Fate Night Unnamed ~チート転生者はデスマーチに挑む(ほぼ強制) 作:空門 志弦
都市長と面会したときに覚えた感情は、一種の納得であった。
マギスフェアにおいて、生き残るという手管については彼以上の人物は中々いないかもしれないと思ったからだ。
都市長の役割を被せられたゲラフという魔術師は、剥離城の一件で知り合ったフリューガーの師匠であり、冠位決議の時に二世に協力してくれた人物でもある。
彼はなんというか、波乱万丈な人生を送った魔術師だ。
根は面倒見がいいらしく、はみ出し者の魔術師達を弟子として世話していたが、時計塔に目をつけられて弟子を謀殺されている。
その後は復讐鬼と化して結構な被害を出したらしいが、最後にはあの切嗣を差し向けられて、魔術師としては終わり死にかけたが、生き残った弟子であるフリューガーに匿われて、マギスフェアで隠遁していたという経緯を持つ。
恐らくだが根の面倒見の良さやその生存運の強さが、この世界線の本来の都市長と親和性が高かったのだろう。
あとは老獪さとかかな。
一本筋が通っているタイプではあるが、なかなか食えない人物でもあるからなあ。
さて、どうなるかな。
「へえ、あんたらが無数のワイバーンを薙ぎ払って大型の竜種も仕留めたっていう魔術師達かい」
目力強いなあ、この爺さん。
ちなみにメリュジーヌについては竜だとかいいだすと説明が面倒なので魔術師という事にしている。
「はっ、なるほど、こりゃおっかねえ。サーヴァントたちも大概だが、人間の身でその空気かよ」
俺をじろりと一瞥してからそんな風に言うゲラフ。
魔力とかじゃなく、空気と来たか。
これだから人生経験が濃い上に長い人間は。
おっかないってのは、それこそこっちのセリフである。
「この辺の地理、竜種の分布、後は可能ならアルビオンの棲み処も教えてもらいたい。こっちが竜の数を減らすのは、そちらにとっても利になると思うが?」
この手の相手に腹芸は面倒なので、単刀直入に切り込んだ。
この都市の安全の確保と、アルビオンの攻略は両立が可能な案件だ。
要は攻略に必要な探索等のついでに、端から竜を始末していけばいい。
俺とメリュジーヌなら十分に可能な方針だ。
戦力にモノを言わせた脳筋戦法であるが、実力的に通るのであるならばこれほど効果的な手もない。
「おめえ、うちの都市のサーヴァント達より血の気が多いってどういうことだよ」
あれ、なんかドン引きされてない?
いや、それは誤解だ。
現状で都市の防衛はサーヴァントと都市の人間で賄えているっぽいから、俺達で攻勢に転じるのが最適解だっただけなんだ。
「心外みたいな顔してるがな、普通そんな気軽に竜種相手に一狩り行こうか、とはならねえんだよ」
ぐぬ。
それは、確かに。
そうだよな、普通はワイバーンすら相当な脅威なんだよな。
「しかも、よりにもよってあのアルビオンを狩ろうって? ったく、とんでもねえの連れてきやがったな聖女様よう」
じろりと、マルタさんの方に視線をやるゲラフ。
だが、マルタさんはすました顔だ。
「言ったとおり、頼りになるでしょう? このままだとジワジワと消耗するしかないんだから、どこかで攻勢に出る必要はあったのだから」
ゲラフがマルタの言葉に唸った。
図星だったのだろう。
しばらく唸ってから息を吐いて、力を抜いた。
「ワイバーンの大群を薙ぎ払って、大型の竜種も隙をついたとはいえ、一撃。まあ、賭けるに足る実績ではある、か」
デスクの引き出しを開いて、丸めた紙を取り出してデスクの上に広げた。
この特異点の地図であった。
地形は、どうなんだ、これは。
イギリスの、ミニチュアといった感じなのか?
「サーヴァントたち曰く、現状移動可能な範囲がコレだ。そこから外には出られないらしい」
特異点自体がまだ未成熟、といった感じか。
早期の突入は、思った以上に正解だったのかもな。
しかし、マギスフェアはかなり端にあるんだな。
これは、現実のマギスフェアが最上層に存在していたからか?
土地がイギリスに対応している感じであるなら、アルビオンの座所として考えられそうなのは――――。
「アルビオンが棲み処にしているのは、此処の大空洞だ」
予想通りに、ゲラフの指が指し示したのはイギリス地形と照らし合わせたなら、時計塔のあった場所。
より正確には、霊墓アルビオンのあった場所という事になるのだろう。
最悪アルビオンの居所を探すところからになると思っていたから、最初からそこがわかっているのはありがたいな。
「だが、直行は無理だ」
次に指し示されたのは、二つの山。
「ここに、それぞれ一体ずつ。ファヴニールがいる」
ファヴニールが二体?
あー、なるほど。
だから、ジークフリートと、シグルドなのか。
「こいつらが一種の要石になっているんだろう。大空洞は結界に閉ざされて侵入不可になってやがる」
世界として成熟するまでの守りを二体のファヴニールに任せている感じか。
つまり、まずこの二体を倒す必要があるわけだな。
「しかも定期的にワイバーンどもを連れて都市を襲撃する念の入れようでな。こっちは都市の防衛を考えると、今まで攻勢には移れなかった。あとは、目覚めたアルビオンを倒せる算段もなかったってのもある」
アルビオンは流石にイーリアスでは無理がある。
俺も、その時までには覚悟を決めておかなければならないだろう。
しかし思ったよりもがっつり情報をくれたな。
情報の量も質も十分以上。
先々の為にしっかりと情報収集に励んでいたことが良く分かる。
「ありがたいが、ずいぶん大盤振る舞いだな?」
「襲撃の規模が、回を追うごとに明らかに拡大してやがってな。聖女様も言っていたが、どこかで攻勢には出なきゃならんかったのさ」
「それを外からやってきた奴が勝手にやってくれるなら、これ以上はないってわけか。道理だな」
悪そうな顔して笑うゲラフに、俺もニヤリと笑って返した。
お互いの利害はきっちり一致している。
街の防衛は俺としてもしっかりして欲しい所だからな。
「私は彼らについていくわ。現状の襲撃の規模なら、街の防衛機能とあの三人がいれば迎撃には十分でしょう?」
それは、こっちとしては戦力的に助かるが。
ゲラフに目を向けると肩を竦められた。
「聖女様は前から攻勢案に積極的だった。現状なら防衛面にそこまで不安はねえのは確かだし、止めはしねえさ。そっちが上手くいくほどこっちも楽になる訳だしな」
ああ、わざわざ都市近くの大型の竜種を討伐に出ていたくらいだもんな。
都市の消耗を重く見ていたんだろう。
防衛を考えるとファヴニールに対するカウンターとしてジークフリートたちは都市から動かしたくなかっただろうし、気軽に動けるのはマルタさんくらい。
クリームヒルトは、マルタさんの事だからジークフリートと一緒にいられるように気をつかった感じか。
「そういう事なら、よろしく頼む。ちなみに、前回襲撃をかけてきたのはどっちだ?」
「それならこっちだな」
西側のやつか。
なら、攻めるのは東だな。
そっちの方が前回の襲撃で消耗してない分だけ、残っている竜の数も多いだろう。
都市の負担を減らすなら、まず先に狙うならこっちだ。
「情報提供、感謝する」
「こっちも下心あってのことだ。礼はいらん。成果で返してくれりゃあそれでいい」
もちろん。
返せる最大限で返すとも。
いやあ、利害関係が一致してると話が早くていいなあ。
「やばいとなったら逃げてこいや。せっかくの戦力だからな。無駄死にされんのはもったいなくてかなわん」
――――なるほど。
そういうセリフがするっと出てくるあたりに、この絶望に沈まない都市で都市長をやっていられる肝があるのかもな。
「もしもの時は遠慮なくそうさせてもらう。自慢じゃないがこう見えて、ビビりだし、逃げ足も速いんだ」
「そいつは良いな。生き汚さってのはこんな世界じゃこの上ない美点だからな」
お互いに大いに笑って、その会談の締めとした。
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小話
メリュジーヌは主人公の横で真面目な顔だけして、ほとんど全部聞き流しています。
何故なら、主人公の方がそう言うの得意だし、任せた方が上手く行くから。
見た目が良いのもあって、内心の分かっている主人公以外からは、非常に行儀がよく見える不思議。
なお、最近はライネス達にはちょっとばれています。
こいつ、主人公といる時はあんまりもの考えてないな? と。