Fate Night Unnamed ~チート転生者はデスマーチに挑む(ほぼ強制) 作:空門 志弦
マギスフェアが見えてきて、多少の損傷はあれどもほぼ無事と言って良い外壁を目にした。
あのメンツが揃っていて、対竜に特化された街の防衛機能もあれば大丈夫だろうと思っていたが、それでもわずかに安堵する。
街に入った後、ゲラフにファヴニールの討伐成功と、わえ様の存在について報告した。
人型の竜という部分で防衛機能の相性の悪さを感じて渋面は作っていたが、そういう事もあるだろうとすんなり飲み込んでいたあたり、見事な胆力である。
むしろファヴニールの討伐に喜んでいたのは、今までの被害等の恨みがあってのことだろうか。
帰還の途中で資源収集を兼ねて狩った竜種の肉などを取引してその場を後にした。
「ふうん、貴方がそうなのね」
都市の庁舎を出てばったりと遭遇したクリームヒルトが、じろじろと俺を見ながら言ってくる。
なお、その後ろでは、何か申し訳なさげにジークフリートが立っていた。
「てっきり、どこぞの英雄みたいなやつだと思ってたけど、シグルドの言っていた通りか。そうなると、むしろ貴方については同情すべきなんでしょうね」
そのどこぞの英雄は、今あなたの後ろで困り顔をしている彼のことですよね。
「かの名高き竜殺しと同じなど、とんでもない。そもそも英雄とかいう生き方って、本人がいる前で言うのもなんだけど呪いみたいなものだし。俺はもっと暢気に気楽に生きるほうが好みだぞ。自分含めた命とか、平穏な未来とかかかってるから、今はそれなりに働いてるけど」
あ、一気に表情が哀れみでいっぱいに。
今言ったのが心底の本音だって分かったのか。
「貴方みたいな人間を、寄ってたかって祭り上げようだなんて不愉快な話ね。そうするしかなかった状況は理解できなくはないけど、吐き気がするわ」
まあ、彼女の旦那である彼女の後ろの御仁は、ある意味そう言う願いに添い続けた結果のあの末路みたいな部分があるから気に入らないだろうなあ。
「大丈夫、俺は凡俗だからこそ逃げる時は逃げるし、嫌だと思ったら無理もしないし。そして、気に入らないと思ったら、お行儀よく我慢だってしない」
そうしたいと思った時は、無理も無茶もついやってしまったりはするんだが、それもまた凡人らしい所作ってもんだろう。
俺の答えにクリームヒルトは目を丸くしてから微笑んだ。
「そう、そうね。そうすると良いわ。貴方は貴方らしく、貴方のままに生きなさい」
そう言って、彼女はこの場を後にした。
わざわざ自分の後ろにいたジークフリートの足を踏んづけて横を通ってである。
かなり痛そうな角度と威力だったと思うんだが、表情を変えないのは流石というかなんというか。
「彼女がすまなかったな。どうも君の話を聞いた時から気になっていたようなんだ」
クリームヒルトが離れた後、今度はジークフリートが謝ってきた。
うん、まあ気持ちは分かるし別に気にしていない。
英霊としてもクリームヒルト個人としても、俺の事を知れば一度顔を見ておこうという判断になるのは当然のことだろう。
「しかし、そうか。君はちゃんと、自分自身の望みも希望も、そう在りたい未来も持っているんだな」
ジークフリートは満足げに頷いて噛み締めるように言った。
自身の人生の終わりにやりたいことがようやく思い浮かんだような不器用な男には、感じる部分があったのかもしれない。
「そんな大層なものじゃない。後で笑い話になるくらいの騒動程度しかない様な人生を、大事に思える連中と、面白おかしく楽しく生きるっていう程度の平凡な人生設計だよ」
あえて、願いとか望みとは言わなかった。
いつかはそういう未来にたどり着くと、決めているからだ。
外的要因の所為で実際に形にする難易度が爆上がりしたけどな!
「いい人生設計だ。さしあたってはこの街を襲ってくる竜を退けるくらいが精々ではあるが、微力ながら協力させてもらおう」
良い笑顔でジークフリートはそう請け負ってくれた。
実にありがたい話である。
どんなに大きな力があろうとも、一人でできる事には限界があるからな。
「それは、実に助かる。世界有数の竜殺しの英雄にそう言ってもらえるのは、素直に嬉しいよ」
手を伸ばし握手を求めれば、しっかりと握り返された。
そうして、俺とジークフリート夫妻の初顔合わせは、非常に良い形で終わることとなった。
ジークフリート夫妻との顔合わせの翌日のこと。
街からそう離れていない森の中で、俺達は竜を狩っていた。
次の戦いに備えて色々とリソースの補充が必要だったからだ。
なお珍しく俺は後衛としてサーヴァント達に指示だけ出している。
普段使いのイーリアスが自己修復中なのと、シオンとBBに俺自身ももう少し戦闘は避けて休むように言われた事が理由である。
あとサーヴァント達の連携の強化といった目的もあった。
「マルタ、タラスクに指示して、大型の竜種の体勢を崩してくれ。メルトリリスは隙を逃さずに急所に一撃を」
なおメリュジーヌは空を自由に飛び回り、ワイバーンを片端から落としている。
あちらには指示するようなことは全くと言って良いほど無い。
マルタはタラスクに指示を出しつつ、味方のバフや回復を担ってくれている。
ジャンヌ・オルタは、竜種を支配下に置いて他の竜種と戦わせたりしつつも、主には俺とマルタさんの守りについている。
MMO風に言うなら、タラスクはタンク、メルトリリスはメインアタッカー、マルタはバッファー兼ヒーラー、メリュジーヌは遊撃アタッカーといったところか。
ジャンヌ・オルタはちょっと区分が難しい。
当てはまる職分的にはテイマーなんだが、自分でも戦えるし。
「貴方って、なんていうか、指示を出しなれているわよね?」
ジャンヌ・オルタと共に傍についてくれているマルタさんがそんな風に言ってきた。
まあ、これには理由があるのだ。
種明かしをしてしまえば単純で、これもチートから反映されている経験値の賜物である。
「なんというか、学ぶ機会に恵まれたんだ」
俺は基本ソロプレイヤーだったのだが、ゲームにはそう言ったプレイスタイルの人間を助けるためのシステムがあったのだ。
便利ではあったが、同時に効率を求めると自分で結構な指示出しが必要で、戦況の把握や戦術の組み立ては自然と身についた。
プレイヤーの方に染み付くほどの経験が、実戦を経験していたキャラの立場からのものとして現実に反映されたときにどういった域の経験値になるのか、という話である。
やっぱりコレ、実は経験値が現実に反映されているのが一番ヤバイ気がするなあ。
一見すると派手さがない分だけ目立たないんだが、恩恵が尋常じゃない。
「貴方の置かれている現状を思えば良いことだけど――――」
珍しくメリュジーヌから逃れて近づいてきたワイバーンの頭を錫杖がかち割った。
うーん、流石マルタさんはワイルドだなあ。
そうなることがわかっていたのだろう。
ジャンヌ・オルタは竜種の指揮の方に集中したまま、視線もむけなかった。
「なんですかその目は」
「いえいえ、なんでもありませんとも」
じろりと睨まれたので目を逸らす。
本当にちょっとだけ流石姉御、とか思っただけです。
「まあ、それはいいわ。でも、貴方は普段は自分でも戦いに出ているわけだし、もう一人くらい陣頭指揮が執れる人間は欲しい所ね」
まあ、それはそうなんだよな。
シオンはシャドウフォートでBBと共に情報解析なんかにまわっているから、指揮までは無理だし。
先々を考えれば、戦力だってもっと増えていくだろう。
というか、このレベルの特異点の相手をするなら、増やさないとやっていられない。
そうなると、サーヴァントへの指示とシャドウフォートが近くにいない状況での魔力供給などが出来るマスターは、俺以外にも何人か欲しいというのが本音だ。
この特異点を越えたら、少し考えないといけないな。
「気が引ける話だな」
シオンについては正直、どうせ最終的には関わる事になるのが目に見えていたから迷わず引き込んだのだ。
彼女の性格と立場的にそのうち自分から首を突っ込んでくるか、アトラス院から命令で送り込まれるかの二択だっただろうし。
でも、それ以外の人間を巻き込むとなるとなあ。
「あんた一人に苦労させるなら、きつくても巻き込まれた方がマシ。そんな風に思ってくれる人はきっと少なくないと思うけど?」
俺たちの話を聞いていたジャンヌ・オルタがそんな指摘を会話の横から挟んだ。
心当たりは、確かに何人もいる。
でも、そう言う相手だからこそ、巻き込みたくないとも思うわけで。
どうしたもんかなあ。
まあ、まだ猶予はあるし精々悩んで決めるしかないか。
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小話
根の部分では地に足をつけて普通に生きる事を望んでいる主人公は、英雄という生き方に思う所のあるクリームヒルト的には好感触。
それだけに彼を巻き込んだ者たちにはちょっと不快感があります。
一方でジークフリートとしても、なんだかんだで手を伸ばしてしまう主人公の在り方も、彼の平凡な人生設計も、自分が助けるに足るものです。
それぞれ見ているところは違いますが、夫婦の意見はここに、一致を見ました。
そして、ジャンヌ・オルタから見た主人公は、立場も根の平凡さも以前のマスターを想起させてやみません。
「何か、前のマスターよりは大人で色々上手くやっているけど、ホントに平気?」
といった感じ。
そんな心情や自分の事を知られていたのもあって、最初から素で接しています。