Fate Night Unnamed ~チート転生者はデスマーチに挑む(ほぼ強制)   作:空門 志弦

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第5話    死徒とチートと勘違い

 ライネスと出会ってからそろそろ半年になる。

 この半年の間、俺は大小様々な依頼をライネスから受けて、今ではエルメロイの界隈ではどうもライネスの子飼いみたいな扱いになっているらしかった。

 ライネスは俺の助けがあったのもあって、エルメロイの中では大分地盤がしっかりしてきたようである。

 

 だがそれは同時に、エルメロイという名のもとにその象徴として、他の一門からの視線が注がれることと同義でもあった。

 端的に言うと、なんかだんだん、厄介ごとの程度がひどくなってきていた。

 うん、なんか、完全に泥沼に嵌まってる感じがする。

 まあ、幼い見た目にキャラとしての思い入れの相乗効果の所為で、どうしてもライネスを突き放せない俺が悪いんだけどな!

 

 気になる部分がないわけじゃないが、俺としても目的としていた情報が色々集められていてそれなりに満足している。

 例えば、現在時点のアニムスフィアの動向であるとか。

 情報を精査する限り、やはりマリスビリー・アニムスフィアはカルデアの建造を断念したようで、FGO世界線の可能性はこれで完全になくなったと言って良いだろう。

 地脈などの状態についても特段の異常は発生していないらしく、やはり、現時点ではEXTRA世界線もない筈、なんだが。

 

 そうなると分からないのが、BBの存在だ。

 並行世界からの干渉だったのか、この世界におけるBBの存在経緯が異なるのか。

 BBドバイなんて例もあるからな。

 

 ともあれ、今わかっている範囲では、俺のチートなしでは詰む状況、なんていうのは影も形もない。

 引き続き情報の収集に努める必要がありそうである。

 でも、最近、ライネスの勧誘が激しさを増してきているんだよなあ。

 魔術を教えてやるから、内弟子兼ボディーガードとして自分のもとに来ないかって。

 

 実際、悪い条件じゃない。

 BBのあのメッセージが本当なら、ライネスとの関係性が強まるのはメリットがだいぶ大きい。

 情報収集の面でも、時計塔への影響力の面でも。

 

「いい加減、口説き落とされてくれないかな? 結構な破格の条件を提示していると思うんだけど?」

 

 そんなわけで今日も自宅に押し掛けたライネスからの勧誘にあっているわけだが。

 

「なんだかんだ、この気楽な配送屋の立場が気に入っているんだよ俺は」

 

 実際、それも嘘じゃないんだが、本音を言えば俺は多分、恐れているのだろう。

 自分自身の強力過ぎるチートも、それがないと解決できないような厄ネタも。

 なにせ、こちとら元は一般人。

 

 世界の命運とか、マジで御免被りたいというのが心底からの本音だし。

 サーヴァントユニヴァースでようやくギリギリすりきり一杯に適合……するかなあ?

 なんていう過剰なチートの運用責任とか荷が重すぎる。

 

「まあ、君にも思う所があるんだろうし、強制するつもりはないが」

 

 ライネスにしては優しいスタンスである。

 まあ、なんだかんだで貸しも多いし、気に入られているっていうのもあるんだろう。

 

「それに今日は勧誘が主題じゃなくてね。護衛の依頼に来たんだ」

 

 もはや、配送業にかこつける事すらし無くなりやがりましたよ、この子。

 

「今回については、無理なら無理と言ってくれていい」

 

 ん?

 なんか、いつもとノリが違うな。

 

「相手が雇った刺客がちょっと厄介でね。狩猟伯サディアス・レンストーン。狩人気取りで莫大な報酬の元、己にふさわしい獲物だけを狩るなんてうそぶく、上級死徒さ」

 

 ————ちょっとまて。上級死徒?

 しかもその名前、二十七祖に含まれている名じゃないぞ。

 英霊召喚が可能になる世界線では、二十七祖イコール上級死徒のはずだ。

 まさか、まさかだが。

 

「ライネス。一つ聞きたい。英霊召喚と二十七祖。この言葉に聞き覚えは?」

 

「おいおい、馬鹿にしているのかい? 英霊召喚は正に先代が死ぬことになった聖杯戦争の核心ともいえる術式の名前じゃないか。 それに、魔術師なんてやっていれば二十七祖の名を聞く機会なんてそれなりにあるに決まっているだろう?」

 

 いや、ちょっと待てよ。

 待ってくれ。

 英霊召喚と、二十七祖の存在が、両立している?

 なんだ、この世界。

 それは、本来ならこの世界のありようを決定的に分かつ、選択肢のはずだ。

 

 確かに、例外の世界線はある。

 代表的な物ならStrange Fake世界線だ。

 FGO世界線も、テーマが人理修復である関係上、人理が正しく機能しているとは言えないがゆえに、どちらとも言えない状態になっている世界線である。

 だがFGO世界線は恐らくだが、人理がちゃんと修復されたなら英霊召喚世界よりになると思われるから、実質、例外はStrange Fake世界線くらいだと言って良い。

 

 となると、この世界線は、Strange Fake世界線かそれに類似する世界線なのか?

 いや、でも、やっぱり、BBの存在がノイズだ。

 なんだこの感じ。

 凄く気持ち悪いというか、BBのメッセージを聞いたあの夜以来の悪寒を感じる。

 

「対策はあるのかよ?」

 

「一応、聖堂協会の方から代行者が送られてくる手筈になっている。奴は聖堂協会にとっても仇敵だからな」

 

「それ、間に合うのか? 間に合うんだったら俺に依頼に来なかったんじゃないのか?」

 

 ライネスは黙り込む。

 やっぱり、間に合うかは怪しいわけだ。

 

「いいぞ。その依頼、請け負ってやる。ちょうど気になることもできたからな」

 

 完全に英霊召喚系列の世界線だと思っていて、死徒関連はノーマークだった。

 今回はちょうどいい機会と言ってもいい。

 この世界の死徒がどれほどのものか、俺は知らなくてはならない。

 

 世界の命運とか、まっぴらごめんなのは実際本音だが、世界がなくなっては元も子もないし。

 それにやっぱり俺は、まだ幼いライネスを見捨てる気にはなれない。

 まあ、俺のチートなら、いけるいける。

 周囲の被害がちょっと心配なのがネックだけどな!

 

「さっきの質問の意図がいまいち読めないのは気になるが、君が請けてくれるなら心強いよ」

 

 

 

 そうして、数日後。

 俺はライネスと共に、列車の中にいた。

 おとりを複数放って、俺たちは一般人を装って敢えて時間のかかる列車で移動するという塩梅だ。

 豪華な列車はモダンな内装になっていて雰囲気がある。

 

 ライネスは最初、一般人に偽装する上でもっと安価な列車が良いのではないかと聞いてきたが、俺はその案を棄却した。

 仮にも上級死徒が、この程度のおとり作戦に引っかかるとは思えなかったというのもあって、最悪でも巻き込まれる人間が少なくて済むこの列車を強く推したのだ。

 

「まあ、君のいう事はもっともだし、私としてもすごしやすいから文句はないんだけど」

 

 何気に同じ部屋に寝泊まりしていたりするが、これは護衛の為でやましい理由は一切ない。

 

「正解だっただろう? 案の定というか」

 

「おとりは無駄だったわけだ。まあ、おとりになった者たちの無事は保証されたと前向きに考えるか」

 

 いつの間にやら列車の中から人の気配が消えていた。

 まさか全員死んだとかではあるまい。

 例の上級死徒は狙う獲物にはかなりのえり好みがあるらしいから、暗示か何かでどけたんだろう。

 部屋のドアがノックされる。

 

「入りたまえ」

 

 ライネスの言葉にドアが開き、鮮やかな金髪の美貌の青年が現れる。

 なるほど、空気というか気配というか、そういうものが明らかに人間とは違う。

 これが、死徒か。

 

「駆けつけ一杯ってわけじゃないが。飲むかよ吸血鬼?」

 

 プラプラと本来なら訪問先の家への土産であるワインの瓶を揺らす。

 

「いや、結構だ。今日の食事はそちらのレディの血と決めていてね」

 

 気取った男である。

 まあ、吸血鬼って得てして、そういうところあるよな。

 俺はワインの瓶をライネスに投げ渡して、懐から警棒を取り出して一振り。

 折りたたまれていた警棒が、小剣程度の長さに伸長する。

 

「そいつはできない相談だな。どうしてもって言うなら、まずは俺を倒してもらおうか」

 

 一気に距離を詰めて警棒を振りぬく。

 死徒、サディアスは、腕で軽くそれを防いだ。

 が、その顔には驚愕の色が。

 

「人間とは思えない膂力だな。君、いったい何者だ?」

 

「今はライネスの護衛をやってる、配送屋の男だよ!」

 

 蹴りを入れてサディアスを完全に部屋の外に追い出した。

 俺も後を追うと、相手は少し距離を取る。

 俺はそれを確認してから、列車の窓ガラスを警棒で割った。

 

「ここじゃ、狭すぎる。付き合えよ。まさか俺を放ってライネスを狙うような恥知らずな真似はしないだろう?」

 

 挑発すれば、相手はひどく嬉しそうな好戦的な笑みを浮かべた。

 釣れた、けど、めんどくさそうなタイプだな。

 ガラスの割れた窓から外に出て、列車の屋根に場所を移す。

 嬉々として付いてきたサディアスは良いとして。

 

「お前まで来てどうするんだよ、ライネス」

 

「君は私の護衛だろう? ちゃんと目に映る範囲で守ってもらわないと」

 

 まあ、その方が安心できるってのは確かだけどな。

 

「好きにしろ。でも、これは一応持っとけ。ヤバイ時は勝手に動くから持っているだけで良い」

 

 チートアイテムのバリア発生装置を持たせて離れた。

 サディアスはその間、邪魔をするでもなく待ってくれていた。

 

「ずいぶんと余裕じゃないか?」

 

「人間程度を相手にあまりガツガツとするのもね?」

 

 そう言う割に、目に油断の色はない。

 いやだなあ、もっと油断してくれないかな。

 まあともあれ、まずは一当て。

 

 距離を詰めて格闘戦に移行する。

 警棒はあまり使わずに殴る蹴る。

 合間に返ってくる相手の攻撃は警棒で防ぎ、あるいは叩き落す。

 

「ハハハ! 凄いな君! 実は君も死徒か何かだったりするのかい!?」

 

「あいにく、人間の血とか飲みたいなんて思ったことは一度もないな!」

 

 しばらく格闘戦の応酬を続けていると、不意にサディアスが大きく距離を取ってきた。

 こっちとしても決め手に欠けていて何か考えないといけないと思っていたが、相手も同様だったらしい。

 

「見事見事! まさか人間相手にこうも埒が明かないとは想定外だ! イイ、実にイイぞ! 久々に実に手ごたえのある楽しい狩りではないか!」

 

 両手を広げて大仰に。

 

「で、あるならば、こちらもそれなりのモノを見せなければなるまい。さあ、刮目して見たまえ!」

 

「————まずい! とめろ配送屋! 世界が塗り替わるぞ!」

 

 ライネスの警告が聞こえたが、時すでに遅く。

 その現象は起こった。

 世界の書き換え。

 固有結界の展開だ。

 

 夜の列車の屋根の上が、一瞬で夕焼けの荒野に変わった。

 どこまでも続く地平線と彼方にまがまがしく輝く、大きすぎる赤い太陽。

 荒野には奴の狩りの犠牲者のものと思われる、様々な骨が点在している。

 

 何かねばついた殺意のようなものが、四方八方から向けられていることに気が付いた。

 恐らく狙われている。

 サディアスは少し離れた場所で嗜虐的な顔でこちらを眺めていた。

 なるほど、あれが本性か。

 

 どこからともなく俺を狙った矢や弾丸が飛来する。

 無数に、ひっきりなしに。

 流石にかわしきれず、徐々に体が傷ついていく。

 

 心配になって目線を移す。

 よし、ライネスの方は無事だな。

 俺の渡したアイテムのバリアも発生していないところを見るに、サディアスはまず俺から確実に仕留めるつもりらしい。

 

「運がなかったな」

 

「おや、諦めるのかな?」

 

 俺がこぼした言葉に、サディアスが堪らないといった声音で言ってくるが。

 

「俺の話じゃない。お前の話だ。実際問題、この切り札を使わない方がよっぽどお前に勝機があったんだぞ?」

 

「なんだと?」

 

 ライネスには見られてしまうが、まあ、この際だし必要経費と割り切ろう。

 現実世界で開帳する羽目になるよりはずっとましだ。

 

「『イーリアス』アクティベイト」

 

 そして俺はその言葉と共に、俺のチートの本領の一端を解放した。

 俺の体に重なるように現れるパワードスーツ。

 

「な、その姿は、オデュッセウスの鎧と同タイプの……しかも現行稼働品!?」

 

 ライネスの驚く声が聞こえる。

 ああ、うん、時計塔にはオデュッセウスの姿の情報が残ってたのか。

 確かにそう見えるよな。

 実際このパワードスーツが実装された当初は、だいぶ騒がれた。

 ほとんどオデュッセウスの第三再臨の姿だったから。

 

 なおイーリアスの名称は、オデュッセイアじゃひねりが足りないし、と考えて俺が付けたモノだったりする。

 フレンドの中にはむしろ似てるのはこっちだろ、などとサムなんてド直球ネーミングをしていたやつもいた。

 

「貴様……本当に、何者なんだ!?」

 

 余裕の吹き飛んだサディアスを鼻で笑って、バーニアを吹かし肉薄する。

 俺の拳は、それを防ごうとしたサディアスの腕を容易くひしゃげさせた。

 周囲から飛んでくる矢や弾丸は、概念的な強化をなされているようだったが、俺の装甲に傷一つつけられない。

 

 これ、初心者用の救済装備の類で、序盤からギリ中盤の最初くらいまで行けるって程度の装備なんだが。

 予想はしていたけど、このレベルの装備で上級死徒がまともに相手にならなくなるわけか。

 いや、強いよ、上級死徒。

 総合力で見たら多分サーヴァント換算なら中堅英雄クラスじゃないかな。

 実際にひしゃげた腕もすでに回復してるし。

 

 でもこいつの能力って、なんていうか雑魚狩り仕様なんだよなあ。

 ぶっちゃけ俺の相手をするには火力不足で防御力不足である。

 同じ戦力リソースでも、もっと単騎による決戦性能に寄っていれば、ちゃんと勝負になったんじゃないか?

 

「言っただろう、運がなかったって。お前がおあつらえ向きの決戦場を用意してくれたおかげで、思いっきり行ける。そこは感謝しておいてやるよ。……リアクターフルドライブ。コード入力。『メテオスマッシャー』」

 

 パワードスーツ全体からエネルギーが噴出する。

 その光が指向性をもって翼となり、俺は空へと飛び立った。

 一定の高度まで至ると、今度は真っ逆さまに、サディアスに向けて落ちていく。

 

 逃げようとしているが、遅い。

 さっさと固有結界を破棄する判断が出来れば少しは話が違っただろうに、己の切り札に固執したな?

 上級死徒とはいえ、小物の部類だったか。

 

 そんな考えを一瞬でめぐらし、軌道修正。

 俺の一撃は完全にサディアスを捉えた。

 断末魔すらなくサディアスは消滅し、同時に固有結界もまた解けていく。

 俺もパワードスーツを収納して元の姿に。

 

 気付けば、こっちを凄い目で見ているライネスがいた。

 うん、これ、説明大変な奴だな!

 

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