Fate Night Unnamed ~チート転生者はデスマーチに挑む(ほぼ強制) 作:空門 志弦
(心の準備は良いかしら、白野?)
(はい。神薙さんが色々持たせてくれましたし、アサシンとキャスターさんもいてくれますから)
神薙さんから借りた狐面を被り、ガンドを撃つことが出来るようになる指輪型の礼装を人差し指に嵌める。
指輪を渡すときに、ちゃんと私が勘違いしないようにしてくれた点については、感謝するべきか、少しとはいえ夢を見せてくれなかったことに文句を言うべきか、ちょっと悩む。
(あなたの役目は、自身がアサシンのマスターであると印象づけて、キャスターである私の存在をぼかす事。可能なら偽情報を掴ませて、今回の仕掛けの本質に気づきにくくさせる事。わかっているわね?)
だが、ガンドを撃つ練習をするときの振る舞いは完全にアウトだ。
事前に断りを入れれば良いというものではない。
あんなイケメンに後ろから抱かれるみたいにされて、腕に手を添えられる乙女のドキドキ、どうしてあれだけ頭の回転も察しも良いのに想像できないのか。
(大丈夫です。出来る範囲で、やってみます)
あの人、基本的に自分の容姿に無頓着すぎる。
時々思い出したように行動を改めたりするから、まったく自覚がないわけでもないだろうに、アンバランスだ。
その神薙さんは、今は傍にいない。
私たちの方の作戦を成功させるために、ヘラクレスの足止めをするという。
(そう緊張なさらずに、私もサポートいたしますゆえ)
キャスターさんは大分抗議していたけれど、結局通らなかった。
今回の作戦の重要性は大きかったし、作戦の内容的にアサシンとキャスターさんの存在は必須だった。
でもあの人の事だから一番の目的はきっと、イリヤスフィールって子を助ける事なんだろう。
なんかもう、まだ何日も付き合っていないというのに既にわかるというか。
(ありがとうアサシン)
あの人、何なのだろう。
なんというか、息をするように人を助けるのだ。
そして、助けないといけないような人に遭遇する頻度が高い。
私が聖杯戦争を軽く見ないようにと話してくれた自分の経験談でも大体誰かを助けていて、そもそも誰かを助けようとして事件に巻き込まれているケースが多いし。
私と一緒に行動するようになってからだけでも、車に轢かれそうになった人を助けて、自殺しようとしていた人を立ち直らせていたし、他にも小さな事件がちらほら。
(そろそろ、こちらに来るわ。戦闘はひとまず収まっているようね。死人が出た様子はないから引き分けと言ったところかしら。いえ、途中アーチャーが援護をしていたようだから、実質的にはアーチャーのマスターの負けかしらね)
まあ、流石に私と出会ってからのその頻度は神薙さん的にも異常だったみたいで、米花〇か何かかな? とぼやいていた。
流石にそこまでこの街はひどくないと言いたいのだけど、今回の事で色々と知ってしまった今となっては、はたしてどちらがマシかと問われると、答えに詰まってしまう。
そんな本当にヒーローみたいな人だけど、本人がそう呼ばれるのを嫌がる理由もわかってきた。
だって、あの人はびっくりするくらい普通の人だ。
くだらないことに笑い、些細なことに幸福を見出す。
美味しいものを食べれば幸せそうな顔をするし、猫を撫でようとして逃げられるとちょっと悲しそうな顔をする。
(でも、まさか他のマスターのうちの二人も、学校の先輩だとは思いませんでした。どっちも割と有名人だし。あの人たち魔術師だったのか)
会った時から、激辛マーボー食べてて、あんなジェスチャーでコミュニケーション取ろうとするし。
アサシンから注意を受けていた魔術師像とあまりにかけ離れていて、一発で気に入ってしまった。
面白い人で、優しい人だと分かったから。
あんなジェスチャーをしたのは多分私の緊張をほぐすためで、そのあとの声も私を見る瞳も凄く優しかったのだ。
(灯台下暗し、と言うやつですな。しかし、マスターの素性が一気に二人も割れたのは良い収穫です)
アレが嘘で騙されるというなら、それはもう、仕方がないと思えた。
どうせ、私一人で生き残れるとも思えなかったから、どこかで賭けには出ないといけなかったし。
結局は騙されるようなことは無くて、私はあの人に庇護されている。
我ながら、良い引きで、良い判断だったと思う。
(まあ、そこは後でどう活用するかを私のマスターも交えて考えるとしましょう)
でも一つだけ。
私は、あの人の優しさにつけこんで、あんな普通の人に、自分の命を背負わせた。
それだけは、きっと忘れてはいけないと思う。
だからまずは今回のこの作戦で少しでも、あの人の助けになる。
大きく息をすって、はいて。
深呼吸をして、胸に手を当てる。
心臓の鼓動は少し早いけど、大丈夫。
私はやれる。
「はじめまして、イリヤスフィール・フォン・アインツベルン。突然で悪いんですけど、ちょっとお邪魔させてもらいますね」
アサシンを引き連れて、森の木々の間から姿を現した。
緊張を表に出さないように敢えて少し芝居がかった仕草で挨拶をする。
イリヤスフィールの顔が緊張を帯びたものになった。
まあ、マスター殺し特化のアサシンを連れたマスターにサーヴァント無しで遭遇したら当然だよね。
「奇襲をかけなくてよかったの? その貧弱そうなサーヴァントじゃ、私のヘラクレスとは勝負にもならないと思うけど」
その言い草にはちょっともの申したくなる。
アサシンは頼りになるし信じられる、素敵なサーヴァントだ。
でも今は、そういう場合じゃないから我慢しよう。
「あいにく、命が狙いと言うわけではないもので。ヘラクレスには、いま少し活躍して欲しいですしね?」
余裕を持った態度と声で言えば、イリヤスフィールが眉をひそめた。
「じゃあどういう用かしら? あいにく、アサシンなんかと組む気はないわよ?」
こちらの方針としても、今の時点でイリヤスフィールと組む予定はない。
あまり陣営を固めてしまうと、聖杯大戦とかいうトラップが発動するらしいし。
聖杯戦争の本来の用途といい、このシステムを考えた人は絶対に性格悪いと思う。
「ヘラクレスが戻ってこなくて不安ですか? 大丈夫、私の協力者がちょっと足止めをしているだけですから」
キュッと口を引き結んで悔しそうな表情をするイリヤスフィール。
年齢は私より上らしいんだけど、見た目が見た目なので、何かすごく悪いことをしている気分になる。
うん、ここは巻きで行こう。
「こちらの用もすぐに済みますし。アサシン」
私の呼びかけでアサシンが宝具を開帳する。
腕を封じる黒い帯が解け、悪魔の腕が露わになった。
「妄想心音(ザバーニーヤ)!」
腕が走り、何かを掴む動きをすると、手の中にイリヤスフィールの心臓が写し出される。
本来は、心臓の鏡面存在を作り出してそれを潰すことで相手の心臓を呪って殺す宝具だけど、今回はちょっと用途が違う。
アサシンの宝具にキャスターさんが魔術を合わせて、イリヤスフィールの心臓と、神薙さんが用意した偽の心臓を入れ替えるのだ。
本来なら、魔術師の体内に本人以外の魔術を作用させるのは難しいが、アサシンの宝具により相手の心臓と照応する鏡面存在を作り出してそれを足掛かりに置換魔術を行使した、らしい。
このあたりの理屈は、神薙さんの作戦説明時の受け売りである。
アサシンの宝具とキャスターさんの力量があって初めて可能になる、裏技のようなもの、とも言っていた。
「っく、私の心臓に何をしたの!?」
胸を押さえてふらつくイリヤスフィールにちょっと心配になるが、すぐに持ち直して毅然とした様子に戻った事に内心で胸をなでおろした。
「少しばかりの呪詛を。まあ、大したものではありませんよ。ヘラクレスは流石に正面からあたるには厳しい相手ですから」
実際には、偽の心臓が流石に聖杯の器の核ほどの性能はないから、魔力の生成量が落ちるだけなんだけど、しばらくは騙されておいて欲しい、と言う話だったのではったりを打つ。
あんまり会話をしてぼろが出ても良くないから、早々に立ち去っちゃおう。
「それでは、用は済みましたし私は失礼しますね。縁があったらまたお会いしましょう」
大仰な礼をして見せて、アサシンに目配せをして、私を連れて逃げ去ってもらう。
こっちは中々の上首尾で終われたと思うんだけど、神薙さんは大丈夫かな。
遠目に見たヘラクレスはとても人が太刀打ちできるような存在には見えなかったけど。
でも、心配しつつも最後にはキャスターさんも許可を出していたし、きっと大丈夫だよね。
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感想もたっぷりで、たまりません。
はしたない顔になりそうです。
誤字報告もありがとうございます。
ここのところは、0とはいきませんが少しは減らせているかなあ。
小話
今回は、はくのん視点のヘラクレス戦の裏側で起こっていた出来事のお話でした。
まあ、はくのんから見ると、主人公はこんな感じのやつです。
主人公自身の自認とは、当然と言うべきか隔たりがあるという。