Fate Night Unnamed ~チート転生者はデスマーチに挑む(ほぼ強制) 作:空門 志弦
地獄と見紛う世界で私は生まれた。
多くの破滅がひしめく世界。
私が生まれた時にはすでに多くのものが失われていて、人類の生存圏は最盛期の半分を切っていた。
いいえ、ここは私が生まれる時に至るまで半分近い生存圏を維持できていたことを褒めるべきなんでしょう。
破滅を幾度か乗り越え、あるいは乗り越えきれず世界に爪痕が残り、人類は着実に追い詰められていた。
そんな中で、破滅に対抗するための手段として生まれた存在の一人が私だ。
対終焉複合神性戦術ユニット、メルトリリス。
それが私。
「もう少し、円滑にコミュニケーションできませんか?」
「それは私の仕事じゃないでしょう? 私の役目は脅威の排除。人類のメンタルケアは他に適任がいるわ」
言い訳をさせてもらえば、私は戦闘向けの設計をされていて、人格がそもそも攻撃的だったというか。
そんな風に作っておいて、面倒なことを押し付けるなといった、BBに対する反発もあっただろう。
まだ、幼かったのだ。
そういう事にしておいて欲しい。
「ああ、残念。最期にちゃんと握手くらいしたかったんだけど。ごめんなさい、このお願いは忘れてくれると嬉しいわ」
そんな言葉を最後に、戦いに行って帰らなかった人がいた。
多くの戦いを越えて、多くの別れがあって、似たようなことが何度かあった。
それは、感謝の為だったり、別れの為だったり、理由は色々だったけど。
「そうですね。今の技術であればあなたのリソースを一部に集中するような必要もありませんし、アップデートは可能です」
そうして、私は戦うだけでない体を手に入れた。
BBは少しうれしそうで、でも、気遣わしげでもあった。
今ならわかる。
だって、きっと、生まれたばかりの人間を知らない私のままだったほうが、楽だった。
「今日はクリスマスだ! サンタの代わりってわけじゃないが、いつも世話になってるからな、感謝の印ってことで受け取ってくれや!」
暑苦しい戦闘班の人たちに似つかわしくない、私好みのドールハウス。
こっちに持ってくることが出来なかったアレは、最後はどうなったのだろう。
徐々に敗色は色濃くなっていった。
みんな笑顔を絶やすことなく強がっていたけど、限界は近かった。
そして遂に世界の終わりが誰の目にも明らかになったころ、私たちは彼を見つけた。
世界を再構築する鍵となる彼。
ある意味で私たちの努力の全てを無為に変えてしまう現象だけど、どうしようもなく行き詰まっていた私たちにとって、それはこの上ない希望だった。
悲劇の全ては一度分解されて、可能性へと戻り、もう一度が許される。
それも、彼という埒外の切り札を手にした上で。
その日から私たちの戦いの意味は変わった。
ただ未来をやみくもに目指すのではなく、次に、彼に託すための戦いに。
でもそれは、あまりに身勝手な話だった。
私たちがそれに気づかされたのは、彼の確定された足跡からの演算結果を得た時だった。
彼は、そのままであれば、破滅に関わることなく一生を終える事がわかったのだ。
「ねぇねぇ、またあのお話聞かせてー」
子供たちが、私の手を引く。
まだ、世界には未来がある。
この子達がそれだ。
でも、その数はゆっくりと、でも確実に減っていた。
当然の話だ。
そもそも、人類の数がずっと減り続けていて、子を産んで育てるなんていう、生き物として当然で欠くべからざる時間すら、贅沢なものになり始めていたから。
ねだる子供たちに、今となってはこの世界でもっとも有名な物語を語って聞かせた。
街角の英雄、と名付けられた物語。
ある人物の、今は存在しなくなってしまった、可能性の物語。
「私は反対。こんな重い使命を一方的に押し付けるなんて正気じゃない」
ある滅びを約束されていた世界の人物は強く否定した。
私は知っている。
彼女が子供たちに絵本になった彼の話を、優しい笑顔で読み聞かせていたことを。
「だが、そうしなければ世界は滅ぶぞ。彼なくしては、たとえ今周の情報と技術を持ち込めたとしても、私たちのたどり着く地点からせいぜい一つか二つか」
冷静に現実を指摘している魔術部門のトップである彼女だって、好きでそんなことを言っているわけじゃない。
全員それが分かっているから、声を荒げるような人は一人としていなかった。
ただ、苦し気に俯くだけだ。
「彼に、知る機会を与えましょう。選択は彼に委ねれば良いんです」
「BB、それは欺瞞でしょ? 彼の性格を考えれば、何を選択するかなんて決まり切ってる」
議論は平行線をたどって、私にも発言が求められた。
「戦闘班の代表として、彼抜きでは状況の打破が難しいという事は、認めざるを得ないわ」
そこはどうしたって動かせない事実だった。
いくつもの世界を超えて、その世界からの協力者や技術を得てなお、私たちはもう終わりが見えていた。
でも、だから、だからこそだ。
「AIとして、人に寄り添う者としては、彼をこんな地獄に、勝手なわがままで引きずり込むことを承諾できない――――」
本当に地獄だった。
滅びを一つ越えるたび、笑いあった人たちが欠けていく。
喪失を抱えて生き残った人が、それでも誰かのために笑顔を絶やさずにいるのを見た。
失って、痛みを抱えて、それでも強がって。
そうしなければ、歩みが止まってしまう。
最初に反対を表明した彼女が、駆け寄って肩を抱いてくれた。
ハンカチで、顔を拭われた。
ああ、そうか。
私は泣いていたのか。
「最前線で戦い続けているあなたに、酷な問いをしました」
BBがらしくない顔で、深々と頭を下げてきた。
「でも、ごめんなさい。だからこそです。私たちは、諦めてしまうわけにはいかないんです」
それは卑怯だ。
わかっている。
私にだって、そういう気持ちはあるに決まっている。
この世界で、誰がその言葉を否定できるというのか。
その言葉を放つ責任をBBに負わせてしまった事もつらかった。
そして、たった一度。
ごく短いメッセージが送られることになった。
それは一人の人物を、私が歩き続けた地獄へ引きずり込むもので。
暖かい陽だまりのような、優しい物語を踏みにじる選択だった。
「なんで、あの力を持っているのが、あの人なんだろうね」
そう言って泣いた彼女は、最後は砕けていく月とその運命を共にした。
もうあの絵本を子供たちに読み聞かせる人はいない。
そのころには、そもそも読み聞かせをするような子供はいなくなっていた。
だから、その物語は、未来を目指す全ての人間たちの心の中に。
ごく平凡な、ちょっと特別な力を持っただけの人が、多くの人に手を伸ばし、笑顔に変える物語。
いつか私たちがバトンを渡す、その人の軌跡。
私たちの世界の誰もが知る、最新のおとぎ話。
確定されていた分の彼が歩んだ足跡から演算された、本来の彼が歩むはずだった未来の話。
――――そんな、誰かの夢を見た。
いや、ちょっと待ってくれ。
俺の歩む可能性があった人生が、なんか娯楽として、人類規模でめっちゃヒットしてるんですけど?
冗談だけども。
茶化しでもしなければ受け止めきれん。
何だ、あの地獄。
ある程度は予想も想像もしていたが、夢とはいえこうして目にしてしまうと重みが違う。
細かい内容は夢だから見えなかったが、その分だけ彼女の印象に残ったきつい部分が逆に明瞭で、いたたまれない。
そりゃ、あんな態度にもなるよな。
あくまでデータとしてしか知らないこちらのBBはともかくとして、ちゃんと地続きのメルトリリスは。
あの子は、ずっと、辛そうな顔で俺を見ているのだ。
そうか、そうかあ。
あー、まさかあっちのBB、これも予想してたんじゃあるまいな。
いや、流石にそこまで性格悪くはないか。
メルトリリスが頑なに俺と契約を結ばなかったのは、これを見られないためだな?
結局、シャドウフォートを介した形でパスは通ってしまっていたようだが。
そんな遠くて細いパスでも伝わるくらいに、本心では助けを求めているってことか。
しょうがないよなあ。
なんというかFGOの主人公が、メルトリリスに関わると突然スパダリムーブ始める理由がわかってしまった気がする。
おかげである程度、俺の理由の在り方の輪郭は見えた。
しかしこれ、メルトリリスと会った時、顔に出ないように気を付けないといけないな。
ちょっと気を引き締めておくとしよう。
いつも閲覧ありがとうございます。
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小話
メルトリリスから見た前周の光景のその欠片。
本文でも度々言われていますが、まあ地獄です。
そして主人公は本来、イギリスの街角でアロイに乗ってご当地ヒーロー的に生きるはずでした。
まあ、BBからのメッセージでその可能性は亡くなったんですが。
その場合だと、主人公は普通の寿命で多くの人に看取られて、やすらかに息を引き取るはずでした。
とても雑な説明なんですが、端的に言うと
「結局、この世界に大きな厄ネタはなかったんだなあ」
と思っている彼の認識が一種の障壁となって、滅亡要因の表出は抑えられていた形です。
世界基準で考えると人間の寿命は誤差程度だから成り立った奇跡のようなものですね。
当然、彼の死後は多少のタイムスケジュールのズレはあっても前周と同じ流れに。
メルトリリスたちが情報と技術をもってやってくるので前周よりは先にたどり着ける可能性がありますが、それだけです。
なぜそうなのかは、話が進んでいけば納得していただけるかと。
なお本編では、主人公が
「やっぱりこの世界、厄ネタだらけじゃねぇか!?」
となっているので、割と前倒し気味に厄ネタたちが主人公に襲い掛かります。
南無。