Fate Night Unnamed ~チート転生者はデスマーチに挑む(ほぼ強制) 作:空門 志弦
郊外の廃墟で椅子に縛り上げられた遠坂嬢。
ちょっと気になって様子を見に来たのだが。
そんな遠坂嬢は今、はくのんに握り飯を食べさせられていた。
「いや、確かにお腹は空いてたけど、むぐ、無理やり押し付け、ふぐ、やめっ」
なんか、恨みでもあったのかな?
ぐいぐいと遠坂嬢の口におにぎりを詰め込むはくのんは、妙な迫力がある。
疑問に感じてアサシンに目をやると、肩を竦められた。
「彼女が少々、貴方を貶しましてな。まあ、腹立ち紛れで本意というわけではなかったようですが、それでもマスターは気に入らなかったようで」
ああ、うん、そうかあ。
そして、まったく止めないあたり、呪腕先生も気に入らなかったんだね?
「ねえ、わかってる? この人がいなかったら、学校の生徒達とか、あの程度の被害で済んでないよ? そもそも貴方達だって、そんな五体満足でいられたか怪しいし?」
うーん、俺に対してもメディアに対しても、相棒認識っぽい呪腕先生は別として、目上にはきっちり敬意を払ってたはくのんが、先輩相手にため口な時点で怒りのほどが知れるというか。
「むぐぐー!」
もう言葉もしゃべれないか。
憐れなり。
口は禍の元だな。
彼女の場合、口が達者な分、返ってくる禍も多くなるのかもしれない。
なおエミヤを見ると遠坂嬢が喚きだすため、もっぱら世話と監視ははくのんとアサシンの仕事である。
「それがなくたって、私にとっては控えめに言って命の恩人だし? その私の前では、少しは発言を考えて欲しいな?」
気が済んだのか、握り飯がなくなったからか。
はくのんは、最後にそう言って遠坂嬢から離れてこちらに歩いてきた。
「ちょっと、頭冷やしてきます」
すれ違いざまにそう言って、部屋を出ていった。
しかし微妙に不満そうな空気を発しつつも、なんだかんだ口の中の握り飯はこぼさず食べきるあたり、なんて言うか、遠坂凛だなあ。
口の中の米をしっかりと飲み下した遠坂嬢が口を開く。
「あの狐面の子にずいぶん慕われてるのね、貴方」
色んな感情の混じった複雑な顔だった。
「ありがたいことにな。まあ、だから文句や悪口はあの子のいるところでは控えてやってくれ」
って、何で今度は泣きそうな顔になるんだよ。
すぐに持ち直したけど。
まったく、しょうがないな。
はくのんが監視に使っていた椅子を持ってきて、遠坂嬢の対面に座る。
「なんで、貴方みたいな人が、あの二人を戦わせようとするのよ」
俺が対話に応じる姿勢であることを察して、遠坂嬢は自分から切り出した。
しかし、なるほど。
俺が関わったせいで色々と巻き気味になったから、まだ二人に対する理解が足りていない感じか。
「アーチャーの正体には気づいているな?」
「薄々。今のあなたの問いで確信になったわ」
よろしい。
ならば最低限の前提はクリアだな。
俺は遠坂嬢に深く頷いて見せた。
「まず、最初に言っておくと、あの二人の戦いで士郎君が命を落とすことはまずない」
遠坂嬢が驚いた顔をした。
なまじエミヤの夢なんかを見てしまっていると、そこらへんは分かりにくいかもしれないが。
そもそも、UBW世界線のエミヤはわからないが、少なくともこの世界線のエミヤは既にそう言う結果になる事を予感しているように見える。
俺が色々と関わったせいかもしれないな。
今のエミヤは、衛宮士郎を殺すためではなくて、衛宮士郎と戦ったその先にある何かを求めている。
「衛宮士郎という人間にとっても、英霊エミヤという存在にとっても、これは必要な儀式のようなものなんだ」
だから俺は、この聖杯戦争がどんな経緯を経ようとも、この二人の戦いは必ず実現させるつもりでいた。
最悪の結果にならないように、最低限の保険はかけた上でだけどな。
この世界線の士郎君がこれから先の人生で、正義の味方という生き方を続けるのか、あるいは別の生き方を見つけるのか、それは分からない。
だが未来でどんな道を選ぶにしても、今の自分の歪さと、それでも手放せないでいる願いの芯を知っておくことは、決して無駄にならないと思うのだ。
あと割と切実な問題として彼の性格と生き方的に、ここで可能な限り経験値を得ておかないと、割とサクッと早死にしてしまいかねないという世知辛い話もある。
そして、英霊エミヤ。
彼にとってもこれは必要なことだ。
仮に士郎君を殺せたとしても、結局は八つ当たりが精々で自己満足に過ぎない結果に終わるのは目に見えている。
だから、彼に必要な結果はむしろ、ここで確かな答えを得る事に尽きるのだ。
「ずっと疑問だった。貴方の行動はいつだって的確過ぎた。もしかして、未来が見えるの?」
まあ、この聖杯戦争での俺の動きを見ると、きっとそう見えるんだろうな。
あながち外れてもいない。
辿りうる未来の可能性を指針に行動方針を立てていたわけだし。
「今回の聖杯戦争に限定してならば、当たらずとも遠からず、だな」
息をのむ遠坂嬢。
「なら、何で、そんな寄り道ばかり」
その問いへの答えは簡単だ。
「俺の目的が、聖杯戦争に勝利するなんて言う、限定的なものじゃないからだ」
むしろ当初は聖杯戦争自体には直接かかわるつもりがなかったと言ったら、きっと驚くだろうなあ。
「この件が終われば今次聖杯戦争も詰めに入るから、先にばらしてしまうけどな」
もはやギルガメッシュは存在せず、大聖杯の権限はメディアが掌握した。
聖杯大戦のシステムが起動することはもうない。
もはやこの聖杯戦争は最後の詰めに入っている。
ギルガメッシュとの戦闘の裏で案の定あの外道神父が桜の確保に動いたが、アサシンの横やりで退いたそうだ。
ギルガメッシュが落ちるとは思っていなかったんだろうな。
無理をせずギルガメッシュの戦果を待って、再度動くつもりだったんだろう。
「大聖杯はアインツベルンの失策によって、人類を鏖殺しうる最悪の呪いに汚染されている」
髑髏の仮面をはずして、素顔を晒し、しっかりと遠坂嬢と目を合わせる。
そして指を鳴らして発火の魔術を発動し、彼女の縄を解いて、居住まいをただした。
「時計塔の次期ロード、ライネス・エルメロイ・アーチゾルテが一番弟子。神薙統夜が、冬木御三家の一角たる遠坂家の現当主に要請する。大聖杯の浄化と、その後の管理に協力を願いたい」
遠坂嬢が、驚愕がいっぱいに詰まった顔で口をぱくぱくと動かした。
「時計塔、は良いとして、次期ロードの弟子!? それにその顔、いや、それ以前に、大聖杯が汚染!?」
突っ込みが追い付かないらしい。
いや、わかっていてたたみ掛けたんだけどな。
いかんな、こういった反応をついつい引き出そうとしてしまうのは、絶対にライネスの影響だぞ。
「すまない、一気にたたみ掛け過ぎたな。順を追って説明しよう」
反省して、丁寧に一つ一つ説明していく。
だんだんと顔色が悪くなっていく遠坂嬢には悪いんだが、ちゃんと聞いてもらわないと困るんだよなあ。
桜が魔術師としては未熟である以上、この土地の魔術的な意味での支配権は、遠坂凜に集約されるわけで。
アインツベルンは聖杯に関する技術を持っているが、あの家って、実質的にはすでに終わっている家というか。
無人になった工場で機械だけ動いているかのごとき状況というか。
話が終わるころには、遠坂嬢は見事にいつぞやのはくのんと同じ有様になっていた。
「だからまあ、なんだ。俺も手伝うというか、流石に君のような若年の魔術師にあんまり負担をかけるのは気が引けるから、俺と俺の伝手が中心に動きはするけど、実質の地権を持っている君にも、ある程度は頑張ってもらうしかなくてだな」
うん、ホントごめんな?
まだ高校も卒業してないような子に、一部とはいえ背負わせるようなもんじゃないんだけど。
「とりあえず、貴方を悪く言ったことは、あの子に謝っておくわ……」
ああ、うん、俺の苦労が我が身の事として理解できてしまったか。
可哀そうに。
そしてようこそ、厄ネタはびこる世界へ。
まあ、今まで生きていた世界が、実は厄ネタまみれだと気が付いただけなんだけども。
いや、これ、こっちの方が事実にしても、よっぽどヒドイ話だな。
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小話
凜ちゃん、アウトー。
ご褒美に、君の家が関わっていた儀式の厄ネタを一足早く知ってもらいましょう。
うん、後先はともかく、結局知ることになるのは変わらないのです。
立場が悪いよ立場が。
これでも原作に比べると、イリヤが生きているだけましという。
聖杯や大本の大聖杯についての知識が得られるし、いくらか責任を分担できますからね。