Fate Night Unnamed ~チート転生者はデスマーチに挑む(ほぼ強制) 作:空門 志弦
ライネスから詳しい内容を聞けば、案の定というべきか。
普通の配送、というか送迎なわけがなかった。
行き先の屋敷はエルメロイ一門のライネスとは派閥を別にする家の屋敷だ。
既に事前に交渉の決着はついていて、後は相手の家に儀礼上の訪問を行えば決着がつく状況。
つまり、逆に言えば相手方は全力でライネスの到着を阻止に動き、あわよくば亡き者にしようとするだろうという事だった。
「俺は配送屋であって、護衛じゃないんだが?」
「何、荷物が可愛らしい生きた人間で、ちょっとしたレクリエーションがオマケで付いてくるだけさ」
ぬけぬけと言うじゃないか。
可愛いからって、何でも通ると思うなよ?
「そのセリフは依頼を受ける俺が言うんならともかく、依頼主が言うのは違うだろ」
まあ、依頼自体は受けるんだが。
「そうかな? 実際君にとってはレクリエーションにすらならない程度の話に思えるけどね?」
俺の引き出しが、先日のあれだけじゃないって確信してる顔だな。
まあ、先日の俺は状況のわりに冷静過ぎただろうから、まだ底は見せてないと見抜かれるのは当然か。
「報酬はきっちり払えよ。危険手当も考えるとそれなりに高くなるぞ」
「手加減してくれたまえよ。エルメロイはいま、非常に困窮しているんだ」
おどけた感じに肩を竦めて冗談めかしているが、これが結構マジな話であるのを俺は知っている。
ケイネスの死と、それに伴う多くの礼装と何より魔術刻印の大きな損傷。
エルメロイから第四次聖杯戦争で失われたものは、あまりに多く、そして重い。
「金がないなら、情報でも構わない。ちょっと魔術方面の情報が必要になりそうな気配があってな」
あえて情報を漏らしてみれば、ライネスの目が一瞬ギラリとした気がした。
でもソレ、見えてる釣り針だからな。
流石にこの年齢の時点だとそこまでは見抜けないか。
これで今後俺に関わろうとしてくる時は、俺を釣るためにいろいろ情報を用意してくれるだろう。
「で、日程は?」
「今すぐに。言っただろう、予定が詰まっているって」
こやつめ。
最初から絶対に俺に依頼を受けさせるつもりだったな?
「ならさっさと出るぞ。飛び込み依頼なんだ。報酬にもさらに色を付けさせるからな」
「わかる範囲の情報なら出し惜しみはしないと誓おう」
胸に手を当てて、真面目な声で返してくるライネス。
さてはこれ、割と重要案件だな?
ロードエルメロイ二世に会った時点で少なくともエルメロイ内部はある程度落ち着いてそうな雰囲気だったことを考えると、もしかして今回の件が内部抗争の大詰めなのかもしれない。
黒服を家から追い出し、ライネスを連れて駐車場に移動した。
「このトンデモアロイ、普通に駐車場に置いてあるのか。いや、防犯機能くらいついているんだろうけど」
何とも言えない顔をして呟くライネス。
まさしくその通り。
こいつを盗むのはぶっちゃけ軍隊一つ連れて来ても難しいんじゃないだろうか。
いや、それはもはや窃盗とは呼ばないか。
「この前みたいにしっかりしがみついとけ。まあ、普通に座ってたって振り落とされたりしないようにはなってるが」
安心感は大きく違うだろうからな。
アロイにまたがった俺の後ろにライネスが先日と同じように横座りになって俺にしがみついてきた。
いや、今からしがみつかなくていいんだが。
あれだな、割とこの前の怖かったのかもしれない。
まあ、よしとしよう。
キーを回しアロイのエンジンに火を入れた。
説明を受けた目的地に向けての最短ルートをアロイからイメージで共有する。
小細工も遠回りもなしだ。
目的地が割れている以上、目的地目前で戦力全部を相手にするより、派手に動いて順次に戦力を削いでいった方がましだからな。
「今日は割と安全運転なんだね?」
「そりゃ今は敵に追われているわけでもないからな」
ちょっと安心したのかしがみついていた手の力を弱めてライネスが言ってきたので、軽く返す。
というか、普段から運転が荒いと思われていたのなら心外である。
「こう見えて模範的なドライバーだぞ俺は。この前みたいなのは例外だ例外」
「嘘はなさそうだね。だがこの後また運転が荒くなる事態が待っているわけだが」
「人気のありすぎる配送品ってのも考え物だよなぁ?」
軽口の応酬がなかなか楽しい。
少なくとも市街地を走っている間は相手も仕掛けるつもりがないらしく、そんな風に会話を楽しむ余裕があった。
状況が変わったのは、郊外に出てしばらく走った後だ。
何か良く分からないものを通り抜けた感覚の後、急に人や車の気配がなくなった。
いくら郊外の道とはいえ、流石にここまで何もないのは異常だ。
多分、さっきのは人除けの結界か何かだったんだろう。
「仕掛けてくるな。しっかりつかまっておけよ、お嬢様」
俺が注意を促すとライネスはがっしりとしがみついてきた。
うん、これやっぱり、この前のが地味に怖かったやつだな。
そんな風に考えていると、道の脇から車やバイクが現れてこちらと並走を始めた。
この前の路地の時同様に、魔術が車道の上を飛び交う。
俺はそれを躱しながらバイクの一つに近づき、懐から出した警棒で運転している男の顔面を思いっきり殴りつけた。
バイクから錐もみしながら吹っ飛んでいく男を見ながらライネスが思わずといった様子で声を漏らした。
「うわぁ……」
まあ、俺もちょっと容赦なさ過ぎたかとは思うが。
命を狙ってきてるわけだし、これくらいは我慢してもらうとしよう。
どうせ生きてるだろ、この世界の魔術師って異様にしぶといし。
その調子で何台かのバイクを潰すと相手はこちらと距離を取るようになった。
だがしかし、そんなものは想定済みである。
懐から今度はスリングショットを取り出した。
なおこの警棒もスリングショットもチート由来の金属から作った特別性で非常に頑丈。
今の生身の俺が使う分には、それこそヘラクレスを殴りつけたってまず破損しないだろう。
少しの間、運転をアロイ任せにしてスリングショットの狙いを定めた。
弾は回収されたりすると面倒なので普通の金属だ。
だが、それで十分だった。
一応相手も何らかの防御手段は講じていたのかもしれないが、俺の膂力で打ち出された球はたやすくそれを抜いて、相手の車のタイヤをパンクさせた。
「なんだそのスリングショット。いや、さっきの警棒も強度が低い折り畳み式なのに、あの力でふるって曲がりもしないのはおかしいし。何より一番おかしいのは君の力だけど」
聞こえないぞう。
今はちょっと忙しいしね!
「さて、この調子で数を減らしていくとしようかね。相手さんの用意した兵隊はどれくらいか。あんま多くないと面倒くさくなくていいんだけどな」
結論から言うと、その願いはかなえられなかった。
この後も俺たちは間断なく襲撃を受け続け、そのことごとくを退ける羽目になったのだ。
やっぱり結構な重要案件だったんだろうなあ、今回の案件。
相手の屋敷についたときの迎えたちが、深く肩を落としていたのは中々印象的だった。
もちろんライネスの方はそれとは対照的なイイ笑顔ってやつである。
やっぱりこのころからすでにSっ気が強いんだな。
「中々に愉快なドライブだったよ。きっちり私を無傷で送り届けるのみならず、私の手を一切煩わせないとは驚きだ」
ああ、襲撃者の撃退を手伝うつもりだったのか。
まあでも、あれくらいなら助けは不要である。
「しかし君、その不器用極まりない強化魔術はどうにかならないのかい? いや、その魔術であの力が出せているのは非常に異常なんだが。魔術の状態を見るに、ほとんど素の力のはずなんだけどなぁ。……ん? アレが素の力? え、どういう事……?」
何かライネスが混乱し始めたのを横目に見ながら、俺も混乱の真っただ中であった。
え、そもそも俺って魔術使える素養、つまり魔術回路をもってたの?
初耳なんですけど?