Fate Night Unnamed ~チート転生者はデスマーチに挑む(ほぼ強制)   作:空門 志弦

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第33話   俺とアルトリアという少女

 

 アルトリアとの決闘を終えた後に合流したエミヤはいつもの皮肉気な笑みを浮かべていた。

 

「君のような男と共闘した後に、あれではな。まったく、君も人が悪い。あの条件の事といい、こうなることがわかっていたな?」

 

 見た感じ、UBW世界線よりも両者ともに怪我は軽くすんだようだ。

 

「そちらも、戦う前からある程度はわかっていたんだろう? 納得はいったか?」

 

 俺の返した言葉に、エミヤは肩を竦めた。

 

「納得というと、違う気もするが。そうだな。答えは得られた」

 

 エミヤの表情には、どこか満足感のようなものが見受けられた。

 そうか。

 それなら、機会を作った甲斐はあったな。

 

「決着はついた。衛宮士郎を認めてしまった以上、エミヤなどという英雄はあれと共にはいられない。戦いで必要になった時だけ呼んでくれ」

 

 そう言って、霊体化してエミヤは去って行った。

 口では文句を言いつつも聖杯の泥の問題についてはきっちりと付き合ってくれるらしい。

 そのあたり、彼らしいな。

 

「士郎、怪我は大丈夫ですか?」

 

「ああ、戦いが終わった後に遠坂と一緒に来たあの子が薬をくれたんだ」

 

 そう言って士郎君が示した先には、仮面を外したはくのんが手を振っていた。

 俺が渡しておいた回復薬は役に立ったらしい。

 

「でもまさか、アサシンのマスターがうちの学校の後輩とは思わなかった。しかも、桜の友達だなんて」

 

 そこは正直、話を聞いた時は俺も驚いた。

 まあ、同時に納得もしたんだけどな。

 はくのんと桜だし、そりゃ同学年にいたら仲良くなってもおかしくないよな。

 

 ともあれ、士郎君の怪我も大丈夫であるなら、さっそく移動するとしようか。

 一日くらいはゆっくりさせてやりたいけど、それは全てが片付いてから、という事で我慢してもらうしかない。

 

「先ぶれの使い魔を出しておいた。疲れているところを悪いんだが、アインツベルンの城に移動しよう。色々と話さなければならないこともあるからな」

 

 士郎君の体の調子を念のために診ていた遠坂嬢の表情が死んだ。

 うん、気持ちは分かるんだけど、士郎君がビビっているからおやめなさい。

 

 

 

 アインツベルン城への道中、何やら盛り上がっている学生三人を少し離れて見守りながら、俺はアルトリアと会話をしていた。

 

「アーサー王という存在を復活させようとしている、モルガン所縁の村、ですか」

 

「ああ。まあ俺がその村と縁があったのを知ったのは割と最近なんだが。妹みたいに可愛がっていた子が、実は親戚だったらしくてな」

 

 思わずちょっと遠い目をしてしまう。

 実は、月姫関連の胸糞を潰す目的で、月姫世界線の主人公が暮らすことになる遠野家に関わった時にね。

 父方の祖父が、遠野の分家筋だったことが判明してまして。

 

 これさあ、絶対に神薙なんて意味深な苗字持ちの父方祖母も、なんかあるやつだよね?

 なんなら、母方の祖父の家も実はなんかあるだろ。

 なんであの両親、普通に戦場カメラマンとか出来てたんだよ。

 

 逆に怖いよ。

 どんなに調べても、普通に戦場カメラマンなんだよ。

 いや、夫婦で戦場カメラマンって時点であんまり普通じゃないんだけど。

 

「その妹のような子が私に瓜二つの器候補で、私が召喚されたことで肉体に影響が出ていたわけですね」

 

 おっと、意識が遠くに飛んでた。

 アルトリアの言葉で意識を会話に戻して、頷いて返した。

 

「ああ。だからパスをつないで、決闘まで行って縁を深めて、影響の全てを俺に集約しようとしたわけだ」

 

 思った以上に俺とアルトリアの魔術的な相性は良かったらしく、思惑は見事にはまった。

 シンボリックな部分を似通わせるために、エクスカリバーまで持ち出した甲斐はあったな。

 メディアによれば俺が生きている限りはもう、グレイの状態が悪化することはないそうだ。

 俺はチートのおかげか、変化といえば髪色くらいのものなので、丸儲けと言って良い。

 

「大丈夫だろうという目算があったにしても、自分の身を贄にするようなやり方はどうかと思いますが」

 

「時代そのものの生け贄に志願したも同然な君がそれを言うか? まあでも、俺もあんまり感心できる話だとは思っていないし、グレイも気にするだろうから、黙っていてくれると助かる」

 

 もっといい手があればそっちを使ったんだが、思いつく中ではこれが一番効果がありそうだったんだよ。

 そこに気づいてしまうと、大した被害は受けない目算がある以上はやらずにいるのもな。

 こう、据わりが悪いじゃん?

 

 おっと、黙り込んだと思ったら、今の返しはちょっと効いたのか?

 表情が痛いところをつかれたって感じになってるな。

 

「私の選択は、やはり間違っていたのでしょうか」

 

 現在時点の彼女の望みは、王の選定のやり直し。

 彼女は自分が王であったことを間違いだったと思っている。

 いや、そう思いたいんだろう。

 しかし、だ。

 

「これは正直、ひどく残酷な話でもあるんだが。とある事情から当時のブリテンの大まかな状況と、ある程度の円卓の騎士たちのパーソナリティを知っている人間として客観的立場から言わせてもらうとだ」

 

 アルトリアが、足を止めてまっすぐにこちらを見ている中で、俺もまた足を止めて言う。

 

「君が、最善手だ。君以上の未来にたどり着けるものは、あの時代のブリテンには存在しない」

 

 アルトリアの瞳が揺れた。

 本当に、残酷な話だった。

 円卓の崩壊、国の終焉、多くの死と嘆き。

 悲劇としてしか語りようのない物語の結末が、あの時代のブリテンにとってのベストエンドだなんて。

 

「確かに、残酷ですね。しかし、誠実だ」

 

 泣き笑いみたいな顔で、アルトリアは返してきた。

 

「アルトリア。失われたものに対する嘆きも悲しみも、それを無かったことにしてもっと良い可能性を求めたいという想いも、人間としてごく当然で真っ当なものだ。それは、正誤で語るべきものではない。だから、君のその想いから端を発している願いに、俺が正誤を定めることはしない」

 

 彼女は、あまりに王としての能力がありすぎた。

 あの時代のブリテンの王として代替がいないほどに。

 しかし根っこは、割と普通の少女だ。

 

 王になる前の彼女を知っていた義兄のケイ卿すら、どこまで正しくそれを理解できていたのか。

 根が優しい少女であればこそ、ブリテンの現状をもって理想の王であるしかなかった彼女の真実を飲み込めなかったあたり、申し訳ないが、少し怪しいと俺は思ってしまう。

 唯一、完全に正しく理解できていたであろうマーリンは、感性が人のそれではないしな。

 

「君が自分で考えるんだ。嘆きで耳を塞がず、悲しみに目を閉ざさずに。自分の歩んできた道と、その道行で得たもの失ったものにしっかりと向き合って」

 

 だから、これはアーサー王という王様に向けた言葉ではない。

 アルトリアという、悲しみでうずくまってしまった一人の少女へ贈る言葉だ。

 

「その願いが、はたして本当に、アルトリアという一人の人間にとって正しいのかどうかを」

 

 沈黙が降りる。

 アルトリアは、目を閉じて、時間をかけて俺の言葉を消化しているようだった。

 

「貴方は、そうしてきたのですね。得たもの失ったものに向き合い、それでも聖杯に願う事はない、叶えるのは自分の手で届く範囲、叶えられる限度までと」

 

「ああ。実際、この聖杯戦争でだって、全部が全部思う通りだったわけじゃない」

 

 今回の件だけでも、桜の事やイリヤの事で、ずっと見過ごし続けるしかなかった痛みがあった。

 世界に目を向けたなら、もっとキリがないほどに悲劇が転がっているだろう。

 型月世界だしな。

 絶対、山ほどあるに違いないのだ。

 

「後悔がないわけじゃない。完璧だったなんてとても言えない。だが、それでも胸が張れるくらいには精一杯を選んできたつもりだ。そして、それ以上を望むのは、人間というちっぽけな存在にとって、きっと傲慢だと思うから」

 

 どこかで線を引かなければ、きっと踏み外す。

 なまじ強い力を持っているがゆえに、俺は平凡な俺であり続ける事を自分に課していると言ってもいい。

 

「君に贈ったのは、そんな俺の生き方と考えから生まれた言葉だ。受け取った後は、君の好きにしてくれていい。実際、たいしたものじゃない。所詮はただの言葉さ」

 

 お道化て、軽口を言った。

 ちょっと、らしくなく語りすぎた気がしたからだ。

 

「いいえ、価値のある贈り物でした。しっかりと、この胸にしまっておきます」

 

 その胸に手を当てて優しい笑顔で答えるアルトリアから、目を逸らした。

 そして彼女を促して、だいぶ離れてしまった学生たちのグループに追いつくために、足早に歩きだすのだった。

 

 

 





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小話

メディアさんは空気を読んで霊体化して、アサシンと一緒に念のための周辺警戒と学生組の護衛をしています。



※以下、主人公とアルトリアの関係性の本編で深掘るかわからない、おまけとしてのちょっとしたネタバレ

主人公から見たアルトリアは、マジ地獄でしかないブリテンの王様というデスマーチをやり切った尊敬すべき対象。
そしてその結末に抱いた悲しみと嘆き、その先で持った願いに対しては彼女自身の為に肯定こそしませんが、人間として理解は示すしかないと思っています。

アルトリアから見た主人公は、ある意味でこうありたかった個人に寄り添った英雄像。
彼女はブリテンという過酷な土地では、理想の王であるしかなかったですが、作中での述懐やFGOのリリィの言動を見るにあれが感情的には本意ではなかったのはほとんど明白です。

そんな彼女にとって、主人公はかなり理想的な英雄像で今を生きているのですが、同時にそんな彼が本来は普通であることを望む、平凡な人間であることも、根が普通な少女である彼女にはわかってしまう。

その力ゆえに、そしてその平凡な善良性ゆえに、そうあるしかない主人公を、眩しく思いながらも、共感と同情を抱かずにいられません。
アルトリアからの主人公に対する心の距離が近いのはこのためです。
生き方のベクトルみたいなものが似ているんですね。

実は作者的に主人公の性格とか生き方にもっとドンピシャなキャラは他にいるんですが、彼女もかなり相似性を持っているのです。
主人公がプーサーボディであることを差し引いても、もしも、冬木の地で士郎君よりも先にサーヴァントを召喚していたら、主人公がアルトリアを召喚してもおかしくないくらいには、好相性。

実は冬木編の一番の危機ポイントは此処だったというか、戦力補充のために召喚を試みた時に、メディアの力を借りてアサシンのみに対象を絞っていなかった場合、アルトリアが召喚されちゃっていた可能性がありました。

デデーン、士郎君アウトー。
主人公の胃は死ぬ。

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