Fate Night Unnamed ~チート転生者はデスマーチに挑む(ほぼ強制)   作:空門 志弦

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第39話   俺と運命を運ぶ少女

 

 メディアに転移で時計塔近郊の人気のない場所に送ってもらったあと、徒歩で時計塔に向かう。

 時計塔の敷地内に足を踏み入れると、明らかに空気がおかしかった。

 全体的に何か落ち着きがなく、バタバタと動き回っている人間が散見される。

 

 ロードエルメロイに割り当てられた部屋に直行して、扉を開けると案の定というべきか。

 いつものメンバーが顔を揃えていた。

 

「統夜!?」

 

 ライネスが驚いて声を上げた。

 他の面々も驚いた顔をしている。

 まあ、まだ日本にいると思っていただろうからな。

 

「どうやって……いや、そうか、かの神代の魔術師メディアであれば」

 

 二世がいち早く事情を察して、立ち直った。

 

「色々と言いたいことはあるが、今回は助かった」

 

 二世が、胃痛の種をとりあえず横に除けるレベルの問題か。

 ならこっちも単刀直入にいこう。

 

「状況を教えてもらえますか?」

 

「霊墓アルビオンが異界化した。現状で入り口となっているゲートから突入したものに帰還者はいない。そしてこれが最大の問題だが、徐々にではあるが規模の拡大が見られる」

 

 なるほどメディアの想定通りか。

 メディアは出発前に、大聖杯につながる霊脈まで影響が及んでいる事に言及。

 そこからの解析による結果として、おそらくはという前置きの上で、現象としては特異点化に近いと評した。

 

 そして俺が解決のために動くことを察していたメディアは、色々なアドバイスをくれたわけだ。

 そのアドバイスをもとにある人物の協力を求めたところ、超特急でこちらに来る、という回答を貰っているんだが。

 そんなことを思い浮かべるタイミングを計っていたかのように、部屋の扉が勢いよく開かれた。

 

「来ましたよ、統夜さん! ご要望の品もばっちりです!」

 

「シオン・エルトナム・ソカリス!?」

 

 二世が驚愕の声を上げるが、悪いがとりあえず横に置こう。

 

「ゲートへのダイブと、最悪の場合の撤退は?」

 

「もちろん、どちらも問題なく。想定以上に協力者が多かったので、すでに実証実験も済ませていますからね。虚数潜航移動拠点シャドウフォートは万全完璧です!」

 

 アトラス院で、協力者が、想定以上に集まっちゃったかあ。

 それ今回の一件か、あるいはシャドウフォートの存在如何で複数の滅亡要因に影響が出るってことだよね?

 協力自体はありがたいんだけど、聞きたくなかったな。

 

 しかし、エーテライトを使わせないと、FGOのシオンみたいな性格になるって聞いてはいたけど、ホントに、こういう感じになるとは。

 いや、その過程には俺も結構関わってるから今更感はあるんだけど。

 それでもFGOの頃の見た目にだいたい追いついて、特異点への介入を行うという段になって今のシオンを見ると、なんというか、運命めいたものを感じずにはいられないわけである。

 

「来て早々すまないが、とりあえずダイブするゲートの状態を確認して最終調整を頼む。法政科には道すがら話を通しておいたからスムーズにいくはずだ」

 

 虚数潜航移動拠点シャドウフォート。

 俺が素体となるチート由来の移動拠点車両を提供し、アトラス院協力のもと改修した虚数観測機「ペーパームーン」搭載の特異点事案へのカウンターだ。

 

 この世界自体が、あのBBがあんなメッセージを送るような世界なわけだからな。

 特異点に関わる事になる可能性くらいは、ずっと前から想定済みである。

 流石に霊墓アルビオンという特殊なロケーションとはいえ、現在の空間に特異点が発生したのは驚いたが。

 あるいは、ロケーションの問題ではなく、この世界の問題なのか?

 

「了解しました!」

 

 バタバタと部屋を出ていくシオン。

 一方俺は、部屋の面々に振り返った。

 

「メリュジーヌは、すまないが付き合ってくれ。あとの面々は最悪に備えて時計塔から移動を。場合によっては他国……そうだな、大聖杯のある日本の冬木への移動も考慮しておいてほしい」

 

 俺の言葉にメリュジーヌが目を輝かせて頷いた。

 状況が不透明だったために、冬木の戦力は動かさなかったが、結果としては正解だったな。

 最悪の場合、一度英国は放棄しなければならないかもしれない。

 その時の拠点として、霊地としての格も高く、何よりリソースがあればサーヴァントを戦力として用意可能な大聖杯がある冬木は最適だろう。

 

「いやでも、拡大の速度はそこまでじゃないぞ?」

 

 俺を置いて時計塔を離れるのを嫌ったのだろう。

 らしくない楽観的な判断でライネスがそう言ってくるが、俺が何かを言う前に二世が口を開いた。

 

「今の時点ではな。だが、いつ急激な拡大に転じるかわからん。何しろ我々は、何一つ確かな情報は得られていないのだから。私は、統夜の方針を支持する」

 

 二世の言葉に、ライネスが唸る。

 グレイがアッドの入っている籠を強く握りしめて、カレンは心配げに俺を見ていた。

 

「俺は状況を正しく確認するためにも一度、内部に突入しなければならない。解決可能なら解決するし、そうでない場合は撤退して状況を立て直す。シャドウフォートなら、それが十分に可能だ」

 

 シャドウフォートの事は、ばれると特にアニムスフィアあたりが煩そうだったので、シオンとアトラス院の協力者以外には知らせていなかった。

 当然、後で話を聞かせろよ、という二世の圧が凄い。

 すぐに聞いてこないのは状況が切迫しているからだろう。

 

「大丈夫だよ、僕もついているんだから。何があっても、無事に連れ帰ると約束する」

 

 王子様モードのメリュジーヌが、ライネス達に保証してくれた。

 この場の面々は全員メリュジーヌの正体を知っているから、効果はてきめんである。

 明らかに部屋の中の緊張感が和らいだ。

 メリュジーヌが俺だけにウインクを飛ばしてくる。

 あとで礼を言わないとな。

 

「二世は、教室の連中に関して変な真似をしないように釘刺しと、避難の呼びかけを頼みます」

 

 さて、急ぐとしようか。

 最悪の事態に備えて案は出したが、最悪の事態にならないに越したことはないからな。

 

 

 

 

 諸々の準備を終えて、ライネス達と教室の面々から見送られた俺は、メリュジーヌとシオンと共にシャドウフォートに乗り込んでいた。

 

「君は付き合わなくてもよかったんだぞ?」

 

 シオンにそういうが、笑って返される。

 

「現状、シャドウフォートを一番よく知っているのは私です。それに、トリスメギストスの演算でも、これが最善、という結果でしたから」

 

 まあ、本人が納得しているなら良いか。

 シャドウフォート内の安全性は、ストームボーダーと比べても上回る程度には防御面で優越しているからな。

 

「むしろ、もう少し人員を増やさなくてもよかったのですか?」

 

 それも考えなくはなかったんだが、シャドウフォートはほぼ無人での運用が可能になっているし、詳細不明の特異点へのダイブとなると、下手に人員を増やすのもな。

 トリムマウのアップデートがもう一段進んでいたら、ライネスに付き合ってもらう手もあったんだが。

 いろいろ忙しくて、今回には間に合わなかった。

 

「内部の状況次第で、脱出後に再突入することになったら、その時に考えるさ」

 

 結局それが正解だと思う。

 

「僕がいるんだし、そんなことにはならないと思うけどね」

 

 それもあるんだよなあ。

 メリュジーヌはサーヴァントとしてではなく、この世界に根を下ろした真性の竜種としてここにいるわけで。

 普通の特異点であれば、彼女がいるだけで丸ごと焼き払えてしまえなくもない。

 

「頼りにしている」

 

 普段は持て余し気味の戦力だが、こういったケースでは本当に頼りになる。

 感謝を込めて頭を撫でれば、メリュジーヌは本当にうれしそうな顔で笑った。

 

『ゼロセイル、スタンバイレディ』

 

 機械音声が、準備完了を伝えてきた。

 さあ、それでは、始めようか。

 シオンに目配せをすれば、頷きが返ってきた。

 

「シャドウフォート、潜航開始。目標、霊墓アルビオン内の特異点近似空間」

 

『潜航、開始します』

 

 一瞬の眩暈。

 なるほど、これが虚数潜航の感覚か。

 しばしの潜航の後、特異点内への浮上が始まった。

 モニターに映し出される、特異点内の映像。

 

 これは、地球空洞説の世界なのか?

 FGOであれば、アガルタあたりが該当するが、発生場所からしてそことは関係ないだろう。

 

『近辺に多数の飛行生物を探知』

 

 嫌な予感がするなあ。

 こういう時の飛行生物ってアレだろ。

 

「ワイバーンですね。まあ、霊墓アルビオンが母体になっている特異点であると考えれば、妥当と言えば妥当なのかもしれませんが、なんなんでしょう、あの数」

 

 思わずといった調子で呆れた声を出すシオンに、俺も心からの同意を返すしかない。

 アレはないわ。

 会話の途中でワイバーンとかいうレベルじゃない。

 何匹いるんだ。

 無視してしまいたいが、どうも誰か戦っているっぽいのが目に入ってしまった。

 

「ちょっと行ってくる。メリュジーヌも頼む」

 

「任せて!」

 

 操縦室から離れ、外部ハッチから外へでた。

 

「イーリアス、アロイ、アクティベイト! アロイ、偽装破棄! かっ飛ばすぞ!」

 

 目撃者を一切気にしなくていいのは、実に助かる。

 まあ、あそこにいるのが時計塔の出した調査隊の生き残りって可能性もあるが、口止めの時間はいくらでもあるしな。

 アロイで地を駆ければ、戦闘が行われていた地点まではすぐだった。

 

 自分の翼で俺に並んで飛んでいたメリュジーヌが一足早く、ワイバーンに切りかかった。

 今の戦闘スタイルは、妖精騎士ランスロットのそれに近い。

 普段の王子様ムーブといい、結構そのロールも気に入っているっぽいな。

 あちらは放っておいても問題ない。

 いくら数が多くてもワイバーンごときに遅れは取らないだろう。

 

「このっ、ここまで消耗してなければ、ワイバーンなんかに……!」

 

 その声が耳に入って、一瞬思考が止まった。

 そして、思考が動き出すとともに、急速に理解が追い付いてきた。

 

 ああ、そうかよ。

 あの子を迎えてあげてって言うのは、そういう事かよ。

 その少女を、バイクですれ違いざまに抱き上げた。

 

「――――っな!? あなた、まさか!?」

 

「話は後だ! しっかりつかまっていろ!」

 

 バイクの後ろに座らせた少女が、後ろからつかまってくる。

 

「メリュジーヌ! いったん距離を空けろ! 一気に蹴散らす!」

 

 俺の指示に、ワイバーンの群れの中を縦横無尽に飛び回っていたメリュジーヌがワイバーンたちから距離を取った。

 それを確認してから、アロイのアクセル脇のトリガーを引いた。

 そのサイズからは考えられないような数のミサイルが、アロイから次々に飛んでいき、空に光の華を無数に咲かせた。

 

 ひとまずこれで、いや、なんだこの振動。

 何かまずいと思ってアクセルを吹かせば、地中から現れる大型の竜。

 さて、どう倒すべきか、と考える間もなく、横合いから別の竜が現れてその竜に突撃した。

 同士討ち?

 いや、あの竜、タラスクか!

 

「エクスカリバー、アクティベイト! 音声鍵省略、限定超過駆動!」

 

 タラスクが作ってくれた隙を見逃さずに、エクスカリバーの一撃で竜種を屠った。

 

「お見事!」

 

 背中の少女からではない、女性の声が響いた。

 声の方を振り向けば、想像通りの人物がいた。

 聖女マルタである。

 なるほど、竜種ばかりのこの特異点に呼び出されるサーヴァントとしては適任の一人だろう。

 アロイを彼女のもとに寄せて止めた。

 

「やるじゃない、貴方!」

 

 肩をバンバンと叩かれる。

 イーリアスの装甲をそんなに強く叩いて痛くないんだろうか。

 というか。

 

「聖女の猫は被らなくていいのか?」

 

 なんか変な言い方だが、そうとしか言いようがない二面性のある人なのである。

 初対面だと、もっと聖女モードで接触してくるタイプのキャラだと思っていたんだけど。

 

「あ、しまった。あんまり爽快な活躍だったからつい」

 

 ああうん、俺のバイクでの大立ち回りで盛り上がっちゃったわけか。

 そういう人だよな。

 まあ、それはともかく。

 

「すこし、落ち着けるところとか知らないか? 貴方にも色々聞きたいし、背中のこの子とも話さないといけなくてな」

 

 ずっと、何か考え込むように黙っていた少女、ところどころ俺の知る姿とは相違点があるが。

 

「君が、BBからの使者という事で良いんだよな、メルトリリス?」

 

 サクラファイブなんて呼ばれ方をする、BBをもとに生み出されたAIにして複合神性の一人、メルトリリス。

 彼女は俺の言葉に、何か痛みをこらえるような顔をした後で、諦めたようにうなずいた。

 

 

 

 





いつも閲覧ありがとうございます。
お気に入り登録や評価、感想と誤字報告にも変わらぬ感謝を。


小話

そんなわけで、まだ本格開始前ですが、デスマーチNo.1の舞台は、ご覧の通りの竜種ひしめく、地球空洞説的な変異型特異点でございます!

物語の最初期段階でのシオンとの出会いは、まさにここから先の物語のためと言っても過言ではありません。
何故こんなことになったのかといった話は本編で述べるとして、ここから話のスケールが一段階広がります。

なお今回は前章からのインタールードで世界の真相などが控えていたため短めですが、今後は多分もう少し長くなるでしょう。
時計塔周りとか、日本関係の話とか、主人公たちの日常とか描写したい話は結構事欠かないので。

なにはともあれ、これからも楽しんでいただければ幸いです!


あと、本日はオマケと、作中におけるイメージの助けとして、虚数潜航移動拠点シャドウフォートについて軽く説明などさせていただきます。


見た目は、某砂上戦車の装甲デザインを、オデュッセウスの鎧っぽい感じに寄せた感じでイメージしています。
現実空間ではアロイと同じ技術の偽装によって大型トラックサイズのクラシックデザインなキャンピングカーに偽装。

短い時間であればアロイと同じで空中も走れたりします。
装甲材はSF仕様な為に元からかなり頑丈なうえ、シールドなんかも張れるので防御能力は相当なもの。

なお、アトラス院との技術提携に際しては、情報の秘匿と、技術の不要な解析の禁止、取得した技術の他の研究への転用などを固く禁じる等の契約を、厳に結んでいます。
アトラス院側も、技術のあまりの異質さに気づいて、これの遵守に同意しています。

また世界滅びるような兵器作りたくないもんね。
残当。



追記

投稿時間の設定をミスってしまったので、今日はこのままでいきます。
なので、本日の投稿はこの39話のみとなります。
スミマセン。
いやあ、投稿時間は始めて失敗しました。
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