Fate Night Unnamed ~チート転生者はデスマーチに挑む(ほぼ強制) 作:空門 志弦
第37話 俺と聖杯戦争の後始末
第五次聖杯戦争は実質の決着を迎えた。
今はメディアが大聖杯の調整を行っているところだ。
少し悩んだが、大聖杯は解体しないことに決めた。
カルデアが存在せず、必然的にマシュ・キリエライトも存在しないこの世界において、英霊を召喚しつなぎとめる事のできるシステムの最高峰が、この大聖杯だからだ。
いつか来る脅威に対抗するために、この手札は手放さず手元に残しておくべきだと判断した。
幸い、サーヴァントたちは全員が残留に同意してくれて大聖杯の守護については万全のものが整ったし。
エミヤは当初、送還されるつもりだったようだが、俺からの説得によって思いとどまってくれた。
バーサーカーについては、魔力消費の観点からマスターにではなく大聖杯に紐づけることで、大聖杯の最後の守りとした。
それでも普段はアインツベルンの城を拠点としてイリヤを守っている。
ライダーについては生存をばらして、表向きは俺と契約しているという体で過ごしてもらっている。
桜が自身もまた魔術師であることを士郎君に話すかは、これからの事になるだろう。
セイバーはとりあえず今まで通り士郎君の家で暮らしているが、大聖杯の状況が落ち着いたら俺と共に行動をするつもりらしい。
今回の召喚で自分が得た答えを、俺の行く末を見守ることで確かなものとしたい、とか。
自分本位で申し訳ないと謝られたが、むしろこちらが良いのかと言いたくなる。
俺の傍にいると、自分で言うのもなんだが、絶対に色々と巻き込まれると思うんだ。
しかし、こうなると、二世は大変だな。
トラウマのご本尊が傍にやってくるのか。
グレイには影響については俺との契約で封じているとか誤魔化しておこう。
ちなみに俺の髪だが、黒髪に戻している。
金髪のままだと、グレイが気にしそうだったしな。
魔術で染めようとすると弾かれるから、かえってそう言うのが介在しない普通の染色剤を使ってはどうか、という話になって、最終的にはチート由来の髪色染色アイテムを使った。
はくのんは、正式に俺の弟子となる事を決めた。
こちらでの手続きが色々と済み次第、時計塔へ籍を移すことになっている。
なおアサシンは今も変わらず、はくのんの護衛についてくれている。
聖杯戦争が終わり敵性のサーヴァントがいなくなった今、呪腕先生のガードを破れるような存在は、それこそ上位の死徒とか、一部の存在だけなので基本的には安全といって良い。
言峰の教会に囚われて、魔力の供給源にされていた子供たちは、救出してチートな回復薬にて肉体的には全快した。
しかし、精神に受けた影響は大きく、苦痛を受けていた間の記憶を完全に消すことで対応した。
今は俺が資金を出している孤児院で経過を見ている。
クー・フーリンとの会話に上ったバゼットさんは、彼に言ったとおり実は無事である。
事前に言峰について警告はしておいたんだが、封印指定の執行者である彼女にとって俺は一時期仮想敵でもあって、そんな俺より旧知の言峰を信頼した彼女は結局原作通りの流れでクー・フーリンを奪われた。
遠目に監視していた俺は、言峰が彼女にとどめを刺すことなくその場を離れたので、こそこそ最低限の治療だけを済ませてひとまずその場を離れる。
その後、メディアと契約を交わした後に、死んだと思っていたからか言峰が完全に彼女への興味を失っている事を確認して改めて接触をもったんだが、ダメージが大きかったせいかいまだに彼女は眠ったままだった。
そこでふと、思ってしまったわけである。
聖杯戦争に深く関わるなら、動きが予想できない彼女は眠ったままでいてくれた方がありがたいな、と。
別にバゼットさんは嫌いじゃないんだが、時計塔でのポジション的に素直に協力してくれるかが怪しかったのもあった。
結果として、俺は彼女をメディアの魔術で眠らせる事で聖杯戦争から排除することを選択した。
なお、冬木市内の館に留め置いたのは、ホロウ・アタラクシア世界線の事件が起こった時に、彼女がいたほうが介入の足掛かりになるからだ。
結局アンリマユは排除されて、大聖杯もメディアによって掌握されたため、あの事件が起きる事はなかったようだが。
バゼットさんに対する扱いが厳しい?
まあ彼女はすでに大人だし、封印指定を受けた魔術師がどうなるかを知っていてあの仕事をしている以上は、事情があったにせよ、俺としてはそれなりの対応になるというか。
彼女からもどちらかというと、敵対的な態度をとられていたしな。
恐るべき仮想敵、っていう認識が抜けていなかった感じなんだろうけど。
そうそう、アインツベルンだが、イリヤの敗北が伝わる前にメディアの転移で強襲して、制圧。
イリヤの協力も得て、完全に掌握した。
なんでこんな強引な手を使ったかというと、イリヤの敗北が伝わってしまうと、目的の達成を諦めたホムンクルスたちが自殺を始めてしまうからだ。
俺の暴力とメディアの魔術で瞬く間に制圧されて行くアインツベルンを、イリヤが何とも言えない顔で眺めていたのが印象深い。
そんな感じに聖杯戦争の後始末を行っていた俺は、その一環として病院の一室を訪ねていた。
ノックをしてから部屋に入ると、結構良いつくりの個室のベッドに一人の少年が居た。
間桐慎二である。
俺の事を見ると一瞬怪訝な顔をしたが、背格好から察したのか顔を引きつらせて叫び声を上げた。
「ひ、ひい! 化け物魔術師!? ぼ、僕を殺しに来たのか!?」
念のため遮音の結界を事前に張っておいて正解だったな。
「そんなつもりは毛頭ないさ。ちょっと話さなければならないことがあって寄っただけだ」
俺が軽い調子でそう言えば、ひきつった顔は、どこか沈んだ自嘲的なものになった。
「そりゃ、そうか。僕みたいな魔術師ですらない、利用されていただけの道化を殺しに来るほど暇じゃないよな、あんたも」
ふむ、中途半端な退場だったから心配だったが、ちゃんと憑き物は落ちたみたいだな。
これならもう大丈夫だろう。
「まあ、確かに見事な道化ぶりだったな」
俺がそう言うと、慎二君はクシャリと顔を歪めた。
「だが、誇れよ少年。君のその道化芝居は、ついに聖杯戦争から君の妹を遠ざけきったぞ」
そして続くこの言葉で、驚いたような顔になった。
まあ、基本的には自己顕示欲とか、承認欲求とかがメインではあるんだろうが、少しくらいはそれも動機に含まれていただろう。
彼はそう言うやつだ。
「それは、凡百の魔術師どころか熟練の魔術師でも難しい、魔術師でもない人間が生きてなしえた成果としては破格のものだ」
しかも、その成果は表面上の意味以上に大きい。
「君が挙げた成果は、君が思っている以上の価値がある。俺に感謝と敬意を抱かせるくらいには」
慎二君は顔を伏せて、布団を握りしめた。
しばらくの間、沈黙が流れた。
「わざわざそんなことを言いに来たわけ?」
声が少し震えていたが、あえて無視した。
そこに突っ込むのは同じ男として無粋にすぎるだろう。
「いや、間桐家の長子としての君にいくつか確認をね」
「魔術関連の事は僕にはわからない。あんたと桜で話してくれ。でも、本当に僕に感謝してるっていうなら、桜に少しでもいいように計らってやって欲しい」
いいね。
本当に吹っ切れたみたいだな。
その心意気には、きっちりと応えようじゃないか。
「間桐家長子の言、確かに承った」
しっかりを目を見て請け負う。
「ところで、君は魔術に比べて自分の持っている他の才能を軽んじていたようだが。人の間で今の世を生きるのであるならば、君の持っている様々な才能の方が、よっぽど価値があると思うぞ?」
それに、なんというか。
「しかも、魔術なんてもので才能があるとな。色々と厄介ごとが寄ってくるわけだ。ちなみに俺は中々、魔術に関しては才能がある方なんだが。おかげで今回のような厄介ごとに事欠かなくてね」
慎二君の顔が、ひどいものになった。
「うわぁ、マジで? とっくに懲りてたけど、なおのこと嫌になったよ」
俺が軽い調子で言ったせいか、少しは緊張が解けたのか、調子が出てきたようである。
「マジだな。まあ、だから君の選択は賢明だと思うぞ。君としては思う所のありそうな遠坂嬢にはそうだな、大人になったころには君はそれなり以上に稼ぐひとかどの人間になっているだろうから、ちょっと良い所に食事にでも誘ってこう言ってやると良い。『あれ、遠坂、この程度のものも日常的に食えてないの? 魔術は金がかかって大変だな』とかなんとか」
遠坂嬢の事だから、きっと実にイイ表情をしてくれるに違いない。
「あんた、僕の真似が妙にうまいのなんなの?」
ほんの嗜みである。
「まあ、その後の君の身の安全は保障できかねるんだけどな」
「けしかけるんならそこは保証してくれないかな!?」
そんなくだらない会話を楽しんで、部屋を出る時に、慎二君に呼び止められた。
「あいつ、あんたに礼を言いたがってたから、冬木を離れる前に一度会ってやってくれよ。間桐の家の魔術についての話だって必要だろう?」
そうだな。
ちゃんと、話す必要がある。
アルトリアに偉そうなことを言ったんだ。
ちゃんと向き合わないといけないだろう。
本日二度目の投稿、お楽しみいただけたでしょうか。
改めて今日までの応援に感謝いたします。
そしてこれからもどうぞよろしくお願いいたします。
小話
慎二君は割と隠れたMVPです。
桜ちゃんは結局、一回だけ言峰に狙われたくらいで、それだってマスターだからではなく、聖杯としての機能を植え付けられていたのを言峰が妖怪爺経由で知る機会があったためですから。
ライダーさんと主人公の思惑もあったとは言っても結果を見るとマジの大殊勲。
主人公も慎二君が魔術への執着から解き放たれた事と、これを認めているために脳内の呼び名が改められています。