Fate Night Unnamed ~チート転生者はデスマーチに挑む(ほぼ強制)   作:空門 志弦

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第4話    ライネスの決闘と月霊髄液

 ライネスからの依頼を果たし、俺に魔術回路があることが発覚してからしばし。

 自分の魔術についてはサッパリ進展していなかった。

 チートで解析はしたから、そちらからのアプローチで活用することは出来る。

 でもそれじゃあ、面白くないよな?

 折角Fate世界にいて魔術の素養があるというなら、ちゃんとこの世界の魔術を学んでみたい。

 

 そうすると、今現在の俺の伝手はライネスのみになるんだが。

 あんまり借りを作りすぎるのは良くないよなあ。

 何しろライネスだし。

 見た目は可愛いが、立場的なものもあるんだろうが結構な謀略家だからな。

 そこを抜きにしても、Sっ気が強く、小悪魔気質。

 よし、とりあえず、魔術の教授を依頼できるくらいの貸しは積み重ねてから依頼する方向で。

 

 考えがまとまるタイミングを待っていたかのように、ドアがノックされた。

 うーん、いやな予感。

 噂をすればなんとやら、ってやつで、訪問者はやっぱりライネスだった。

 

「今日はこれを君に渡しに来たんだ」

 

 玄関口で差し出されたのはこのご時世に封蝋を施された封筒だった。

 開けて中身を確認することを促されたので、封蝋を剥がして手紙の内容を確認した。

 丁寧な文面で先日の依頼の件についての礼が綴られ、最後にそのお礼として、ライネスの実質の当主就任式に招くといった事が書かれていた。

 就任式の日程は、今日……今日!?

 

「では行こうか。せっかくだからあのアロイで送ってくれたまえ」

 

「前回の一件といい、もう少し事前連絡ってものをだな」

 

「でも君、猶予を与えると、場合によっては逃げるだろう?」

 

 否定はしないけどね!

 くそう、まだほんの数回の付き合いなのに、付き合いの密度の所為か大分読まれてる気がするなぁ。

 かたっ苦しいのとかめんどくさいし、厄介ごとの匂いがするから今回の件とかは本来なら正にバックレ案件だよ、ちくしょう!

 

「ほらほら、鍵を閉めて。服はこっちで用意しているから、私の屋敷で着替えればいいし」

 

 断り文句を先んじて潰してくるよこの子。

 完璧にロックオンされてるだろこれ。

 そりゃ、俺はライネスの好奇心を実に刺激する存在だろうけど。

 諦めのため息をつきながら、ライネスに背を押されながら駐車場に向かった。

 

「この前の市街地でのドライブが中々楽しくてね。一度、厄介ごととか抜きで楽しみたかったんだよ」

 

 そう言われてしまえば、こちらも悪い気はしない。

 少しはサービスをしようか。

 

「それなら、軽く街を流すか? 時間に余裕があればだけどな」

 

「良いね! 時間には余裕があるから、是非そうしてくれたまえよ!」

 

 街を走っている間、ライネスは終始ご機嫌だった。

 

「走っている町こそロンドンだが、クラシカルなデザインのバイクに二人乗りでこうしているとあの有名な映画を思い出すなあ」

 

 というとローマを舞台にしたあの古典映画の事かな?

 案外乙女チックなことを言うものである。

 イタリアなんかだとあれは割と憧れのシチュエーションの一つだなんて聞くけど。

 

「あれで使われてたバイクはたしかベスパだったっけ? 確かに俺のアロイでも似た雰囲気は味わえるかもな」

 

 まあ、荒事関係なしのドライブなら、俺も別に文句はない。

 多分だが、これから本格的に背負うことになる色々な重みに対する逃避もあるんだろう。

 気晴らしくらいはさせてあげるべきだ。

 いくらライネスといっても、まだ年齢が年齢だからな。

 そうして観光気分でロンドンの街中で、アロイを走らせた。

 ふと、ライネスが呟く。

 

「時間切れだな」

 

「そうか。それじゃ屋敷に向かうとしよう」

 

 屋敷に到着すると、ライネスは一度だけ深いため息を吐いた。

 

「楽しい時間は過ぎるのが早い、というのは本当の話だったんだな。ここ最近そんなことは忘れていたよ」

 

 すぐに表情を引き締めていつもの調子に戻るライネスだったが、そこには確かに疲れのようなものが滲んでいた。

 

「厄介ごと抜きなら、またいつでも後ろに乗せて走ってやるさ」

 

 ライネスは目を丸くして、珍しく邪気のない顔で微笑んだ。

 

「そうか。それならその時を楽しみにしておこう」

 

 そのあと俺は屋敷の一室に通されて、着替える羽目になった。

 うわぁ、なにこれ。

 めっちゃ仕立てが良いんだが。

 絶対高いだろこのスーツ。

 

「様になっているじゃないか」

 

 スーツを着た俺の落ち着かない様子を見て、ライネスがニヤニヤしながら言ってくる。

 ほんとにSっ気がつよいなあ、おい。

 

「ほっとけ。こちとら町の配送屋さんだぞ。こんな堅苦しい格好をする機会なんて皆無なんだよ」

 

 俺の返答がツボに入ったのか、ライネスは笑い出した。

 

「君が! 街の配送屋と来たか! 間違ってはいないけど!」

 

 おのれ。

 君と関わるまではホントに普通に配送屋だったんだぞう。

 まあ、アロイがちょっと特殊ではあったけども。

 

 そんな気楽な話をしていられたのも、就任式前の顔見せを兼ねたパーティーが始まってしばらくの間だけだった。

 

「ライネス・エルメロイ・アーチゾルテ! 君に決闘を申し込む!」

 

 お、おう。

 一瞬、婚約破棄系の物語世界にでも迷い込んだような錯覚を覚えたぞ。

 エルメロイみたいな名門だと、こういう風習、割とまだ残ってるんだなー。

 周りがあんま驚いてないし。

 

「なあ、あの青年、何?」

 

 ライネスの耳元で、小さく聞いた。

 

「いわゆる次点の当主候補殿だね。本人のプライドの問題か、あれは先代に憧れていたからそのあたりをつつかれて誰かに唆されたのか……、まあどうあれ、私を舐めてかかった代償はきっちり払ってもらおうか」

 

 場所を変えて、庭での決闘が始まった。

 ライネスは自信ありげだったが、何か必勝の策でもあるのだろうか。

 あの子、戦闘が得意なタイプの魔術師じゃなかったはずなんだが。

 

「さあ、それじゃあ、始めるとしようか」

 

 言って、ライネスは懐から一つの試験管を取り出した。

 ああ、なるほど。

 あれがあるのであれば、あの自信も納得だ。

 相手の青年が卑怯だとか叫んでいるけど、ライネスは失笑するばかり。

 

 さもありなん。

 相手は曲がりなりにもエルメロイを掌握した魔術師。

 あれを出してくる可能性くらいは当然、考慮しておくべきだ。

 月霊髄液。

 ヴォールメン・ハイドラグラム。

 

 エルメロイの至上礼装と名高いそれは、ケイネスの遺産にして非常に強力な魔術礼装である。

 水銀に魔力を充填し自在に操るそれは、堅固な盾にも強力な鉾にもなる。

 決闘はほとんどワンサイドゲームで進み、決着した。

 

 相手がなんだかんだ軽い傷ばかりなのは、情け、はライネスに限ってはなさそうだから、政治的な事情か単なるSっ気か。

 決闘を見た感じ、ライネスはケイネスほど見事に扱えてはいない様子だし消耗も激しそうだ。

 しかしそれでも十分な程度の相手であった。

 

「つまらない相手だったな」

 

 ライネスは本当につまらなそうに吐き捨てている。

 その後、パーティーが大分夜遅くまで続いたこともあって、屋敷に泊っていく事になった。

 俺としても気になることがあったので、渡りに船でもある。

 夜中に客室を抜け出して網を張ると、案の定、獲物がかかった。

 

「まあ、そうだよな。昼間のアレが本命ってんじゃあまりにもお粗末だ」

 

 大方、昼間のアイツはライネスの力を測る威力偵察に使われたんだろう。

 そしておそらくは本命の現れた刺客たちを前にして、俺は鼻で笑った。

 

「だからといってお前らについても、お粗末って点では変わりがないけどな」

 

 これでも俺は結構腹が立っているのだ。

 いくら魔術刻印が適性によって相手を選ぶといっても、あんな幼い子に重責負わせて、しかも気に入らないから邪魔もするし命を狙うやつまでいる始末。

 

「お前らがあくまで仕事で来てる類の連中だったとしたなら、これは完全に八つ当たりだが。まあ、悪く思うなよ。人の命を的にして飯を食っている時点で同情の余地はないからな」

 

 警棒やスリングショットはない。

 だがまあ、実はぶっちゃけ生身であれば俺は、変な道具を使うより徒手空拳の方が強かったりするのである。

 

 

 

 

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