Fate Night Unnamed ~チート転生者はデスマーチに挑む(ほぼ強制) 作:空門 志弦
ゲラフとの会談が終わって、俺とメリュジーヌと同行を申し出たマルタさんは、都市内の空き地に場所を借りているシャドウフォートへと戻ってきた。
この空き地は前回の大規模襲撃時に被害を受けた家屋の跡地らしく、この都市が置かれている厳しい現状の影が見えた気がした。
『二体のファヴニールですか』
難しい顔をしたBBがうーんとわざとらしく唸ってからこぼした。
『前周ではいなかった、いえ、多分ですが都市のサーヴァント達と相打ちになったんでしょう。少なくとも、前周の特異点突入の時点では二体のファヴニールも都市のサーヴァント達も存在していなかったようですから』
マルタさんはそれを聞いても動揺することはなく、むしろ納得したような顔をした。
「戦力の補充がなくこのまま時間が流れたらそうなったでしょうね。それでもしっかりとファヴニールは斃せていたなら、前周の私たちも最低限仕事はこなせたわけね」
サーヴァント達は前周の記憶を基本的に持ち合わせていない。
前周において人類が最終的に全滅して、アラヤの存在が一度途絶えたせいではないかとBBは予想していた。
『ただここで問題になるのが、前周におけるメリュジーヌさんの存在なんです。前周においてアルビオンの仔と呼ばれた竜は一種のゲートキーパーとしてアルビオンの座所を守り、結界もその竜を打破するまでは健在でした』
「今回もゲートキーパーにあたる存在がいるのではないか、という事ですね?」
シオンが眼鏡に手を添えてその可能性に言及した。
ゲラフとの会談で判明したのだが、前周における特異点の状況と、今回の特異点の状況はかなり酷似しているらしい。
アルビオンの座所も特異点の形状も結界の存在も、大体そのまま。
変な先入観で判断が偏らないように情報を集めるまでは前周の情報はひとまず伏せておいてもらったのだが、答え合わせの結果はおおむね一致という形になった。
事前情報との相違点は二体のファヴニールと、メリュジーヌがこちらについている点なのだが、ファヴニールについては特異点への突入時点で倒されていただけと考えるなら、前周のゲートキーパー的立ち位置なメリュジーヌに代わる存在が用意されている可能性は無視できない。
「と言っても、現状だとそれらしい存在には心当たりがないわよ?」
それなりの期間を都市で過ごしているマルタさんが言うのであるならば、少なくとも現状では表立って動いたことはないのだろう。
特異点の成り立ちや性質から順当に考えれば、存在していたとして竜種の類。
ファヴニールが二体いるのは、恐らくジークフリートとシグルドのそれぞれの逸話に登場する悪竜を、同一存在としてではなく別個の存在として定義して抽出したのだろうから、流石にもう一体という事はない。
これでテュフォンを持ってこられたら頭が痛いが、アレは本質的にはおそらく地球外の存在だし、格の面でもいくら世界と同化したと言ってもアルビオンの風下に立つかというと疑問が残る。
そもそも魔力と質量の両面での存在規模的に、今まで観測できないとは思えないしな。
駄目だな、候補だけなら出るけど、情報が足りなすぎる。
可能性を潰して行っても、さくっと例外を持ち出してくるのが型月世界だしなあ。
「これについては存在自体は警戒しつつも、とりあえずは放っておくしかないな。結局まずはファヴニールを倒す必要があるのも変わらないし」
となると、まずは自陣営側の方から手を入れるしかない。
マルタさんが同行してくれたおかげで、戦力が増えたが状況を考えるとまだ不足だ。
時間のズレさえなかったら一度外に出て戦力を整えるんだが、それをしてマギスフェアが落ちると困る。
冬木の大聖杯の重要度を考えると、戦力を引きはがす選択肢はなかったし、今回はどうにも後手に回るというか、上手くはまらないな。
「メルトリリスの状態はどうだ?」
『シャドウフォート内に用意されていた資源のおかげで回復は順調です。ただ、流石にほかの子を稼働状態に持っていくのは難しいですね』
できれば俺の切り札はアルビオン戦までは伏せておきたかったんだが。
アルビオンがどんな反応をするかわからないし、それに何より、踏ん切りがつかない。
どうにもこう、しっくりこないというか。
贅沢を言っていられる状況じゃないのは分かっているんだけどなあ。
「移動時間を考えればファヴニールとの接敵は出発から数日といったところだろう。それまでに行けそうか?」
『通常のサーヴァントの範囲での戦闘力までなら。それ以上となると時間とリソースが不足しています』
それ以上がある訳か。
前周の状況を考えればおかしな話でもないんだろうな。
メルトリリスであれば、サーヴァントとしての霊基の範囲でも十分強力だし頼もしくはある。
ただ、やはり戦力不足は否めないか。
一番きついのは数だ。
「仕方がない面はあるんですが、手が足りませんね。ファヴニール以外にも無数のワイバーンや大型の竜種も少なくない数がいるでしょうし」
シオンが悩ましげな顔をして考え込む。
そこなんだよなあ。
ファヴニールが巣から動かないのであるならば、周りから削っていくんだが別に場所に縛られているわけではないようだし、そもそもあの竜は狡猾だ。
それでも、俺とメリュジーヌにマルタさんとメルトリリスまで加わればファヴニールは討伐できるだろう。
俺達にとってここで一番嫌なのが、ファヴニールに足止めに徹せられて手勢を街に仕向けられるケースである。
「やってくると思うか?」
「他の竜種だと分からないですが、ファヴニールですからね」
シオンは俺と同意見というわけだ。
元人間だったという逸話持ちだからか、ファヴニールという竜は本当に狡猾だ。
「ジークフリート達であれば、何とかしのぐでしょう。そこは任せて良いと思うわよ?」
マルタさんが頼もしいことを言ってくれるんだが、問題はそれだけじゃないんだ。
「最悪の最悪、もう片方のファヴニールが同時侵攻を仕掛けてくるぞ?」
「それは……確かに普段の大規模襲撃以上の戦力にファヴニールとなると、都市の被害は免れないかもしれないわね」
とはいえ、現状ではこれ以上の戦力増強は望めない。
出来る範囲でやってみて、最悪は俺の切り札を切るしかないだろうな。
くっそ、ここのところほんと胃が痛い。
外面は誤魔化せてるっぽいが、メリュジーヌが時々心配そうに見てくるんだよなあ。
カルデアであれば、状況に合わせて追加戦力を召喚する手もあるだろうに。
大聖杯は持ち運べないから現状はどうしようもない。
もう少し時間があれば、大聖杯を解析してカルデアみたいに召喚システムを組んでシャドウフォートに組み込む手も考えていたんだが。
こちとら元一般人だぞ。
こんな大問題に、アドリブで対応させるなよ。
基本的には徹底的に事前準備で確実な詰め筋を作っておくのが俺なりの型月世界への処方だってのに。
毎回それが出来ないのは分かっているが、よりによってこのタイミングにこの状況でコレとか、鬼か。
「結局、今の戦力で出来る事には限界があるんだし、出来る範囲でやるしかないんじゃない?」
メリュジーヌが軽い調子で結論を結んだ。
多分、俺の為だろうな。
いかんな、出会ってから今までこんなにメリュジーヌに気をつかわれるような事はなかったぞ。
さては自分で思っている以上に大分きてるな俺?
意識を切り替えるために、大きく息をすって吐く。
胃は痛いがそれはそれ。
人生を生きていればそう言う時ってのは、時々はあるもんだ。
「メリュジーヌの言う通りだな。ないものねだりをしても仕方がない。結局、持ってる手札で勝負するしかないんだ。とりあえず今日は体を休めて、明日には出発するとしよう」
作戦会議が終わった後、マルタさんに呼び止められた。
どうも、シグルドが挨拶に来るという話らしい。
シグルドだけなのは、俺たちの戦闘で周辺のワイバーンが減った機に資源の回収に出た部隊がいて、その護衛のためにジークフリート夫妻は街にいないからだという。
誰にも会わなかったはずだな。
夫妻はそもそも今は都市にいなくて、シグルドは二人を欠いた状態での防衛のためにずっと外壁に詰めていたわけだ。
俺たちの出発前に夫妻が間に合えば全員で顔合わせをするつもりだったらしいが、無理そうだったからシグルドだけでもという話になったそうだ。
そんな話を受けて、俺はそれならシグルドの詰めている外壁で会おう、と返した。
マルタさんにはシャドウフォートの面々と少しでも馴染んでほしかったし、休息もとってほしい。
そうなると、外壁からシグルドを引き離すのは防衛面で問題だろうと思ったのだ。
「わざわざすまないな。君の心遣いに感謝する」
そんなこんなで俺は外壁の上でシグルドと対面していた。
「いや、この街の防衛は俺たちにとっても重要だからな。当然の配慮だ」
外壁から特異点内の景色を見渡す。
圧倒されるような一面の緑が今は夕日に照らされて色合いを変えていた。
文明に侵されていない生き生きとした自然のままの地球の姿がそこにある。
太陽がその姿を変えるのは、アルビオンの夢見る楽園とはやはり、かつて飛んだ地球の空だからなのだろうか。
景色を眺めて浮かんだそんな感慨に今は蓋をして、シグルドに向き合った。
「神薙統夜だ。特異点の外から問題の解決のためにやってきた」
握手の為に伸ばした手が、しっかりと握り返される。
「シグルドだ。当方が召喚された理由も恐らくは君と同じなのだろうが……」
表情に出ているわけじゃないが、申し訳なく思っていそうなのは分かった。
だが、それは必要のない感情だ。
「良いんだ。むしろ、あなたほどの英霊がこの街を守ってくれるというならば、感謝したいくらいだ」
先ほどまでとは反対の方向を外壁から見下ろす。
先ほど圧倒された自然とは対照的な、人の営みの縮図がそこにあった。
圧倒されるようなものはない。
もはや追い詰められ、何かの拍子に消えて無くなってしまうような儚い営みだ。
だが、生きている。
笑顔があり、幸せがあり、時々は諍いなんかも起こっているくらいには人らしい人の営み。
夕日が落ちて暗くなっていく中で、街に明かりが灯っていく。
酒場か何かからだろうか。
陽気な歌声が聞こえ始めた。
「本当に、逞しいな」
思わず言葉がこぼれた。
正直な所を言うと俺は、人類という規模で見ると人間という生物はあまり好きじゃない。
いっそ醜い生き物だとすら思う。
でも人間一人一人を見て、その繋がりの総体としてみた人類は、なかなか捨てたものじゃないとも思うのだ。
「実はな。マルタ殿から、君の相談にのってやって欲しいと頼まれていたんだ」
なるほど、マルタさんは面倒見のいい姉御肌の人だからな。
俺の置かれた状況を見ればそういう気を回しても不思議じゃない。
「今の君の周りには女性ばかりだから、男同士なら話しやすいこともあるだろうと。当方としても君の立たされている立場を考えれば必要な事だろうと思った。だが、今の君の顔を見て少し考えが変わった」
「それはどういう風に?」
「君には悩み相談のようなことは必要なさそうだ。だから一つだけアドバイスを贈ることにした」
まっすぐに、見惚れるような英雄らしい精悍な表情で。
シグルドは俺に語る。
「君にとって納得のいく、君らしい理由を見つけろ。きっと君ならば、それさえあれば大丈夫だ」
ああ、なるほど。
これは感謝しないといけないな。
この世界の真実を知って、自分にのしかかっている役目にずっとしっくりと来なかった俺にとって、それは金言と言えた。
納得のいく、俺らしい理由か。
「感謝する。おかげで少しだけ道筋が見えた」
しかし、それさえあれば大丈夫、か。
買い被りにも思えるが、あのシグルドにそんな風に言ってもらえるのは悪い気分じゃないな。
いつも閲覧ありがとうございます。
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小話
前周における都市のサーヴァント達はBBの予想通り、ファヴニールと相打ちになっています。
ある時起こった二体同時の大規模侵攻の時にジークフリート夫妻と、シグルドとマルタさんのコンビでそれぞれ一体ずつ仕留めています。
都市長ゲラフも陣頭指揮を執ってワイバーンの群れの迎撃に相対しており、この時の負傷が原因で死亡。
これらの奮闘がなければ、前周でアルビオンの完全な孵化を許す結果になっていたでしょう。