Fate Night Unnamed ~チート転生者はデスマーチに挑む(ほぼ強制) 作:空門 志弦
第41話 俺達と亜種特異点
重すぎる真実を知った後、俺が真っ先に取った行動は一つだった。
「アハハー、ナイナイ。いや、おかしいとは思っていましたよ? あの自分の研究内容にしか興味のない引きこもり達が、むしろせっせと自分から協力してくれるんですから。でも、だからと言って、それはない」
すまない。
本当にすまない。
だがしかし、こうなってしまうと、君とアトラス院の協力は必要不可欠なんだ……!
うつろな瞳で、平坦に笑うシオンに申し訳なく思いながらも、ぶっちゃけ彼女を巻き込む他に選択肢がなかった。
「ええ、嫌な予感はしていましたよ? 貴方は察せられる範囲でも、明らかに規格外でしたし。なんというか、協力してくれた面々の視線が、妙に同情的だったし。さては、あの人たち、全貌まではともかく、シャレにならない案件であること自体にはあたりが付いていやがりましたね――――!」
トリスメギストスも、酷な演算するよね。
いや、実際、俺の元に彼女がいてくれたのは僥倖以外の何物でもないんだけどさ。
彼女にはもともと、俺のチートの全容まではぼかしつつも色々な情報を開示していたからな。
未来からのメッセージのことなんかも、シャドウフォートの件で協力を仰ぐときに既に話していた。
『おめでとうございます! 真実の世界へようこそ!』
お前、鬼かBB。
人の心とかないのか。
「――――!!――――!!!」
あのシオンが声にならない、あらん限りの罵倒を魂で叫んでるのがわかる。
無理もないけど。
メルトリリスは申し訳なさげで、マルタさんは完全に同情の視線を向けている。
なおメリュジーヌは時間的に睡眠中である。
しばらく頭を抱えてフリーズした後、大きなため息をついてから顔をあげたシオンは、表面上は立ち直って見えた。
「切り替えました。ええ、文句を言ってもどうにもなりませんし。論理的じゃありませんから。ええ」
内面の動揺が透けて見えてお労しいことこの上ない。
巻き込んだの俺なんだけど。
「これからの事を考えるためにも、開示できる情報は開示してもらわないと。凄く聞きたくありませんが。世界の成り立ちは、わかったので、その先の情報を」
内心の本音は漏れているが、建設的な意見であった。
まあ、俺も二度手間を避けるためにそこは聞かずに、シオンを先に引き込んだので、異論はない。
俺も本音では凄く聞きたくないけど。
『はいはーい。それでは、説明できるところを説明していきますね。まず、この世界のベースになっているのは成り立ちにおいても話しましたが、ニア・ドバイ世界線です。これは融合した世界の中で、まともな形で最も人類が繁栄した世界線がこの世界線だったからではないか、と推定されています』
最終的に衰退に転じたと言っても、まともな現代文明の延長線上の社会を発展させて、BBレベルのAIが誕生するような文明レベルにまで至っているからな。
確かに他の滅亡した世界と比べて、ベースになり得る素養は上だったのかもしれない。
『それで、この世界にどういった形で他の世界の存在が融合されているかというと、これが一筋縄ではいきません。基準となっているニア・ドバイ世界を基底世界と呼称して説明します』
シャドウフォートのモニターに図説が表示された。
現在シャドウフォートのメインAIはBBが務める事になったため、操作はお手の物である。
『まず基底世界と矛盾した内容は、あくまで可能性としてのみ存在しています。完全に弾かれて消滅したりしないのは情報自体の強度と、再構成中という特殊な条件下ゆえ、と理解してください。前周時点でも融合状態が不完全でこれに近い状態だったため同じような状況でした。こういった世界に馴染めない可能性は、例えば今回のような特異点に近い形として現実に浮かび上がったりします』
剪定しきれてない剪定世界というか、何かの拍子に現行世界に取って代わろうとする感じか。
つまりこれあれだろ、異聞帯が特異点形式でぽこじゃかポップするヤツ。
なにそれ、地獄かな。
前周の人類、頑張ったんだなあ。
『大きな矛盾のない範囲の事象は、世界にそのまま存在したり、少し形を変えて存在したりします』
妙に事件が多く感じたの、絶対にそれが原因だろ。
細々とした事件までごった煮になってるじゃないか。
マジ勘弁してくれない?
『基本としては、このルールに則って融合されています。まあ、大きな滅亡要因ほど矛盾は大きくなるので、大体は初期段階では特異点に近い……もう面倒なので広義の亜種特異点として、そう呼称しますが、その形をとって現れます』
「初期段階では、ということはつまり」
聞いちゃうのか、シオン。
勇気あるな。
俺は正直、躊躇ったぞ。
『はい。初期段階での対処に失敗すると、現実世界を侵食し始めます。そして最後には現実と裏返って、まあ、後はお察しです。滅亡した世界が現実に取って代わるわけですから』
当然、世界は滅びる。
あるいは、最初から滅びていたことになるのか。
「とりあえず、前提となる世界の仕組みみたいなものは理解した。それで、前周で実際に現れた滅亡要因についてなんだが……」
『申し訳ありませんが、それについては今は、お話しできません。特にあなたには。ある意味で世界の中心に等しい、観測者的立ち位置でもある貴方に情報を与えた場合、現実世界に少なからず影響が出るからです。だから現時点でお話しできるのは、既に存在するこの亜種特異点についてだけです』
この世界の俺の胃を徹底的に痛めつけていくスタイル何なの?
一人だったら多分、崩れ落ちてたぞ?
俺が可哀そうだと思わないの?
あとで、一人の時に自作の胃薬飲んどくか。
『前周におけるこの亜種特異点の呼称は、『世界竜アルビオン』。かの冠位竜が夢見て、その遺骸の中から生まれた竜種の楽園。アルビオンそのものでもある世界。それゆえに、竜世界ではなく、世界竜。この空洞世界はアルビオンの体内のメタファーであり、放置すれば裏返って地表に孵る世界の卵の殻の中』
ちょっと待とうか。
この世界、目算だけど多分、地球に近しい規模だよな?
それとイコールってことは、この世界におけるアルビオンって、概念的には惑星規模って事では?
『前周においては魔術協会がひとまず結界にて膨張を食い止めましたが、結果としては失策でした。霊墓アルビオンを失陥した魔術協会はそこから得られる資源を失い、じり貧に陥り、後になって奪還を試みましたが、内部で大量に繁殖した竜種が立ちふさがる事態に』
おびただしい数のワイバーンと、ひょっこり気軽に現れた大型の竜種を思い出す。
発生したばかりの時点でも、これだもんなあ。
ひどい情景が目に浮かぶ。
『聖杯戦争のシステムから得た英霊召喚術式の戦線投入、さらにアトラス院も協力して、装備等を提供しました。戦いでは多くの魔術師が命を落とし、それでも最後は世界でもあり竜でもあるがゆえに、この世界に根付く形で生物としての天寿を持つというその性質を突いてブラックバレル・レプリカによる攻撃を慣行。その力を削る事には成功しました。しかし倒すには至らず、不完全な形ではありますが亜種特異点は孵化』
シオンが息をのんだ。
英霊にブラックバレル・レプリカまで持ち出した一大作戦自体にか、それでも成功しきれなかった事実にか。
『幸い、大きく力を削れていたために、世界が滅びるような事態にまでは至りませんでしたが、失われた魔術師の数の多さと、竜災の世界への埋め込みという、俗な言い方をすれば竜という怪獣が定期的に世界に発生するようになったという結果は、その後の世界に大きく影を落としました』
特撮怪獣映画の世界になっちゃったわけか。
しかも時計塔の勢力が大きく減じたうえで。
『抵抗力を持たない一般の人々の認識そのものも亜種特異点の孵化と同時に塗り替わったため、神秘の隠匿には問題が起こらなかったのは不幸中の幸いですね。収穫があったとすれば、明確な脅威の認知と、派閥争いをする余裕も無くなったことで各勢力の団結が比較的容易になったことくらいでしょうか』
被害に対して見返りがあまりにもしょぼくないか。
聞いていて泣けてくるな。
『ちなみに私たちがやってくるのが今、此処であったのは、この亜種特異点が孵化した後の私たちの世界とこの特異点を同一のものとして定義し、特異点内の事象として時間移動を処理したためです。メインがメルトリリスであったのは、彼女がもっともこの時間移動に適性が見られたためですね』
今に至るまでずっと連絡がなかったのは、俺に下手な情報は与えられなかったからで、今になって未来のBBから通信が届いたのは、この特異点が発生したことで時間を超えた通信の条件が緩んだから、という事だったわけか。
『しかし、驚きましたよ? まさかアルビオンの分体を味方につけているなんて。アレは前周において、アルビオン本体に迫る被害を出した存在だったのに』
大金星です、とBBは言うが。
「あの子はメリュジーヌだ。分体だとかアレとかいう呼び方はやめてくれ。前周の事はあくまで前周の事だろう?」
ここは譲れないし、譲る気もない。
俺の言葉に思った以上の大きな反応を見せたBBはすぐに真摯な表情で謝ってきた。
『――――失礼しました。以後気を付けるとお約束します』
強く言い過ぎたか?
でもこればかりはな。
さてしかし、思ったより使える情報が少ない。
一度撤退して態勢を整えて再突入したいところなんだが。
どうもこの世界、外と時間の流れが同じじゃないらしいんだよな。
外での一日が、中では数日から、最悪数年もあり得るくらいにずれがあるらしい。
BBから可能ならこの一回で、無理でも日を置かずに次のダイブでケリをつけるべきだと進言された。
次に潜った時に状況がどれだけ悪化するかわからない事と、マルタさんの護っている城塞都市のことがあるからだ。
情報収集の必要もあるし、都市の今の状態も見たい。
これはやはり一度、訪れるしかないな。
この世界における唯一の竜種以外の生存圏。
対竜都市マギスフェアを。
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小話
特異点内の時間移動適性においてメルトリリスの適性が一番高いのは、同根の別世界線の存在が特殊な環境下とはいえそれを成功させているからです。
あのセラフィックスでの一件ですね。
なお、メリュジーヌの呼び名の件は、実は主人公自身が思っているより剣呑な雰囲気が出ていてBBちゃんは内心涙目です。
単純に怖いし、ただでさえ人一人の身には重すぎる使命背負わせちゃってる罪悪感もあるし、しかも機嫌を損ねて没交渉になると世界は滅亡確定同然。
まあ、彼の性格的にそんなことで世界は見捨てませんが、それが分かっているから余計にきついという。
前周世界線の忘れ形見ともいえる彼女たちにとって、前周の悲劇を塗り替えて未来へ導くことが出来る可能性を持った主人公は、非常に重い存在なのです。
ちなみに世界竜アルビオンのそもそもの発生理由は、よりによって霊墓アルビオンの中で聖杯戦争を再現しようとした馬鹿たちが居たことに由来します。
彼らとしては神秘に満ちた場所で儀式の強度と規模の拡大を意図したのですが、当然失敗。
儀式によって半端とはいえ場所柄ゆえに成立してしまった聖杯が、その場で最も影響力の大きい存在の願いを叶えてしまった。
そして、この滅亡世界線では、人類は決戦に敗北し世界竜の完全な孵化を許してしまったわけです。
様々な理由からそれを知るものは存在せず、主人公たちがそれを知ることはありません。
おバカたち?
竜種の腹の中ですとも。