Fate Night Unnamed ~チート転生者はデスマーチに挑む(ほぼ強制)   作:空門 志弦

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第46話   俺と彼女にとってのもう一度の奇跡

 

「エクスカリバー、超過駆動!」

 

 こいつは駄目だ。

 今の状況では特に。

 独特な一人称からその通称は、わえ様。

 つまりは、堰界竜(いかいりゅう)ヴリトラ。

 

「思い切りが良い。だが、それはちと困るのう」

 

 くっそ、地上のメルトリリスたちを背後に取られた。

 だが、まだだ。

 

「統夜! 右!」

 

 距離を詰めて、って、ここで大型の竜種かよ!

 メリュジーヌの警告で突撃してきたその存在に気が付いて、対処にまわった。

 焦りで視界が狭まっていたらしい。

 

 間に入ってきた大型の竜種を切り裂いて倒した時には、わえ様はすでに地上に降り立って、メルトリリスとマルタさんに対峙していた。

 仕留めそこねた上に、空戦からも逃げられたか。

 ほんっとに厄介だな。

 

 強力なくせに、悪知恵が回りすぎる。

 竜であるとともに魔神であり、悪神でもあるがゆえに、あるいはファヴニールよりも質の悪い相手だ。

 メリュジーヌが陸戦に向かない竜の姿から人型に戻り、俺と共に地上に降り立つ。

 

「よりによって、貴女がゲートキーパーか」

 

「わえは堰界竜と呼ばれしもの。ある意味、結界の守り手としては適任であろう?」

 

 障害の概念そのものを体現した神霊であり竜種。

 世界を堰き止めるモノ。

 それが堰界竜ヴリトラだ。

 

 そして、この竜。

 非常にありがたくないことに。

 人間が苦難に苦しみ、そしてそれをひいこら言いながら越えていく様を愛してやまない、最悪のドSである。

 

「奴を守る竜どもを突破する! 宝具を使わせるな!」

 

 即座に動き出す俺達だが、流石に複数の大型竜種を呼び寄せられてはすぐに突破とはいかなかった。

 

「わえはヴリトラ。此の世の天地を覆うもの。集えアスラよ、わえの肉なる魔の軍勢よ。分かち隔つがその理、隠れ果てよ万象!『魔よ、悉く天地を塞げ(アスラシュレーシュタ)』!!」

 

 最悪だ。

 ヴリトラの宝具は、今最も望ましくない類の性質を持ったもの。

 自身の分体ともいえる魔の軍勢を呼び出し天地を覆う、数の暴力に訴える側面をもった宝具だ。

 不吉な雲が地に降りて、そこから魔の軍勢が這い出す。

 

 ここにきて神霊にして竜であるわえ様に、物量のお代わりは流石にシャレにならない。

 幸いファヴニールの撃破とわえ様の乱入で竜たちは戸惑い足を止めているか。

 

 ――――やるしかない。

 踏ん切りはつき切っちゃいないが、此処でやらなければ、マギスフェアが、あの儚くも逞しい営みが消え去ってしまう。

 

 歯を食いしばって、一歩を踏み出そうとした。

 メルトリリスが俺に手を伸ばして、何かを口にしようとして。

 しかし、そのどちらも為されることはなかった。

 

「そういうの、諦めで決めるのはやめた方が良いんじゃない?」

 

 召喚の光だ。

 恐らくは、ヴリトラに対するカウンター召喚。

 でもこの声は。

 

「まったく、あいつとちゃんとお別れをして、もう二度とサーヴァントとして呼び出されることなんてないって思ってたってのに」

 

 皮肉気でやさぐれた口調。

 しかし、どこか根の真面目さと甘さを感じさせる声音だった。

 ああ、確かに。

 この竜種ひしめく特異点で、物量を求めるというならば、この上ない人選だ。

 何しろ彼女ならば、ひしめく竜種たちをそのまま自分の戦力に降し得る。

 

「サーヴァント、アヴェンジャー。召喚に応じ参上しました。さあ、敗れ果てた人類の復讐戦を戦い、未来に挑む貴方。私の手を取る覚悟はあるかしら?」

 

 迷わずに差し出された手を取って、契約を結ぶ。

 驚いたような顔をする彼女にさっそく要求した。

 

「こんな状況で呼び出されるとは運がないな、ジャンヌ・オルタ。悪いがさっそく仕事だ。竜を可能な限り支配下に置いて、支配できなかった連中の足を止めてくれ。魔力は回す。派手にやってくれていい」

 

 ジャンヌ・オルタは開いた口が塞がらないと言った反応から、呆れ顔に変わり、最後には悪い顔になった。

 

「出会って早々にずいぶん人使いが荒いのね。なんでか私の事も知っているみたいだし。まあでも、その要求は悪くないわ。精々派手にやってやろうじゃない!」

 

 ジャンヌ・オルタが、その手に持った旗を掲げる。

 その旗の下、竜の魔女として望まれて生まれた彼女の力が発揮される。

 無数のワイバーンを支配下に置いて、大型の竜種も少なくない数が彼女の指揮下に降る。

 

「メリュジーヌはジャンヌ・オルタの指揮下にある竜たちに協力して、敵性の竜の数を減らせ!」

 

「了解!」

 

 翼をはやしてメリュジーヌが飛び立っていく。

 それを阻もうとするヴリトラに召喚された魔軍の一体を俺の剣が切り裂いた。

 

「マルタはタラスクと共にジャンヌ・オルタを守りつつ魔軍の進路を塞げ! メルトリリスは俺と一緒にオフェンスだ! 魔軍を切り崩すぞ!」

 

「任せなさい!タラスク!」

 

 マルタさんが応え、タラスクが咆哮する。

 

「先に行くわよ!」

 

 メルトリリスが俺を追い越して魔軍に切り込んだ。

 一体一体が決して油断できない相手のはずだが、鬼気迫る様子で切り伏せていく。

 俺もそれに続く形で魔軍へと挑みかかった。

 

「デュアルカリバー、超過駆動!」

 

 度重なる超過駆動の使用によりイーリアスの動力炉は臨界を超えて熱を持ち始め、サーヴァント達への供給で体から魔力ががりがりと削られて行く。

 魔力炉からの供給もあるが、それでも追いつき切らない消耗だ。

 だが、ここは勝負所。

 退くわけにはいかない。

 

 二本同時のエクスカリバーの超過駆動で、メルトリリスが切り込んだのとは別方向の魔軍を薙ぎ払った。

 数えきれない魔軍の個体と竜種たちが光の中に消えていく。

 わえ様は、動かない、か。

 何とも愉快そうな顔で、俺たちの戦いを眺めている。

 寄ってきたら、わえ様と近しい存在である潰した魔軍から得たデータで生成した杭を、ホロウ・ピアッサーでぶち込んだんだが。

 

 上空ではジャンヌ・オルタに支配された竜とそれ以外の竜が鎬を削っている。

 その合間を縫うように飛ぶメリュジーヌが、隙をみせた竜を容赦なく狩っていった。

 状況は五分。

 いや、こちらにわずかに有利か。

 

 ジャンヌ・オルタは自分側の討ち取られた竜の分の支配力を新たに無傷の敵の竜に向けて補充している。

 えげつなくも頼もしい。

 

「き、ひ、ひ! 良い足掻きだ。ここでもう一押ししても面白そうだが、こうなってくると、もう一手、趣向を凝らしたくなってくるのう」

 

 魔軍が潮が引くように下がって、そして現れた雲の中に沈んでいく。

 ここで、詰め切れるか?

 いや、イーリアスの炉心も、俺の魔力も限界が近い。

 ここは、相手にあわせて退くのが上策か。

 

「よいなあ。気に入ったぞ、人の子。そんなありふれた在り様で、それでも抗うその生き方。実に美味。堕ちてしまえば楽であろうになあ?」

 

 余計なお世話だ。

 

「それは楽っていっても、たんに踏み外してるだけだろうが。俺は墜ちて楽して生きるより、普通に楽しく生きたいんだ。的外れな誘惑はごめん被る」

 

 力に溺れて、魔王コースとか心底趣味じゃない。

 怠惰に溺れてこたつで眠って風邪でも引く方が万倍ましだ。

 

「きひっ! その在り様、まさしく人よな! 魔に堕さず、どこまで貫けるかのう?」

 

 ほんと楽しそうだなあ。

 羨ましいエンジョイ度合だ事で。

 付き合わされるこっちの身にもなりやがってくれませんかね?

 

「次が今から楽しみになってきたぞ?」

 

 笑い声を響かせながら、自身もまた宝具で生み出した雲の中に紛れていくわえ様。

 俺は今から次について気が重くなってきたんだけど?

 完全にわえ様の姿が見えなくなって、竜種たちが逃げ散っていったのを確認してから、イーリアスの装備を解除した。

 

 気が抜けると同時に思わず膝から力が抜けて、地に手をついた。

 

「統夜!?」

 

 一番近くにいたメルトリリスが駆け寄って肩を貸してくれる。

 

「何よこの熱!? 貴方、こんな状態で戦っていたの!?」

 

 いやあ、流石に今回はやばかった。

 あのままだと、イーリアスの炉心が融解していたかもしれん。

 他の面々も駆け寄ってくるのが見えた。

 ジャンヌ・オルタともちゃんと話して、礼も言いたいんだが、流石にこれは無理だな。

 

「最低限、ファヴニールは斃せた。一時撤退だ。すまないが、俺は少し、休、む……」

 

 最後の指示を出した後、メルトリリスの腕の中で俺は意識を手放した。

 

 





本日二度目の投稿、お楽しみいただけたでしょうか。

投稿開始から大体、一か月。
いやあ、まさか年間ランキングで五位以内に入ることができるなんて、書き始めた時は思いもよりませんでした。

これも読者の皆様の応援のおかげです。

流石にお気に入り登録は落ち着いてきましたが、いまだに評価投票はじわじわと伸びていて、投稿のたびに感想もいただけています。
本当にありがたく、日々の執筆の励みとなっています。

誤字も以前よりは減らせたと思うのですが、いまだに大分助けられていて、ありがたいやら申し訳ないやら。
いつもありがとうございます。


無理せず着実に執筆を続けて、皆様に楽しんでもらえるよう頑張っていくので、これからも応援をよろしくお願いします。

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