであるんだが。どのあたりの難易度をお望みかな?」

 

 冗談めかしてはいるが、割とガチ目の質問である。

 ちゃんと彼女の目を見て、それが伝わるようにしながら、それでも緊張させ過ぎないように言葉面だけは軽くしたのだ。

 正しくこちらの意図を理解した彼女は、目を見張ってから唇を少し噛み、ほんの少しの間だけ俯いた。

 すぐに顔をあげた彼女の目は、覚悟を決めた人間のものだった。

 

 ああ、そうか。

 やっぱり君は、あの岸波白野そのものでなくとも、それでも岸波白野なんだな。

 

「————ルナティックでお願いします」

 

 よろしい。

 ならばルナティックだ。

 後悔するなよ、岸波白野?

 

 

 

 





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え、夢でなくて?
うん、今ところ夢ではないようです。
皆様、ほんっっっっっとうに、ありがとうございます!

感謝のしるしといたしまして、本日、二度目の投稿を用意いたしました!
19時に投稿いたしますのでどうぞお楽しみに!



ちょっとした小話

或る少女の話の下りは、主人公の語りという事で、優しい慈しむ様な彼女の歩みに対する心情のこもったプーサーの声で想像してもアリですし、例のごとく、アンデルセン先生の声で想像するのもアリでしょう。

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