Fate Night Unnamed ~チート転生者はデスマーチに挑む(ほぼ強制) 作:空門 志弦
俺は今、シャドウフォート内の一室でメルトリリスと向かい合っていた。
戦闘が終了した後、シャドウフォートと合流。
マルタさんの案内で地中から現れた大型の竜種の寝床である洞窟内に潜伏して、ひとまずの安全が確保できたからだ。
縄張りの関係で、主を失ったこの洞窟はしばらく安全になるんだそうな。
もとはと言えば、マルタさんはあの竜種の討伐が目的だったらしい。
この世界で現状唯一といってもいい竜種以外の種の生存圏である城塞都市の安全確保のため、という話だった。
都市までは少々距離があるそうで、とりあえずここで情報交換を兼ねて小休止しようという算段である。
なお、室内には俺とメルトリリスだけ。
これは彼女からの要望で、まずは俺に話をしたいという事だった。
事情はなんとなく察することが出来たので大人しく従うしかなかったのだ。
BBは俺の力を深くまで知っている様な口ぶりだったから、俺の特殊な素性の話も関係してくるのだろう。
なのだが。
部屋で二人になってしばらくたっているのだが、メルトリリスが一向に口を開かない。
『は~仕方ないですねぇ。ここは、私が』
メルトリリスが、肌身離さず持っていた、小型の金属ケースから、声が響いた。
『BB~チャンネ――――』
「ふざけるのはやめて、BB」
ぴしゃりと、メルトリリスが制した。
初めて会った時から、彼女の姿と一緒に気になっていたが、なるほど、やっぱりそういう事か。
そのケース、霊基トランクに似すぎていたもんな。
「そう、やっぱり気付いていたのね。私の姿を見て、怪訝そうな顔をしていたのも、それが理由か」
普通の人間と変わらない足に、弱った戦闘能力を補うためであろう銃器を使っていた手。
実際それがなかったら、アロイに乗せる時、俺が彼女を抱える事になっていただろう。
俺の知っている世界線の彼女は足は武器と一体だったし、手は握手すら難しいほど、まともな機能がなかった。
「私たちは貴方の知っている他の世界線とは、存在の成立過程が違うの。まあ、全力戦闘の時は、足は貴方の知っている姿に変わるけど」
ケースの中にいながらに、意思疎通まで可能っていう事は、霊基トランクの発展型ってところか?
かなり先の未来から来ているっぽいから、そう言った技術があっても不思議はない。
『メルトちゃんに止められちゃったので、残念ですけど真面目にお話します』
メルトリリスがテーブルの上に置いた小型のケースから、BBのホログラムが現れた。
ホログラムのBBは肩を竦めて言ってから、あごに指をあてて考える姿勢になった。
『でも、さて、どこから説明したものやら。うーん、そうですね、まず大前提からにしましょう。いいですか、神薙さん。この世界はですね、実質的に三周目なんです』
――――三周目?
『まず、そもそもの話をするとですね。この世界は元は剪定事象なんです。そうですね、あなたの知っているであろう情報から近い所を上げると、AIの進歩によって結果的に衰退を迎えたドバイ世界線で、さらにアーキタイプが生まれなかったケース、というのが世界線としては近似値になるでしょうか』
ああそりゃ、まごうことなく剪定案件だな。
納得しかなかったので、頷いて先を促した。
『残念ではありますが、穏やかな末路だったと言って良いでしょう。人類は最終的に緩やかに衰退し、安らかに幕を引きました。いいえ、幕を引くはずだったというべきですか』
そこで終わっていたら、この世界は存在しないもんな。
再び頷く俺である。
『厳密にはちょっと違うんですが、とりあえず専門知識がない人間にも分かりやすい形として、起こったことを説明しますね。問題は、この世界線が存在する上での、分岐点の位置です。私たちの世界は結末を迎え、剪定されて、いうなれば、剪定後データ保存フォルダにしまわれました』
FGOで剪定された世界であるロストベルトとかが実質サルベージされたことを考えると、なるほど、そんな感じのデータの保管みたいなのはあるんだろう。
でも、なんだろう、凄く嫌な予感がしてきたと言うか。
『保存フォルダは比較的近い世界線で一纏めになっていると思ってください。そして、保存時は、圧縮されるわけです。そのままだと、サイズが大きくなりすぎますから』
まて、ちょっと待ってくれ。
凄く聞きたくなくなってきたぞ?
『そのフォルダが、あまりにも質の悪い滅亡要因の詰め合わせだったからか、あるいはそんなことも関係なく、ただたまたま間が悪くて起こってしまったエラーだったのかは、わかりません。そのフォルダのデータは、結果として、全部が一つに融合されてしまいました』
両掌を、胸の前でゆっくりと一つにあわせるBBの仕草を見ながら、俺は眩暈をこらえるのに必死だった。
なんだ、それは。
冗談じゃないぞ。
『ひどい話ですよね。しかし、データが融合してしまっただけであれば、私たちの残した足跡が正しい形で残らなかったことは残念ではあるのですが、話はそこで終わりだったんです。でも、そうはならなかった。この融合データは、貴重なサンプルとして、再計算が許されました。許されてしまったんです』
おい、ちょっと責任者がいるなら連れて来てくれないか。
俺が、全力も全力で、持てる限りの力を、いやそれ以上の死力をもってそいつを消すから。
『控えめに言って地獄でした。それでも追い詰められるたび、人類はより一丸となり、あまりの状況のひどさにアラヤとガイアの意思も一致して、一つ一つ滅亡を回避していきました。でも、当然というべきか。限界はやってきます。ついには滅亡が避けられない未来として、誰の目にもはっきりと見える形になってきた頃』
びしりと、BBの指が俺をさした。
『あなたが、この世界に楔を打ち込みました。私たちから見れば過去になる時間に、計測可能な部分だけでも世界に匹敵するポテンシャルを持った、この世界の法則に縛られないあなた自身が楔となって』
ここで、俺が出てくるのかよ。
椅子に座っていてよかった。
立っていたら、へたり込んでいたかもしれない。
『あなたを起点に、世界の再構成が始まったんです。普通なら分岐処理なんでしょうが、貴方は規格外過ぎた。貴方という楔の打ち込まれたこの世界は、もはや剪定のシステムから外れつつあります。おそらく、大きな滅亡要因を排除していって世界が安定しきれば、剪定というシステムの規格から外れた、独立した一個の世界として成立することになるでしょう』
それは例えば、サーヴァントユニヴァースのような?
あれはあれでルールが良く分からないけど。
ああ、現実逃避だ、これは。
『私たちの戦いの意味は、貴方の存在を観測した日から変わりました。未来を切り開く戦いから、次へと少しでも多くのモノを繋ぐための戦いに』
勘弁してくれ。
なんだって、俺が。
くそ、メルトリリスが、あんな泣きそうな顔と目で俺を見ていなかったら、とっくに突っ伏して、目を閉じて、耳を塞いでいたのに。
『だから――――』
BBの言葉が決定的な部分に触れるその前に、ずっと黙っていたメルトリリスが口を開いた。
「まって、BB。そこから先は、私が言う。言わなくちゃ」
『彼を巻き込むことには、否定的だった貴方が?』
聞きたくない話を、聞かされてしまっている。
「あなたはデータこそ持っているけれど、経験はしていない。あくまで、オリジナルのBBの複製だもの。他の子は傷を癒すために眠ったまま。なら、これは、私が言わなくてはいけない事だわ」
本当に、やめて欲しい。
そんな俺の心の悲鳴を知ってか知らずか、メルトリリスは椅子から立ち上がって、椅子から立ち上がれないでいる俺の前に立ち、騎士が王にでもするかのように、跪いた。
「神薙統夜。これは未来を拓かんと挑み、ついには敗れた彼らと私たちが、貴方へと、願い、そして託す、グランドオーダーです」
頼むから、そんな泣きそうな顔で、血を吐くような声で、告げないでくれ。
逃げられなくなるじゃないか。
「どうか、この世界を、彼らと私たちのたどり着けなかった未来へ導いてください」
その日、ついに俺は、その重すぎる世界の真実と向き合う事になった。
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小話
長らくお待たせしました。
此処が、この物語の本当の出発点です。
たどり着くまでにまさか、文庫本換算でだいたい一冊分かかるとは。
まずは、ここまでお付き合いいただいた事に感謝を。
そして、これからもどうぞよろしくお願いします。
読んでくれている皆さんに面白いと思ってもらえるように、この先も頑張ってまいります。