Fate Night Unnamed ~チート転生者はデスマーチに挑む(ほぼ強制)   作:空門 志弦

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第35話   私と私のマスター

 

 柳洞寺の洞窟の最奥。

 大聖杯の存在する大空洞の中、今次聖杯戦争に参加していたマスターとサーヴァントの多くが集結していた。

 ここに存在しないのは、マスターであることがまだ発覚していない間桐桜、その護衛についているメドゥーサ、怪我で入院している偽のマスターである、間桐慎二。

 最後に残った敵である、言峰綺礼とそのサーヴァントである、クー・フーリン。

 そして、その迎撃のために洞窟前に残った私のマスターである、神薙統夜だ。

 

 確かな勝ち筋がある事と、こちらの戦力を厚くしたかった事。

 それらの理由は理屈の上では理解できるが、心から納得ができるかというと別問題だ。

 あのマスターは、どうにも自分を軽んじるところがあって困る。

 実力が伴っているから、受け入れるしかないのが口惜しい。

 

「全員、準備は良いわね?」

 

 集まったメンバーを見渡して確認すれば、全員から頷きが返ってきた。

 しかし、こうして見ると壮観というしかない。

 大英雄ヘラクレス、騎士王アーサー、山の翁ハサン、変わり種として、未来から召喚されたエミヤ。

 ここに私、メディアが加わる。

 

「それじゃあ、結界を展開するわ。大空洞はもちろん洞窟の入り口付近まで、空間の位相をずらして外界と遮断する。多少は派手にやっても問題なくなるから、遠慮は無用よ」

 

 アルゴー号に乗っていたころを思い出すような光景だ。

 あの頃も、錚々たるメンツが揃っていた。

 このメンバーを集めたのが、自分のマスターであるという事を少し誇らしく感じる。

 どうせなら、先頭に立って号令を下す姿を見たかったとも思う。

 

 まあ、あのマスターの事だから、ガラじゃないと言って嫌がるのでしょうけど。

 あんな力を持っていながら、本当に平凡な人。

 でも、あんな力を持ちながら、あんな風に平凡でいられることが、彼を彼たらしめている。

 そして、誰もが持っている様な勇気をもって一歩を踏み出し、ありふれた優しさで誰かに手を差し伸べるのだ。

 

 それが平凡でありながらも、どんな英雄と比べても色あせない、彼の英雄性。

 きっと、あんな力を持っていなくても、自分に可能な範囲で同じように生きていたに違いない。

 手を届かせることのできる範囲は、ずっと狭かったでしょうけどね。

 

 結界が展開されて、空気が変わった。

 次の段階に移るために、杖で地面を突いて、魔法陣を展開させた。

 魔法陣の中心には、聖杯の器の核たる、イリヤスフィールの本来の心臓。

 

「まずは、泥を掻き出すわよ。形を与えて倒しやすいようにするから、出てくる端から数を減らしてちょうだい」

 

 作戦は単純だ。

 大聖杯の中に蓄えられた呪いを消耗させて、弱ったところで大聖杯から引きはがす。

 

「私は動けなくなるから、悪いけど私を中心に円陣を組んで護衛もお願い」

 

 大聖杯に干渉している間は、流石に動けない。

 だから守ってもらう必要があった。

 

「マスターたちは円陣の内側に。前に出るなよ?」

 

 エミヤがマスターたちに注意をしてから背を向けた。

 性格なのだろう、なんだかんだで面倒見のいい男である。

 サーヴァントの四名が四方に配されたのを確認して、私は術式を走らせた。

 大空洞のあちこちから泥が湧きだし、それに形が与えられていく。

 

 まるで影絵の狼男のような姿だ。

 これは私が定めたものではないので、大聖杯の中身に由来した姿なのだろう。

 

「やるぞ!」

 

 エミヤが弓に矢を番えた。

 

「バーサーカー!」

 

 イリヤスフィールの命令に、ヘラクレスが吠える。

 そうして戦闘が始まった。

 大聖杯の中の存在にも恐らくはこちらの目的がわかっているのだろう。

 形を与えられた呪いたちは、私に向かって殺到してくる。

 

 しかし、形を与えられて倒せるものになってしまえば、英霊の敵ではない。

 ヘラクレスの斧剣の一薙ぎで数えきれない影が吹き散らされ、他方ではアーサー王の聖剣が瞬く間に影を切り裂く。

 エミヤは、弓で近づかれる前に数を減らして、すぐさま双剣に持ち替えて、討ち漏らしを処理していった。

 ハサンは縦横無尽に駆け回り、一撃一殺で着実に数を減らしていく。

 

 たまにサーヴァントたちの間を抜けてくる影もいたが、マスターたちがそれぞれの魔術で迎撃した。

 ガンドが飛び交い、銀の針金細工のような鳥が舞う。

 それでも近づいてきた個体は、衛宮士郎の剣で切り裂かれた。

 

 経過は順調といってよさそうだが、思ったよりも蓄積されていた呪い、ひいては魔力が多い。

 マスターの言っていた通り、あのギルガメッシュという英霊は本当に規格外の存在だったらしい。

 

「————っつ!」

 

 大聖杯からのフィードバックに思わず声を漏らした。

 魔術なんてとても呼べない、原始的な力押しでの反発。

 だが、相手は大聖杯と同化した人類を殺しつくせる呪いの塊だ。

 油断できる相手ではない。

 

 しかし。

 

「この程度で――――!」

 

 平凡なままに、平凡だからこそ。

 その業ゆえに栄光と共に影もまた付きまとう英雄とは違う、本当に物語の中にしかいないような存在。

 

「たかが、人類すべてを呪う程度の、呪いごときに!」

 

 普通の人たちの願いと希望の先にいる『ヒーロー』のごとき生き方を。

 望まぬままに、それでもしょうがないなと苦笑しながら歩ききってしまう彼の、サーヴァントとして。

 

「後れをとる、私ではなくってよ!」

 

 誇りと、意地と、彼への様々な想いを掲げるがごとくに杖を掲げて。

 地面へと強く突き下ろした。

 杖が地面を叩く甲高い音と共に魔法陣がひときわ強く輝く。

 

 周りで今も急速にその数を減らしていく影。

 十分だ。

 これならいける。

 

 魔力と、魔術の技巧のありったけで、大聖杯から余分を全て引きはがしていく。

 抵抗を感じるが、弱い。

 

「いい加減、諦めなさいな」

 

 冷厳に告げて、最後の仕上げを終え切った。

 残っていた影たちが形を失い、泥へ戻って、蒸発するように消えていく。

 

「やったの?」

 

 代表して、一番近くにいたイリヤスフィールが聞いてきた。

 私は深く頷いて返した。

 

「ええ、完全に引きはがしたわ。アンリマユは、もうすぐ存在を保てなくなって現世から退去するでしょう」

 

 こうして、第三次聖杯戦争の時代から大聖杯に巣くっていたアンリマユという名の呪いは、完全に除去されることとなった。

 それは同時に、この聖杯戦争の決着をも意味する。

 大聖杯は、完全に私の制御下に入った。

 

「あとは、マスターの方ね」

 

 いつのまにかそばに来ていた白野が心配げな表情で口を開いた。

 

「神薙さん、大丈夫でしょうか」

 

 ああ、そう言えばこの子は今まで、彼の戦う様子をちゃんと見る機会がなかったか。

 ちょっと新鮮というか、私もすっかり毒されたわね。

 

「勝ち負けと、命が無事かどうかという点なら、心配する必要は全くないわ」

 

 怪我だけは、少し心配だけど。

 彼は本当に平凡な人だけど、その力だけは、ありえないほどに隔絶している。

 アルゴー号で多くの英雄を見てきた私でさえ、いまだに彼の力の底が少しも見えないほどに。

 

「心配するとしたら周辺被害なのだけど、ランサー相手であればそこも大丈夫でしょうし」

 

 あの二人の戦闘スタイルを考えれば、大規模な破壊をともなうような技はかえって隙を晒すだけ。

 おそらく、勝負は速度と技巧を競うような形で展開するだろう。

 

「じゃあ!」

 

 白野の表情が明るくなった。

 可愛らしい事ね。

 まあ、相手が彼では無理もないでしょうけど。

 

「ええ、きっとすぐに会えるわ。私が保証してあげる」

 

 そう答えるのと、マスターから戦闘が終わったという念話での連絡が入るのはほとんど同時だった。

 

 装甲はいくらか損傷したけど、体は無傷?

 それは何よりだわ。

 流石に少し疲れているようではあるけど、流石ね。

 あとで落ち着いたら、労ってあげないと。

 

 

 

 





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小話

すでにバレバレだったとは思いますが、メディアさんは葛木先生に対するのとはまた違った形ではあるものの、主人公にぞっこんです。

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