Fate Night Unnamed ~チート転生者はデスマーチに挑む(ほぼ強制)   作:空門 志弦

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第29話   冬の城と、どうしても我慢できない事

 

 ガバった。

 いや、待ってほしい。

 俺が思いつきで士郎君を鍛えたのとかは直接は関係ないんだ。

 ただ、なんと言うべきか。

 全体的に、ちょっと上手くやりすぎたんだと思う。

 

 端的に起きたことを言うと、ギルガメッシュが聖杯確保に動いた。

 ワカメ君が教会に駆け込んですぐだった。

 聖杯戦争が穏当に流れ過ぎていて、退屈を感じたんだろうな。

 昨夜の表向きのライダーの脱落だけでは不足だったか。

 ギルガメッシュの事だから、ライダーが実は脱落していないことくらいは見抜いてそうだしな。

 

「あの、神薙さん。言いにくいんですが、アサシンから連絡があって、先輩たちがアインツベルンの城に向かったそうです」

 

 このタイミングでか。

 いや、こっちに関しては、完全に俺の所為だな。

 力の差を見せすぎたし、策がはまりすぎた。

 対抗するために、俺の陣営に呪詛をかけられたと思われるイリヤを味方に引き込む算段だろう。

 イリヤとはくのんのやり取りは、凜が目撃していてもおかしくない状況だったから考えうる事態ではあった。

 

 でも本当にタイミング!

 同時に重なるとか、ある!?

 くっそ、手札が、手札が足りない。

 想定される戦場が、郊外の森の中にあるアインツベルンの城であることがせめてもの救いだが。

 

「介入する。状況によっては最悪、ギルガメッシュ以外が全滅しかねない」

 

 あの金ぴか、ホントにさあ。

 キャラとしては好きだけど!

 めっちゃ格好いいけど!

 バランスブレイカーが、すぎるんだよ!

 

 口をぺら回しての戦闘回避は、多分できなくはない。

 俺達としては、すでに役目を終えてると言って良い聖杯の器の核を交渉材料に持ち出しても構わないからな。

 だがギルガメッシュの無聊の慰めとして、バーサーカーとの戦闘は見逃さざるを得ないだろうな。

 俺、目の前でヘラクレスを失うイリヤを、見過ごせるかなあ。

 

「その間、白野はアサシンと共に間桐邸を遠巻きに監視。もしも例の神父がランサーと共に桜を狙うようならライダーを影から援護して阻止してくれ」

 

 彼女にあまり危ない橋をわたらせたくないが、あの男に黒い聖杯としてならばある意味でイリヤ以上の適性を持つ桜を渡すわけにはいかない。

 

「はい! 大丈夫です、ちゃんとアサシンの意見を聞いて無理のない範囲で動きますから!」

 

 まったく、嬉しそうにしてくれちゃって。

 だが、今は頼るしかない。

 

「メディア、戦闘になった場合、現状の貯蔵魔力でどのくらいまでの強度の結界を展開できそうだ?」

 

「空間の位相をずらす方式で規模を絞って、それでも貴方の言っていた戦闘のレベルなら、5分は保証するけど、10分は無理と思ってちょうだい」

 

 ギルガメッシュ相手に、5分かあ。

 やるだけやるしかないな。

 最悪は、アインツベルンの城の周辺は諦める。

 街にまでは被害が行かないようにする形で損切だな。

 

「すぐに動く。アサシン、白野のフォローを頼む。無理はさせないでくれ」

 

「承知しております。神薙殿もご武運を」

 

 急転直下っていうのは、こういうのを言うのだろうな、まったく。

 

 

 

 

 あの後すぐに移動を開始して、アインツベルンの城を視認した瞬間に目に入ってきたのは今まさにギルガメッシュに飛び掛かろうとするリーゼリットの姿だった。

 ほんとにギリギリじゃねえかあ!?

 

 自身への強化魔術を、普段なら絶対にやらない過剰出力で行う。

 全身にかなりの痛みが走ったが、その甲斐はあった。

 刹那のタイミングで、リーゼリットを穿とうとしたゲート・オブ・バビロンにより射出された武具をパリィする。

 

「ふん、ずっとコソコソと動き回っていた雑種が、この期に及んで自ら(オレ)の前に出てきたか。隠れている分には今しばらく見逃してやったものを」

 

 手がクッソ痛いんだが?

 そして、やっぱり俺がギルガメッシュから逃げ隠れしていたのはお見通しか。

 

「このホムンクルスたちは、自らの職務に忠実なだけ。私が留め置きますので、どうか助命を願いたい」

 

 リーゼリットを背後に庇って言葉を紡ぐ。

 ひとまず、イリヤが来るまででいい。

 時間を稼がなければ。

 

「この我に、雑種ごときが願うような権利があると?」

 

 即座に殺しに来ないだけ、少しは興味を持たれているらしい。

 ならば、余地はゼロじゃない。

 

「すべてが片付いて、貴方が勝者として立った暁には、こちらを献じましょう」

 

 ストレージから、容器に封じられたイリヤの本来の心臓を取り出して見せつける。

 ギルガメッシュが少しだけ興の乗った表情になった。

 

「ふっ、なるほど。既にそれは、貴様の手にあったわけか」

 

「イリヤの、心臓!?」

 

 リーゼリットが色めき立ち、セラが驚愕に目を見開いた。

 このままだと、俺の方に襲い掛かってきかねないくらいの空気だが。

 よし、稼ぎきったな。

 

 城の壁をぶち破って現れるヘラクレス。

 そこにはイリヤの姿もある。

 

「なるほど、私の不調の原因はそれだったのね。まさか、心臓を入れ替えられていたなんて……!」

 

 俺の手の中のそれを見て、イリヤが悔しそうに言った。

 

「今、君に収まっている心臓も捨てたものではないとも。聖杯の器などと言う宿命を背負う必要がない分、むしろ価値は上かもしれないぞ?」

 

 いや、マジで。

 実質こっちの本物って、勝っても負けてもろくな最後にならない呪いのアイテムの類だと思うんだ。

 なんかリーゼリットが後ろで何度も頷いている気配がする。

 襲い掛かってきそうな敵意が大分薄まったぞこれ。

 

「貴方とは後で話をしなければならないけど、今は……! バーサーカー!」

 

 ヘラクレスが戦闘態勢に入り、ギルガメッシュと向かい合う。

 俺が割って入らなければ、二人がすでに死んでいたであろうことを察したか。

 とりあえずこれで、ギルガメッシュとヘラクレスの戦闘が本格化するまでは、ある程度安全だ。

 リーゼリットと共に城壁の上から庭に降り立ち、敵意のこもった目を向けてきたままのセラを引き連れて、ヘラクレスの戦闘を見守るイリヤのもとに合流した。

 

「一つ、賭けをしないか、イリヤスフィール・フォン・アインツベルン」

 

「賭け?」

 

 ヘラクレスの戦いを見たまま、言葉だけで聞いてくるイリヤに言葉を続ける。

 

「ヘラクレスが勝利したら、この心臓は大人しく返そう。だが、ギルガメッシュが勝利したら、君たちには俺の保護下に入ってほしい」

 

「聖杯戦争での敗退を認めて、大人しく従えと?」

 

 言い方は悪いが、そういう事になるかな。

 

「イリヤ、この人は、私たちを助けてくれた」

 

「リーゼリット!?」

 

 リーゼリットから援護射撃が入るとは。

 この子は本当に、アインツベルンよりもイリヤが一番なんだな。

 一方のセラは、信じられないと言った様子で叫んでいたが。

 

「いいわ。どうせバーサーカーが勝つもの。その時は覚悟しておきなさい」

 

 そうであったなら、こちらとしてもありがたいんだけどな。

 しかし結果としては、そうはならなかった。

 戦いの流れは類似したUBW世界線と変わることはなく。

 

 ――――見逃せ。

 いま、俺の手の内には、十分な手札がない。

 ヘラクレスは見捨てて、その後の交渉でイリヤを助命させれば十分だろう?

 無理を通せば、一人の少女の嘆きをぬぐう事と引き換えに、幾万の命が失われる未来だって在り得る。

 

 イリヤの悲痛な声が耳朶を強く叩く。

 心がえぐられるような心地がした。

 実年齢がどうあれ、あの子の時間はずっと前に止まったままで。

 心は、親に置き去りにされた時の子供のままだ。

 

 ああ、くそ、俺は本当に、どうしようもなく、凡俗な男だ。

 こんな声を聴いて、あんな顔を見てしまったら。

 正しいとか、間違っているとか。

 全部知った事じゃないって、思ってしまうんだから。

 

 やってやる。

 やってみせる。

 いいさ、馬鹿になってやる。

 無理を通して、道理を引っ込めてみせようじゃないか。

 

 できない事だったら諦めがついたが、これは俺にとって、難しくともできる事だ。

 だから、手を伸ばそう。

 手の届く範囲で、叶えられる限度まで。

 それが俺の流儀なんだから。

 

 そもそも、俺はずっと嫌だったんだ。

 あいつがいる所為で、ずっと桜を助けられなかった。

 イリヤだって桜を助けられていれば、ここ冬木に黒い聖杯の適性を色濃く持った桜だけが聖杯の器だなんて事態になる事を恐れることもなく、もっと早くにアインツベルンから助けられていたんだ。

 

 ――――だから、少なくとも今この聖杯戦争において、貴様は邪魔だ、英雄王。

 

 そうして腹が決まれば、いっそ気分は清々しく。

 俺はギルガメッシュがとどめとしてヘラクレスに放った武具を、ヘラクレスの前に立って弾き飛ばしていた。

 

「イリヤスフィール・フォン・アインツベルン。賭けは、君の負けという事で良いな?」

 

 気づけイリヤ。

 今の君はまだ、人を信じるのは嫌かもしれないが、利用するつもりだって良い。

 だから、この手を取ってくれ。

 

「————っ! 賭けの敗北を認め、アインツベルンは貴方に保護を求めます!」

 

 そうだ、それで良い。

 

「さて、まことに申し訳ないんだが、英雄王。こういう次第になった。自分で言うのも嫌になるが、俺はまったくもって、あんたの言う所の雑種の極みでね。子供の悲痛な叫びってやつは、どうにも我慢ならないんだ」

 

 

 

 




いつも閲覧ありがとうございます。

と冷静に見かけまして、ひゃっほい!
お気に入り登録、12000に総合評価26000だウェーイ!
月間1位も達成だ、ヤッター!

ここまで自分の作品が来られたって言うのは、凄く嬉しいことなわけでしてね。


はい、つまり、本日もお礼の2回投稿です!
本日はもう一回、19時に投稿いたします!


うん、毎週お礼の必要があるような成果が上がっているのって、幸運なことです。
本当に皆様ありがとうございます。

本日の投稿は、どちらも実に美味しい場面でもありますので、2度目の投稿もぜひお楽しみいただければと思います。

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