Fate Night Unnamed ~チート転生者はデスマーチに挑む(ほぼ強制) 作:空門 志弦
そして、ついにその日がやってきた。
十分な距離を取って、その様子を観察する。
まあ、何かの間違いで本当に士郎君が死んでしまっても困るしな。
とはいえ、それは杞憂だったようだ。
遠坂凜は結局は死にかけた士郎君をとっておきの宝石を使って助けたし、士郎君はちゃんと土蔵でセイバーを召喚した。
ちょっと遠目だったが、運命構図をしっかり目にした。
うん、声が聞こえないのだけは残念だが、中々に感慨深いな。
その後に起こったアーサー王とクー・フーリンとの戦闘は実に見応えがあった。
アーサー王の戦闘データと、クー・フーリンの宝具のデータもとれた。
大収穫と言って良い。
しかし、士郎君は令呪を使ってセイバーを止めたのか。
俺が介入している今、ルートなんてあって無きものだが、UBWルートの流れか。
その後はしばし、時間を潰し、その後に家を出た彼らを尾行して彼らが教会に入るのを見届けて。
その帰りに、ヘラクレスとの戦闘が始まった。
(メディア。どうだ、いけそうか?)
(ええ、あれなら問題ないでしょう。アサシンの協力も得られるなら確実に)
(なら頼む。こっちはまあ、何とか足止めくらいはしてみよう)
念話を切って、戦場へ向かって駆け出す。
駆け出した先では、セイバーとの戦闘を切り上げてイリヤの元に戻ろうとするヘラクレスがいる。
士郎君と遠坂嬢は恐らくイリヤの方に行っているのだろう、姿が見えない。
悪いがヘラクレス。
お前にはここでもう少し、時間を潰していってもらうぞ。
量子ストレージから、こういった時を見越して用意したチート由来の物質で作った大剣を取り出す。
素材は、例の警棒やスリングショットと同じだが、質量が違う。
どこぞの漫画の狂戦士が使っていた例のドラゴン殺しをもとネタに作った、生身の時に使う対怪物用の武器。
ただし、俺にとって重要なのは、強度のみだ。
重量や遠心力を用いるまでもなく、自分自身の強化とメディアのバフで、枯れ木の枝でも振り回すくらいに容易く十分な威力をもって振り回せるからだ。
「————っ!? 人間!?」
飛び込んで来てあのヘラクレスに飛び掛かったのが英霊ならざる、ただの人間であったことに驚いて、思わず手を止めるアーサー王を今は意識の外に。
ヘラクレスだけに意識を向けて、大剣を振るった。
俺の大剣とヘラクレスの斧剣がぶつかり合って、火花を散らす。
「強度は十分なようだな。さて、ヘラクレス。少しばかり足止めをさせてもらうぞ」
真っ向から力と技で対抗する。
お互い一歩も引かずに幾度も剣を交えて火花を散らした。
生身の時も、イーリアスの時も基本的に徒手空拳で戦っている俺だが、武器を使っていないのは何も使えないからではない。
あの戦闘スタイルは、程よい武器がないという切ない事情と、ぶっちゃけ素手が一番加減が容易だという事実からくる結論なのである。
今まで使ってきたいくつかの武器で察せられると思うが、チート由来の武器はもはや兵器の部類。
銃器の類は言わずもがな、刀剣の類すらも下手には持ち出せないものばかり。
いや、本来ならもっと穏当な武器もあるんだ。
でもほら、ストレージ圧迫するからさ、よっぽどデザインが良いとかじゃないと、処分しちゃっててね?
結局格闘戦にも対応したイーリアスを装着している時はステゴロが手っ取り早く、加減もしやすく。
生身の時もこの世界の半端な武器を使うくらいなら強化したその身を振るった方が強い。
「信じられない、現代の人間が、あのヘラクレスと互角に渡り合っている……?」
だが、今回の相手はヘラクレス。
流石に素手で相手をするのは厳しい。
それで持ち出したのが、対怪物用に作ったこの大剣である。
正直、ランサーやセイバー相手だと小回りが利きにくくなるのでかえって使えないが、技術はあるとはいえ基本力押しで来てくれるバーサーカークラスの時のヘラクレスならおあつらえ向きである。
要はこの大剣は武器と言うよりも実質は、時間を稼ぐ間ヘラクレスの攻撃から身を守る盾みたいなものだ。
中々決着をつけられない事に焦れたヘラクレスが咆哮と共にラッシュを仕掛けてきたが、嵐のような斧剣の攻撃を着実にさばき、撃ち落とす。
「そう焦れるな、ヘラクレス。ここで時間を潰していった方が、長い目で見れば彼女の為だぞ? 保証しても良い」
そんな俺の台詞が聞こえたのか聞こえていないのか、ラッシュの最後にヘラクレスは渾身を込めた一撃を見舞ってきた。
目を逸らさずに、その一撃を見極め、絶好の位置に最適な角度で最大威力の剣を振るった。
舐めてもらっちゃ困る。
パリィやカウンターは、アクションMMOの華である。
「そんな大振り、返せないと思ったか!」
何なら、ラッシュの細かい攻撃の方がさばきにくかったくらいだ。
言葉通りに俺の大剣が、斧剣を見事に跳ね上げた。
今までの中でも一番の火花が散って、あのヘラクレスがたたらを踏んだ。
(マスター! 成功よ! 無理をせずに撤退して!)
良し!
「こちらの用は済んだ。イリヤスフィールのもとに行ってやるんだな、ヘラクレス」
相手の体勢が崩れていたのもあって、余裕をもって大きく距離を取れた。
ヘラクレスへ戦闘の終了を告げながら俺が大剣をストレージにしまい込むと、しばらく様子を見てからヘラクレスは離れていく。
「君も、マスターのもとに行ってやったらどうだ?」
じっと俺の事を見ているアーサー王に、言葉をかけた。
ああ、でも、別れる前に一つだけ。
「そういえば、君の願いを人づてに聞いた」
彼女は驚愕に目を見開いた。
そのあと少し考える顔になる。
恐らく、前回の聖杯戦争で生き残ったと思われる人間から、俺の背景を類推しようとしているんだろう。
だが結局は情報が少なすぎる事に気が付いて、それは断念したようだった。
「貴方も、私が間違っていると?」
まあ、この世界線でもZEROの時ほどコテンパンだったかは知らないが、英雄王と征服王は、否定しただろうな。
それが結構堪えていたのか、表情が険しい。
「願いそのものに、正誤はないと俺は思っているが。ただ、そうだな。その願いは君自身にとってこそ間違っていると、俺は思う」
そもそも正しいとか間違っているとかは、結局は基準次第のものでしかない。
「願いなんてものはどこまでいっても個人のもので、本質的にその正誤は本人の中だけにしか存在しえないだろう?」
俺の言葉に、アーサー王は時間が止まったかのように動きを止めた。
「————それなのに、この願いが、私自身にとってこそ、間違っている?」
思わずお節介をしてしまったが、余計なお世話の類だったか。
かえって混乱させてしまったかもしれない。
多少のきっかけくらいにはなれば良いと、つい欲が出たか。
「忘れてくれ。惑わせるようなことを言った。敵の魔術師の戯言と思ってくれて構わない」
こんな髑髏モチーフの仮面をかぶった怪しい男の言葉なんて気にしないで良いのである。
そうなんだ、いつもの狐面は、はくのんに貸しちゃったから、俺が被っているのはそんな怪しい仮面なんだ。
狐面の発想のもとになったチート由来のアイテムだから、性能はこっちの方が上ではあるんだけど。
具体的なデザインを言うなら、ス〇ル・マン、ほとんどそのまま。
ここの運営って特撮好きもいるのかよ、本当に好き放題だな、と評判だった。
防御礼装としての効果も持ったロングコートを翻して、アーサー王に背を向けた。
強化魔術を改めて発動し、キャスターたちに合流するために移動を始めようとする。
「待ってください! もう少し話を……!」
悪いが、こっちもさすがに限界なので、相手はせずに去らせてもらう事にした。
事前に服用していたリジェネ効果のある回復薬のおかげでどうにかなっていたが、腕がくそ痛いのである。
流石は、ヘラクレス。
生身で相手にするのは無茶だったか。
「機会があればまた会おう。まあ、その時は敵同士かもしれないがな」
多分、次はそうなる。
適度な経験を彼らに与えられるのは、俺達くらいしかいないからな。
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感想も相変わらず、ニヨニヨしながら目を通してます。
ほんと、日々の楽しみなんだ……。
誤字報告には相も変わらず助けられています。
全て本当にありがとうございます。
小話
相も変わらずが、『もい』も変わらずと誤字っていて、自分で笑いました。
ロウヒの「誤字には気をつけるんだぁよ」という注意が聞こえた気がしたんだ。